食品汚染・残留農薬、にもどる
t18203#環境省「農薬残留対策に関する総合調査結果」より〜(その1)圃場での農薬のドリフト試験#06-10
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環境省は、農薬残留対策に関する総合調査を実施していますが、今までいっさい公表されていませんでしたが、このほど、私たちの要求に答える形で、03〜05年度の委託業務結果報告書をホームページ上に公開しました(農薬残留対策に関する総合調査)。今号では、農薬のドリフト(飛散)調査をとりあげます。
★遅すぎる委託研究結果の公表
ポジティブリスト制度の実施に伴い、06年の5月末から、すべての農薬について残留基準や一律基準(残留基準が設定されていない農薬と農作物の組合せについては0.01ppm)を超えた農作物の流通が規制されることになり、農作物への農薬ドリフト防止対策が問題となりはじめました。しかし、実用的なドリフト防止対策の情報は少なく、唯一、日本植物防疫協会編のパンフレット「地上防除ドリフト対策マニュアル」が、バイブル的存在となっています。
そのマニュアルには、同協会が、環境省から委託された上述の報告書からのデータが引用されているのですが、3年前から実施されていた研究内容がやっと明かにされたのは、06年の9月末。遅すぎたとの感が否めません。
★さまざまな条件での試験
98〜05年度に実施された農薬のドリフト試験件数を、散布方法別にまとめると表1のようになります。最も件数の多いのがブームスプレーヤ(多数の孔を有するアーム型散布装置から希釈液を噴霧させる)による散布で試験数59件(データ数111)、次ぎがスピードスプレーヤ(大型の送風機の吹出し部に多数の孔を配置し、走行しながら希釈液を噴霧させる)試験数20(データ数56)でした。
表1 散布装置別試験数及びデータ数(98年〜05年度) −省略ー
これらの散布装置を用い、粉剤や液剤を噴出圧力やノズルの形状を代えて、どの程度の距離に、どの程度のドリフトがあるかが調べられています。風の影響、散布方向や地表からの高さによるドリフト量の違いも検討対象になっています。
表2に示した農薬成分別・剤型別のデータ数では、MEP乳剤35件やダイアジノン水和剤15件をはじめとする液剤の使用例が圧倒的に多く、粉剤による試験はMEPの1件だけでした。表3には、散布場所別の試験数を示しましたが、裸地が38件、ついでエンバク畑12件で、果樹園での試験数をまとめると20件ありました。
表2 農薬成分別・剤型別データ数(98年〜05年度)−省略−
表3 散布場所別試験数 98年〜05年度 −省略−
★農作物を用いたモデル試験は4件
委託調査では、実際に農作物が栽培されている近接圃場へのドリフト調査はなく、ドリフト量の測定のほとんどは、水平方向ではガラスシャーレ・トラップを、垂直方向ではろ紙トラップを用いた簡便法で実施されています。この試験における、トラップ回収までの時間や分析の精度を知るに必要な回収率のデータなど、詳しい実験方法の記載が報告書にはありません。
農作物を用いたドリフト測定は、いずれもポット栽培によるモデル試験で、全データ数183の中で03年度に実施された4件だけです(表4参照)。同表にあるドリフト率は、ガラスシャーレ・トラップを用いたもので、製剤中の活性成分濃度、希釈率、単位面積当りの散布量をもとに算出される理論散布量(=直下散布量)に対するガラスシャーレに落下した活性成分の単位面積当りの数量をパーセントでしめした比率で、この数値が大きいほど、ドリフト量が大きく、圃場外の農作物への残留量の指標にされています。
MEPのドリフト率を比較すると、事例2>事例3>事例1の順で、1桁づつ減少していました。ホウレンソウやコマツナでの残留濃度も同じ傾向でしたが、散布当日に、残留基準超えが見られた場合でも、3日後には、基準以下となっています。とはいうものの、事例1と3で、20m離れたところにもドリフトがみられたことは注目されます。
果樹園でスピードスプレーヤで散布した場合は、事例4のようにシペルメトリン乳剤
が20m離れたコマツナに残留することがわかりました。別の試験では、ガラスシャーレ・トラップで、50m地点のドリフト率が0.11%だったケースもありました。
農薬製剤には農作物の表面組織に付着しやすくするための補助成分が添加されていますし、農作物、特に葉菜には、表面にしわや葉脈、茎がありますから、ガラスシャーレのすべすべの表面に付着する農薬量から実際の残留量を推定するには、換算係数を求める必要がありますが、そんなデータもないので、報告には『ドリフト率が小さい場合でも農薬の検出はみとめられ、シャーレでの落下量よりも多く付着することがあると考えられた。』としか記されていません。
表4 03年度の葉菜ポットを用いたドリフト試験
事例1:青森県の小麦圃場で、MEP乳剤をブームスプレーヤーで散布(MEPの直下散布量75mg/m2)
圃場境界からの距離 1m 2m 5m 10m 20m
ガラスシャーレによるドリフト率(%) 0.18 0.097 0.043 0.024 0.021
ホウレンソウでの残留量(ppm) 当日 0.314 0.192 0.132
−残留基準:0.2ppm− 1日 0.157 0.099 0.044
3日 0.035 0.015 0.007
事例2:熊本県の大豆圃場で、MEP乳剤をブームスプレーヤーで散布(MEPの直下散布量52mg/m2)
圃場境界からの距離 1m 2m 5m 10m 20m
ガラスシャーレによるドリフト率(%) 35.2 9.654 0.147 <0.131 <0.131
コマツナでの残留量(ppm) 当日 2.56 0.22 0.14
−残留基準:0.5ppm− 1日 1.06 0.32 0.16
3日 0.52 0.02 0.01
事例3:福島県の裸地で、MEP粉剤DLをパイプダスタで散布(MEPの直下散布量80.4mg/m2)
圃場境界からの距離 1m 2m 5m 10m 20m
ガラスシャーレによるドリフト率(%) 3.55 2.127 1.269 0.771 0.211
コマツナでの残留量(ppm) 当日 0.64 0.36 0.24
−残留基準:0.5ppm− 1日 0.39 0.10 0.06
3日 0.19 0.06 0.02
事例4:長野県のブドウと洋ナシなどの混植園で、シペルメトリン乳剤をスピードスプレーヤーで
散布(シペルメトリンの直下散布量32.3mg/m2)
圃場境界からの距離 1m 2m 5m 10m 20m
ガラスシャーレによるドリフト率(%) 4.923 1.381 0.173
コマツナでの残留量(ppm) 当日 0.79 0.04
残留基準:5ppm 1日 0.74 0.03
3日 0.70 0.03
★ドリフト低減の効果はどうか
報告書には、ドリフト試験から得られて結果を以下のようにまとめています。
・ドリフトは、風向きや風力の影響を受ける。
・雨よけ栽培や、ネットで囲った場合、ドリフトは低減される。
・作物がある方が裸地での散布よりもドリフトが少ない。
・散布粒子は、散布高さよりもかなり高く舞い上がりながら風下側に飛んでいく。
・リンゴ園では逆風下でも高さ5m以上までドリフトしたが、フドウ園で低風量で散布した場合、
それほど高くまでドリフトしない。
・乳剤と水和剤で、明確な差違はない。農薬による違いについては、2倍以上の差が生じた例が
あったが、原因不明。
・慣行ノズルでは平均粒径が80μm前後、エコシャワーノズルでは150μm以上と推定され、後者
を用いた方がドリフトが低減する。
・低圧の方が、ドリフトが低減する。
★見えない具体的ドリフト対策
以上のように委託調査結果からは、少なくとも、どのようにして農薬を散布すれば、ドリフトがどの程度に減り、残留基準や一律基準を超えることがないのかという、生産現場が一番知りたいドリフト防止方法がみえてきません。適切な飛散防止ネットはどんなものか、緩衝地帯幅はどの程度にすべきかもわかりません。さまざまな散布条件での、ドリフト量を予測するシュミレーションソフトを作成するにしても、まだまだ、データ不足のようで、多くの農作物を近接圃場で栽培するという現状の集約的農業形態で、いちばん確実なのは、ドリフトによる汚染がないよう、圃場全面にシートで覆いをすることぐらいでしょうか。
消費者の立場からみると、いままで、適用外作物に農薬がかかることが気にもとめられてこなかったことに驚きを禁じえませんし、それ以上に、ドリフトについての研究すら十分行なってこなかった農政にも暗澹たる思いがします。
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作成:2007-03-24