食品汚染・残留農薬
t16306#連載:残留農薬ポジティブリスト制度〜第二次暫定基準等の問題点〜最終回 加工食品の残留基準:米ぬかのNACに170ppmとは#05-03
【参考資料】食品中に残留する農薬等の暫定基準(第2次案)について
      加工食品中の農薬等残留基準一覧

【7】加工食品の残留基準について
 農産物の加工品について、いままでは、小麦粉や小麦製品にポストハーベスト農薬の基準が設定されていたくらいでした。2002年になって、中国産の冷凍野菜の残留農薬が問題となり、茹でた後に冷凍された加工品に対して、生鮮農作物の残留基準が適用されるようになりました。しかし、その他の加工食品についての残留基準はありませんでした。

★根拠不明の国際基準を横滑りさせる
 残留基準ポジティブリスト制度においては、生鮮農作物だけでなく、加工食品の残留基準案が提示されています。といっても、59農薬44食品(穀類7品目、植物油19品目、乾燥品9品目、ジュース類5品目、その他4品目)について161基準しかなく、小麦粉のMEP、マラチオンが現行残留基準である以外、すべて、国際基準であるコーデックスを援用したものです。また、この基準以外の加工食品については、原料農産物の残留基準がクリアできれば良しとなります。

 基準値の中には、10ppm以上の高い値が随所に見られます。臭素以外で、20ppmを超える基準が設定されているのは、 MEP(スミチオン): 米ぬかと小麦ふすま、NAC(カルバリル):米ぬかとオリーブ油、グリホサート:小麦ふすま、クロルピリホスメチル:小麦ふすま、酸化フェンブタスズ:乾燥ぶどう、ピペロニルブトキシド: コーン油と小麦胚芽と小麦ふすま、ピリミホスメチル:米ぬかと小麦ふすま、マラチオン:コメぬかと小麦ふすまです。このような高い値に設定された根拠が不明で、人が食する場合の安全性に疑問があります。
 また、加工食品の残留基準案は、原材料基準案(対応する生鮮農作物の基準をいう)と同じものもありますが、それより100倍も低い値から、170倍も大きい値まで、幅がありすぎることも、理解できません。
 小麦ふすまや米ぬかには、脂溶性農薬が残留しやすいので、全粒の穀類に比べて、高い濃度になると考えられますし、小麦粉よりも小麦ふすまは食べる量が少ないからでしょうか、ふすまの基準は粉に比べて緩く設定されています。しかし、NACの場合は、玄米1ppmなのに、コメぬかが170ppmと、小麦ふすまの2ppmにくらべてあまりにも高すぎます。穀類46基準の対原材料基準比は、0.1(小麦粉のグリホサート等)〜170ppm(前記米ぬかのNAC)となっています。
 食用油についても、種実から絞ることがおおく、脂溶性の農薬が残留しやすいので、原材料より濃度が高いと思われますが、79ある基準の対原材料基準比は、0.1(綿実油のアミトラズ)〜25ppm(大豆油のヘプタクロル)です。
 乾燥果実は、水分が除かれますので、重量あたりの農薬濃度は原材料である生鮮農作物より高くなるわけですが、27基準の対原材料基準比は0.025(乾燥果実のピペロニルブトキシド)〜10ppm(柑橘類乾燥果肉のイミダクロプリド)です。
 基準が設定されている農薬の種類は、ポストハーベスト剤や収穫前に枯稠剤として使用される農薬が目立ちますが、実際に使用されているものに比べ、基準の数は圧倒的に少ない上、加工食品の種類の選定についても日本の食習慣は考慮されていません。残留基準値は0.01(トマトジュースのマラチオン等)〜250ppm(乾燥イチジクの臭素)と大きな幅があり、それぞれの食品の1日摂取量をもとに設定されたとはとても思えません。このような厚生労働省案は、とりあえず、国際基準に合わせておけばいいという安易な考えのもとに設定されたもので、国民の安全を無視したものといえます。

★ジュースの残留基準はわずかに8つ
子どもたちの好むジュース類をみてみましょう。残留基準案は表1に示すようにわずか8基準しか設定されておらず、その数値は、すべて、原材料の生鮮農作物の基準以下になっています。
 その他の農薬については、原材料の残留基準がクリアーされておればよいというのでしょうか、基準は設定されていません。しかし、皮ごと圧搾して製造するジュース類では、外皮を除去して残留基準が設定されているミカン、ビワ、キウイ、モモやメロン、スイカについては、果皮に残留していた余分の農薬が果汁に移行してくる恐れもあります。
 少し古いデータになりますが、北海道消費者センターが実施したオレンジジュースの残留農薬調査では(てんとう虫情報15号、1993年)、40銘柄中28銘柄に、有機リン剤のDMTPとエチオン及び防黴剤のジフェニル、TBZ、イマザリルが検出されていますし、厚生労働省の97年度の調査では、果汁にNACが見つかっています。
 ジュースについては残留実態をもっと調査し、基準を増やす必要もあると思います。
 表1 ジュース類の残留基準案(単位:ppm)

 農薬名               食品名             基準案  原材料    (a)/(b)
                                          (a)    基準案(b)
 NAC=カルバリル   トマトジュース       3        5          0.6 
 ジフェニルアミン     りんごジュース       10       10         1     
 ピペロニルブトキシド 柑橘類ジュース       0.05     5          0.01  
 ピペロニルブトキシド トマトジュース       0.3      2          0.15  
 プロパルギット       オレンジジュース     0.3      3          0.1   
 プロパルギット       ぶどうジュース       1        7          0.14
 プロパルギット       りんごジュース       0.2      3          0.067
 マラチオン           トマトジュース       0.01     0.5        0.02  
★農薬総含有量での規制が必要
 身近な食品−砂糖、酒や酢などの醗酵製品、漬けもの、ジャム類、清涼飲料・茶飲料、生薬、さらには、ベビーフードやレトルト食品などの調理加工品−についての残留基準は、全く設定されていません。
 厚生労働省のまとめた報告書『食品中の残留農薬』によれば、1997年から2002年に調査された加工食品中の残留農薬の調査結果は、表2のようになっており、基準案にあげられていない様々な農薬が検出されていることがわかります。
 複数の農薬が残留する加工品については、原材料中の個別農薬の残留基準による規制では不十分で、実態調査をさらに実施し、農薬総含有量で規制する必要もあります。
 また、食品の加工工程で残留農薬から新たに生成する有害分解物や代謝物−有機リン剤オキソン体、ニトロソ体、二硫化炭素、エチレンチオウレア、アルデヒド類、重金属類など−も規制すべきでしょう。さらには、加工食品には、農薬以外(食品の保管や衛生管理目的で使用される薬剤、木材防腐剤・シロアリ防除剤など)からも農薬と同じ成分が混入してくることも念頭においた基準設定が必要です。

 表2 加工食品の残留農薬調査結果(97から2002年度の厚労省資料より作成)−略−

【8】おわりに
 今回で、第二次暫定基準等の問題点についての連載を終わります。
厚生労働省は、残留農薬等の暫定基準二次案に対して141の個人・団体から寄せられたパブリックコメントを653ページの印刷物にまとめ(当グループのパブコメは電子版「脱農薬てんとう資料集」No.3<残留農薬ポジティブリスト制度について>に掲載)、これに対する同省の見解がHPで、順次公表されつつあります(残留農薬ポジティブリスト制度の暫定基準(第2次案)等に対して寄せられた主な意見(未定稿)暫定基準(第2次案)等に対して寄せられた主な御意見(個別の基準値に係る意見を除く)暫定基準(第二次案)の個別の物質に対して寄せられた御意見(抜粋))。
 また、パブコメとは別に、農水省は、120基準の修正を厚生労働省に求めており、その中には、提案値の緩和又は基準の追加が110あります(農薬対策室意見書)。わたしたちは、今後とも消費者の立場から、農薬摂取量を減らすことを目標にしたポジティブリスト制度の確立をめざしていかねばなりません。

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作成:2005-08-24