食品汚染・残留農薬にもどる
t18306#島根県が除草剤チオベンカルブ使用中止を要請〜宍道湖シジミに基準を超えて残留#06-11
   【参考資料】島根県報道発表
        ・シジミへの農薬の残留検査結果について(2006/11/09)
         検査結果について分析結果分析地点ベンチオカーブ
        ・シジミの残留農薬により影響を受ける県内中小企業者等に対する緊急融資について (2006/11/15)
        滋賀県報道発表(2006/12/05)         ・琵琶湖の魚貝類に対するチオベンカルブ(除草剤)の残留検査結果について    【関連記事】 記事t18704(シジミの農薬残留問題〜関連都道県に対応策などを聞きました)
11月9日、島根県薬事衛生課、水産課、農畜産振興課は、同県内の宍道湖及び神西湖のシジミについて、水田除草剤チオベンカルブ(ベンチオカーブ、商品名サターンなど)の残留分析をした結果、7月下旬から10月下旬にかけて採取した検体の一部に、ポジティブリストの一律基準0.01ppmを超えたものが見つかったことを、明らかにしました。

★シジミに最高0.12ppmを検出
 表1に宍道湖産シジミの分析結果を示します。最高値は、10月26日、穴道湖西岸・平田船川で採取された検体で0.12ppmでした。県は、過去の文献からシジミへ除草剤の成分のチオベンカルブが残留する可能性があることが分かり、残留分析調査をしたとしていますが、宮城県での調査(食品衛生学雑誌23巻456頁,1982年)では、1981年採取のシジミに9.7ppmのチオベンカルブが検出された例がありましたから、この25年間、調査をしないで来たことは驚きです。
 ともあれ、ポジティブリスト制度の実施で、すべての食品に残留基準又は一律基準が適用されることになったことで、今回分析が行われたのは、法改定の効果でしょう。
 表1 宍道湖産シジミのチオベンカルブ検出値

 採取日   検体数 検出数 検出率 検出範囲(ppm)
 7/18・28    4   4    100%   0.03-0.09
 9/4       6    2     33    <0.01-0.06
 10/2           8    2     25   <0.01-0.07
 10/24・26・30   14      2     14     <0.01-0.12
★チオベンカルブの使用中止へ
 島根県は、シジミにおけるチオベンカルブの残留基準は設定されていないため、一律基準0.01ppmが適用され、これを超えるものが食品衛生法違反になるとしています。
 また、検出値については、『今回検出された濃度のシジミを普通に食べたとしても、健康に影響を及ぼすことはありません。チオベンカルブの1日摂取許容量は体重50kgの人に換算すると0.45mgであり、仮に、今回検出された最大値0.12ppm のシジミを毎日21g (みそ汁1杯分に含まれるシジミを30個として換算)食べ続けたとしても、チオベンカルブの1日摂取量は0.0025mgとなります。』と説明していますが、チオベンカルブの残留基準値は農作物・畜産物合わせて105食品で0.05〜0.2ppmに設定されており、シジミ以外からのチオベンカルブの摂取量が不明のままで、安全宣言するのは、疑問です。
 食品衛生法遵守の立場から、県は対策として、次ぎの3項をあげています。
 (1)宍道湖漁協は基準値を上回っている水域のシジミの操業及び出荷を自主的に停止し
  ています。県において今後定期的かつ継続的に各水域のモニタリング調査を実施しま
  す。
 (2)周辺の地域において、今秋の麦作へのチオベンカルブを成分とする除草剤の使用を
  中止したところです。また、来年以降、水稲、麦、大豆において使用しない方向で農
  業団体と連携して取り組むこととしています。
 (3)一律基準等が設定された農薬等について、今後国において計画的に健康影響評価が
  実施される予定ですが、魚介類における残留基準値設定について、早急な作業実施を
  国へ要請します。
★チオベンカルブだけでない魚介類の残留農薬
 いままでに、地方衛生研究所等の調査により、魚介類に検出されたことのある除草剤のリストを表2に示しました。これらの多くは淡水魚と貝類で、80年代に報告されたものですが、残留基準がなかったため、流通規制のないまま、消費者の口にはいっていました。CNP、NIP、クロメトキシニルは不純物としてダイオキシン類を含むジフェニルエーテル系化合物で、現在では、登録失効しています。
 このほか、環境省がまとめた資料によると、イソプロチオラン、ペルメトリン、ケルセン、トリフルラリン、ベノミル、IBPが魚に検出されていました。
   表2 魚介類に検出された水田除草剤

 農薬名      魚介類の種類

 オキサジアゾン  アサリ、アユ、ウナギ、カキ、シジミ、ナマズ、ハエ、フナ、
 クロメトキシニル アゲマキ、アサリ、アユ、イシモチ、オイカワ、ドジョウ、
          シジミ、コイ
 ブタクロール   シジミ
 チオベンカルブ  アユ、オイカワ、シジミ、フナ
 モリネート    シジミ
 CNP       アゲマキ、アユ、イサザ、ウグイ、シジミ、ドジョウ、フナ、
 及び代謝物TCNP   ハエ、ハゼ、ハス、ヤツメウナギ、
 NIP       アゲマキ、アユ、イサザ、ハス、フナ、モロコ、
  ★ポジティブリストにある魚介類の残留基準
 農薬等の残留基準のポジティブリストでは、7種の魚介類にわけて、残留基準が設定されています。そのうち、農薬については、表3に示したように、58種で、0.0003〜50ppmの暫定残留基準値となっています。表で空欄となっている農薬と魚介類の組合わせや表にない農薬については、すべて一律基準0.01ppmが適用されます。
 基準値には、一律基準よりも低い値に設定されている例もみられます。たとえば、テトラコナゾール0.0003、シプロジニル0.0004 エマメクチン安息香酸塩0.0005ppmですし、有機リン系殺虫剤DMTP0.001、MEP0.002、DEP0.01又は0.004ppmです。その一方で、高い値もあります。なかでも、除草剤CAT10ppm(農作物0.01〜0.3ppm)、トリクロピル3又は4ppm(農作物0.03〜0.3ppm)が目立ちます。さらに、ND(検出されてはならない)農薬は、検出限界値がそれほど、低くないケースがあることにも注意が必要です。
 環境省調査(記事t18305参照)では、いくつもの農薬が、河川水に検出され、魚にも見出されています。チオベンカルブについて、残留基準がなければ、高い数値に設定しようとする動きがでてくる恐れがあります。本来、使用しなければ、魚介類に農薬は残留しないわけですから、基準値は低くし、農薬が水質や底質汚染することのないように使用規制や使用方法の改善が求められます。

表3 魚介類に設定されている農薬類の残留基準値 (単位:ppm)−省略−
  (*:農薬登録有、**:食品添加物認可)
【参考資料】日本食品化学研究振興財団 :貝類における残留基準
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作成:2007-03-24