食品汚染・残留農薬にもどる
t17701#残留基準は、数字遊びか?〜ポジティブリスト施行前に基準値を大幅修正とは#06-05
 5月29日の農薬等の残留基準ポジティブリスト制度施行をひかえ、カウントダウンが始まっています。食品安全委員会、農水省、厚労省は、11日から23日の間に、全国9都市で、追いこみともいうべき、意見交換会を開催しています。
 いままでにあった約9000の残留基準が、「一律基準」を含め、約16万に増えたからといって、消費者には、現状が固定化されるだけで、必ずしも、食品からの残留農薬の摂取量を減らす方向につながらないことは、いままでに、さんざん述べてきたことですが、人の健康への影響を二の次にして、拙速に設定された残留基準は、早くもほころびを見せ始めました。一方、この制度の目的とは違いますが、農耕地でのドリフト防止対策は、農薬や殺虫剤が散布される地域での受動被曝防止に役立ちそうです(この件は4ページの三局長通知の記事をみて下さい)。

★ジノテフランで、農作物の暫定残留基準の60%を変更
 ジノテフランは、2002年4月に登録されたネオニコチノイド系殺虫剤(商品名、スタークル、アルバリン)ですが、表に示すように、昨年11月に告示された農作物に対する暫定残留基準(表の左欄)が、はやくも、2月9日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会で、表の右欄のように変更することが検討され、了承されました(審議会資料)。
 表では、103件の暫定基準のうち、上方修正した4件に△、下方修正した58件に▼をつけました。アップしたのは、適用拡大の残留性試験の結果、基準を上げねば、違反になる恐れがあるからです。ダウンしたもののうち、「一律基準」を適用したのは、日本での適用がないにもかかわらず、農作物群としての登録保留基準をそのまま採用したものでした。私たちが、パブコメで主張していたことを、最初から実行しておれば、こんな変更はなかったはずです。
 暫定基準とはいえ、一旦告示した基準の約60%を施行前に変更するとは、驚きあきれます。厚労省の役人は、机上で数字遊びをしていればよいが、こういう手合いに、食の安心・安全を委ねていることは、国民、なかでも、基準数値次第で、違反に問われ、出荷できなくなる農作物生産者にとっては、悲劇です。
 暫定基準の見直しを、5年以内に行うとのことなので、このような変更は、今後、どんどんでてくることでしょう。

  表 ジノテフランの農作物別残留基準(単位:ppm) −省略−

★食品産業センターの通知では不十分
 農薬のドリフト問題は、何も農業現場だけに限らないため、当グループは、食品加工・流通・販売等の段階での衛生害虫駆除剤やシロアリ防除剤のドリフト防止対策を示すよう、厚労省に申し入れました(記事t17602参照)。その回答は、2004年2月27日の通知「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」別添指針)にある『殺そ剤又は殺虫剤を使用する場合には、食品を汚染しないようその取扱いに十分注意すること。』という指導で十分だというものでした。農水省は、ドリフト防止の具体的対策を指導していますが、厚労省の姿勢は、監督官庁として、あまりに無責任です。
 一方、食品製造業者の団体である食品産業センターは、この問題に関して、4月12日に発表した会員向けの通知「食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度に関する留意事項」の中で、『以下のことが抜け落ちることのないよう注意してください。』として、『工場等製造施設、原材料・製品保管倉庫等の消毒を定期的に実施している施設については、食品に対する交差汚染のないよう、ふき取りや洗浄等の処置を実施するよう製造部門や物流部門(アウトソーシングしている場合は委託業者)に徹底してください。』と書いているだけです。文中の消毒には、衛生害虫駆除用の殺虫剤の使用も含まれると思いますが、散布後に、拭き取りや洗浄ができない場所ではどうするのでしょう。
 いずれにせよ、殺虫剤の飛散や揮発による食品汚染防止対策や薬剤を使用しない代替方法がきちんと示されるべきです。

【参考資料】
 厚労省の5/29通知食品に残留する農薬等の監視指導に係る留意事項についてで、『食品取扱施設において殺虫剤等を使用する場合には食品への汚染防止対策を行う等、適正に使用されるよう指導すること。』

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作成:2006-05-26、更新:2006-05-29