食品汚染・残留農薬にもどる
t19101#農薬汚染のシジミはごめんだ〜クミルロンの残留基準緩和の撤回を#07-07
 ポジティブリスト制度の施行に伴い、魚介類の残留農薬調査が実施されるようになりました。そのため、シジミにクミルロンクロメプロップ、シラフルオフェン、ピリブチカルブ、フェニトロチオン、ベンチオカーブ、ペンディメタリン、メフェナセットが、残留基準や一律基準を超えて検出されました。シジミ産出県の島根、鳥取などは、農水省や厚労省に基準緩和を求めていましたが、7月6日、厚労省は、鳥取県東郷池産のシジミに検出されていた水田用除草剤クミルロンの残留基準見直しのパブリックコメント募集を開始しました。
 赤字農薬使用基準省令の第七条(水田における農薬の使用)で『流出することを防止するために必要な措置を講じるよう努めなければならない。』とされている農薬

★汚染源対策もしないまま、現行の40倍の残留基準を設定
 魚介類についての残留基準は、記事t18306で述べた通り、58農薬について0.0003から50ppmに設定され、他の農薬については、残留基準は設定されていませんでした(すべて一律基準0.01ppmを適用)。直接農薬を使用されることのない魚介類には、本来農薬が検出されないのが、あたりまえという考えにもとづくものです。
 ところが、厚労省は、現行一律基準0.01ppmの40倍にあたる0.4ppmをシジミのクミルロン残留基準として設定しようというのです。
私たちは、シジミ産出県や農水省や環境省に、農薬残留の原因について尋ねましたが、不明との答えしか返ってきませんでした。農薬の使用基準が遵守されているかどうか、関連水域の農薬使用量と残留量の関係はどうかも、明確ではありません。クミルロンが検出されていないシジミもあり、基準を設定してなくても、汚染原因を明確にし、関連水域で対策をとれば、十分出荷はできるはずなのに、一律基準0.01ppmを見直し、緩い残留基準の設定を求める声にのみに、耳をかして、残留基準を設定しようとする厚労省の姿勢は、消費者を無視したものといえます。
 農水省三局長連名通知「農薬適正使用の指導に当たっての留意事項について」(3月28日発出)で、また、農水省と厚労省二局長連名通知「農薬危害防止運動の実施について」(5月29日発出)で水田の水管理の強化を指導しています。その効果を評価することなく、基準緩和の路線が敷かれたのは、許せません。
【関連記事】記事t15702 記事t15903 記事t18305

★「魚介類への残留基準の設定法」の問題点
 平成19年度厚生労働科学研究費補助金食の安心・安全確保推進研究事業「食品中に残留する農薬等におけるリスク管理手法の精密化に関する研究」の研究班から「魚介類への残留基準の設定法」が提案されました。
 この報告には『一義的には、農家等の農薬の使用現場において止水管理等が適切に行われることが重要であり、不適切な農薬の管理による河川等への流出を前提に魚介類の残留基準等を策定することは適切でない。』『しかしながら、止水管理等の適切な管理がなされても、ドリフト(水路等への直接飛散)、降雨、畦畔浸透等により一定程度の農薬が水系へ流出することがあることから、このような状況で環境由来で非意図的に農薬が魚介類に残留する可能性も否定できない。』との認識が示されています。
 さらに、『@現在使用されている一部の農薬について、適切な管理がなされた場合でも非意図的に環境を通じて魚介類に残留する懸念があること、A魚介類への残留の原因となる農薬の水田等から河川等への流出は、農薬の使用状態、河川や湖沼の状況及び気候等の影響を大きく受けること、B魚介類の種類によって農薬の残留の程度に差があることが考えられること、等様々な要因が関わってくることから、魚介類の残留基準設定の手法として残留実態調査の結果によるものではなく、農薬を適正に使用管理した場合の環境中の推定濃度や生物への濃縮係数等を用いた評価方法を検討することが適当であると考えた。』としています。
 @については、単なる懸念であって、使用実態は調べられていません。ABの要因があるからこそ、地域ごとに調査し、汚染要因を明確にして、対策をとるのが科学的な手法です。にも拘らず、どうして、すぐに、残留基準の設定=緩和に結びつくのでしょうか。止水管理、ドリフト防止、降雨対策、畦畔浸透防止など適切な対策をとれば、残留基準を設定しなくても一律基準で対応できることを、自ら示唆しながら、厚労省の研究班は、次のような基準設定に走ってしまいました。

★残留基準算出方法は
 残留量の算出には、次式が用いられます。
 魚介類での推定残留量=水産動植物被害予測濃度×生物濃縮係数

【水産動植物被害予測濃度】水産PEC(環境中予測濃度)といいます。水産PECは、実水田での試験結果をもとに算出する方法や模擬水田を用いた試験結果をもとに算出する方法がありますが、研究班は、後者を採用、いろいろな条件の中で得られた、一番高い値をとることを提案しています。
【生物濃縮係数】通常BCFといいます。BCFについては、同一農薬であっても魚種間で差があり、実測値がない場合、実験で得られるオクタノール/水係数(=logPow)を利用して、  logBCF=0.80×logPow−0.52 から算出、さらに、3.7〜5の補正値のうち、一番大きい5を採用するよう提案されました。
【推定残留量】貝類におけるBCFの算出については、算出に係る試験法も確立しておらず、非常に知見が乏しいといいうことで、当面、コイ等の魚類のBCFを用いて算出した推定残留量に基づいて、貝類の基準値を設定することになりました。この点については、研究班は、『今後、貝類におけるBCF等に関する知見が蓄積されれば、必要に応じ、それらの知見を踏まえて基準を設定することも検討すべきある。』としています。
 要するに実験データに基づかないで、水産PECとBCFをできるだけ高い値になるようにして、推定残留量を決めようというわけです。
 BCFの実測値のないクミルロンの場合、厚労省は、logPow=2.61から得たBCF=37を採用、、補正値=5、PEC=1.9ppbとして、推定残留量=1.9ppb×37×5=351.5ppb≒0.4ppmと算出しました。
注:*:1-オクタノール/水分配係数(logPow)
    油分として1−オクタノールというアルコールを選び、農薬をその中に
    溶解させた後、水に加えると二相に分離する。それぞれの相に溶けてい
    る農薬の濃度を測定し、その濃度比の対数が分配係数であり、魚体内に
    おける農薬の濃縮程度を判定する指標となる。水に溶け難く、1−オク
    タノールに溶け易い農薬の方がこの係数が大きくなり、魚に蓄積しやす
    い。
【参考資料】農薬の環境中予測濃度評価のための試験法に関する検討委員会報告書(04年3月)

★パブコメで、残留基準撤回を求めよう
 いままで、クミルロンの残留基準は、水稲除草剤の適用しかないため、コメについて0.1ppm、他の穀類、イモ類、野菜、果実はすべて、分析方法が確立していないため、暫定基準0.02ppmが設定され、魚介類では一律基準となっていました。今回のパブコメ提案では、コメ以外の農作物については、分析可能になったとして、残留基準の設定をやめましたが(一律基準0.01ppmが適用される)、魚介類については、新たに0.4ppmの残留基準を設定しました。
 農水省は、ベンチオカーブは昨年12月に多くの製剤が登録失効し、残留問題は片がつくと思っていたようですが、さにあらず、6月にも茨城県産のシジミに、一律基準超えの0.04-0.1ppmが検出されたとの新聞報道がありました。厳しい使用規制措置がとられなかったため、農家が手持ちのものを使用したと考えられます。
 このままでは、シジミに検出された農薬の残留基準がつぎつぎ設定され、何種類もの農薬の残留したシジミが食卓に上る恐れがあります。現に一律基準以下のシジミが生産出荷されているところがあるにも拘わらず、科学的根拠のない方法で、残留基準を設定する必要はありません。拙速に、残留基準を設定するなという意見を厚労省に提出しましょう。当グループのパブコメ提出意見パブコメ結果
8月21日、魚介類のクミルロン残留基準0.4ppmを告示。
鳥取県:クミルロンの残留基準値の設定について

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作成:2007-07-28