食品汚染・残留農薬にもどる
t18902#ポジティブリスト制度実施後の農薬の残留基準違反〜国産は35件、輸入品は447件#07-05

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 食品中の残留農薬等を規制するポジティブリスト制度が、昨年5月29日から実施され、ほぼ1年が経過しました。当グループは、昨年11月から12月にかけて、実施後半年間の残留検査実態について、都道府県へのアンケートを実施しました(沖縄県を除く46都道府県が回答)。今号では、その結果を、国産及び輸入農作物にわけ、農薬残留基準違反実態とともに紹介します。

【1】国産農作物について
★都道府県アンケート結果〜分析対象の食品も農薬もバラバラ
 アンケートでは、ポジティブリスト制度実施後6月から10月末にいたるまで、(1)調査に供した食品の種類ごとの検体数。(2)食品の種類ごとの分析対象農薬成分数を問いました。その結果を表1に示します。

 ポジティブリストでなんらかの食品に残留基準が設定されている農薬は約610種あります(残留基準のない食品-農薬の組み合わせには、すべて一律基準0.01ppmが適用される)。この制度は、分析された場合に、基準を超えれば、流通規制されるということで、食品の生産者や流通業者にとっては、抑止力となる側面も有します。そのため、都道府県の収去検査(保健所などが市場から検体をもってきて検査する)で、分析対象となる農薬数も統一性がありません。また、分析検体数に応じて経費がかかるため、多くの都道府県では年間監視指導計画をたて、収去件数を決めています。
 表で明らかなように、都道府県が検査する食品の種類や検体数は、20未満から500とバラバラです。分析対象農薬についても、農作物で10未満から400、なかでも100〜200成分というところが多いようです。畜産物では、食肉や牛乳を対象とするところもありますが、分析農薬成分はせいぜい3〜16、水産物はシジミのみ、加工食品も調査対象とするところは少なく、ミネラルウオーターは分析すらされていません。

 表1 07年6月から10月の残留農薬調査件数(都道府県アンケート結果)−省略−

★国産農作物〜違反事例35の一覧
 都道府県アンケート結果で、残留基準違反は、06年6月から10月の検査で、表1で#印をつけた13府県で摘発されました(この中には、他県で生産された農作物や中国からの輸入農作物も含まれる)。食品衛生法による収去検査は都道府県だけでなく、政令指定都市、特別区、保健所設置都市でも行われていますが、これらはアンケートを実施しなかったため、摘発実態は不明です。また、出荷団体が自主検査するケースもあります。本年4月末までに、当グループが確認した、国産農作物とシジミについての残留又は一律基準を超えた食品衛生法違反の35事例を表2にあげました。
 これら違反事例は、上述の検査実態からもわかる通り、たまたまの検査によりみつかったもので、氷山の一角にすぎないと理解すべきでしょう。違反が判明した場合は、検出した自治体は、出荷元に連絡して、再発を防止のために、原因の究明が行われます。
 主要な原因について、表中にa〜eで示しましたが、不明が14(うちシジミ8)と40%を占めます。適用外使用や不適正な使用が原因の場合は12、近接農地からの農薬ドリフトや流出が4、防除器具の洗浄不足が3、以前使用した農薬の土壌汚染によるものが2となっています。

表2 農作物等の農薬残留基準・一律基準(表中*印)超えた事例(単位:ppm)−省略−

★基準以下でも農薬取締法違反の場合は
 農薬取締法違反でなくとも、残留基準を超えたケースは、イチゴのホスフェートでみられるように流通規制がとられます。この場合、再発防止対策としては、農薬の適正使用、農薬使用履歴の記帳の強化が指導されます。残留基準違反者は、出荷規制で経済的損失を受けますが、農薬取締法違反が判明した場合でも、刑事罰を受けた例はなく、行政からの指導に留まっています。
 このほか、表にはありませんが、自主検査等の結果、適用外使用や不適正な使用方法を禁止している農薬取締法に違反しているが、残留基準を超えない場合があります。高知県南国市産のピーマンでピリダフェンチオン(06年7月)が、石川県かほく市産の金時草やシュンギクでシアノホスやニテンピラム(06年11月)が、検出された例がそうです。出荷団体は風評被害や信用低下を防止するため、または、農薬取締法違反者が、罰則を科せられないためには、販売自粛をした方が有利だとの意向が働き、自主的な回収や一時的な出荷停止がとられました。
 一方、適用外の農作物にドリフトや土壌残留、器具の洗浄不足等により使用していないはずの農薬が基準以下検出された場合は、故意の使用でなかったということで、農作物がそのまま市場にでることもあります。群馬県産のシュンギクでホスチアゼートやフェンピロキシメートが基準以下の濃度で検出された事例(07年2月)がそうです。このような農作物は、市場原理からいって、適正な農薬使用による農作物に比べて、価格に差がでるのは、当然だと思いますが、現在では、適正栽培品と区別なく販売されています。よけいな農薬を食べさせられることになる消費者が判断できるよう、きちんとその旨の表示がなされるべきでしょう。

★基準超えの食品衛生法違反の公表はまちまち
 都道府県アンケートでは、違反があった場合、どこも、ホームページや報道発表をするとしています。しかし、その内容はまちまちです。
 厚労省は、昨年5月29日発信した通知「食品に残留する農薬等の監視指導に係る留意事項について」で、『違反者の名称等の公表に際しては、関係自治体等が行った原因究明及び再発防止策についても、併せて公表するように努めること。なお、公表にあたっては、処分の範囲や健康影響の有無などを明確にするなど、いわゆる風評被害の防止について十分注意すること。』としています。これでは、原因究明が遅れて、迅速な公表ができない恐れがあります。健康への影響への有無については、たとえば、『一日に○○グラム食べなければ、検出された量の農薬△△を含む××を体重50kgの人が生涯にわたって毎日□□グラム食べたとしてもADIを超えることはなく、健康影響が発生することは考えられません。』などの定型文が発表資料に添付されます。
食品衛生法にもとづく、違反者名の公表については、輸入食品の場合、業者の住所氏名が公表されますが、国産農作物の場合は、違反者名の公表は稀です。それどころか、栃木県のように、恣意的に隠蔽しようとするところもあります(本誌188号参照)。表2に挙げた、静岡県産パセリの事例は、農業者の個人名と住所がホームページで公表された、数少ない事例です。
 法的効力のある収去検査とは別に、出荷団体が残留農薬の自主検査を実施したり、群馬県のように、小売店での試買検査や、独自の県条例に基づく、出荷前検査やしているところもあり、その結果がHPなどで公表されていますが、安全・安心を求める消費者の信頼を得るにはプラスとなっています。

★残留農薬検査結果はすべて公表すべき
 表2に挙げたシジミについて、島根県は100農薬について分析を実施したとしていました。しかし、公表しているのは、残留基準を超えた農薬のみで、その他98農薬については、基準値以下だというだけで、同県に問い合わせても、農薬名も検出数値も検出限界値も答えてくれません。
 農作物の場合も同じで、自治体による収去検査や独自検査で、残留農薬分析を実施した場合、公表されるのは、基準を超えた場合の検出値のみです。国産か輸入かを問わず、分析対象とした農薬成分について、基準を超えたかどうかに拘わらず、すべての分析結果を公表すべきです(不検出の場合は検出限界値を)。できれば、それらがデータベースとして、誰でも使えるシステムを作ってもらえれば、いうことなしですが。

【2】輸入農作物について
【参考資料】厚労省:食品に残留する農薬等の監視指導に係る留意事項について
          輸入食品監視業務ホームページ
          平成19年度輸入食品監視指導計画

 輸入食品については、地方自治体の収去検査で違反が判明する場合もありますが、厚労省管轄の検疫所による検査で多くの違反が判明しています。06年6月から07年4月までに厚労省が報告した検疫による輸入食品の残留農薬検査で、残留又は一律基準を超えた事例は、447件(除く抗生物質、飼料添加物、動物用医薬品)ありました(このうち一律基準0.01ppm違反は215件)。毎月の違反件数は10〜64件、平均すれば約40件/月と、ポジティブリスト制度実施前に比べ、増加しており、24カ国、69農作物から50種の農薬で残留基準又は一律基準超えが見つかりました。違反を摘発した件数の最も多い機関は横浜検疫所で136件、30.4%を占めていました。以下、その内容をみていきましょう。

★国別の違反件数〜中国、エクアドル、ガーナがワースト3
 表3に国別のの違反件数を示しました。24カ国からの輸入農作物で違反が見られましが、件数が最も多いのは、中国で175件(ショウガ37、キクラゲ29、ウーロン茶24、ニンニクの茎15)、つぎのエクアドルの83件とガーナの74件はいずれもカカオ豆、台湾の30件のうちマンゴーが16でした。
表3  国別違反件数 (06年06月-07年04月)

国 名    件数  国 名     件数

中華人民共和国 175  イタリア         2
エクアドル      83    オランダ         2
ガーナ          74    ニュージーランド 2
台湾            30    フランス         2
タイ            24    インド           1
パラグアイ       9    コロンビア       1
大韓民国         9    チリ             1
オーストラリア   8    ブラジル         1
フィリピン       5    ボリヴィア       1
アメリカ合衆国   5  香港       1
ベトナム         4    南アフリカ       1
メキシコ         3    ------------------
ベルギー         3    合計           447
★農作物別の違反件数〜カカオ豆、ショウガ、ウーロン茶がワースト3
 表4に食品・農作物別の違反件数を示しました。69種の食品で、447件の違反が見られました。ウナギとドジョウの10件はいずれも中国産で、エンドスルファンが検出されていますが、その他はすべて農作物です。最も違反が多かったのはカカオ豆で158件(全体の35.3%、ガーナ83とエクアドル74)、ついでショウガ38件(すべて中国産で、生鮮、冷凍を含む)、ウーロン茶36(中国24、台湾12)件でした。

 表4 農作物別違反件数(06年06月-07年04月) −省略−

★農薬別の違反件数〜2,4-D、クロルピリホス、BHCがワースト3
 表5に農薬別の違反件数を示しました。50農薬成分で470件の違反がみられました(同一検査で複数の農薬の基準超え例あり)。最も多かったのは、2,4-Dで80件(すべて、エクアドル産のカカオ豆で0.017〜0.65ppm)、ついで、クロルピリホスで62件(ガーナ産カカオ豆が44件で0.06〜0.93ppm、中国産キクラゲが11件)、BHCで41件(すべて、中国産で、ショウガが38件で0.02〜0.29ppm)、ピリミホスメチルで39件(ガーナ産カカオ豆が35件で0.06〜0.86ppm)、シペルメトリンで30件(台湾産マンゴー13件で0.04〜0.20ppm、パラグアイ産落花生で9件0.06〜0.23ppm)、トリアゾホスで29件(中国産ウーロン茶で24件0.06〜0.32ppm)でした。検出範囲と検出数は、表6に示すようで、最小はウナギのエンドスルファン0.007ppm、最大はチシャのジメトモルフ8.5ppmでした。検出値で高いのは、韓国産チシャでジメトモルフ2.6/6.7/8.5ppm、アメリカ産レタスでペルメトリン6.8ppm、アメリカ産ポップコーンでピリミホスメチル2.0/2.2/3.6ppm、中国産キクラゲで、メタミドホス2.4ppmでした。

表5 農薬別違反件数 (06年06月-07年04月) −省略−

表6 検出範囲と検出数 −省略−

★違反原因の多くは不明
 検疫検査では、モニタリング検査及びその強化指導を経て、検査命令へとすすみます。447件の検査の内訳は、モニタリング検査178、命令検査227、両検査11、自主検査26、行政検査1、不明4でした。
 違反原因については、447件のうち414件(92.6%)が調査中となっています。
 農作物の場合、原因の中には、近隣農家の農薬散布による汚染や農薬やその使用に対する認識不足、使用状況の確認不足などが合わせて14件ありますが、明確になっていないケースが殆どです。
 水産物では、中国産ウナギやドジョウのエンドスルファン汚染原因のうち4件は漁獲地域や養殖場周辺での農薬管理不足が挙げられています。
 違反農作物等の措置については、廃棄・積み戻し等を指示したケースが413件(92.4%) がありますが、そのうち14件は全量消費済みでした。
 食品の輸入件数は年間約186万ありますが、07年度のモニタリング計画では、農薬についての検査は2万6400件(農産食品とその加工品23200、畜産食品1650、水産食品とその加工品1000、その他の食品250、飲料300)の予定です。対象農薬数は、野菜413、果実354、穀類・豆類・種実類405、茶183、畜産食品136、水産食品22となっています。これは、農薬についてだけで、動物用医薬品・抗菌剤、食品添加物、カビ毒、さらには、遺伝子組換え食品を加えると7万9250件の検査が行われることになります(それでも輸入品の5%に満たない)。これが、食料自給率40%のつけでしょうか。

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作成:2007-10-27