行政・業界の動きにもどる
t19801#安易な殺虫剤散布をなくすためのマニュアル二つ〜室内散布は厚労省のIPM・樹木は環境省のマニュアル#08-02
長年、私たちが要望してきた身近なところでの殺虫剤、農薬散布に関して、厚労省と環境省がそれぞれ、使用を減らすためのマニュアルを出しました。この二つを活用して、公共施設や街路樹、公園、個人やマンションの庭などを含めて、殺虫剤・農薬散布を減らしていきましょう。
<1>厚労省、建築物衛生法維持管理要領をだす〜ねずみ等の防除についてはIPM(総合的有害生物管理)を明記
中国からの冷凍ギョーザ事件で、製品の残留農薬を調査している中で、メタミドホス以外の有機リン殺虫剤ジクロルボス(DDVP)が検出されました。報道によればジクロルボスが皮から110ppm検出されたものと、ギョーザの外袋から微量検出されたものがあります(数値不明)。後者は、販売していた生協の店舗のDDVPのプレート剤の使用が原因とされています。
微量とはいえ、殺虫剤が食品に付着していたわけで、ギョーザ事件がなかったら判明しなかった汚染です(徳島県調査では店内の床やショーケースにも検出。DDVPについては記事t14703、記事t15901、記事t16304参照)。
また、殺虫剤等の食品へのドリフトや移行については、ポジティブリスト制度の実施前にドリフト防止対策をしろとの要望も出しています(記事t17602)。
あらゆる建物で殺虫剤を使用することがいかに危険であるか、これがひとつの証明になります。厚労省のマニュアルを守って、IPMを取り入れ、安易に殺虫剤を使用するのはこれを機会にきっぱりとやめてほしいと思います。
厚労省は1月25日、健康局長の名前で「建築物における衛生的環境の維持管理について」という通知を出し「建築物環境衛生維持管理要領」を改定したので了知の上指導の指針として活用されたいとしています。
この通知が出るまでに、当グループや会員は何度もパブコメや要望書を提出し、早急にねずみ衛生害虫駆除をIPMに転換するよう努力をしてきましたが、ようやく通知がでたわけです(記事t18001、記事t18201、記事t18403、記事t18805、記事t19003など)。
★マニュアルも出された
維持管理要領だけでは具体的にどうしたらいいかわかりませんので、厚労省は別にマニュアルも公表しています。ここでは、一番殺虫剤散布が多いと思われるゴキブリのIPM実施モデルの一部についてお知らせします。
第6章 ねずみ等の防除― IPM(総合的有害生物管理)の施工方法 ―
2)ゴキブリ
(6)防除作業
(@)環境的対策(略)
(A)防除作業
@吸引掃除機によるゴキブリの吸引
a)生息場所が比較的わかりやすく、掃除機のノズルの先が届くところでは、
生息ポイントをはずさないように掃除機でゴキブリを吸い取る。
b)観察して、まだ残っているようであれば吸引を繰り返す。
(B)殺虫剤による防除
@事前通知
薬剤を処理する場合は、少なくとも3日前までに使用薬剤名、実施場所、
においの程度、化学物質などの利用者への注意などを記載した事前通知書
を作成して提示し、少なくとも実施3日後まで当該場所入り口に掲示しておく。
A食毒剤(毒餌剤)の配置
a)食品類など餌になるものを整理した後、発生予防的効果を期待する場所も
含めて、少量ずつ各所に毒餌を配置する。
b)毒餌の残量を数日ごとにチェックし、なくなるようであれば追加配置する。
ジェルベイトでも同様に実施する。
B環境整備、掃除機の吸引や毒餌配置で十分な効果が出ないときは、水性乳剤
や懸濁剤(MC剤)などリスクのより少ない剤型を選択し、安全に十分配慮
しつつ、隙間などを重点に散布処理を行う。
C環境的対策が併せて行われたかどうかをチェックし、必要な事項をアドバイ
スする。
★市町村に周知を
せっかく出された通知ですが、これが周知されないと宝の持ち腐れです。特に一番身近な市町村が管理する公共施設等での殺虫剤散布が問題です。厚労省生活衛生課は、都道府県、特別区、保健所設置市など130自治体とPCO協会、ビルメンテナンス協会などの業界団体に通知を出したということですが、これでは不十分です。
都道府県は、この通知を特定建築物(床面積3000平米以上で、不特定多数の人が出入りする建物)を所管している保健所に知らせるとのことですが、これでは、一番身近な市町村の公共施設への指導ができません。保健所のない市町村では通知が出ていることも知りません。厚労省に善処を要望していますが、皆さんの地域の市町村にこの通知を知らせると共に、都道府県に対して市町村に知らせるよう、働きかけてください。
なお、このマニュアルは、建築物衛生法の対象建物に適用されますが、食品製造工場、食品販売店、飲食店などは別途食品衛生法にもとづく都道府県の食品衛生施行条例や大量調理施設衛生管理マニュアルで、殺菌剤や殺虫剤処理がなされていることにも、歯止めをかける必要があります(記事t20104参照)。また、病院などの医療施設は医療法、映画館などは興行場法の規制下にあり、アルゼンチンアリなどは外来生物法の対象ですので、それぞれについてのIPMマニュアルを求めねばなりません。
<2>環境省、樹木への農薬散布に関するマニュアル案示す〜害虫の写真も入れ、使いやすく工夫
環境省は、市街地における農薬散布に伴う環境リスクの低減を図るためにとして、「農薬飛散リスク評価手法確立検討会」を立ち上げ、07年度は1回目を6月11日(記事t19103、議事概要)に、2回目の検討会を08年2月5日に開きました。
この検討会では、モニタリング調査((社)農林水産航空協会に委託)と、公園等管理者向けのマニュアル作成が主な仕事となっています。
2回目の検討会で「公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュアル」が案として示されました。環境省のホームページに全文が載っていますのでご覧下さい。(A4判でカラーあり。35頁。)
第3回検討会の資料(3月21日開催、マニュアル案を更に改定したものあり)。
5月30日、環境省の暫定マニュアル完成版(記事t20204、記事t20408参照)
★病害虫発生が多い樹木は植えないこと
具体的には、植栽の選び方から入っています。3.2.1で病害虫の発生しやすい植物の植栽は行わないとはっきり書かれています。また、「既に植栽されている植物であっても、毎年のように病害虫の発生が問題となる植物は伐採し、病害虫の発生があまり見られない植物に切り替える。特に、人への健康被害の発生が懸念される害虫が発生しやすい植物は極力植栽しない」とあります。
チャドクガが発生するツバキ、サザンカ、チャなどの木をやたら植えないことです。2007年に環境省はまた自治体にアンケート調査をしたそうですが、病害虫の発生が多く被害が出ている植物として、サクラとツバキ類をあげているということです。発生が少ない植物としてはイチョウ、ケヤキ、カシ類、クスノキ、クロガネモチ等があがっているということです。
その他、多様性に富んだ環境づくりの実施とか、自然条件に適合した植物の選定と植栽などの項目があります。
そして、「主な病害虫等」として、アメリカシロヒトリ、チャドクガ、ドクガ、イラガ3種類、マツカレハ、モンクロシャチホコ、マツノマダラカミキリの写真と生態が解説されています。この写真がカラーでわかりやすい。生態に「人への害等」の項目があり、アメリカシロヒトリとモンクロシャチホコは、「無し」と書かれています。
★「農薬による防除」は問題あり
ここまでは、非常にいい内容ですが、次の「農薬による防除」にはやはり問題がありました。当グループが2月14日に、参考資料としてアセフェートカプセル剤の記事を添付し、環境省へ意見を提出しました。
環境省への意見
★周知方法について
上記問題点を除けば、このマニュアルは非常に役に立つと思われます。そこで問題になるのが、周知方法です。通知「住宅地等における農薬使用について」で関係省庁、団体に周知していますが、最低、そこには通知を送っていただきたいものです。
特に公園、街路樹などを所管する国土交通省にはこの通知を関係機関に必ず周知するよう頼んでいただきたい。また、基地周辺でも問題が起こるので防衛施設庁にも忘れずに出していただきたい。
行政任せだと不十分な点がありますので、厚労省のIPMの通知と合わせて、このマニュアルを市町村に知らせましょう。
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作成:2008-02-25