ダイオキシンにもどる
t18404#東京豊島5丁目団地住民の血中ダイオキシン調査結果〜分布パターンは汚染土壌と異なるが#06-12

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【参考資料】・江東区のHPにあるダイオキシン汚染の頁
       北区豊島地区ダイオキシン類等健康調査ダイオキシン類結果報告書(北区保健所:06年11月)
      ・福島宏紀北区議会議員のHPにある豊島五丁目団地ダイオキシン類等の土壌汚染問題について
      ・東京都報道資料より
         11月6日:公聴会開催案内処理計画案
         12月18日:土壌汚染対策計画を策定処理計画(12月19日告示)

 06年の3月6日、東京都は、ダイオキシン土壌汚染で問題になっている北区豊島5丁目団地の一部を、ダイオキシン類対策特別措置法による「土壌汚染対策地域」に指定しました。  その後、11月6日には、土壌汚染対策計画が発表、11月22日の地元住民の意見を聞く公聴会を経て、12月19日、覆土による処理計画が告示され、来年から対策が実施される予定になっています。  本号では、06年2月18、19日に団地で実施された住民希望者の健康調査結果について、先月公表された「豊島地区ダイオキシン類等健康調査ダイオキシン類結果報告書」をみてみましょう。

★138人の住民等の血中ダイオキシン濃度
 健康調査で、血中ダイオキシン類の濃度が測定されたのは138人で、その内訳は、表のようでした。
  表 調査対象となった人数の内訳

  性別 3-6歳 7-15歳 16歳以上 合計
  男  16    20    16   52(団地内居住42)
  女  17    13    56   86(同上 76)
 合計  33    33    72   138(同上 117)  
 すべての人の血液からダイオキシン類(2,3,7,8-四塩化ダイオキシン換算係数=TEFが決められている7種のダイオキシン=以下DD、10種のジベンゾフラン=以下DF、12種のコプラナーPCB=以下Co-PCBが分析対象)が検出されました。年齢別のTEQ(2,3,7,8-四塩化ダイオキシンに換算された毒性当量を意味し、実測値にTEFを掛けて算出する)の分布を図1に示します(単位は血液中の脂肪量をベースにしたpgTEQ/g-fat。報告書のカラー図をそのままとりましたので、見難いですがご容赦を)。合計値DD+DF+Co-PCBは、TEQで1.5〜55pgTEQ/g-fat(図中●が豊島団地、平均値は12pgTEQ/g-fat)で、04年度の環境省調査(図中白抜きの○、246人)と04年度の都内八王子での調査(図中斑点付き○、12人)と比べると、16歳以上については、バラツキの範囲にはいっており、目立って高い値は検出されませんでした。年齢別の平均TEQは、16歳以上12.2、7-15歳8.0、3-6歳15.2各pgTEQ/g-fatで、53と55pgTEQ/g-fatを示したのがそれぞれ4歳と3歳児である上、3-6歳で20pgTEQ/g-fatを超えた子が30%の10人いたことは注視されます。環境省の「ヒト臍帯におけるダイオキシン類等化学物質の蓄積・曝露状況の継続的調査−平成11年度より平成16年度総括報告書」による、02年から04年の臍帯中のダイオキシン類の調査(対象61検体)で、TEQ値は5.6〜42pgTEQ/g-fat(平均16)でしたから、血中で50を超えるのは高い部類で、注意を要します。

     図1 血液中のダイオキシンTEQ濃度分布 −省略−

 報告書では、ダイオキシン類のTEQ濃度と生活条件との関連についての検討がなされ、その結果
  ・ 団地内居住期間との関連は認められない
  ・豊島東保育園への通園の有無による差は認められなかった。
  ・16歳以下について、土遊びの経験、土壌の摂取頻度との関係は認められなかった。
  ・授乳形態との関係については、母乳で育てられた子供の血液中ダイオキシン類濃度
   は混合乳・人工乳で育てられた子供と比較すると有意に高いが、授乳終了後経過と
   ともに、濃度が低下することが確認された。
と考察されています。

★血中実測データの異性体分布パターン
 ダイオキシン類の異性体分布パターンを図2に実測値で示します((a)はDDとDF、(b)はCo-PCBのパターン)。3-6歳、全対象者平均と比較として04年環境省調査、上述の臍帯調査をあげています。前三者の血液については、濃度の絶対値は異なりますが、異性体分布パターンは、ほぼ同じで、Co-PCBの#118がもっとも多く、ついで#156、#105、#167、#114、#189、そしてDDのOCDD(=八塩化ダイオキシン)の順になっています。臍帯は、若干パターンが異なり、DFの1,2,3,4,7,8,9-体の比率が高めです。

   図2 血液中ダイオキシン類組成別実測濃度 −省略−

★東保育園土壌のダイオキシン類分布パターン
 報告書では、団地住民への汚染土壌の影響の有無を調べるため、東保育園の表層土壌で6800pgTEQ/g(実測値98300)と最高値を示した地点のダイオキシン類異性体分布パターンとの比較がなされました。
 実測データを図3に示します((a)にDDとDF、(b)にCo-PCB)。土壌中に、一番多いのはCo-PCBの#118で2万pg/g、ついでDFのの2,3,7,8-体、1,2,3,7,8-体、1,2,3,4,7,8-体の順でした。

図2、3の比較から、血液と土壌で、DFの分布パターンは異なるが、Co-PCBは類似していることがわかります。また、図4の(a)にDD、DF、Co-PCBの実測値と(b)にそれらの組成比率を示しましたが、血液ではCo-PCBが最も高く98%台、なかでも#118が50-52%を占めているに対し、土壌では、DFが58.3%、Co-PCBが37.6%となっており、DFのの四と五と六塩化物が合わせて51.4%を占めていました。

     図3 土壌中ダイオキシン類組成別実測濃度 −省略−
     図4 ダイオキシン類種類別実測濃度と種類別比率 −省略−

★ほんとうにダイオキシン土壌汚染の影響はないのか
 以上のような結果を踏まえ、報告書では、『豊島五丁目団地におけるダイオキシン類汚染土壌による曝露状況を把握することを目的として、豊島五丁目団地居住者、豊島東保育園関係者138 人の血液中ダイオキシン類濃度等を調査した。汚染土壌中のダイオキシン類が豊島五丁目団地居住者、豊島東保育園関係者に摂取され、体内に蓄積されているとは認められなかった。』と結論されています。
 @ダイオキシン濃度と異性体分布パターンが、一般的日本人のデータとあまりかわらないこと、A団地内土壌中のダイオキシン類異性体分布パターンと血液中のそれとが異なることがその大きな理由です。
 しかし、@については、子どもの発達や健康への影響がないことの保証にはなりません。血液検査だけでなく、てんとう虫情報171号で述べたような、生殖系、免疫系、脳・神経系、ガンなどの疫学調査の実施も考えてほしいものです。
 Aについては、動物体内で、異性体分布パターンが変わるかどうか、汚染土壌を投与した動物実験をしたり、分析されていないダイオキシン同族体・異性体の分布パターンも調べて、土壌由来の有無を確認する必要があるでしょう。


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作成:2007-06-26