食品汚染・残留農薬にもどる
t17003#着々と実施に向けて進む残留農薬ポジティブリスト制度〜食の安全・安心は置き去りのまま#05-10
【関連資料】
■食品中に残留する農薬等の暫定基準(最終案):H17/06/03公表
意見の募集についてと最終案
■反農薬東京グループのパブリックコメントとパブコメに対する回答:その1 その2
■食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会の配布資料
9/07開催分 9/27開催分と基準を修正した農薬等の一覧
厚労省は、11月末の残留農薬等のポジティブリスト制度関連法令の公布・告示をめざして、着々と審議をすすめています。9月には、食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会が2回開催され、最終案に対するパブリックコメント募集に寄せられた意見について、回答を示すとともに、最終案中の244薬剤について基準値の修正等(うち6薬剤はリストから削除、1薬剤は現行基準への移行)が行われ、新たに5薬剤が追加されました。
パブコメ意見については、136団体・個人(内訳は国内団体等:87、海外政府:18、海外団体等:31)から344件が提出されました。表に内容別件数を示します。
表 パブコメ意見の内容別件数 −略−
私たちが提出した意見を中心に、厚労省の見解をみていきましょう。
★農薬摂取量を減らす気はない厚労省
私たちは、厚労省案が、農作物等の流通の円滑化に重点をおき、国民の残留農薬等の摂取量を減らそうとする視点がないことを批判し、出来るだけ低い残留基準を設定するよう求めました。
厚労省は『今回のポジティブリスト制度の導入は、これまで原則販売等の規制のなかった食品に対して、規制をしようというものであり、制度変更の全体としての方向性は、摂取量を減らす方向にあります。』『登録保留基準策定時に一定の科学性を持って評価されたものであると考えられることから、原則登録保留基準を採用しています。』と述べるだけで、話がかみ合いません。
記事t17004に、厚労省案に問題ありとする事例を示しましたので、参考にしてください。
★ADIも理論最大摂取量も示さないまま
私たちは、再三にわたり、個々の農薬等のADI(一日摂取許容量)と理論最大摂取量を公開することを求めてきましたが、厚労省は『暫定基準の設定対象となる農薬は非常に多いため、各農薬についてADI、作物残留量及び摂取量を踏まえた基準を暫定基準として設定することは困難です。』と回答するのみです。
安全性をきちんと評価せず、一度に大量の基準を決めるとしたのは厚労省です。理論最大摂取量がADIを超えるものがあることが、明かになっては困るというわけでしょうか。
★残留基準が設定されない食用作物適用農薬
国内で食用作物に使用されている農薬で、基準が設定されていないものがあり、該当する農薬名とそのADI及び設定しなかった理由を示してほしい、との意見には、
『従前の制度では、農薬取締法に基づく国内の農薬登録と食品衛生法に基づく食品中の残留基準値の設定が必ずしも同時に行われていなかったため、ご指摘のように国内で使用できる農薬であっても食品中の残留農薬基準の設定されていないものがあります。』と指摘を認めたものの、個々の農薬名を挙げず、『これらの農薬には、登録保留基準が設定されているもの、食品に残留しないと考えられているもの、今回の対象外物質のように特段の規制が必要ないと考えられているものなどがある。』としています。
2005年6月1日現在の農薬登録成分は491種があり、このうち、食用農作物に登録がある農薬成分で、残留基準も暫定基準もないもの(微生物農薬、昆虫フェロモン、天敵農薬、殺鼠剤、展着剤、対象外物質等を除く)が約30種あります。これらの多くは、基準が設定されていないということで、一律基準0.01ppmが適用されることになるのでしょうが、果たして、それで食の安全が保証されるかどうか疑問です。
なかでも、土壌処理剤として多用されているD-Dとクロルピクリンは、残留性試験データ不明なまま、農作物へ残留しないとされているので心配です。この2剤については、アメリカのノースウエスト食品加工協会が、D−Dには暫定基準の設定を、クロルピクリンについては対象外物質の指定を求めました。厚労省は、前者には『各国等において基準値が設定されていないものについては、暫定基準は設定されません。米国における判断においても、残留しないという結論に至っていることですので、一律基準をもって規制することで問題はないものと考えます。』、後者には『「人の健康を損なうおそれに影響がないことが明らかである物質」であることを科学的根拠により明確に示す必要があります。』としてデータ提出が必要である旨の見解を示しています。
★ネガティブリスト提案は一蹴
有害性が判明し、農薬取締法により販売禁止となった農薬や登録失効した農薬は、残留の如何にかかわらず、使用しただけで、流通規制されるようネガティブリスト制度も併用すべきであるとの主張は『ポジティブリスト制度との併存は制度的に困難です。』一蹴されました。これでは、販売禁止になっているダイオキシン含有農薬やPOPs系農薬は、すべて、残留又は一律基準が適用されることになり、分析結果が出なければ規制ができないことになります。分析しなくても、出荷規制できるようにしたネガティブリスト制度をとりいれた方が、食の安全・安心の実現にはより効果的と思うのですが。
★農水省の要望は受け入れられる
農水省は、二次案の時と同様、いくつかの農薬−農作物の組合せで、マイナー作物に使用承認している/適正使用範囲内で使用した場合であっても、基準値を超過する可能性があるなどの理由で基準緩和を求め、厚労省はその意を汲んで修正に応じました。エマメクチン安息香酸塩で、0.001ppmと設定されていた農作物を設定なし=一律基準の0.01ppm、メタラキシルでブロッコリー及びトマトの基準緩和、カルベンダジム、ベノミル及びチオファネートメチルで、スモモとアンズの基準緩和などがその例です。
★一律基準とドリフト問題
一律基準0.01ppmについて、私たちは0.001ppmを求めてきましたが、回答は『許容量の目安としての1.5μg/dayを超えないよう、0.01ppmを設定したものであり、ポジティブリスト制度を採用している諸外国の状況をみても一定の合理性があると考えています。』でした。
茶業者から農薬ドリフトによる基準超えを懸念し、一律基準0.01ppmの再考を求める意見がありましたが、『農林水産省と連携して検討したところですが、具体的にドリフトによる残留の可能性を示す資料はありません。今回のポジティブリスト制度の施行にあたっては、農薬取締法で定められた使用基準に従い適正に使用される場合、基準に違反することはないと考えています。 』と答えています。
★残留分析法の問題点
一律基準0.01ppmを緩和する策として、このレベルで分析ができないものは、より高い数値が暫定基準として設定されましたが、果たして、提案されている分析法が精度を高めることを目的として開発されているのかを検証するため、いくつかの質問を厚労省にしてみました。
同省は現行分析法で定量限界が0.01ppmのものが約37%とあるとしていますが、多くは、検体試料10gを用いており、採取量を10倍の100gにすれば、定量限界を10分の1低くすることができる場合があるはずです。そのような農薬にはどんなものがあるか聞いてみましたが、『ご指摘のような観点で整理していない』との答えでした。
また、ジャガイモの発芽防止剤IPCの分析は、1999年11月に分析法の改定が実施されましたが、それまで、定量限界が0.001ppmとなっていたものを、0.01ppmと精度を下げるような分析方法の開発がされている点も指摘しました。
定量限界が0.01ppmで分析が可能なのに、より高い値にして、一律基準を緩めようとする動きには、注意を要します。
★残留分析の実施とその結果について
ポジティブリスト制度が実施された場合の分析機関や食品衛生法による流通規制をどうするか聞いた回答は『収去(残留農薬等の分析のため市場より検体をサンプリングする)を含めた検査の実施に関しては、国内にあっては地方自治体が行い、輸入食品にあっては厚生労働省の検疫所が行うこととなる。また、分析に関しては地方自治体の衛生研究所や厚生労働省の輸入食品・検疫検査センター等で実施されます。』
『自主検査に関しては、食品等事業者(輸入者)の責務として自ら取り扱う食品の安全確保を行うために実施するものと考えますが、自主検査の結果、食品衛生法違反が疑われる場合は、行政による検査等の確認を経て、違反か否かの判断が行われます。』とのことでした。
記事t16211で述べたように、残留農薬検出率の公表に際しては、総分析農薬数ベースでなく、検体数あたりの検出率を発表されたいとの要望には、回答がありませんでした。
★NAC、コメヌカの基準は家畜配合飼料の34倍で充分と
加工品やミネラルウオーターの残留基準に日本の食習慣を無視して、国際基準を採用することの再考の求めに対しては
『ミネラルウォーター類については、WHO飲料水ガイドラインに定められる基準に基づき暫定基準を設定しています。我が国の水道の水質基準もWHO飲料水ガイドラインを参考に決められており、整合性はあるものと考えます。また、ミネラルウォーター類以外の清涼飲料水には、水以外の原料も含まれるため、ミネラルウォーター類に準じた基準とすることは困難です。』『 暫定基準の設定にあたっては、我が国がWTO条約に加盟することから、国際基準であるコーデックス基準を基本としたものです。コーデックスにおける残留農薬基準の設定においては、各地域の食品摂取量に基づく評価を行っています。』という回答でしかなく、特に問題としたNACのコメヌカ170ppmで、家畜配合飼料の34倍のままでした。
★補助成分は当面対象外でも、展着剤には一律基準
農薬補助成分として使用されている化学物質を調べ、残留基準の設定対象とするようとの私たちの求めへの回答は『農薬補助成分には有機溶媒等の一般的な化学物質が含まれるが、これらの毒性や作物への残留性について十分な知見がないことや農薬以外からの混入も想定されることから、基準の設定が困難であり、当面本制度の対象とは考えていません。』とあります。
補助成分には、展着剤ににも使用される界面活性剤などが含まれますが、日本紅茶協会の『展着剤や活性共力剤についての取扱を明文化していただきたい。』という意見に『一般に農薬に該当するものについては本制度の対象となり、基準が設定されていない場合は、一律基準が適用されます。』と答えており、農薬登録のある展着剤は、一律基準が適用されるという見解です。補助成分ならおかまいなし、展着剤なら規制といのは矛盾です。
★農薬グループや総農薬量規制はしないと
有機リン剤など作用を同じくする農薬をグループして規制したり、総農薬による残留規制については、『ご指摘のとおり、分解や代謝の過程で同一の物質となる農薬活性成分等については、まとめて基準を設定している場合がありますが、化学構造や毒性発現機構が類似というだけでは物質間の関係が不明であり、これらの農薬をグループ化して基準を検討することが困難です。』『農薬に限らず、ヒトが摂取する可能性のある化学物質全てについて、トータルでどの様な影響があるのかを評価することは意味のあることかもしれませんが、膨大な組み合わせが存在し、影響を調べることは困難です。個々の農薬の摂取量は、一般的に無毒性量の1/100に相当するADIの数%であることが多く、そのような状況の中で、複合毒性に基づく規制が必要となるような有害事象は把握していません。』
影響を調べることが困難ということを、評価をしないことの理由にしているようでは、食の安全・安心にはとてもつながらないと思います。
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、
注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2006-03-26