農薬の毒性・健康被害にもどる
t17005#岩手県:水稲カメムシ対策の殺虫剤ダントツでミツバチ大量死#05-10
今年の夏、岩手県南部で、養蜂業者の飼うミツバチが大量死するという事故が続発しました。養蜂組合や県の調べで、原因は水稲のカメムシ駆除に散布された殺虫剤ダントツ粉剤DL(クロチアニジン0.15%、住化武田農薬株式会社登録農薬)である疑いが濃くなり、組合は、水稲農家に適切な指導をしなかった県やJA全農いわてに賠償を求めて行く構えです(11月に、組合は、見舞い金500万円支払いや融資等の条件を受け入れました。)
★被害は3千万円、死骸からクロチアニジン検出
県の調べで、ミツバチの被害は、6市3町(花巻市、北上市、水沢市、江刺市、前沢町、金ヶ崎町、一関市、大槌町、遠野市)におよび、8月9日〜20日にかけて772群(1群は3〜5万匹)が死亡(死亡割合20〜90%)したということです。養蜂組合は、ミツの採取が出来なくなっただけでなく、女王蜂が死に新たな群の導入が必要になったケースもあり、損害総額は3000万円になると推定しています。
その原因として、ミツバチの大量死が発生したのは、いずれも、ネオニコチノイド系のカメムシ用殺虫剤が水田に散布された直後で、今年から岩手県の防除基準に載せられたダントツ粉剤DLが使用されたためではないかとの疑問が、組合から出されました。
県医薬品衛生検査センターで、死亡ミツバチ中の農薬分析を実施した結果、いずれも8月13日死亡の、前沢町採取のハチから0.01ppm、江刺市と北上市採取のハチから痕跡のクロチアニジンが検出されました。ハチが同剤で汚染された花粉や水田の水を巣に持ちこんだためと考えられ、県は、大量死した地域での当該農薬の使用状況調査と合わせ、ミツバチ大量死は、クロチアニジンの可能性が高いと推定しました。
★県からのミツバチ注意情報はない
県の防除基準には、水稲カメムシ対策用殺虫剤として、表のような農薬が挙がっています。前年には、ミツバチ被害がなかったことを考えると、今年から水稲カメムシ対策に使われたダントツ粉剤DLの容疑が浮上したのは当然のことでした。
同剤は、通常の地上散布のほか、多口ホース噴頭を用いた、いわゆるナイアガラ方式でも散布されました。また、防除基準にないダントツフロアブルを用いた無人ヘリ散布が実施された地域もあったとのことです。もうひとつのネオニコチノイド系農薬スタークル粉剤DL(ジノテフラン0.5%)を散布した地域もありました(この農薬の被害は軽微であり、因果関係は判明していないと報告されている)。
養蜂組合は、ミツバチ被害の農薬散布について事前通知がなかったことを問題視していますし、県も 散布予定区域周辺での養蜂の実態がわからなかったため、ダントツ剤に限らず他の農薬についても、養蜂関係者に散布予定の周知する等の対策が講じられていなかったことを認めています。
表 岩手県:水稲カメムシ対策に使われる農薬−省略−
★過去の事例を教訓にすべき だった
農水省の統計によるとミツバチ被害は、2003年に1件報告されています。これは、同年5月に、熊本県熊本市と玉名地域のミカン畑で散布されたダントツ水溶剤(クロチアニジン16%)が原因と思われるもので、2業者4地区のミツバチが被害を受けました。
熊本県に再発防止対策を尋ねたところ『養蜂関係者や農薬取扱者等関係者を参集し、毎年、県の農薬安全対策協議会や地域農薬安全協議会(県内11ヶ所)等を行い、農薬の安全使用の徹底や危害防止について、関係機関に対する指導を行っている。また、農薬取扱者に対し、毎年、農薬安全対策講習会を行うとともに、6〜7月にかけて農薬危害防止運動月間を設定し、農薬の危被害が発生しないよう 農薬使用者の指導に努めている。また、養蜂組合を含む関係機関を参集しミツバチに対する農薬危被害防止対策会議なども行ってきた。』との答が返ってきました。
また。岩手県の被害を受けて、ミツバチに影響を及ぼす農薬の指導を徹底する/養蜂組合を含む関係機関によるミツバチに対する農薬危被害防止対策会議を行って危被害防止対策をとりまとめる/農薬販売店に対して、危被害防止に関する文書を発送し、被害防止への協力を求める、ということです。
長崎県では、熊本県の例を引き、ダントツ水溶剤について、その2000倍希釈剤の使用時のミツバチに対する影響が25日以上との説明をつけ、かんきつのコアオハナムグリ、ケシキスイ類防除の際、広範囲での使用を避ける/使用する場合は、使用地域内の養蜂業者と連絡、協議することを指導しています(かんきつのコアオハナムグリ、ケシキスイ類に対する防除薬剤の注意について)。
長野県でも、リンゴやモモへのダントツ水溶剤使用で、『ミツバチに対して影響が大きいので花粉媒介昆虫を使用している時期には散布しない』との(りんごのキンモンホソガ、シンクイムシ類、アブラムシ類、もものモモハモグリガ、アブラムシ類の防除にダントツ水溶剤)、青森県では、水稲カメムシ対策でのダントツH粉剤DL使用で、『ミツバチに悪影響を及ぼすので注意する』との情報を流しています(水稲のカメムシ類に対するクロチアニジン0.5%粉剤(ダントツH粉剤DL)の1回散布の防除効果)。
岩手県では、他県での被害情報を我がこととして、しっかり受けとめる姿勢がなかったようで、以下のような対策をあげていたものの、現場では、周知徹底されていませんでした。
1、防除基準に次の事項を記載
@農薬散布予定区域周辺の養蜂家へ事前に農薬散布予定を通知し、協議の上、
必要な対策をとる。
A養蜂活動を行っている周辺で農薬を使用する場合、ミツバチに影響の少な
い剤を選択し、農薬散布は、ミツバチの活動の多い8〜12時頃の時間帯は
避ける。
2、農薬安全使用に関する指導文書及びJAへの巡回指導等により、農薬のラ
ベルに書かれている注意事項に従うよう指導。
【関連資料】日本養蜂はちみつ協会のH16年度事業報告とH17年度事業計画書
★農水省は後追い通知で責任回避
農水省は、毎年6月の農薬危害防止運動要綱で『みつばち、蚕等の有用生物及び野生生物に対する被害を防止するため、農薬使用者に対し農薬の適正な使用方法の遵守を徹底する。』との通り一片の文言を発信しているのですが、それだけでは、まずいと思ったのでしょう。9月12日に「みつばちへの危害防止に係る関係機関の連携の強化等について」という通知を出しました。都道府県の担当部署に、農薬使用者に養蜂場所を知らせたり、農薬使用者と養蜂業者が事前連絡をとり、ミツバチ被害が起こらないよう指導しろという内容です。
農薬使用者には、農薬取締法第12条に基づく、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」で、「農作物等に害を及ぼさないようにすること」という責務が負わされていますから、当然、被害を与えた場合、その責任は問われます。しかし、クロチアニジン製剤がはじめて登録されたのは、2001年12月20日で、ダントツ粉剤DLやダントツ水溶剤は02年4月24日に登録された新しい殺虫剤です。ミツバチでの経口半数致死量=LD50は0.0038μg/個体ですから、農水省は、登録の時点で、農薬名を挙げ、都道府県の担当部署に対して、農薬使用者の注意を喚起すべく指導強化を通知しておくべきではなかったのでしょうか。
★メーカー住化武田はミツバチ毒性試験の全容を公開すべき
ダントツのメーカーである住化武田農薬株式会社は、どういう対応をとっているのでしょうか。ダントツ粉剤DLのMSDS(製品安全データシート)の環境影響情報を見ると『ミツバチ、マルハナバチに対して影響がある』との記載だけで、LD50も、残毒期間も明示してありません。農薬容器のラベル表示も似たり寄ったりです。
農薬取締法では、農薬登録に際して、有用生物に対する影響試験を実施することが義務づけられています。ミツバチ影響試験については、
(1)急性毒性試験(急性経口毒性試験又は接触毒性試験)は、原則として原体を
用いて実施する。
(2)急性毒性試験の結果、強い毒性が認められる場合には、製剤を用いて、ほ場
での影響試験を実施する。
となっており、試験実施の詳細が決められ、LD50 あるいはLC50 値、死亡率、最大無作用量、中毒症状、ミツバチの残毒期間、群体への影響等を調べることになっています。
住化武田に登録申請時の毒性試験結果を示すよう求めたところ、原体とダントツ水
溶剤のLD50の数値と残毒期間試験の結論だけで、詳細なデータは提供されませんでした。ダントツ粉剤DLについて、試験が実施されていたかどうかもはっきりしません。登録時に提出したミツバチ影響試験成績を開示し、農薬使用者など関係者にその情報を周知させることが被害防止には必須です(事故後、農薬検査所のHPにある農薬抄録のページにクロチアジニンの毒性試験抄録がアップされた)。
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作成:2006-01-28