食品汚染・残留農薬にもどる
農薬入り毒ギョーザ事件の中央省庁・都道府県・政令指定都市・食品業界へのリンク集
t19804#冷凍ギョーザ農薬中毒事件〜甘い毒物管理と危機意識の欠如#08-02
中国製冷凍ギョーザによる農薬中毒は、メタミドホスが原因とされています。その混入原因は、目下調査中で、結論は出ていませんが(Q&A)、故意又は過失による犯罪説がでています。
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★食品犯罪は残留分析調査では対応できない
私たちは、残留農薬の摂取を減らすために、残留分析件数を増やすよりも、生産現場での管理を強化(農薬使用者の免許制度、農薬の適正使用、ドリフト防止、農薬使用履歴の記載義務化など)し、減・脱農薬をめざすべきだと主張してきました。また、食品の製造・流通・販売過程での衛生管理で使用される殺虫剤等による汚染にも警告を発してきました。しかし、農薬を食品に混入するような犯罪に関わる場合は、別の視点で対策をすすめる必要があります。
1985年、除草剤パラコートを飲料に混入するという犯罪が多発しました。その防止のために@毒劇法の「毒物」指定で販売規制する A着色剤、催吐剤、着臭剤等を添加する B製品の濃度を薄めるなどの措置がとられています(それでも自殺に使用する場合を防止できませんが)。
そのほか、食品犯罪防止のために C包装や容器の封緘を厳重にし、開封されておれば、わかるようにする D製品の目視検査や製造・販売場所の監視を厳重にする、などの対策がとられています。
しかし、毒物から食品を守るには、すべての製品の検査が必要で、製品のごく一部を抜き取って行う残留農薬検査で対応することは不可能です。日本でも、カーバメイト系殺虫剤のメソミルが鳥、犬、猫などの殺害に使われている現実があります。これがいつ人間に向けられるか不安があります。私たちは、何度もメソミルの規制強化を要望してきましたが、厚労省は未だにはっきりした回答をしてきません。
いままでの毒物混入事件をみると、故意か過失かに関係なく、毒物を厳重な管理下におくことが重要と思われます。本誌でもとりあげてきたように、毒物や劇物がインターネットで販売されたり、オークションにかけられる現実を看過できません。毒物は銃器なみに製造・販売規制をもっと強化すべきです。
そして、もっとも有効な対策は、身の回りから毒物をなくすことです。このことを念頭に置かずして、対策をとったとはいえません。
東京都と厚労省へ:中国産冷凍食品の有機リン剤分析についての質問と要望(2/11)
【参考資料】[2月4日事務連絡]食品中に残留する農薬メタミドホスに係る試験法について(2/20公表)
[2月8日事務連絡]食品中に残留する有機リン系農薬に係る試験法について(2/20公表)
★情報の一元化と迅速な公開を
今回のギョーザ事件の発端は昨年の秋ごろから見受けられたとのことです。初期の対応がしっかりしておれば、被害の拡大は防げたとの見方もできます。
事件後、厚労省だけでなく、農水省、内閣府食品安全委員会でも情報を発信していますし、それぞれの県警レベルでの捜査も行われています。
厚労省は、当初、メタミドホスのみに注目し、回収製品について分析が集中的に行われましたが、その後、有機リン剤である劇物DDVP=ジクロルボスもみつかり、再度、これも分析するよう連絡が発せられています。どうして、最初から有機リン剤の一斉分析をやらなかったのか不思議です。
分析結果については、警察や行政からの検出濃度の公表はありません。健康異常を届けた人が食べた食品で、食べ残りを分析されたものがどの程度あったのか、その結果はどうだったかもわかりません。
分析方法にしても、農薬の化学分析は装置も高価で、時間もかかりますが、総有機リン剤含有のスクリーニングとして、酵素法キットを利用することもできます。たとえば、2006年度の東京都健康安全研究センター年報で、上條さんらが「コリンエステラーゼ活性阻害を利用した簡易キットによる農薬の分析」という研究論文(57号,p179-182)を発表しています。これは、AZmax社販売の殺虫剤検出用酵素法キットを使用したもので、有機リン剤がないと、キットのディスクが酵素作用で青く発色するが、リン剤がある濃度以上存在すると白色を呈するとのことで、呈色の度合いと農薬濃度に負の相関関係が認められるそうです。
事件の背景には、輸入加工食品の残留分析調査が殆ど実施されていなかったこと、行政の縦割りシステムが情報の連絡を遅らせたこと、食品業界のクレーム商品についての危機管理能力が欠如していたことなどが挙げられていますが、事件が発覚してからの情報不足も消費者を混乱させる一因になっています。
情報は一元化し、迅速に、正確な発表をすることが、食の安全・安心のためにも重要です。
★判断基準もなく、健康被害届け出者の有機リン中毒を否定
厚労省は、都道府県に中国製冷凍食品を食べて健康被害を受けた人の数を報告するよう地方自治体に求め、それを、集計して都道府県別の件数をホームページで発表しています。たとえば、08年2月15日現在の集計は、以下のようです。
【参考サイト】厚労省:報道資料にある
都道府県等にあった相談・報告数について(08/02/15)
有機リン中毒が 確定した患者数 10名
有機リン中毒が疑われ、現在調査を行っている事例数 0名
有機リン中毒が 否定された事例数 5,268名
最初の10人以外、全て関連が否定されています。別添の都道府県別件数をみると、訴えはあるものの、臨床診断や検査結果等により否定された事例は、医療機関の受診ありで909件、受診なしで1920件と、また中国産冷凍ギョーザ等に関連した相談でなかったもの2439に分けられています。
この場合、有機リン中毒の判断基準が問題です。下痢や風邪のような症状でも有機リンの影響による場合があります。たとえ、受診しても、多くの医師は有機リン中毒の診断をできないのではないでしょうか。
否定された詳細な理由が不明なままで、関係なしと断定されていることについて、厚労省監視安全課にその根拠を聞いたところ、わからないという答えが返ってきました。都道府県等から報告されたものを単純に集計したものだから、そういう判断は都道府県等がやっているので、そちらに聞いたらどうか、ということでした。
東京都のホームページをみると、健康被害の申告数は、112件(2月7日現在)あり、それぞれの症状が記載されています。また、そのうち食品の残りがあって分析されたのは24件、26種の有機リン剤について、いずれも検出されずとあるのみで、検出限界値の記載もありません。分析されない約79%のケースについても、有機リン中毒が疑われる事例はないと断ぜられています。このような調査で、有機リン被害の実態がわかるわけはありません。今後、詳細な健康被害調査が必要です。
★0.01ppmレベルの加工食品汚染はどこでもおこる
前述のDDVPについていえば、日本でも、農薬としてだけでなく、ダニ・ゴキブリ・ハエなどの衛生害虫等の駆除用として、くん煙剤やプレート剤のかたちで、いたるところで使用されています。雑居ビルでの異臭騒ぎの中には、くん煙剤の使用が原因だったところもあります。プレート剤が送風式殺虫ロボットに装填され、レストランや食品加工工場で夜な夜な動いています(記事t12910、記事t14703、記事t15901)。DDVPその他の殺虫剤による食品包装や食材、料理の汚染などは、穀類・食品倉庫、食品売り場や飲食店厨房でも十分起こります。一連の中国製毒ギョーザ事件で、徳島県のコープ石井のケースは、店舗内でのDDVPプレート剤の使用が原因でした。
中国産野菜で、以前問題になったものに冷凍ホウレンソウでのクロルピリホスの残留があります。これは、残留基準が0.01ppmと低い値に設定されていたため、基準越えが顕著だったのですが、加工食品についていえば、ポジティブリスト制度実施前の2000年の大阪府立公衆衛生研究所の調査で、ソウメン中にクロルピリホスが0.027ppm検出されたこともありました。これは、シロアリ防除剤として使用されていた同剤が、流し下で保存されていた食品に移行したものでした。
ほかにも、学校給食のパン工場で、保管コムギコの害虫駆除のためにMEP(スミチオン)が使用されていた。食品工場で働いていた人が害虫駆除剤の散布で化学物質過敏症となった。スーパーの食品売り場で散布された薬剤で、化学物質過敏症の人が体調を崩したなどの報告が、当グループに来ています。
今回のメタミドホスは、極めて毒性の強い毒物であっため重篤な中毒症状が出て大きく報道されましたが、身の回りでの有機リン剤の使用で、化学物質過敏症の患者さんが、日常的に苦しみを味わっていることを忘れてはなりません。食品犯罪対策だけでなく、生活環境−特に、大気経由の有機リン剤対策が早急にとられるべきです。
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作成:2008-07-28