農薬の毒性・人体被害
t16405#タンチョウ死亡と有機リン剤MPP#05-04
 記事t14905cで、2002年10月、北海道女満別町で、死亡していたタンチョウのつがいの死因が有機リン剤のMPP(フェンチオン)であったとの 環境省東北海道地区自然保護事務所の報告を紹介しましたが、その後の調査で、さらに、二羽のタンチョウの死亡検体からMPPが検出されたことが、3月の同所の記者発表で判りました。

★新たに2羽の死亡タンチョウにMPP検出
 今回調査されたのは、5羽のタンチョウで、2001年8月に鶴居村で死亡し、冷凍保存されていた1検体と2003年9月に標茶町で死亡の1検体にMPPが検出されました。いずれも、肝臓に0.13mg/kgが見出されたほか、後者では、胃内容物にも見出されています。
 自然保護事務所は、『道東地域のMPPの使用実態を把握し、その結果を踏まえ、使用方法によっては鳥類に影響を及ぼす恐れがあることについて関係者に注意を促していく。』 としています。また、冷凍保存されたタンチョウ死体組織6検体、今後収容される死亡個体、さらには、冷凍保存のオジロワシ3検体とオオワシ5検体のMPP検査をするとのことです。

★MPPは鳥類には毒物
 MPPはフェンチオンともいう有機リン系殺虫剤で、ドイツのバイエル社が開発した薬剤で、農薬(商品名:バイジットなど)や防疫用薬剤(パイロンなど)、動物用医薬品として使用されています。
 MPPの特徴は、鳥類に対する急性毒性が強いということです。経口半数致死量LD50を下表に示します。哺乳類のラットでは、215mg/kgで毒劇法では「劇物」指定ですが、鳥類では、10mg/kg以下の値もみられ、「毒物」相当に作用します。
  表 経口LD50(単位:mg/kg体重)

  アヒル        6
  イエスズメ      5.4
  ウズラ        11
  ニワトリ      28
  ホシムクドリ  4.2-7.5
  ラット      215
昨年3月の山形県白鷹町でのカラスの大量死事件では、堆肥置き場にネズミ駆除のため使用されたMPP混入毒餌が原因でしたし(記事t15201参照)、埼玉県行田市で今年2月21日におこったハト大量死事件でも13羽中に12羽にMPPが検出されました

 日本の農薬メーカーであるクミアイ化学のホームページにあるMSDS(化学物質安全性データシート)には、このような鳥類に対する毒性が記載されていません。 しかし、海外のバイエルのサイトのMSDSでは、鳥類の半数致死量が示されています  6月から始まる、農薬危害防止月間では、鳥類保護に関する事項を強調する内容をとり入れるだけでなく、製剤ラベルにも鳥類への毒性について注意を喚起することが必要がでしょう。さらに、昨年でMPPの使用を中止したアメリカやEUにならって、日本でも登録をやめるよう要望したいと思います。

★MPPはどんなところで使われる?
 ところで、北海道での、MPP剤の使用状況はどうでしょう。
表に、1998年から2004年度の、5つの農薬製剤の北海道と全国での出荷量を示しました。50%乳剤と粉剤DLが、他県に比べて多く使用されていることがわかります。
 道の防除基準によると、MPP粉剤DLが水稲と小豆に、MPP-EDDP粉剤DLとMPP-EDDP粉剤が水稲に、MPP乳剤が大豆とバレイショに適用されています。

 表  農薬MPP製剤の出荷量(北海道/全国) −省略−

 一方、防疫用のMPP殺虫剤として、単剤として5%水和剤、5%乳剤、1%粉剤、5%粒剤、複合剤としてMPP-DDVP混合剤が、薬事法で承認されていますが、その出荷量はわかりません。これらは、ハエ、カ、ゴキブリ、イエダニなどの衛生害虫駆除に適用されます。また、ゴミや堆肥に散布することも可能です。

 以上のほか、MPPは、動物用医薬品として、犬猫用ノミ駆除剤(チグボン)が承認されていますし、畳の防虫紙に0.7〜1.0g/平方メートル使用されている場合もあり、比較的身近にある薬剤といえます。

★タンチョウを殺したMPPはどこから
 死んだタンチョウの胃の内容物から推定するとMPPを体重1kg当たり6〜7mg−体重10kgの鳥ならば約60mg−の摂取で致死するということになります。これは製剤そのものならば50%乳剤0.12ml又は2%粉剤3gに相当します。
 昨年、タンチョウ問題をとりあげた際に、道東での状況を自然保護事務所に問い合わせみました。その時のやりとりは、以下のようでした。

    −中略−

 ここで気になるのは、堆肥のウジを食べることもあるという点です。北海道には、牧場が多く、堆肥置き場もあります。ここに、MPPが撒かれることはなかったのか。特に、医薬品ではなく、手近にある農薬MPP乳剤などを転用し、いいかげんな、希釈倍率で散布したのではないかという疑いも生じます。
 タンチョウ死亡地周辺で、農作物に農薬MPP剤が使用されていたか/堆肥置き場に医薬品MPP剤が散布されていたか/ハエ駆除剤に農薬は転用されなかったかなどを含め環境省はタンチョウが何故死んだかの調査をきちんとしてもらいたいものです。
 3月18日の参議院環境委員会では、谷博之議員の質問に対し、小池大臣が「調査結果の方は最短で五月末に判明予定」と、答弁していること期待したいと思います。

【MPP問題のその後】
 日本鳥学会がウエストナイルウイルス媒介蚊対策ガイドラインの改定を求める
 厚労省のウエストナイル熱の媒介蚊対策ガイドラインの撤回を要望〜MPPの使用自粛だけではダメ
 7月22日:環境省と厚労省の通知「フェンチオンの鳥類に対する毒性調査の結果について」


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作成:2005-09-24