環境汚染にもどる
t18105#熊本県荒尾市のPCP、BHC汚染は、旧三光農薬工場が原因か#06-09

 熊本県では、2000年度から河川・海域で環境ホルモン調査を実施していましたが、荒尾市の浦川で、03年殺虫剤BHCが0.29μg/L、04年除草剤PCPが0.24μg/L検出されました。
 いずれも農薬登録が失効して相当年数を経ているにもかかわらず、汚染が見られたため、その排出源を探るべく、調査が継続され、05年には、三光荒尾工場(化学品製造メーカー)、第一製網(海苔網メーカー)の排出水から、PCPとBHCがそれぞれ最高13.6、2.65μg/L見出されました。熊本県は、両社に原因究明と対策を要請していましたが、環境調査結果が、06年6月28日明かになりました。

★工場内井戸から最高83μg/LのPCP
 事業場の敷地内の井戸水見出された農薬の濃度は表1のようでした。このようにPCPとBHCが水系に検出されたのは、どこかに汚染源があると考えられますが、第一製網では、関連化学物質が取り扱われたことがなく、三光荒尾工場に疑いの目が向けられました。  WHOの飲料水水質ガイドラインは、γ−BHC2μg/L以下、PCP 9μg/L以下ですが、後者では、基準を超えたものもあっため、熊本県と荒尾市は、周辺住民に井戸水の使用自粛を呼びかけました。

     表1 井戸水中の農薬濃度(単位:μg/L)

   事業場名   三光荒尾工場              第一製網

   井戸水       A     B     C     D       E      F      G
   PCP     0.065   7.8   72    83      55     3.4    0.021
   BHC     0.44    0.16   0.45  0.52    0.97  0.97   0.062
★市の水道水源井戸からも検出
 荒尾市は、7月12日市水道水源である井戸水5箇所9検体と浄水1検体を採取し、PCPとBHCの分析を実施しました。その結果、PCP(定量限界値:0.01μg/L)が井戸水4検体で0.02〜0.15μg/L、BHC(定量限界値:0.02μg/L)が井戸水2検体で0.12〜0.16、浄水で0.02μg/L検出されました。0.1μg/Lのオーダーで両農薬が検出された1号井戸は、浦川をはさんで、工場から500m以上離れており、その深度は70〜80mです。このような場所に、未だ検出されるのは、どこかに高濃度の農薬を含む汚染源が存在していることを疑わしめますので、地下水流を含め、更なる調査が必要でしょう。
 市は、PCPやBHCが検出された井戸について、いずれもWHOの飲料水水質ガイドライン以下であり、水源として利用しても問題ないと考えるが、念のため、1号井戸については、取水量を減量するとしています(水道局からのお知らせ)。

★工場周辺の水系汚染
 熊本県と荒尾市は、三光荒尾工場周辺の井戸水についても調査を実施しました。7月6日と12日に採取された14検体の分析結果は、7月21日に公表されました。
 500m以内井戸水(雑用:6個所、農用:1個所)7検体、
概ね500mの井戸水(雑用:5個所、飲用:2個所)7検体、合計14検体で、
PCPはいずれも定量限界未満(0.01μg/L)、BHCは、4検体に0.03〜0.09μg/L検出されました(定量限界値:0.02)。県と市は、両農薬とも、水質ガイドライン以下であったことから、人体への影響はないと、安全宣言を行い、現時点では、新たな民有井戸等の水質検査は必要ないとしています。
 なお、浦川の一部橋で採取された水質と底質のダイオキシン類調査結果(06年1月23日採取)は、それぞれ、0.19と1.8pgTEQ/gで、環境基準以下でした。

★三光株式会社は三西化学の前身会社
 とはいうものの、未だ汚染原因が明確でないため、県は、学識経験者の意見も聞きながら早期に解明を進めるとのことです。
 ところで、三光株式会社というのは、どのような会社でしょう。 同社のホームページによると、
    46年6月: 三光商会設立  
    47年3月:荒尾市に三光化学工業所設立  
    49年1月: 三光株式会社設立(三光商会を改組) 
    56年9月: 三光化学工業所を改組、三光化学株式会社を設立
    96年4月: 三光株式会社・三光化学株式会社合併、再発足 
とあり、前身が三光化学株式会社であったことがわかります。
また、農薬製造に関する私たちの質問に、同社は『製剤製造は、下請け作業として実施しておりました。製造小分けは下請け作業として実施しておりました。原料・製品の受払いは、農薬メーカーに管理され、製造禁止の時点では、原料は全量製品化し、全量農薬メーカーに戻し納入しており、在庫等はありませんでした。』とし、農薬製造の下請け作業期間は、PCPが62〜67年頃、BHCが55〜71年頃だったと答えています。
 HPには、55年1月:日本曹達株式会社九州工場として農薬の受託加工を開始、66年1月:クミアイ化学工業株式会社九州工場として農薬の受託加工を継続、とありますが、これだけとは思えません。
 登録農薬情報を調べると、表2のように製造者が、三光化学株式会社であるものが見つかりました(製造者の住所を@に、製造場の名称と所在地をAに記しました)。
下請けだけでなく、登録申請者として、「三光」を冠名としたPCP製剤を販売していたこともわかります。
  表2 三光化学株式会社の登録農薬と製造場の所在地等

 登録番号 農薬の種類  農薬の商品名        登録年月日 失効年月日 
  3096   PCP剤    三光P.C.P「ソーダ塩」  57.2.21    60.2.21 
            @久留米市本町2丁目52、A荒尾工場:熊本県荒尾市増永1850番地
  5098   PCP除草剤  三光PCP粒剤25      62.3.30   68.3.30 
            @久留米市通町3丁目88番地、A荒尾工場:熊本県荒尾市増永1850番地
  5107   PCP除草剤  三光PCP除草剤(水溶剤)  62.3.30   68.3.30 
        @久留米市通町3丁目88番地、A久留米工場:福岡県三瀦郡筑邦町大字白口
  5709   BHC粒剤   三光ガンマ粒剤              63.4.17  69.4.17 
        @久留米市通町3丁目88番地、A久留米工場:福岡県三瀦郡筑邦町大字白口
  7863   PCP剤    三光クロン                  66.12.27  69.12.27
        @久留米市通町3丁目88番地、A三井化学大牟田工業所:大牟田市浅牟田町30
              A小分けとして三光化学荒尾工場:熊本県荒尾市増永1850番地
 さらに、荒尾工場以外に久留米工場というのがありますが、(表では、三潴(みずま)郡となっているが、67年に、久留米市に編入)、何を隠そう、この工場は、農薬公害の原点ともいうべき三西化学の前身なのです。
三光化学は、60年に 三潴(みずま)郡筑邦町の鹿児島本線荒木駅隣接地に農薬製剤工場を建設し、翌61年から、三井東圧の大牟田工業所から原体を得てPCP剤製造を始めましたが、操業直後から、農薬悪臭や粉塵を工場周辺にまきちらし、住民に健康被害を与え、抗議と県の立入り検査が繰り返される中、63年10月に、三西化学に引き継がれました。周辺住民による損害賠償と操業停止訴訟は、1972年に提訴されましたが、被告のひとつに三光化学も名を連ねていたのです。
 その三光化学は、荒尾工場でも、PCPやBHCを製造していたわけで、操業当時、従業員や周辺住民の健康被害の報告はありませんかと、尋ねましたが、『調査いたしましたが、そういった事実はありませんでした。』との答えでした。
 今後、PCP及びBHCだけでなく、ダイオキシン類の調査も実施する必要があるでしょう。工場内の汚染状況を調べ、地下水の流れなどを解明していく過程で、周辺への環境汚染防止対策や汚染水・土壌の浄化が求められることになるかもしれません。いまのところ、三光株式会社は、熊本県や荒尾市に相談しながら、原因調査を進めるそうです。
     *****(注)三西化学農薬公害裁判について *****
三光化学(後に、三井東圧の関連会社の三西化学となる)は、61年より操業をはじめ、PC
P、CNP(商品名MO)、BHC、その他の農薬を製剤化してきました。農薬の大気・地下水汚
染のため、工場周辺の住民は頭痛、鼻血、下痢、のどや眼の痛み、肝腎障害などにしばし
ば悩まされことになりました。たびたびの工場との交渉も埒があかず、73年、2家族が、
原体製造メーカーの三井東圧と製剤メーカー三光化学と三西化学に対し、工場の操業停止
と損害賠償を求めて、福岡地裁に提訴しました。周辺の土壌、井戸水には、PCP等の農薬
による汚染がみられ、大気中にもCNPが22〜559ng/m3が検出されました。原告の調査では、
工場周辺の住民に、がんによる死亡率の増大が認められました。

水田除草剤PCPは、魚毒事件が多発したため、提訴時点では、その生産は大幅に減少して
いましたが、これにかわるCNPの大量生産が始まっていました。やがて、CNPによる全
国的な、河川水、水道水、魚介類汚染が判明し、81年には、同剤に高濃度のダイオキシン
が不純物として含有されることがわかり、全国的なCNP追放運動が起り、その生産は大き
く減少しました。その後、CNPは、疫学調査の結果、胆のうがんとの相関関係が明かに
なり、94年に三井東圧が製造自粛を表明、96年9月に農薬登録が失効しました。

 この間、三西化学は、83年7月、操業を止めましたが、福岡地裁は、因果関係が不明確
だとして、損害賠償を認めず、91年9月に原告敗訴の判決を下しました。その後、福岡高
裁でも原告が敗訴し、99年2月、最高裁による上告却下で判決が確定しましたが、この裁
判をめぐる原告と支援者の活動が、CNP追放運動をはじめ、反農薬運動の大きな核とな
りました。 農水省が、PCP、CNP中のダイオキシン含有の危険性をはじめて認め、
メーカーに回収するよう指導したのは02年4月のことでした。
 (三西化学農薬公害裁判については、三西化学農薬被害事件裁判資料集)
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作成:2007-02-25