農薬の毒性・健康被害にもどる
t17303#公害等調整委員会が健康被害者による訴えに調停〜住宅隣接地で農薬使用を原則止めよと#06-01

 05年11月初め、公害等調整委員会が、住宅地での農薬散布による健康被害事件について、原則として農薬を使用しないようにとする注目すべき調停を行いました。同委員会に詳細を問い合わせましたが、個人情報は出せないとのことなので、HPで公開された経緯を紹介しておきます。

★農薬使用者3人に損害賠償の責任裁定申請  05年3月22日、農薬等により健康被害を受けた東京都日野市の住民が、自宅に隣接する畑やアパート敷地での殺虫剤・除草剤など農薬使用者3人に対して、健康被害の損害賠償を求める『責任裁定』を申請しました。
 申請人は,被申請人の散布する殺虫剤・除草剤により,喘息の悪化,肺気腫,難聴等の症状が出始め,慢性炎症性脱髄性多発神経炎になり,多額の医療費の出費を余儀なくされるとともに,現住所に暮らすことも困難な状況にあるとして,被申請3人に総額3,500万円の損害賠償を請求しました。

★委員会の職権調停で終結
 この事件は、裁定委員会による3回の審問を経て、同委員会による職権調停に移行、損害賠償を求めた責任裁定申請については取り下げ、当事者双方が以下の調停案を受諾、終結しました。

 日野市における農薬等による健康被害責任裁定申請事件調停書

★公害紛争処理制度について
 公害紛争処理法に基づく公害紛争処理制度は、民事訴訟よりも迅速かつ安い費用で、公害被害者を救済するために生まれた制度で、『あっせん』、『仲裁』、『調停』、『裁定』の4つの手段があります。  1996年に、松枯れ農薬空中散布問題で、島根県や山口県の住民が公害等調整委員会に、大気汚染被害を理由に農薬散布中止の申請をしたことがありました(記事t06701記事t08701参照)。この時は、『調停』申請でした。まず、地元の市町村の公害担当窓口に相談、都道府県の公害審査会へ訴え、2以上の県にまたがる県際事件であるということで、総務省の公害等調整委員会が双方の言い分を聞き、調停することになりました(最終調停案は、農薬空中散布は将来的に中止、それまでの間は、当然の安全対策を取るというもので、住民側は受諾しましたが、林野庁や県側は、拒否しました)。
 今回の日野市での事件は、損害賠償の責任の有無に関する『裁定』で、地方自治体の窓口を通す必要はなく、中央公害等調整委員会に直接『責任裁定』申請されたものです。その後、上述のように、『責任裁定』申請を取り下げるかわりに、裁定委員会の職権調停となり、その案を双方が受け入れることとなったものです。

 『裁定』には、このほか、『原因裁定』というのがあります。これは、健康被害と公害との間の因果関係に関する法律的判断を、中央の公害等調整委員会に求めるものです。
 たとえば、1997年9月の東京都杉並区における不燃ゴミ中継施設健康被害原因裁定申請事件(申請人:東京都住民等18人、被申請人:東京都)では、不燃ゴミ中継施設から排出される有毒物質と申請人らの健康被害との因果関係の裁定が求められました。2002年6月の裁定では、1996年4月の同中継所調整運転開始から同年9月までに生じた健康被害は、プラスチックゴミ押込み詰替え施設である同中継所の操業に伴って排出された化学物質によるものであるとされましたが、その後の健康被害の因果関係は認められませんでした。

★公害等調整委員会の『裁定』を有効に活用しよう
 農薬による健康被害等を受けた場合の対処策として、加害者の損害賠償責任を追及する場合、前号で紹介した千葉クロルピクリン被害事例のような民事訴訟だけでなく、中央公害等調整委員会による『責任裁定』が、また、人の健康や生活環境汚染の原因を追求する場合には、『原因裁定』も有効な手段として活用できます。
 『裁定』は、裁定委員会(委員は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命した公害等調整委員会のメンバーから、3又は5人が選出)により、公害紛争処理法の第四十二条の二から同条の三十三に法り、なされることになります。裁判所での訴訟の場合よりも、結論は早くでますが、この法でいう『公害』が環境基本法でいう『環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(−省略−)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(−省略−)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう。 』と定義されているので、農薬等による受動被曝がどこまで公害と認定されるかが課題となるでしょう。
 公害等調整委員会のHPにある公害を解決するには…

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作成:2006-04-26