環境汚染にもどる
t19601#農水省が有機リン剤で検討委員会〜規制強化につながらない恐れ#07-12

 有機リン系農薬の毒性が問題になり、世界的に規制が強化されてきています。EU(欧州連合)では、2007年1月現在、域内諸国で使用できる農薬から、ほとんどの有機リン剤が除外されており、日本国内で農地、住宅地、屋内を問わず多用され続けているアセフェート(オルトラン)、フェンチオン(MPP)、ダイアジノン、ジクロルボス(DDVP)、フェニトロチオン(MEP、スミチオン)、マラチオン(マラソン)、トリクロルホン(DEP、デイプテレックス)といった薬剤はすべて禁止されているということです。(「欧米における有機リン系農薬の規制の現状」群馬県衛生環境研究所小澤邦寿)
 日本では、06年6月に、群馬県が毒性を懸念して有機リン系農薬の無人ヘリ散布自粛要請を行い、群馬県では有機リン系農薬はもちろん、他の農薬の無人ヘリ散布も激減しています。しかし、他の都道府県でこれに次ぐものはなく、有機リン系農薬が規制されることはありません。

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★昨年、こっそり検討していた
 こうした中で、農水省は11月27日に「平成19年度有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業推進検討委員会」(以下「検討会」)の第1回目の会合を開きました(配布資料)。ようやく農水省も重い腰を上げて有機リン系農薬の規制に乗り出すかと思われましたが、実際には農薬散布時の大気中濃度と飛散量の分析方法が検討されただけでした。
 検討会委員は、熊谷嘉人(筑波大学助教授)、鈴木勝士(日本獣医生命科学大学獣医学部教授)、中村幸二(埼玉農林総合研究センター茶業特産研究所長)、坂東武彦(新潟大学副学長)、輿語靖洋(独立行政法人農業環境技術研究所有機化学物質研究領域長)の5名です(敬称略)。驚いたことに、この5名の委員は昨年から同じメンバーだというのですね。ということは、昨年既にこのメンバーで何らかの有機リン系農薬に関する検討が行われており、農水省はそれを非公開でやってきたということになります。どうも理解に苦しむ話です。
 この検討会の設置要領というのが発表されましたが、その目的には「農林水産省から社団法人農林水産航空協会への委託事業『平成19年度有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業』の実施に当たり、散布された農薬の大気中の動態調査方法の検討、調査結果の分析を行うとともに、諸外国における評価、試験方法について検証し我が国において新たに開発・導入すべき試験方法の検討に資する」とあります。
 つまり、農水省が今年、農林水産航空協会に委託した農薬の大気汚染等の調査結果を分析するのが一番大きな目的といえます。何故、こうした調査が必要なのかという説明はありませんでした。調査の必要性がわからないままに、既に実施されています。
 調査を実施するのは農林水産航空協会で、検討会の事務局は残留農薬研究所という布陣ですから、どちらも農薬推進派が牛耳るということで、結果が有機リン系農薬の規制につながるとは思えません。ちなみに、環境省が実施している飛散調査も、農林水産航空協会に委託をしています。調査個所は街路樹と農耕地と違いますが、ほとんど同じ内容を環境省と農水省が同じところに委託しているわけで、釈然としません。

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【参考資料】環境省の農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会
      農水省の第二回検討会(08/02/08)の議事次第資料1資料2参考資料(PDF:209KB)議事概要
★調査の内容
 委託調査の内容ですが、農林水産航空協会が説明したところによると、大きく3つに分かれています。
 (1)は「モデル調査」とされ、蒸気圧の違う有機リン系農薬9種類(EDDP/DEP/MEP/MPP/PAP/アセフェート/ダイアジノン/トリクロホスメチル/マラチオン)の揮発速度を調査するもの。基礎データとなるということです。
 (2)は「中規模調査」とされ、ビニールハウス等の閉鎖系で、温度、風等を管理しうる条件で散布実験を行い、航空散布と地上散布の大気中濃度の比較を行う。対象農薬はMEP乳剤、MEPマイクロカプセル剤、ダイアジノン乳剤、ダイアジノンマイクロカプセル剤とのことです。
 (3)は「大規模調査」で、既に今年の8月に実施されたとのことです。MEP乳剤を無人ヘリ散布と、地上散布にわけて周辺の大気中濃度と飛散量を高さ別に採取して分析するというものです。分析結果がまだ出てないということで、発表はありませんでした。
 そもそも、昨年どういう検討がなされたのか公表されず、有機リン系農薬の毒性がきちんと評価された上での調査方針なのか不明です。冒頭にあるようにEUでは大半の有機リン系農薬が使用禁止になっています。日本ではそれを避けるために、大気汚染や飛散量を分析して、こんなに少ないから問題ないとしようとしているのではないでしょうか。
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作成:2007-12-24