行政・業界の動き
t16901#厚労省が虫除け剤ディートの使用方法変更の指導を通知−気になる神経毒性については業界に追試を求める#05-09
厚生労働省医薬食品局安全対策課は8月15日に、国立医薬品食品衛生研究所などの専門家10名によるディート(忌避剤)に関する検討会を開催しました。昨年11月2日に開かれたDDVPの検討会は非公開でしたが(記事16002参照)、今回は公開で、配布された資料もすぐにホームページで公開されました。
さらに、検討会から9日後の8月24日、厚生労働省医薬食品局安全対策課長名でディートを含有する医薬品及び医薬部外品に関する安全対策についてという通知が出されました。厚労省に似合わない早業でした。
★検討会での論議 −省略−
★国民生活センターの要望が契機
ところで、厚労省が上述の検討会を開催し、通知をだすことにいたったのは、国民生活センター(以下「センター」)が6月に虫よけ剤−子どもへの使用についてという調査報告を公表し、同省に要望を行ったためです(記事t16605)。
検討会でも資料としてセンターの調査報告と厚労省に出した要望が配布されました。
要望内容は、@特に、子供に使用した場合のディートの安全性について検討を要望する、A消費者がより安全に「虫よけ剤」を使用できるよう、使用方法、使用量及び使用上限量について具体的な表示をするよう指導を要望する、B医薬部外品の「虫よけ剤」にディート濃度の表示をするよう指導を要望する。また、ディート濃度に表示方法を統一するよう指導を要望するの3点です。
この要望内容は検討会でも同意する委員が多く、市民団体の要望のように無視することはできなかったようです。(ちなみに、反農薬東京グループは、7月20日にジョンソン社の虫よけ剤「スキンガード」に関連して厚労省に要望書を出していますが、何の回答もありませんでした。)
★通知で、使用上の注意の改訂を要請
通知は、都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部宛にだされましたが、内容は製造販売業者、及びにこれらの製品を取り扱う薬局、販売業者、一般小売業者等に対して指導を要請する、以下のような内容になっています。
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<通知内容>(☆の見出しは編集部)
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☆使用上の注意等を改訂すること
1.製造販売業者は、以下の(1)又は(2)により、「使用上の注意」等を
改訂すること。 なお、本通知に基づき改訂を行った添付文書等を、独立行
政法人医薬品医療機器総合機構安全部医薬品安全課(以下、「医薬品安全課」
という。)にすみやかに提出すること。
(1)一般用医薬品
(1)添付文書、外部の容器等に記載の<用法・用量に関連する注意>を、次
の内容が含まれるよう改訂すること。
○漫然な使用を避け、蚊、ブユ(ブヨ)等が多い戸外での使用等、
必要な場合にのみ使用すること。
○小児(12歳未満)に使用させる場合には、保護者等の指導監督の下で、
以下の回数を目安に使用すること。なお、顔には使用しないこと。
・6か月未満の乳児には使用しないこと。
・6か月以上2歳未満は、1日1回
・2歳以上12歳未満は、1日1〜3回
○目に入ったり、飲んだり、なめたり、吸い込んだりすることがないよう
にし、塗布した手で目をこすらないこと。万一目に入った場合には、す
ぐに大量の水又はぬるま湯でよく洗い流すこと。また、具合が悪くなる
等の症状が現れた場合には、直ちに、本剤にエタノールとディートが含
まれていることを医師に告げて診療を受けること。
(2)製品、その包装及び添付文書に、承認書に記載のディート濃度を明記
すること。
(2)医薬部外品
上記の1.(1)の一般用医薬品に準じて記載すること。
(3)その他
剤形等の違いによる添付文書、外部の容器等への記載内容に係る不明点は、
医薬品安全課に相談すること。
☆消費者への情報提供
2.製造販売業者は、ディートを含有する製品の「使用上の注意」等が改訂さ
れた旨が消費者等に理解されるよう情報提供すること。また、ディートを含
有する製品を取り扱う薬局、販売業者、一般小売業者等においては、消費者
に対し、ディートを含有する製品の「使用上の注意」等が改訂された旨の情
報提供に努めること。
製造・販売禁止でなく、使用上の注意を改訂するにとどめたのは、欧米でディートが禁止されていないことに準じたものと思われますし、使用上の注意の内容もカナダのそれに近いものになっています。製品へのディート含有率の記載については、カナダのような不純物である異性体の含有率は求められていません。
★ディートの神経毒性
上述のようにディートの毒性に関して、検討会で問題となったのは、神経毒性についてです。
もともと、この剤の毒性は、1990−91年、イラクで起こったいわゆる湾岸戦争に参戦したアメリカやイギリス、フランスなどの帰還兵が、記憶力減退、頭痛、疲労感、筋肉痛、呼吸器や消化器系の異常、振せん、皮疹などのいわゆる湾岸戦争症候群を呈するに到った原因追究の中で、浮び上がってきたものです。特に、アメリカ・デューク大学の研究グループが、1996年に発表した害虫忌避剤ディート、殺虫剤ペルメトリンと神経系毒ガス兵器の解毒薬剤PBのニワトリを使った複合毒性試験との関連が注目されました。
同大学のグループは、その後、哺乳類であるラットを使った一連の経皮毒性試験(30日から60日間の皮膚塗布)を実施しました。その結果、
・ディートで脳幹の血液脳関門(血液中の有害物質が脳組織へ流入するのを
制御するための関所)透過性の低下。
・ディート−ペルメトリン系で大脳皮質の血液脳関門の透過性の低下。
・ディート及びデイート−ペルメトリン系で、血液精巣関門(減数分裂中の
精母細胞、減数分裂を終えた精子細胞、および完成した精子を血液と隔離
する関所)の透過性低下。
・ディート及びデイート−ペルメトリン系で傾斜面での運動機能の低下。
・ディートで大脳皮質、海馬、小脳における神経細胞死が増加。
などが見られました。
ディートのみあるいはペルメトリンとの同時投与は血液脳関門透過性の低下を招き、神経細胞に影響を与え、運動機能障害などにつながることを明かにした研究グループはこれらの物質が、湾岸戦争症候群の発症に関連あると推定しています。
これに対して、検討会には、ディート製品メーカーである大正製薬や池田模範堂から、一連のデューク大学研究グループの報告について、『実験方法に不備があり、常に少数例で論じられて再現性に乏しいことから、現時点では信用できる科学的なデータであるとは考えにくい。』との反論書が提出され、厚労省も前述の結論に至りました。
★厚労省は、副作用報告等を求めたが
さらに厚労省は、通知で、製造販売業者に対し、以下の点を求めました。
・平成17年から当面の間、国内における副作用等の発生状況、安全性に関する
国内外の研究報告等を、定期的に報告すること。なお、該当する報告事項が
ない場合においても、その旨報告すること。
・ディートの神経系への影響に関する試験を実施し、その結果について報告す
ること。
同省は、ディート製剤の使用継続の理由として、『現在まで薬事法に基づく副作用等の報告はない。』としてきましたが、1962年に製剤が発売されてからいままで、副作用の診断基準が不明確で、報告がなされて来なかったというのが、実態ではないでしょうか。
また、毒性試験も十分でないまま、ディート含有製品が承認・販売されていること自体も問題にすべきでしょう。特に、私たちの身の回りでは、ディートだけでなく、ディートとともに有機リン系やピレスロイド系の殺虫剤も使用されているため、ディート単独の毒性だけでなく、これら殺虫剤との複合毒性の評価も必要と思われます。
さらに、飲んだり、注射したり、塗ったりしない殺虫剤等には、再審査制度は適用されないという現行殺虫剤指針の改定をも合わせて、考えていかねばらないでしょう。
2010年10月、厚労省はディートを含有する医薬品及び医薬部外品の安全性に関する定期報告についての通知を発出し、副作用情報の報告指導を解除した。
【参考サイト】平成22年度薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会 安全対策調査会に「ディートの安全性について」の資料あり
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作成:2005-09-24、更新:2012-07-20