残留農薬・食品汚染にもとる
t18803#栃木県産イチゴにホスチアゼート残留基準超え〜県は、原因究明もせず、事態の沈静化をはかる#07-04
 栃木県産のイチゴに殺虫剤ホスチアゼート(ネグサレセンチュウ対策の土壌処理剤)が残留基準を超えて検出されたことが公表されたのは、07年2月のはじめでしたが、その原因が、不明なまま、同月半ばには、出荷が再開されました。
 私たちは、栃木県、出荷元のJAかみつが(以下JAという)、農薬メーカーの石原産業に問い合わせを行い、それぞれから回答を得ました。残留基準超えを摘発した側が懲戒処分を受け、農薬取締法違反者には指導だけ、農薬メーカーは適正に使用すれば問題ないという、ホスチアゼート残留事例の背景と問題点を探ってみたいと思います。

★発端は新潟市での残留調査
 新潟市保健所は、07年1月31日、栃木県JA上都賀(かみつが)鹿沼支部が出荷したイチゴ(1月16日、新潟中央青果株式会社で収去)の残留農薬検査をしたところ、ホスチアゼートが0.44ppm(残留基準:0.05ppm)検出されたとし、生産者については特定できていないまま、栃木県に通報しました。
 これを受けたJAは、2月2日に以下の自主対応策を発表しました。
・1月31日出荷分41310パックの全量を自主回収し、それ以前の出荷分も回収。
・全生産者に安全が確認できるまで、自主出荷停止。
・全生産者の生産履歴の回収を行い、内容確認。
・全生産者の圃場より、検体抽出し残留農薬検査を実施。

 この新潟市保健所の検査で、同所が収去に際して、厚労省の通知に反し、生産者が誰かを記録しないまま、分析を行い、結果を公表したとして、新潟市は、3月28日に、保健所の課長ら3人に戒告、市場の職員1人に訓告、保健所長ら2人に厳重注意の処分を行ったということです。

★JAかみつがの調査では、不適切使用なし
 栃木県の2月5日付け記者発表資料をみると、JAの調査結果の報告概要は以下のようでした。
 @鹿沼いちご部の部員179名全員の農場毎に記帳されている生産履歴(449生産履歴)を
  確認したが、農薬の不適切使用は確認されなかった。
 A「ホスチアゼート」の購入、使用について確認を行い、38名が購入し、使用していた
  が、個別の聞き取り調査では不適正な使用は確認されなかった。 
 BJAかみつがで自主検査を行ったところ、「ホスチアゼート」を使用した38名中4名
  8検体のいちごから基準値を超えて当該農薬が検出された。
 C今後、基準値を超過した4名の生産物は、いちごの安全性が確認できるまで、無期限
  の自主的な出荷停止を行う。
   栃木県が2月1日JAから収去したイチゴ7検体について残留分析をした結果、2検体に0.047、0.028ppmのホスチアぜートが検出されたものの、残留基準超えはありませんでした(検出率28.6%、検出限界0.025ppm)。
 また、JAの調査179名449検体の残留分析結果は以下のように、20検体で検出されました。
 表 JAによるイチゴのホスチアゼート残留分析結果
 不検出数* 429検体(*概ね0.01ppm未満)
 検出値 0.01 0.02 0.03 0.05 0.06 0.08 0.10 0.11 0.12 0.15ppm
 検体数  8  3   1  基準  3   1   1   1   1   1
 また、JAが実施した179名449検体の残留分析結果は上の表のようで、ホスチアゼートが検出されたのは20検体(0.01〜0.15ppm、検出率4.5%)、残留基準を超えた食品衛生法違反は、4名の8検体でした。JAと県の調査で、検出率が大きく違う理由は不明です。

★栃木県の立ち入り検査で農薬取締法違反が判明
 2月5日から実施された、前記4名の県による立ち入り検査(本人からの聞き取りを中心に、農薬の使用状況、購入先、保管状況等を調査)の結果が、2月15日に公表され、1名については、下記の使用方法に農薬取締法違反があることがわかりました。
 (不適正な使用の内容)
 ・使用時期 9月9日に定植したが、9月10日と12月22日に使用〔使用基準:定植前〕
 ・使用回数 2回〔使用基準:1回〕
 ・使用方法 9月10日ベットにネマトリンエース粒剤を散布 
       12月22日粒剤を水に溶かし灌水時に施用[使用基準:全面土壌混和]
 JAによる帳簿調査で見過ごされた農薬取締法違反が、県による立ち入り・聞き取り検査で、判明したということは、生産者が記帳した農薬使用履歴に記載漏れがあったか、虚偽の記載がされていたことを意味します。
 また、上記のように、いくつもの使用基準違反をした生産者は、過失や無知から、農薬取締法違反を犯したのではなく、違反であることを知りながらの確信犯ではなかったかとの疑惑を強めます。特に、ホスチアゼートについては、アオバという灌注用の液剤(イチゴへの適用なし)があるのに、あえて、粒剤を水に溶かして使うことは、極めて不自然です。
 私たちは、県とJAにアオバ液剤の使用について尋ねましたが、JAは『県の発表以外承知しておりません』、県は『ありません』といい、その根拠は『本人からの聞き取り及び農薬の使用履歴を確認しました。』と答えるだけです。刑事告発でもされない限り、真相は藪の中になってしまいそうです。
 さらに、残留基準を超えた3名の生産者について、県は『立入検査の結果、不適正な使用は認められませんでした』としています。一方で、県は 使用基準が遵守されていたら、残留基準超えは起らないとの考えを示していますし、後述のように、メーカーの石原産業は、適正に使用すれば、残留基準を超えることはないといっています。これらが真実なら、農薬使用者に、公表できぬような非があったということになるのですが。

★原因究明を放棄した栃木県はあまりに無責任
 県は残留基準超えの原因は不明としたままで、その究明のための新たな調査・研究を実施する予定はないといっています。
 残留基準以下であった生産者についても農薬取締法違反の有無の調査をきちん行うこと、ホスチアゼート使用者については詳細な使用状況の調査を行い、残留基準超えの原因を科学的に究明することが、このような事例の再発を防止し、栃木産イチゴの安心・安全につながると思うのですが、県は『生産履歴を確認したが、農薬の不適正使用は確認されなかったので、これ以上の調査の必要ない』『ホスチアゼート剤の使用自粛を促すことは考えていない』というだけです。
 再発防止対策として、JAは『生産者への農薬使用基準の遵守と生産履歴の正確な記帳をさらに徹底し、安全安心対策に万全を期するよう努めてまいります。』と、また、栃木県知事が記者会見で『農薬の適正使用と生産履歴記帳の指導徹底を行ってまいります。』と述べています。
 多くの生産者が、いままで、農薬取締法に違反してきた=使用基準を遵守せず、真実を記帳していなかったことが明確であるならば、これら対策は、イチゴでのホスチアゼート残留基準超え防止に有効かも知れませんが、県は、1名を除き、適正な使用をしてきたとしているわけですから、このまま、原因を明確にしないで、幕引きを図るのは無責任すぎるといえます。


★県認定農業士の農取法違反をも隠蔽 −省略−

★ホスチアゼートに問題ないのか〜石原産業はもっと情報公開すべき
 ホスチアゼート剤は、石原産業が開発した殺虫剤で、粒剤では、ネマトリンという商品名が知られています。石原産業のホームページには、この名の由来について『ネマ(線虫)をト(取)り除く有機リン系殺虫剤である』とあります。
 この剤は、オゾン破壊物質の臭化メチルの使用規制に伴い、その代替品として、使用を拡大してきました(アメリカでは、イチゴ栽培には、例外的に臭化メチル使用認可されており、環境保護団体が異議を唱えて、訴訟を起こしている)。
 最初の製剤登録は、ネマトリン粒剤で1992/04/01、これがイチゴ適用拡大されたのは00/04/28です。ほかに、ネマトリンエース粒剤(登録99/11/25、イチゴ適用拡大01/07/12)、アオバ液剤(登録00/4/21、イチゴ適用なし)が製造されており、三つの製剤の05年度の合計生産量は約7100トンです。
 同社にホスチアゼートの土壌残留及び作物残留試験データ(農薬抄録、農薬評価書で可)、イチゴの残留値の経時変化データ、土壌残留値とイチゴへの残留値の関係を示すデータの開示を求めましたが、『試験結果の詳細は、弊社知的財産に属する情報ですので公開しておりません』との答えでした。
 また、イチゴの残留試験で『残留基準を超えた例は一例もありません。』『農薬登録で規定された使用基準を遵守している限りにおいては、残留農薬基準値を超えることはありません。』との見解も得ています。

 残留基準違反の再発防止に対し、同社は、『今後も弊社農薬の農薬登録で規定された安全使用の注意喚起、啓蒙活動を継続実施してゆきます。』としていますが、以下のような基準超えがしばしば、おこっていることを思えば、この剤は、農家にとって、使いにくい農薬だといえます。
 03年12月に山口県のダイコンで残留基準超えが報告されました(検出値0.57ppm、基準値;0.2ppm、記事t14905a参照)。この時は、県が原因を調査し、全面土壌混和しないで、すじ撒き土壌混和したため、土壌濃度が高まり、ダイコンでの残留値が高まったとされました。
 ポジティブリスト制度実施後、イチゴ以外のホスチアゼートの基準超えは、秋田県で収去された青森県産キャベツで0.12ppm検出(一律基準0.01、06年9月11日公表)、神奈川県茅ヶ崎市で2月6日収去された茨城県産ミズナで0.3ppm検出(残留基準0.1)、茨城県産ピーマンで0.26ppm(残留基準0.1、3月30日公表)の事例がありました。
 また、群馬県が実施している、出荷前調査で、2月の検査結果をみると、シュンギク10検体のうち2検体から、ホスチアゼートが 0.005ppm、0.021ppm (残留基準0.1ppm)が見出されましたが、生産者の栽培履歴に同剤の使用はなく、前作作物に使用した農薬が土壌中に残留していた可能性が指摘されています。
 残留試験データを公開もせず、使用基準を守れというだけでは、企業責任を果たしたとはいえません。メーカーは、ネガティブデータも公表して、こんな使い方をすれば、残留基準を超える恐れがあるよと、使用者の注意を一層喚起すべきではないでしょうか。

【後日談】報道によると、5月中旬に開催された、いちご部会総会で、農薬取締法違反者1名と残留基準を超えた3名に罰金を科することがきまりました。

【当グループの農水省への質問(05/08)】2件の残留農薬基準超えと農薬の土壌残留について(回答ありません)

【参考資料】栃木県:JAかみつが鹿沼いちご部の残留農薬問題について
     JAかみつが:Top Page
     石原産業:Top Pageネマトリンエース粒剤アオバ液剤
          石原産業のコメント(2/22)
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作成:2007-08-29