食品汚染・残留農薬
t16205#連載:残留農薬ポジティブリスト制度〜第二次暫定基準等の問題点〜その4:「一律基準」はおかしい#05-02
【参考資料】食品中に残留する農薬等の暫定基準(第2次案)等に対する意見の募集について
食品中に残留する農薬等の暫定基準(第2次案)について
【参考資料】電子版「脱農薬てんとう資料集」No.3<残留農薬ポジティブリスト制度について>
【4】「人の健康を損なうおそれのない量」とは
★「一律基準」という用語を使うな
来春施行される新食品衛生法第11条3項で、農薬などが「人の健康を損なうおそれのない量」を超えて残留する食品は、製造・輸入・加工・使用・調理・保存・販売が禁止されます。そのために、厚労大臣は食品衛生審議会の意見を聞いてこの数値を決めることになっています。
厚労省が提案している残留農薬のポジティブリスト制度では、食品添加物の場合が認可されていないものは使用してはならないとなっているのと異なり、残留基準のないものについては、一定量以下の含有ならば、許容するということで、この一定量が「一律基準」と表記されました。
国内外で使用実績のない農薬-農作物の組み合わせについては、毒性・残留性データも
なく、残留基準が設定されていません。この基準がないものに、「一律基準」という語を使うというのですから、理解に苦しみます。「一律基準」でなく、法律条文通り「人の健康を損なうおそれのない量」とし、実質、使用されていないと考えてもよい低い数値にすべきです。
★「人の健康を損なうおそれのない量」を0.001ppm以下に
厚労省は、「人の健康を損なうおそれのない量」を0.01ppmに設定しようとしています。つまり、毒性・残留性のわからない農薬でも、0.01ppm以下なら残留してもよいとするわけです。
しかし、現行の残留農薬分析法でも、検出限界濃度が0.01ppm未満のものが、35農薬あります。最も低いのはクロルプロファム(IPC)で0.001ppmです。
暫定二次案で提示されている39,035件の残留基準の中で0.01未満のものが、NDを含め293件あります。たとえば、アバメクチンで大豆0.002ppm、ディルドリンでキュウリなどNDとして0.005 ppm、二臭化エチレンで柑橘類等で0.001ppmとなっています。また、きちんと毒性・残留性試験がなされて、残留基準が0.01ppmと設定されているものが、53農薬あります。試験もなされていないのに、「一律基準」0.01ppmを設定するのは、整合性がとれません。
さらに、ひとつの農作物についてしか、残留基準が設定されていない農薬が41種ありますが、これら農薬では、他の134作物について「一律基準」=0.01ppmが適用されてしまうのもおかしなことです。
EUでは、分析定量下限値(LOD)を残留基準として採用したり、「人の健康を損なうおそれのない量」として、[検出限界以下]を採用することも検討されています。
農薬総摂取量を減らすためにも、残留基準と整合性をとるためにも、「人の健康を損なうおそれのない量」を、連載その3で提案した、NDと同じ0.001ppmとするのが妥当だと考えます。
低い値にしても、国内登録のある農薬については、残留基準が設定されていますから、国産農作物の流通に不都合は生じません。むしろ、次節で述べるように、適用外使用や非意図的農薬汚染の防止にもつながります。
外国で生産される農作物の設定値についてクレームがつけば、その国から、毒性・残留性試験データを求めて、科学的な評価を実施し、残留基準を設定すればすむことではないでしょうか。
★非意図的農薬汚染に「一律基準」は不要
農薬を使用しなければその残留はないわけですが、意図的に農薬を使用しなくても、農地の環境汚染や前作物栽培で使用した農薬の残留の影響で、使用していない農薬が農作物に非意図的に残留する場合があります。このような汚染を防止する義務を負うのは、農薬製造者・輸入者と農薬使用者であり、前者については、登録時に必要な後作物試験等を適正に実施しておれば、また、後者については、農薬を適正に使用しておれば、非意図的汚染は防止できます。農薬使用基準省令では「農地等の土壌の汚染が生じ、かつ、その汚染により汚染される農作物等の利用が原因となって人畜に被害が生じないようにすること」が求められており、農薬使用者は後作物に非意図的汚染がないよう努めねばなりません。
また、集約的栽培では、他作物で使用された農薬が飛散した結果、意図しない農作物を汚染するケースもみられます。農薬使用者は、使用した農薬がほ場外に飛散及び流出しないよう必要な対策を講じるという責務もあります。農薬使用基準省令には、「農作物等に害を及ぼさないようにすること。」という一条があり、この「害」には、飛散農薬で対象外の農作物が汚染されることも含まれていることを忘れてはなりません。
飛散農薬がどの程度の汚染をするかの調査もせず、農作物の非意図的農薬汚染を懸念して、「一律基準」を高くしろという妙な主張がされていますが、これは本末転倒です。
連載その2で、適用のない作物に残留基準を設定したり、外国の高い数値を採用することが、農薬の適用外使用の隠れ蓑になる恐れがあることを指摘しましたが、さらに、「一律基準」を高値になれば、生産者の汚染・飛散防止意欲を失わせ、消費者の総農薬摂取量の増大につながります。このことも、0.001ppm以下にするよう提案した理由のひとつです。
【5】「人の健康を損なうおそれのないことが明らかである物質」
新食品衛生法では、「人の健康を損なうおそれのないことが明らかである物質」をも決めることになっています。厚生労働省の提案した物質名をみると、どうしてこんなものがと首をかしげねばならないものが多々あります。
「適切に使用される限りにおいて、食品を通じてヒトの健康に影響を与える可能性が
無視できると評価された物質」として、イミダクロプリドが挙っています。この薬剤は、農薬及び動物医薬品として使用されており、残留基準案も提案されていますが、家畜の飼育場所の衛生害虫駆除に用いる場合は、適正に使えば、畜産品を汚染する恐れがない判断されたのでしょうが、残留分析で検出されるのは、農薬・動物医薬品由来だけとも思えません。
ヒドロキシプロピルデンプンは水酸基置換率等により化学構造が異なるものがあります。製品規格を決めないで、無条件に健康を損なうおそれがないとはいえないと思います。
マシン油、パラフィン、ワックスなど石油系物質は、有害なPAHなど有害不純物が含有される恐れがあるので、これも規格を定める必要があります。
厚生労働省の提案には、納得いかないので、次のような質問と要望をしました。
−以下 13項目の疑問点 略−
【6】その他の主張について
いままでの連載で、述べてきた意見のほかに、わたしたちは、農薬活性成分だけでなく、補助成分についてもポジティブリストが必要ではないかと問題提起しています(補助成分については、てんとう虫情報157号参照)。
また、これは、農薬のリスクコミニュケーションの根源にかかわることですが、残留基準設定に必要な毒性・残留性試験データをすべて公開し、国民が残留基準の設定・見直し請求ができる権利を認めるべきであるとの主張も行ないました。
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作成:2005-07-24