食品汚染・残留農薬にもどる
電子版「脱農薬てんとう資料集」No.3
<残留農薬ポジティブリスト制度について>

t16004#連載:残留農薬ポジティブリスト制度〜第二次暫定基準等の問題点〜
その2 適用のない作物に残留基準はいらない#04-12


【1】国際基準・外国基準の援用について(その1からのつづき)

★外国の高い数値にしたものを日本の低い数値に戻せ
 前回、国際・外国基準に違いがある場合、低い方を優先的に採用するよう主張しましたが、厚生労働省の提案では、外国基準を優先するあまり、もともとあった日本登録保留基準より緩い残留基準を設定した例がいくつもあります。
 たとえば、エンドスルファン/カルベンダジム、ベノミル及びチオファネートメチル/シアン化水素/ジウロン/ダイアジノン/プロメトリン/リニュロンなどでは、農作物の一部で輸入相手国の意向を汲む形で、基準を緩和しましたし、ディルドリンやオルトフェニルフェノール(OPP)などでは、もともと基準のない作物(すなはち日本では適用のないもの)に基準値が設定されました。ほかにも約30種の農薬、約340の基準で、国内より緩い基準が採用されています。
豆腐中毒事故の原因であったエンドスルファンの登録保留基準は豆類/野菜/果実/茶等0.5ppmに対して、国際基準を援用した提案値は、大豆とリンゴ、日本ナシブドウなど1、セロリとホウレンソウ2、茶30各ppmとなっています。また、ダイオキシンを含有するとして登録失効したキントゼン(PCNB)の登録保留基準は野菜0.08ppmに対して、外国基準を援用した提案値は、キャベツとタマネギとサヤインゲン0.1、レタスとセロリ0.2、バナナ0.5、マッシュルーム5各ppmとなっています。
 外国に追従するのでなく、日本が自国の食習慣を配慮して科学的に設定した基準を農作物の規格とし、輸出国側に日本と同様な農薬使用をするよう改善を求めるのが本筋です。  すでに、農作物の保存のために使われるポストハーベスト農薬(殺虫剤、防カビ剤、発芽防止剤など)は、低温保存や炭酸ガスなどで代替できるのですが、経済性に見合わないとの理由で、農薬使用を前提とした高い残留基準が設定されており、農薬総摂取量の増大につながっていることを忘れてはなりません。この傾向が、今回の厚生労働省の提案では、一層強まることになります。

【2】日本登録保留基準の援用について
 残留基準設定にあたっての厚生労働省のもうひとつの大きな方針は、環境省が決めている登録保留基準をそのまま援用することです。
 登録保留基準は、残留基準と異なり、個々の農作物ごとに決められているわけではありません。多くの場合、野菜とか果実、イモ類、豆類といった作物グループ毎に数値が設定されています。薬効・薬害・残留性試験で、ある農作物に、農薬として効き目のあるような使用方法をとった場合、どの程度農薬が残留しているかを調べ、登録保留基準の設定値以下ならば、その農薬ははじめて該当農作物に適用拡大の登録ができるわけです。
 しかし、厚生労働省の提案では、個々の農作物についての試験がない、すなはち、使用できるかどうかわからない農作物についてまで、残留基準を設定しているのです。

★適用のない農作物には、残留基準を決めるな
 国内外で適用がない農作物については、原則として、基準を設定しないという方針のもとに残留基準を決めるべきです。
 たとえば、殺虫剤フラチオカルブは、海外ではホップにしか基準はなく、日本では、稲/キャベツ/イチゴ/サトウキビにしか適用されませんが、日本登録保留基準にはコメ/果実/サトウキビ0.1ppm、野菜0.3ppmとなっているため、提案では、すべての野菜、果実に残留基準が設定されています。
 このように、実際に適用されていない作物にも残留基準を設定することは、適用外作物に使用すると罰則を科するという農薬取締法との整合性をなくします。同法では、農作物が残留基準を超えないように、農薬使用基準の遵守が義務付けられており、適用外使用(適用のない作物への農薬使用や使用時期、希釈倍率、使用回数違反)は処罰の対象になるわけですが、使用違反があっても、残留基準以下ならば、食品衛生法違反とはならず、流通は可能となります。農薬使用基準違反の農作物に、適正に栽培された作物には検出されることのない農薬が残留していても市場に出回るケースが生じ、消費者の農薬総摂取量増加につながります。
 その上、適用のない農作物にまで、残留基準を設定すると、その値まで残留してもよいとされ、他所からの農薬飛散による汚染の逃げ道ともされてしまいます。
 今後、登録保留基準をやめ、残留基準に一本化される場合、薬効・薬害・残留性試験成績が提出されたら、その都度、残留基準を設定すればよいのではないでしょうか。

★農作物の分類がバラバラ〜ひまわりやクリが果実だって −省略−

★ADIの80%以下とする安全担保は反古にするな
 いままで残留基準の設定の際に、安全性の担保としてきたのは、理論推定摂取量(理論最大摂取量ともいう)をADIの80%以内にするとの原則でした。これは、農作物の一日当たりの平均摂取量(いわゆるフードファクター)にその農作物の残留基準を乗じたものの総和が、ADI(一日摂取許容量)×53kg(成人の平均体重)の80%以下になれば、残留基準値は妥当と考えるというものです。03年には15種の農薬について、新たな残留基準が提案されましたが、そのいずれにおいても『理論最大摂取量のADIに対する比率は○○%以下である』という文章で締めくくられています。しかし、今回の提案には、この計算値は記載されていないので、農薬毎に算出すべきだと考え、パブリックコメントで要求しました。

★国内の登録保留基準でも、緩い値を採用しているのは問題
 厚労省の基準案の中には、2種以上の農薬活性成分をひとまとめにして、残留基準を設定している場合が、いくつかあります。その際、個々の農薬について日本登録保留基準のうち、高い数値を採用しているケースが目に付きます。このような場合、私たちは、低い値を基準として採用するよう求めています。
 たとえば、ジチオカルバメート系農薬(マンコゼブ、マンネブ、メチラム、ポリカーバメート、プロピネブ、チラム、ジネブ、ジラム)については、下表にように個別の農薬について日本登録保留基準が決められていますが、厚労省が比較参照として挙げ、採用しているのは、このうち高い値ですし、更に、より高い国際基準が採用されているもの(キャベツは従来値0.1を5ppmに、レタスは従来値0.1を10ppmに、イチゴやブドウは従来値0.5を5ppm)が多々あります。
  作物名     日 本 の 登 録 保 留 基 準         厚生労働省
       ジネブ マンネブ ジラム チラム マンコゼブ ポリカーバメート プロピネブ 基準提案値

  カキ/ナシ/モモ               1   0.5                                1/5/7ppm
  果実      0.5   0.5              1         1    0.7      1-10
  キュウリ/トマト  2     2                1         2                 2/5
  野菜      0.4   0.4              0.4       0.3      0.1      0.4-10
  イモ類     0.2   0.2              0.2       0.1               0.2
 要するに、厚労省の提案した暫定基準は、コーデックスが最も低値の場合は例外として、国内外からかき集めてきた基準の中で、できるだけ緩い数値を採用するというものです。そのためには、従来言われてきた安全性の根拠もさっさとかなぐり捨て、「暫定基準だからADI評価は後回し」と開き直っているとしか思えません。その理由は、ただひたすら、農作物の流通に齟齬をきたさないためなのです。

 【参考】食品中に残留する農薬等の暫定基準(第2次案)等に対する意見の募集について
     食品中に残留する農薬等の暫定基準(第2次案)について


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作成:2005-05-25