食品汚染・残留農薬
電子版「脱農薬てんとう資料集」No.3
<残留農薬ポジティブリスト制度について>
t16402#−残留農薬ポジティブリスト制度をめぐる論議より−
厚労省が、農薬対策室の異議を一蹴
食品業界は<残留基準を超えても回収命令を出さないで#05-04
残留農薬ポジティブリスト制度について論議する食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会が、3週に1度のペースで、開かれています。その中で、わたしたちがパブリックコメントで提出した意見に対する厚労省の見解もぽつぽつでていますが、個別農薬の基準についてのいくつか主張が認められた程度で、基本的な考え方については、きちんとした回答は示されていません。
【参考資料】農薬・動物用医薬品部会にある3月28日配布資料
★「一律基準」に異議を唱えた農薬対策室
ところで、前号で、農薬対策室が120基準の変更を求めたことを紹介しましたが、3月28日の部会では、「人の健康を損なうおそれのない量」(いわゆる「一律基準」)を0.01ppmとする厚労省案に異議をとなえる意見書が同対策室から提出されました。
既にADIの設定されている農薬については、異なる基準にすべしという農薬工業会と同じ主旨の主張です。業界のように0.05ppmにしろと具体的数値は挙げていませんが、その論拠はかわらず、農薬の飛散(ドリフト)による農作物の汚染が避けられないとして、以下のように述べています。
『我が国では、狭い地域に多数の農家の農地が寄せ集まって、様々な作物が栽培され、農家は狭い畑でそれぞれの作物に登録のある農薬を、細かく使い分けている現状にある。
以上のような我が国の農業の特徴を踏まえると、生産現場において飛散防止策を講じたとしても、ドリフトを完全にゼロにすることは困難といわざるを得ないが、これらドリフトの問題により、使用できる農薬が極めて限られるおそれが高い。』
このような意見に対して厚労省は、EUが本年1月に0.01ppmとしていることを理由に原案変更拒絶の見解を示した上、『ドリフトによる具体的な残留値に関するデータは限られており、平成12、13年度に地方自治体や検疫所で行った検査結果等から見ても、著しく大きな影響が出るとは考えていません。また、仮に、ドリフトによる残留が大きいのであれば、その改良も検討されるべきものと考えます。』として、一蹴しました。さらに、日本生協連残留農薬データ集Uを解析した結果を踏まえ、農薬対策室宛てに「農薬の適正使用に係る指導強化について(依頼)」という文書を送り、農薬使用者が遵守すべき基準に従うよう指導強化を求めています(注:使用基準には適用外使用をしないことや飛散防止、農薬使用履歴の記載等が求められている)。
わたしたちは、きちんとした飛散防止対策をとれば、農作物の非意図的汚染は問題ないと考えて、「人の健康を損なうおそれのない量」を0.001ppm未満にすると主張しています(記事t16205参照)。農薬対策室は、厚労省への意見書に、ドリフトデータ等を示していません。すでに、2003年7月に、ドリフト対策連絡協議会(生物系特定産業技術研究推進機構、日本農業機械工業会、日本植物防疫協会、農林水産航空協会、全国農業協同組合連合会の5組織がメンバー)が、『農薬散布時のドリフト防止対策ガイダンス』を作成し、農薬飛散防止の具体策を示しています。
そこで、わたしたちは、同対策室に、さまざまな農薬散布条件でのドリフトデータ/防止対策された場合のデータ/ドリフトにより残留農薬が0.01ppm以上になる農薬散布条件等について試験結果を示すよう求めました。しかし、返ってきた答えは、実測データはありませんとのことでした。これじゃ、厚労省を説得できませんね。
ちなみに、パブリックコメントで、ドリフトについてデータを示しているのは、株式会社ニチロで、外国文献を挙げ『農薬散布地から100ft(約30m)の地点で5%、300ft(約90m)地点で1%量のドリフトが確認されている。仮に2ppmの残留基準値が設定されている作物に対しては、1.5ppmのレベルで散布があり、隣りの圃場からのドリフトが発生した場合、その5%として0.075ppmのドリフト汚染が周囲に発生することになる』としていました。こんなにドリフトがあるなら、農薬散布場所に隣接する住民たちのことが心配されます。
★食品業界は安全性をどう考えるのか
もうひとつ部会に、18の食品業界団体(食品産業センター、日本輸入食品安全推進協会、日本冷凍食品協会、日本農産缶詰工業組合、全国清涼飲料工業会、日本食肉加工協会、日本植物油協会、全国納豆協同組合連合会、日本豆腐協会、日本果汁協会、日本パン工業会、日本缶詰協会、油糧輸出入協議会、日本エキス調味料協会、全国マヨネーズ・ドレッシング類協会、日本スープ協会、輸入冷凍野菜品質協議会)が連名で、2項目の意見書を提出していることが判明しました。
1つ目は、前述の農薬対策室などと同じく、厚労省の「一律基準」案0.01ppmの緩和を求めたものですが、2つ目のものは『 残留基準(暫定基準及び一律基準)を超えていることを事由として、回収命令等の措置を講ずるにあたっては、我が国の食品企業における農薬等の分析機器等の整備状況や分析技術の水準、いわゆるドリフトや土壌残留実態に関する現段階での知見等の実態を踏まえた対応をお願いしたい。当面、残留基準が0.1ppm未満のものについては、農薬等の分析に関し我が国食品企業が一般的に管理可能な水準である0.1ppmを目途とすることを検討して頂きたい。』と書かれています。
残留基準を超えても、それが0.1ppmを超えない場合は、食品の回収を実施しないよう法運用してほしいとの、驚くべき主張です。
この主張通りなら、現在、厳しく取り締まられている中国産野菜の場合、クロルピリホス基準0.01ppmを超えたくらいでホウレンソウの回収は実施しないということになります。とても、食品衛生法を遵守し、安全な食品を供給する業界の意見とは思えません。
また、「分析に関し我が国食品企業が一般的に管理可能な水準である0.1ppm」と記されていることは、裏をかえせば、いままでの管理が0.1ppm以上でしかなされていなかったことで、これも恐ろしいことです。
食品衛生法は、出荷に先立って、残留分析を義務づけているわけではなく、国内産の農作物については、農薬取締法の「農薬使用者が遵守すべき基準」通り農薬が使用されておれば、残留基準を超える農作物は市場にでることはないようになっていますし、外国から輸入されるものについては、緩い海外基準が援用されているものが多く(わたしたちはこのことには反対していますが)、食品業界が、厚労省案でも、なおかつ、残留基準を超えるものが国内に入る恐れが大きいと考える理由がわかりません。
そこで、意見書をだした食品業界には、独自に調査した国内外の農薬使用実態や農薬残留データの公開を求めることを含む14項目の質問状をだして、回答を求めているところです。
★ポジティブリスト制度をないがしろにする厚労省の方針転換
4月13日の部会で、厚労省は方針転換を表明しました。「一律」ではなく、0.01ppm以下の分析方法が確立していない農薬-農作物の組合せについては、分析可能な最低値を暫定的「一律基準」とするというのです。
そもそも「一律基準」0.01ppmは残留基準ではありません。新食品衛生法第11条3項でいう「人の健康を損なうおそれのない量」を1.5μg/日・人(*注)と仮定して決めた数値のことで、残留基準が設定されていないものに適用されます。本来、この量は毒性・残留性試験データから科学的に決定されるべきものですが、そのようなデータがない農薬-農作物にまで適用するため、さまざまな理由をつけた上で、安全だといえるとして提案された値です。それを、0.01ppmまで分析する方法が確立していないことを理由に、変更するというのは、問題のすりかえです。「人の健康を損なうおそれのない量」と分析法上の検出限界を同列視して比較できるわけがありません。
(*注)1.5μg/日・人:残留基準の全くない農薬を考えれば、すべての食品で基準が0.01ppmと仮定されますから、一日あたり約1kgの食糧を摂取する平均的国民の理論最大一日摂取量は10μgとなり1.5μgを大きく超え、0.01ppmは安全性を保証するものとはいえません。
★残留分析方法が確立していない農薬は使うな
厚労省は、4月14日にポジティブリスト制度案について、食品安全委員会に説明を行い、同委員会に暫定残留基準や「人の健康を損なうおそれのない量」「人の健康を損なうおそれのないことが明かな物質」について、11月末までに意見をくれるよう求めました。
農薬を使わなければ、あるいは、使用基準が遵守されておれば、「人の健康を損なうおそれのない量」を超えることもなく、残留基準をクリアできます。きちんとした分析方法が確立できない農薬は、そもそも使用してはならないとの方針をだすべきなのです。
わたしたちは、ポジティブリスト制度がただしく機能するには、国際的な残留分析法の確立とともに、農薬使用履歴記載の義務付けが必要だと主張してきました。いくら多くの農薬に基準を設定しても、国民の摂取する総農薬量は減らすことにつながりません。せいぜい、分析業者のふところを肥やすのに役立つだけです。残留基準のない農薬-農作物については、使用してはならないことを、世界に向かって発信し、使用履歴でチェックすることで対応するのが現実的な対応策だと思います。
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作成:2005-04-24