行政・業界の動きにもどる
t15904#反農薬アドバイスO木の害虫駆除に散布するセルコートとは#04-11

 04年5月、「川崎市・公園の樹木や街路樹の無農薬化」という新聞報道がありました。農薬に替わる防除資材「セルコート」という商品で防除するらしく、158号の投稿にも、業者が有機リン剤のかわりに、サクラにセルコートを散布したとの記述があります。最近てんとう虫情報の読者の方々からも問い合わせが多く、セルコートについて調べてみました。

★メーカーの宣伝では
【参考サイト】横浜アグリ(旧カラーケミカル工業)にあるセルコートアグリ
 セルコートのメーカーであるカラーケミカル工業のHPにある宣伝には
  ・原材料は日本薬局方HPMC2910規格品である。
  ・日常、医薬品や食品に使用され、全く無害である。
  ・セルコートだけで無農薬栽培ができる。
  ・散布後、乾いたセルロース(雨にとけにくい繊維素)がフィルムになり、
   葉・実をコーティングして包む。
  ・この膜の上から昆虫は食害を起こさない。病原菌は蔓延しない。
  ・昆虫の気門を塞ぎ、アメリカシロヒトリやチャドクガ、バッタなどを除去できる。
  ・農薬を少量入れると、農薬の効果が4倍くらい長持ちする。
  ・展着剤の代わりに使用することができる。
 などなど、いいことずくめの宣伝文句が並んでいます。

【質問】セルコートはどんな物ですか。
【答え】セルコートの原材料としているHPMC2910は、ヒドロキシプロピルメチルセルロー
  ス(以下HPMCと呼ぶ)のことで、植物由来のセルロースを化学反応処理した高分子化
  合物です(注)。用途は医薬品添加物として、錠剤や顆粒剤の被覆剤、結合剤、
  シロップの懸濁・安定化剤や軟膏等に使用が認められています。そして03年6月26日
  に厚生労働省が食品添加物に認可しました(用途は機能性食品のカプセル剤
  及び錠剤コーティングに限定)。

 注1:HPMCは、植物由来のセルロースに苛性ソーダを加え、アルカリセルロースとした
   後、酸化プロピレンや塩化メチルと反応させて製造したセルロースの混合エーテル
   で、セルロースのもつ水酸基がどの程度メトキシル基やヒドロキシプロポキシル基
   に置き換わっているかにより、水溶性や粘度、皮膜の性質が異なります。

 注2:2005年4月26日、食品安全委員会へHPMCの食品健康影響評価の依頼についてで、
     上記以外の食品についても使用ができるように使用基準を廃止を検討。
        → 追加参照

【質問】セルコートは安全ですか。
【答え】動物実験では、高用量投与で下痢及び体重増加抑制が認められたが、催奇形性、
  発がん性、抗原性試験等においても特筆すべき毒性は認められていないと報告されて
  います。食品添加物としては、下剤作用があることが要注意でしょう。散布された農
  作物にはセルコートの皮膜ができ、水洗いしても落ちにくいようなので、これを食べ
  るのは気持ちのいいものではありません。また製造方法によってはその成分や不純物
  にバラツキが出ますから食品添加物のHPMCとセルコートに使用されるHPMCは同じ物質
  とは言えない可能性があります。

【質問】自治体でも使用しています、駆除効果はありますか。 
【答え】今年散布した川崎市公園管理課に聞いてみたところ「アメリカシロヒトリ対策に
  予防的に散布したが、効きがいいという感触はなかった。実験的にやったので、いず
  れデータをまとめる。」とのことです。葉に皮膜を作って食害を防ぐ効果があるのか、
  昆虫の気門を塞いで、致死させるのか、科学的データで評価される必要があります。

【質問】散布の告知は要りますか。 
【答え】行政が「安全だから散布前後の知らせは必要ない」と思われるのは間違いです。
  てんとう虫情報の読者からの話では、農水省農薬対策室に問い合わせたら「安全性と
  効果はハッキリしない。農薬でないかも知れないので違法とは言えないが、行政の自
  己責任でやってほしい。農薬に近い方法で防除に利用しているので事前通知は必要」
  とのことです。

【質問】ホームページには農水省に「特定防除資材」の申請中とあります。セルコートは
  農水省に認可されますか。
【答え】特定防除資材(法律の正式名は特定農薬)は現在、天敵(地域県内に居るクモや
  昆虫)・殺菌用の重曹と、食酢の三つしか認められていません。農水省の「特定防除
  資材の検討対象とする資材の範囲」の中に「原則として化学合成された物質であるも
  の(食品を除く。)」などは対象外、と書かれている上、セルコートと類似の殺虫剤
  ヒドロキシプロピルでんぷんが農薬登録されていますから、特定防除資材として認め
  られないかもしれません。また、北興化学のようにHPMCを農薬補助成分として検討し
  ているメーカーもあります。いずれにせよ薬効と安全性についてのデータ提出が義務
  づけられていますから、すぐには、結論がでないでしょう。

【質問】セルコートに違法性はないですか。 
【答え】農薬取締法では、特定防除資材に指定されていない資材を農薬の効能を謳って販
  売することは、法令違反になりメーカーは当然、刑事罰の対象になります。ただ、セ
  ルコートのホームページでの宣伝が、違反に当たるかどうかは微妙です。

 2007/11/22:農水省通知で農薬疑義資材の判断基準が示されました。
【追記:HPMCの食品添加物指定について】
 食品安全委員会は、下記のパブコメ募集は06/05/18から実施しています。
   ヒドロキシプロピルメチルセルロースに係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見・情報の募集について
   審議結果案 文言案

 第156回食品安全委員会の資料(06/08/24上記パブコメ結果あり)
      添加物専門調査会のヒドロキシプロピルメチルセルロースに係る食品健康影響評価について
2006/12/18:薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の資料
      食品添加物の使用基準の改正について(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
2007/02/27の官報告示でHPMCの使用規準が削除されました(使用規制がなくなる)
      食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について


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作成:2005-04-24、更新:2007-02-27