食品汚染・残留農薬 ポジティブリスト制度の厚労省資料
電子版「脱農薬てんとう資料集」No.3
<残留農薬ポジティブリスト制度について>
t16704#農薬等に関する残留基準ポジティブリスト制度の最終案について〜その2 国会での論議より#05-07
【参考資料】最終案のパブリックコメント募集
当グループの提出した意見と厚労省の見解その1 その2
食安委のポジティブリスト制度についての意見
【関連記事】その1
★農水省:ドリフト被害は民事で解決を
記事t16004で、厚労省の残留農薬暫定基準案では、適用のない農作物に登録保留基準の数値を採用することにより、高い残留基準が設定されたため、他場所からのドリフト対策がおざなりになる恐れが強いことを指摘してきました。
しかし、一方では、「一律基準」の設定で、残留基準が設定されていない多くの農薬と農作物の組み合わせで、0.01ppm以下の残留しか認められなくるため、農薬ドリフト(飛散)による非意図的な汚染により、農作物が販売できなくなる場合も想定できます。
この場合、生産者本人は、農薬取締法を遵守しているにもかかわらず、食品衛生法で販売禁止となり、金銭的損害を被ることになります。一方、ドリフトさせた農薬使用者は、農薬取締法第十二条第一項の規定に基づき「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」の努力規程が適用されるのみで、基準違反による罰則は科せられません。
6月13日の参議院行政監視委員会における岡崎トミ子議員の質問に対して、農水省消費・安全局長は、同省令第一条(農薬使用者の責務)「一 農作物等に害を及ぼさないようにすること。」の「害」は、農作物が枯れたりする場合をいい、残留基準を超えて農作物が売れなくなることは、「三 農作物等の汚染が生じ、かつ、その汚染に係る農作物等の利用が原因となって人畜に被害が生じないようにすること。」の努力規程に基づき、農薬使用者には、ドリフト防止することが求められていると説明しました。
さらに、『例えば農薬を散布して売れなくなったような場合、これは自分のものであれば自分のところで責任を取ればいいわけですけれども、例えばほかの方の農作物に掛って何か支障が生じた場合というのは、それはその当事者の間で、そこで損害賠償その他民事の世界として問題を解決していくべきものだというふうに思っております。』との見解を示しました(参議院:05/06/13の行政監視委員会議事録より岡崎トミ子議員の質疑参照)。
無登録農薬事件の際、青森のリンゴ農家のあいだで、無登録農薬を使用した農家が、リンゴの廃棄処分に追いやられた隣接農家に訴えられ、損害賠償させられた例がありましたが(記事t14507e参照)、農薬の適正使用やドリフト防止の技術的な指導等に触れずに、民事で解決しろと、言い切ってしまう農水省の態度はいかがなものでしょうか。ポジティブリスト制度の実施で、このような農家間の争いが増えないよう、農薬取締法に農薬使用者免許制度などを取り入れ、農薬使用の管理を一層強化すべきでしょう。
今後、高濃度の無人ヘリ散布や大型送風機による散布によるドリフト、特に、田んぼや果樹園に隣接した畑などでは、注意を払う必要があるでしょう。
★日本の天然水を国際基準で規制するミネラルウオーターの怪
私たちは、二次案パブリックコメントで、清涼飲料水についての残留農薬基準の設定を求めましたが、厚労省の最終案には、ミネラルウオーターの暫定基準が提示されました。
この基準案では、世界保健機関(WHO )の「飲料水水質ガイドライン」に定める
基準が採用され、日本の水道水関係の目標値は配慮されませんでした。
表に示すように、農薬等34種の基準値があがっています。これを日本の水道法の水質関連の基準とくらべて見ると以下の点がわかります。
・日本の水道法の水質管理目標設定項目の対象となる農薬101種のうち、
12種しか基準値が設定されていない(候補農薬を加えても18種)。
・日本で使用されていない農薬(POPs系農薬も含む)や日本が管理対象
にしていない物質が16ある。
・日本の目標値(mg/L単位)とWHOのガイドラインの数値の比較を
表の中に不等号と等号で示したが、日本の目標値より高いものが8、低
いものが7、同じものが2種ある。
水道水質基準の設定に際して、私たちは、単一農薬の基準だけでなく、総農薬方式が採用された点に一定の評価を下しましたが、よりよい基準として求めた、EUの絶対濃度基準(単一農薬で0.1μg/L以下、総農薬で0.5μg/L以下)並にするという主張は実現しませんでした。今回の基準で、総農薬方式すらとられなかったことは、飲料水規制の後退と思わざるをえません。
現在、インドでは、市販のコーラ飲料に含有される農薬(使用する水に含有される)が大きな問題になっていますが、これは、同国での農薬水系汚染と密接に関係があります。
私たちの飲むミネラルウオーターの多くは、日本の天然水が原料になっています。それをWHOの毒性評価で規制するのは滑稽ですらあります。
私たちは、ミネラルウオーターの基準を、せめて、日本の農薬使用の実態にあわせた総農薬方式にし、最終的に、EUの絶対濃度規制を求めたいと思います。
なお、ミネラルウオーター基準の見直しを含む5つの要望を食品安全委員会にだしましたが(食品安全委員会への要望参照)、回答はありませんでした。
表 ミネラルウォーター類の暫定基準(案) −省略−
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その1 その2 その3 最終回
★理論最大摂取量とADIも開示できない厚生労働省
前述の岡崎議員は、質問の中で、暫定基準の告示前に、農薬等の理論最大摂取量とADIの比較を求めました。これに対する厚生労働省食品局食品安全部長の答弁は
『これ(ポジティブリスト制度)を迅速かつ円滑に導入する、18年5月までに導入する予定でございますけれども、このために厚生労働省としては、国民の健康の保護を図りつつ食品の流通において無用の混乱を招かないよう、暫定基準を策定することとしているわけでございます。このような状況の中で、御指摘の個々の農薬ごとのリスク評価の結果であるADIと理論最大一日摂取量との比較をお示しして議論していくことは物理的に難しいということがありますが、これら基準のリスク評価につきましては、ポジティブリスト制度が施行された後、国民の農薬摂取量等を踏まえて優先順位を付した上で食品安全委員会に依頼し評価をしていただく予定であります。』と答えるとともに、今後ADI評価しなければならないもののリストの要求については、提出を明言しました。
また、食用作物に使われる農薬で、残留基準が設定されていないものについても、どんなものあるか、必要な資料を示すことも約しました。
理論最大摂取量は、フードファクターと残留基準の積の総和ですから、表計算ソフトで簡単に計算できるはずなのに、回答をしぶる厚生労働省の態度は理解できません。
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作成:2005-11-26