農薬の毒性・健康被害にもどる
電子版「脱農薬てんとう資料集」No.6
<農薬危害防止運動について>

t19001#今年もギリギリ農薬危害防止運動の通知〜「農薬使用を委託する者」が消えた#07-06

 今年の「農薬危害防止運動の実施について」の農水省・厚労省の通知は、5月29日に発信されましたが、HPで通知文の詳細が公表されたのは31日でした。
 私たちは4月にできるだけ早く通知を出すことなど要望してきましたが、やはり、ぎりぎりになりました。毎年のことなのにもっと早く出して、県などに準備期間を与えるべきです。ただ、実施期間について、従来の「6月1日から6月30日までの1か月間」というあとに「農薬の使用実態を考慮して、可能な限り長期に取り組むことが望ましい。」との文言が追加されました。
 同時に発表されたポスターは、私たちの要望を取り入れ、以下の5項目の重点メッセージがとり入れられました(前の2項目は06年度のポスターにもあり。2006年度 2007年度)。
   ・使用前にもう一度、農薬ラベルを確認しましたか?
   ・農薬が周辺に飛散しないように注意していますか?
   ・土壌くん蒸剤を使用するときは、土壌を被覆して揮散を防いでいますか?
   ・周辺の住民に配慮し、農薬使用の前にお知らせしましたか?
   ・水田で使用するときは、水管理をして、農薬が流出するのを防いでいますか?
    が入りました。
 では、通知本文の方はどうなったかをみてみましょう。
 なお、赤字は、本年度通知で追加された字句

★農薬の悪用防止に焦点があてられた
 通知前文には、農薬による危害の主要な問題点をあげられていますが、今年度には、あ らたに、「周辺環境への影響防止対策」と「農薬を悪用した事件」という字句が入りまし た。
 後者は、野鳥や犬猫の毒餌事件をさすのだ思いますが、抽象的な言葉でなく、はっきり とその内容を示してもらいたかったと思います。
 農薬犯罪防止対策として、「農薬の適正な販売についての指導等」の項が独立し、 『農薬販売者等を対象に、関係法令に基づく立入検査等を実施し、無登録農薬の販売及び使用の取締り及び適正な農薬の販売に関する指導を行う。特に、毒物及び劇物たる農薬の販売業者に対しては、別記3「毒劇物たる農薬の適正販売強化対策」の周知徹底を図る。
 別記3(通知本文参照)は、販売業者への指導強化にすぎず、むしろ、毒劇物の知識のない人が購入・使用できる現状を問題にすべきです。毒劇物はもちろん、農薬の使用に際しては、免許制度の導入が必要なのです。

★児童及び生徒に対する危害防止運動の啓発とは
 06年の通知のには「1 普及啓発及び関係機関との連携等」の項に「( 2 ) 児童及び生徒に対する本運動の趣旨の普及 教育委員会の協力を得て、学校薬剤師等が中心となって管内の小学校の児童及び中学校の生徒に対し、本運動の趣旨の普及を図る。」
とありましたが、本年は、通知から削除されました。この項目は毎年通知に載っていましたが、いままで、教育委員会が、小中学生に具体的にどのようなことをしてきたか、明確でありません。何もしてこなかったのではないか。では、削ろうということになったのでしょうか。この項を削るのではなく、もっと強化すべきです。
 緊急に、文部科学省や教育委員会にしてもらいたいのは、「住宅地通知」(07年1月31日付)の指導内容を、学校関係者に周知徹底させることです。03年9月に、「住宅地通知」通知が出て4年になりますが、学校や周辺での農薬散布は改善されていないところが多いのです。
 この5月には、千葉県八千代市では学校に定期的に農薬散布をし、しかも、「住宅地通知」に反して、有機リン系農薬の混合を教育委員会が仕様書に書いることが明らかになりました。また、通知のでたその日、島根県出雲市で、出雲大社の松枯れ対策の有人ヘリコプターによる農薬空中散布の際、境内に立ち入っていた出雲商業高の生徒が、MEP散布液を被曝するという事件が起こりました。これらは、教育委員会が「住宅地通知」をないがしろにしていることの象徴と言えるでしょう。

★農薬使用者には、一般の使用者も含む
 通知では、『農業者、防除業者等農薬を使用する者( 以下「農薬使用者」という。)』 となっています(この表記は06年度通知にもみられた)。これでは、庭木や家庭園芸で農薬を使う一般人が含まれているかどうか不明確です。農薬取締法は、農薬を使用する人すべてに適用されます。「農薬使用者」の中には、農家や防除業者以外に一般人の使用も含まれることをはっきり示すべきでしょう。
 というのも、密集した住宅地で、一般住民が、事前通知なしに家庭菜園や庭木、園芸植物等に農薬を散布するケースがみられ、健康被害を受けている人が多いにもかかわらず、きちんと指導できていないからです。現に、6月2日には、投稿にあったような、住宅地の近隣からの農薬受動被曝による中毒も起こっています。

★明記すべき、農薬使用委託者の責務
 さらに、通知にある「農薬使用者等」については、問題とすべき個所があります。
 06年の通知には、『農薬使用者及び農薬使用を委託する者( 以下「農薬使用者等」という。)』との定義づけが、本文にありました。しかし、今年の通知には、「農薬使用者等」の説明がなく、「農薬使用を委託する者」という字句が全くありません。
 最初に「農薬使用者等」がでてくるのは、「1 農薬及び農薬使用に対する正しい知識の普及啓発」の項で、「A農薬使用者等に対する農薬の適正使用等に関する普及啓発」とあり、文意から、この場合の「等」は、「農薬使用者のほか、毒劇物取扱業者、農薬販売業者等」を意味します。
 その後でてくるのは、「2 農薬の適正使用等についての指導等」の項で、「(3)農薬使用者等に対し、次の事項の徹底を図るよう指導する。・・・」「(4)住宅地等の周辺の街路樹、庭木、花壇、芝地、農地( 家庭菜園、市民農園等を含む。) 等における農薬使用者等に対し・・・」「(5)土壌くん蒸剤を使用する農薬使用者等に対し・・・」「(7)無人ヘリコプターを用いる農薬使用者等に対し・・・」とあり、
 住宅地通知にも、ヘリコプター関連の通知にも、農薬の直接使用者だけでなく、散布実施団体や農薬使用委託者も危害防止の責を負うことが、記載されていますから、これら「使用者等」は上述の最初にでてくるものとは異なり、06年度の通知と同じく、「農薬使用を委託する者」を含むことになります。
 「委託者」をけずったことを、善意に解釈すれば、今年の通知で、毒劇物の販売者や取扱業者への指導を明確化するため、使用者と販売者の項をわけたことによる、通知上のミスと思われます。それなら、このミスをきちんと訂正し、「農薬使用を委託する者」の責務を明確にしてもらいたいと思います。

★水田農薬の漏れ対策等の強化が第一
 島根県や鳥取県、滋賀県で、シジミに農薬が残留基準や一律基準を超えて検出され、食品衛生法違反で、流通規制を受けましたが(記事t18306記事t18704参照)、その対策として、別記1の「農薬による事故防止のための注意事項」で、「止水期間中の農薬の流出を防止するために水管理や畦畔整備等の必要な措置を講じ、水田周辺の養魚池における淡水魚又は沿岸養殖魚介類の被害、河川、水道水源等の汚染の防止等環境の保全に万全を期すること。」となりました。
 ところが、島根県や鳥取県他は、農水省通知(07年3月28日付)にある関連水域での水管理や農薬使用量の削減を試みることなく、一律基準の緩和を求め、国会ロビー活動で「シジミ振興対策議員連盟」を設立させました。厚労省もこれに応えて、食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会で残留基準見直しの作業にはいっています。
 水系汚染による魚介類の農薬残留をなくすため、まず、農業者に対し、一層の水管理や畔からの漏水防止対策を、求めることが第一に必要なことです。
7月6日に、厚労省は、シジミのクミルロン残留基準を40倍の0.4ppmに、野菜や果実では基準強化して0.01ppmとした案を公表、パブコメ募集中です(8月2日締め切り。募集結果)。
 
★07年通知で簡略化された部分は復活すべき −省略−

★インターネット農薬販売規制は不十分
 昨年の9月に、ヤフーネットオークションで、毒物農薬「プリグロックスL」(パラコートとジクワット混合剤)が出品されていましたが、今年も、5月下旬にも同剤がオークションにかけられているとの情報を会員から受けました。早速、農水省と厚労省に通報し、5月30日に、ヤフーは出品案内をHPから除きました(05年の事例は記事t16409記事t16502参照)。
 通知では、『農薬の販売に当たっては、都道府県知事への届出、毒劇物たる農薬の販売に当たっては、都道府県等への登録が義務付けられているので、当該届出等を行うことなく、農薬をインターネット等を利用して販売しないよう指導の徹底を図る。』となっています。
 しかし、ネットでは、毒劇指定のない登録農薬を小分け・混合販売したり、農薬取締法による販売届けの有無が不明な者が、農薬をオークションに出品することが止みません。
 また、農薬と同じ成分を含む非農作物用の除草剤(私たちが要望したにも拘わらず、危害防止運動の対象になっていない)が、法規制がないのをいいことに、勝手気ままに販売されています。このような農薬が購入された場合、そのほとんどは、宅配便や郵便で配達されることになります。毒劇指定のない農薬が輸送事故で破損した場合の対策など考えたことはないのでしょうか。
 ネットウオッチャーからの通報を待って、削除するという管理会社の態度は、問題です。早急に、農薬や除草剤の通信販売やネットーオークションを禁止するシステムを作るべきです。

 このように、今年度の通知は、担当官庁の努力は認めるとしても、まだ完璧とは言えません。文書をだしたからといって改善される保証もない上に、文書自体が不十分では農薬による健康被害者はまだまだ苦しむことになります。
 私たち、上にあげた「一般の農薬使用者」と「農薬使用委託者」については、早急に、補足の追加通知をするよう、農水省、厚労省に申し入れました。

★都道府県における07年度の実施広報と実施期間
 北海道 道実施要綱 7/1-7/31

 青森県 農薬危害防止運動チラシ 5/28-8/31

 岩手県 実施中 6/1-7/31

 宮城県 リーフレット 6/11-8/10

 福島県 期間中です 6/10-8/10

 栃木県 実施について県実施要領 6/1-8/31

 埼玉県 運動実中 5/?-8/?

 神奈川県 取組方針 6/1-8/31

 静岡県 実施テーマ 6/?-8/?

 富山県 実施について県実施要綱 6/15-9/14

 京都府 実施について 6/?-9/?

 大阪府 府実施要綱 6/1-7/31

 和歌山県 実施について 6/16-7/15

  山口県  農薬危害防止運動月間について5/1-6/30、10/1-11/30

 熊本県 実施中県要綱 6/15-7/31

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作成:2007-06-26