環境汚染にもどる
t17503#非スズ系船底塗料による水系汚染〜除草剤と同成分のDCMUも#06-03
【参考資料】日本塗料工業会のHPにある認定登録品リスト
        神戸大学岡村さんの船体防汚剤の生態毒性研究に関する資料
        WWFジャパンのHPにある
  サンゴに影響を及ぼす化学物質のリスク<暴露試験で生育の阻害を確認 代替船底塗料も>

 神経毒性や催奇形性があり、環境ホルモンの一種である有機スズ系魚網防汚剤や船底塗料は、水系汚染や魚介類汚染が深刻となり、TBTOは89年12月に化審法で「第1種特定化学物質」に指定され、製造・販売・使用が禁止されました。その他の有機スズ系化合物20種は90年9月までに「第2種特定化学物質」に指定されていました。その後、業界は、非スズ系塗料の開発をすすめていましたが、その成分についても、水系での汚染実態がわかってきました。

★農薬と同じ成分が使われる
 日本塗料工業会が、自主管理登録している非スズ系船底塗料(国際海事機関による船舶の有害な防汚方法の規則に関する国際条約へ適合するもの)の成分16種とそれぞれを含有する製剤数を表1に示しました(合計値は、混合剤もあるので、製剤実数386(05年6月末現在)とは一致しません。成分別の生産数量等は不明ですが、備考欄に示したように、酸化第一銅(亜酸化銅)を含む製剤が一番多いことがわかります。そのほかさまざまな成分が使われており、備考欄に書いたように農薬の殺菌剤や除草剤成分と同じ成分が目立ちます。

  表1 非スズ系船底塗料の成分別製剤数 −省略 <br>
 図には、主に農薬と類似した船底塗料成分の化学構造を示しました。 


  図 主な日スズ系船底塗料等と成分と化学構造 −省略

 (1)〜(3)は、よく似た化学構造(ベンゼン環にCl=塩素が2つ結合している骨格)を有することが判ります。このうち DCMU(ジウロン)が船底塗料として使用されています。
 (4)はイルガロール1051と呼ばれる塗料成分で、防藻剤としての効果がありますが、トリアジン系(亀の甲の中にN=窒素原子を3っ含む骨格)の3つの農薬除草剤(5)アメトリン、(6)プロメトリン、(7)シメトリンとよく似た構造をしています。
 (8)ジネブはZn=亜鉛を含むジチオカーバメート系の化合物で、農薬殺菌剤として使用されていましたが、昨年12月に登録失効した成分です。同類のジラム、チラムも塗料用途があります。
 (9)亜鉛ピリチオンは、塗料だけでなく、シャンプーにふけ防止剤として添加されてもいます。亜鉛が銅に置き換わった銅ピリチオンも塗料に使われます。このほか、農薬殺菌剤の(10)TPN(クロロタロニル)や登録失効した殺菌剤スルフェン系(ジクロフルアニド)が船底塗料として使用されています。

★水系汚染が明らかに
 これら非有機スズ系成分が、スズ系のように、水系や魚介類を汚染することはないのでしょうか。神戸大学海事科学部の岡村秀雄さんたちの論文<Mar.Pollut.Bull. vol.47 p59-67,2003>を見てみましょう。
 環境調査は、1999年の夏、西日本13府県の沿岸にある漁港・マリーナ・小港で行われ、海水域131と淡水域(琵琶湖)11地点で水試料が採取されました。分析対象となったのは、DCMUとイルガロール1051及びその代謝物M1(図(4)の△が離脱した物質)で、このような広域にわたる本格的な調査ははじめてです。
 ここでは、DCMUの分析結果の一部を表2に示します。

  表2 DCMUの水系汚染 【出典:Mar.Pollut. Bull. vol.47 p59-67,2003】−省略

 142地点うち122地点でDCMUが検出され、検出率は86%でした。表には、府県別に、検体数に対する検出数の比率を( )内に示し、さらに500ng/L以上であった20地点の検出値をあげました。県名のみの欄は、すべて500ng/L以下の濃度だったということです。2000ng/L以上だったのは、3地点あり、三重県紀伊長島付近の漁港3054、和歌山県湯浅付近の漁港2053、広島県廿日市付近のマリーナ2034各ng/L、広島県沿岸海域での高濃度汚染が目立ちました。琵琶湖の淡水では、検出率は36%で海水域よりも低く、検出範囲は52-199ng/Lでした。

★水系汚染は船底塗料由来
 DCMUを含む登録農薬は、畑地や果樹、非農耕地、水田畦などに適用される除草剤が主です。岡村さんが、検体採取を行った13府県のDCMU含有除草剤の1999年の出荷量(使用量そのものではない)を、表2の県名欄に<t:製剤トン数>と記載しました。瀬戸内では、ミカン園などでの使用があると思われますが、果たして、海洋汚染につながるかどうか、はっきりしません。
 内陸での汚染状況としては、横浜市の水道原水の調査(2001年から2003年、相模川と酒匂川水系からの56検体)があり、DCMUが検出率21.4%(最大17ng/L、平均8 ng/L)で見出されていましたが(記事t15607)、これに比べ、海域の濃度は相当高く、DCMUの起源は、船底塗料であると考えられます。どんな船が出入りしているか、近くに船底塗料を使うところがあるかなどがわかれば、汚染濃度との関係は明確になるでしょう。

★非スズ系船底塗料の影響は?
 水系汚染が、明らかになったDCMUには、塩素ざそうの原因となるテトラクロロアゾベンゼンの混入が問題になりますし、分解物の3,4-ジクロロアニリンの環境中への残留も調べる必要があります。昨年秋に報告されたWWFジャパンと東京大学海洋研究所の渡辺俊樹さんの研究で、DCMU1000ng/Lの濃度でサンゴの一種(ウスエダミドリイシ)の成長を阻害することが明かになり、船底塗料や農薬としての使用に警告が発せられています。  岡村さんらの研究では、DCMUと同じ地点で、除草剤酷似のイルガロール1051とその代謝物M1は、それぞれ検出率60%(最大値262ng/L)、検出率28%(最大値80ng/L)で見出だされており、両者は1000ng/L以下の濃度で、紅藻類の成長に影響を与えることも報告されています。
 また、亜鉛ピリチオンについては、国立環境研究所の五箇公一さんのメダカの孵化実験で、数μg/Lの濃度で背曲り魚の発生が報告されていますが、水田モデル実験では、背曲り魚の発生は、対照区とかわらなかったとなっています。水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所のエビ類に対する急性毒性の研究では、亜鉛ピリチオンと銅の組み合わせにより毒性が強まることが見いだされ、両成分の共存下で亜鉛ピリチオンが毒性の強い銅ピリチオンに変化している可能性があるとされました。
 非スズ系船底塗料の中には、水生生物にTBTOよりも強い毒性を示すものもあり、今後、魚貝類、甲殻類、海苔などの海草、ウニへの影響についての研究が必要でしょう。
 また、私たちは、農地や市街地での農薬使用に注目して来ましたが、上記の研究例から、漁村や港、造船所などでも、同じ成分が使用されており、水系汚染だけでなく、船底塗料を使用する労働者や塗装場所周辺の住民の健康への影響にも注意を払わねばならないことが示唆されます。
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作成:2006-08-26