環境汚染にもどる
t18401#農産物検査からコメ着色粒の項目を削除して、斑点米カメムシ防除はやめるべきだ#06-12
★斑点米カメムシ防除でミツバチ大量死
 05年、06年と岩手県でカメムシ防除のための農薬、クロチアニジン(商品名 ダントツ)によるミツバチの大量死が発生し、養蜂業者は、農業団体らに損害賠償を求めるとともに、同剤の使用中止を求めています。山形県でも置賜地方を中心に同様な、ミツバチの大量死が発生しています(記事t18106記事t18206参照)。ほんとうに、農薬によるカメムシ防除が必要かを考えてみたいと思います。
 コメに茶色のシミをつけるという被害を与えるカメムシを「斑点米カメムシ類」と呼んでいますが(以下単に「カメムシ」という)、カメムシの被害は、ウンカのように生産量が極端に減少するものではありません。
 カメムシの種類は、アカスジカスミカメ、アカヒゲホソミドリカスミカメ、トゲシラホシカメムシ、ホソハリカメムシ、クモヘリカメムシなど多数ありますが、いずれの種類も稲の穂が出始めると、周辺の雑草地(主にイネ科雑草)から水田内に飛来して稲穂を吸汁加害するということです。イネの乳塾期以前に吸汁されると不稔となり、糊塾期以降に吸汁されるとそのときの傷がもとで、収穫後の玄米に茶褐色のシミ(斑点米)ができるといわれています。
 この斑点米(着色粒)が1000粒に2粒あれば、コメの価格が60キロあたり600円から1000円低下するというのです。1000粒といえばにぎり寿司2個分くらいと言われています。しかし、最近ではそうしたコメを排除する色彩選別機があり、消費者に斑点米が届くことはありません。

★農薬使用の元凶は農産物検査
 コメは3点セットと呼ばれる産年、産地、銘柄が袋に表示されています。この表示はJAS法によって、農産物規格検査を受けないとできないことになっています。農産物検査法には「検査を受けることができる」と書いてあるので、受けなくてもいいのですが、受けないと3点セットが表示できないため、市場に流通しているコメはこの検査を受けています。しかし、この表示は60キロや30キロの玄米の袋に書かれるものですから、小売店で精米を買う消費者にはわかりません。流通のための表示です。
 コメの検査は農産物検査法で決められた「農産物規格規定(H13年2月28日農林水産省告示第244号)」で細かく定められています。この中に着色粒の規定があるのです。
 規定は、74年に設定されたまま、何の検討もなされず30年以上続いています。  水稲うるち玄米の場合、着色粒が0.1%以下だと1等米、0.3%までなら2等米、0.7%までなら3等米となります。1等米と2等米の価格差は、玄米60キロで600円から1000円です。(平成18年度産取引における等級間格差(平成18年10月31日現在))

★害虫ではカメムシ類防除が最多
 では、イネの害虫の中で、カメムシ類はどの程度の位置を占めているのでしょうか。以下の表は平成17年度の害虫発生面積の多い上位5種と延べ防除面積です。
 カメムシの発生量は531,385ヘクタールで害虫発生面積からすれば4番目ですが、防除面積はトップです。これだけ大量に農薬を使用するのは、おそらく、直接価格に跳ね返ってくるからではないでしょうか。図には、延べ防除面積が5万ha以上の8道県を示しました。北海道、秋田、山形、新潟などが多くなっています。

   表 水稲害虫別発生面積と防除面積(単位:ha)    −省略−

   図 水稲県別カメムシ発生面積と防除面積(単位:ha) −省略−

★何度も注意報を出し農薬散布を徹底
 この規定のために、農業者はカメムシ防除の農薬散布を強いられているのです。毎年、夏前にカメムシ防除の農薬散布を呼びかける注意が病害虫防除所等から出されています。
 たとえば、新潟県病害虫防除所は平成18年7月13日付けで注意報第2号をだしています。カメムシ類は畦畔の雑草などから水田に飛来するため、畦畔の除草を徹底するよう求めた上で、品種ごとに出穂期にあわせて薬剤防除を徹底するように注意しています。
 秋田県でも、同様で、雑草管理のほか、「イネの出穂期10日後ころに効果の高いネオニコチノイド系の茎葉散布剤を散布する。茎葉散布剤が散布できない場合はスタークル粒剤、アルバリン粒剤、ダントツ粒剤を出穂期7〜10日後に散布する。」としています。

★北海道でカメムシ防除に使用されている農薬
 カメムシを対象とした登録農薬は、381製剤ありますが、どのような農薬がどれくらい使われているかということは、残念ながら正確なデータがないのでわかりません。
 ちなみに、防除面積の最も多い北海道の防除ガイドに、カメムシ対策として記載されている登録農薬を挙げておきます(()内は商品名)。有機リン系、カーバメイト系、ピレスロイド系に混じって、ネオニコチノイド系のジノテフランとクロチアニジン(いずれも2002/04/24登録)、フェニルピラゾール系のエチプロール(2005/01/22登録)など最近登録された活性成分も目に付きます。これら三成分はミツバチの半数致死量が0.00379から0.0337μg/1頭と低いことが気になります。
  【水面施用】クロチアニジン(ダントツ粒剤)、ジノテフラン(アルバリン粒剤、
   スタークル粒剤、同1キロH粒剤、スタークルメイト1キロH粒剤)
  【茎葉散布用】DEP(ディプテレックス乳剤)、MEP(スミチオン粉剤2DL、同粉剤3DL、
   スミチオン乳剤)、MPP(バイジット粉剤2DL)、PAP(エルサン粉剤2、同粉剤2DL、
   同粉剤3DL、エルサン乳剤、パプチオン乳剤)、ジノテフラン(アルバリン粉剤DL、
   スタークル粉剤DL、スタークルL粉剤DL、スタークルメイトL粉剤DL、スタークル液剤、同液剤10),
   イミダクロプリド(アドマイヤー粉剤DL)、クロチアニジン(ダントツ粉剤DL、ダントツ水溶剤)、
   BPMC・MEP(スミバッサ粉剤20DL、スミバッサ乳剤75)、BPMC・MPP(バイバッサ粉剤DL)、
   BPMC・PAP(エルサンバッサ粉剤20DL)、イソキサチオン・BPMC(カルホスバッサ粉剤DL)、
   マラソン・BPMC(マラバッサ粉剤DL)、エトフェンプロックス・MEP(スミチオントレボン乳剤)、
   エトフェンプロックス(トレボン乳剤、トレボンEW、トレボンMC、トレボン粉剤DL、トレボンL粉剤DL)、
   シラフルオフェン(MRジョーカーEW、MPジョーカー粉剤DL)、エプチロール(キラップフロアブル)
★生産者が農産物検査の見直しを要望
 上述のような農産物検査規定がカメムシ防除のための農薬大量散布につながっているとして、検査制度の見直しを求める声が、生産者の間から強く出されています。
 秋田県大潟村の「大潟村環境創造21」など5グループは、2004年2月に「不必要な農薬使用を助長する農産物検査制度の見直しを求める陳情書(案)」、3月には、農水省や内閣府に出す「同意見書(案)」をつくり、地方議会にはたらきかける運動をはじめました。
 文案には『現在の農産物検査法は外観を重視した検査を行っており、食品に求められている安全性や栄養価など、内容の検査はほとんど行われていません。むしろそのことが農薬の多投入を促す結果になっています。』として、『農産物検査法、農産物規格規定の玄米に係る検査項目を見直し、外観によってではなく内容と安全性を重視したものにすること。 』という要望事項が掲げられました。秋田県の45市町村議会がこの意見書を採択、秋田県議会は05年3月に意見書を、岩手県議会も04年12月に意見書*1を採択しています。
 しかし、政府は一向に動こうとしません。今年、農水省は「コメの農産物検査等検討会」を開きましたので、この問題も解決するのかと思われましたが、内容は、異種米混入についてでした。つまり、うるち米にもち米が混ざったり、違う銘柄が混ざったりするのをどこまで許容できるかなどと、枝葉末節なことを審議したにすぎませんでした。

★他に方法はないのか
 1000粒に2-3粒の着色米を出さないために、イネが穂を出した後、2回、3回の農薬散布がほとんど義務のようになされます。そのため、多くの生き物たちがのたうち苦しんでいるわけです。このような理不尽な農薬散布を止めさせるためには、
1,農産物検査の着色粒の項を削除し、着色粒があったとしても格下げをしない。必要なら色彩選別機にかける。
着色粒を取り除く機械で、その威力もけっこうすごいらしく、ライスセンターなどで、この機械にかけてだすと、斑点米の格下げはほとんどなくなるそうです。
2.カメムシ発生を物理的、耕種的手段で抑える。
 畦畔にイネ科の雑草があると、カメムシがきて、水田に飛来するということが盛んにいわれています。そのため、草刈りが奨励されていますが、中には除草剤を使用しているところもあるようです。これでは、殺虫剤散布と変わりありません。
 畦にハーブを植えて、香りの道として広げているグループもあります。また、合鴨はカメムシを食べてしまうそうです。この方法がどの程度効果があるのか、デメリットはあるのかきちんとした調査研究をして、普及啓発すべきです。病害虫防除所は農薬散布を勧めるだけでなくそうした仕事をするべきです。有機農業推進法が公布・施行されたことでもあるし、機は熟していると思います。

 下記のような内容で、私たちも農水省に要望を出したいと思います。賛同できるグループ・団体・個人は事務局までご連絡下さい。
  農産物検査からコメ着色粒の項目削除を求める要望書(案)賛同のお願い要望書案

*1注:岩手県議会の 農産物検査制度の見直しを求める意見書
  平成16年12月3日
  岩手県議会議長 藤 原 良 信 殿
 提出者議員 佐々木 一 榮
 賛成者議員 照 井 昭 二外9人
    農産物検査制度の見直しを求める意見書
  岩手県議会会議規則第14条の規定により、標記の意見書案を別紙のとおり提出します。
 
 〔参照〕
 平成16年12月15日
  衆議院議長
  参議院議長 
  内閣総理大臣 殿
  食品安全担当大臣
  農林水産大臣 
 盛岡市内丸10番1号        
 岩手県議会議長 藤 原 良 信
    農産物検査制度の見直しを求める意見書
  食の安全・安心に資するとともに、生産・流通の合理化が促進される制度に改善を図
 るため、農産物検査法の農産物規格規定の玄米に係る検査項目・基準を見直し、外観だ
 けでなく、真に、生産者・消費者の求める品質を重視したものにするなど、農産物検査
 制度の見直しを図られたい。
 理由
  農産物検査法は、農産物の公正かつ円滑な取引とその品質の改善とを助長し、あわせ
 て農家経済の発展と農産物消費の合理化とに寄与することを目的としており、その役割
 は生産者・消費者双方にとって、一層大きなものとなっている。
  しかしながら、現在の農産物検査法は外観を重視した検査を行っており、玄米検査の
 場合、精米すると検査結果が消滅することとなり、品位格付けについては、表示や消費
 者価格に反映されず消費者が選択する際の判断情報となっていない。
  また、多様化する消費者ニーズや流通形態を考慮すれば、消費者が求めない検査基準
 を達成するために防除の吟味が求められ、生産者の経済的負担が増加するなど不合理が
 見られる。
  こうした問題は、制度本来の趣旨を損なうほか、食の安全・安心に関心が高まってい
 る今日の状況を踏まえると、早急な見直しが求められるところである。
  よって、国においては、農産物検査法の農産物規格規定の玄米に係る検査項目・基準
 について、生産・消費の実情を踏まえた見直しを図られるよう強く要望する。
 上記のとおり地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

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作成:2006-12-26