行政・業界の動きにもどる
t19904#農薬の薬効・薬害・作物残留性試験民間開放へ〜4月1日以降提出の試験から適用#08-03

【関連記事】記事t19603
【関連サイト】農薬登録制度に関する懇談会
       第1回の議事概要資料
       農薬製造事業者及び農薬関係団体との意見交換の概要
       第2回の議事概要資料
       第3回の議事概要資料

 農水省消費・安全局は「農薬登録制度に関する懇談会」を設置し、昨年12月5日を皮切りに、いままでに3回開催してきました(記事t19603)。この会で論議された、薬効・薬害・作物残留性試験のやり方についての改定案が提示され、2月19日からパブリックコメント募集が開始されました。

【パブリックコメントと意見】意見募集関係通知の改正等について当グループの意見募集結果

★GLPの内容不明のまま実施へ
 消費・安全局の提案は、従来の「農薬の登録申請に係る試験成績について」という通知内容の改定に関するもので、
 (1)薬効・薬害試験については、適正に実施する能力を有する試験施設による試験成
    績の提出を認めることとする。
 (2)農作物への残留性に関する試験については、OECD(経済協力開発機構)加盟国
    ではGLP適合施設による試験成績が要求されていることから、GLP適合施設
    における試験の成績を求めることとする。なお、導入に当たっては、生産量の少
    ない作物(いわゆるマイナー作物)については、GLP適合施設による試験成績
    の提出を義務付けないこととする。
 となっており、新たな通知を出して、本年4月1日以降に提出される試験に適用する(作物残留性試験へのGLPの導入については、3年間の経過措置を設ける)、ことが提案されましたが、具体的なGLPの内容ははっきりしていません。
【注】GLP=Good Laboratory Practice(優良試験所基準)は、信頼ある試験を実施するための試験設備や試験計画、試験記録方法などの基準で、毒性試験にはすでに適用されている。

★現状は「公的試験研究施設」で
 現行の通知「農薬の登録申請に係る試験成績について 」別表1には、薬効・薬害試験は 製剤別に、適用農作物・適用病害虫や雑草・使用方法ごとに、少なくとも2か年実施するものとし、各年における試験は、原則として異なる都道府県から選定した3か所以上の施設において実施するものとすることになっています。また、作物残留性試験は、製剤別に適用農作物ごとに2例以上、適用のある農作物の主要な栽培地域である異なる都道府県にある施設で実施することになっています。
 実施機関は、いずれも、公的試験研究施設又はこれに準じた施設であり、ここでいう「公的試験研究施設」とは、国又は地方公共団体が試験を実施するために必要な管理を行っている施設のこと。「公的試験研究施設に準じた施設」とは、公益法人又は農薬登録申請者と利害関係がないことが明らかな者で、かつ、当該試験を適正に実施する能力を有すると認められる者が試験を実施するために必要な管理を行っている施設を意味します。さらに、作物残留性試験の一ヶ所の分析機関は、公的試験研究施設又はこれに準じた施設でなければなりません。
 この方針に基づき、主として、社団法人日本植物防疫協会が、メーカーから受託した試験を、同協会の研究所、都道府県試験研究機関等(農業試験場、果樹試験場、病害虫防除所、植物防疫協会等)に割り振って実施してきましたが、改定後は、GLPに適合すればどんな民間機関でも試験が実施できることになります。

★中立性が求められる民間機関
 GLPの審査は、農林水産消費安全技術センター(FAMIC)農薬検査部(旧農薬検査所)が査察を行い、適合性の調査を実施、農水省消費・安全局が適合性の可否を判断することになります。
 該当する民間機関には、圃場試験を計画・実施するだけでなく、薬効・薬害試験の場合は、病害虫の飼育・管理・検定などの、作物残留性試験する場合には、残留分析について分析法開発と分析技術が求められます。場合によっては、圃場試験と他の試験を別個の機関で実施することもありますから、両者について、GLPの適合性の判断が必要になります。
 さらに、データの中立性が疑われないよう、試験を受託する民間機関が、委託先の農薬メーカーや関連業界から経営や業務に資金や人が投入されていないことの確認も重要です。

★GLP認定機関はいくつくらいできるのか
農水省と農薬製造事業者及び農薬関係団体との意見交換会では、GLPの導入について、圃場試験機関の現状からみて、都道府県の農業試験場はGLP導入困難、農薬メーカー研究所は実施困難、民間研究所は実施機関がないなどの意見がでています。
 特に、作物残留性試験についての現行の実施状況は年間約1200件で、将来的にも2000 (年間500課題×4例)が限界であるとの意見もあります。
 農水省は、作物残留性試験の実施を現在の2例から8例増やすよう考えていますが、さすがにGLP適合の試験機関の大幅増は不可能と考えたのか、現在、都道府県の農業試験場で実施しているマイナー作物用の試験には、GLP適合性を求めないとしています。

★作物残留性試験件数は増やすべき
 今回の農水省の意見募集には、具体的に触れられていませんが、薬効・薬害・作物残留性試験で、重要なのは、実施すべき試験件数です。特に、作物残留性試験については、アメリカの9-20例、EUの16例/2ゾーンに比べ、現行の2例は少なすぎます。
 農水省は『OECDで検討中の最小データ要求では8例が議論されている。統計解析をするためには8例は必要となる。ただし、試験数8例にこだわらないので、合理的・具体的な意見の提出を望む。』としました。これに対し、農薬工業会は『試料調製試験機関の能力を考慮した実行性の観点から1作物当り最大4 例を提案する。』と主張していますが、農水省のいう8例は最少条件で、EU並みの16例を目指すべきでしょう。
 また、海外データの受入を求める声もありますが、日本と海外では、気候風土が異なることを考えれば、圃場試験は国内でのデータを求めるべきです。
 懇談会では、『作物残留性試験成績2例を用いて厚生労働省が残留基準値を設定しているが、本基準値を超えた事例はあるのか』との問いに、農水省は『今でも、使用方法に従って基準値超過の問題が生じていれば基準値の見直しを行っている』また『現在の2例による基準値設定は、実際の残留量より大きく取るものが多く、使用基準に違反して使用したとしても、残留基準値以内となり、使用基準違反を摘発できないものもあるのではないか』『使用基準を遵守していても残留基準値を超過した事例については、これまでの原因究明で明確になったものはないと承知している』『現在の残留基準値は、試験例数が2例ということもあり、相当余裕を持って設定されている。基準値の設定には、食品の安全性を確保するという面と適正使用に基づいた基準値という面の2面がある。このことは、今後OECDでも議論されることとなる。』などと見解を述べています。
また、『今回の作物残留性試験の見直しの目的は、食品の安全性の確保ではなく、農薬使用基準違反の摘発のための改定か。』との問いに、農水省は『農林水産省は評価に必要なデータを準備し、基準値設定は厚生労働省が行う。評価のために必要な例数等について、今後、厚生労働省等と協議していきたい。』と答えています。

★データの公開は不可欠
 民間機関がデータを作成することについて、最も重要なことは、そのデータが公開されるかどうかです。いままでの作物残留性試験データの公開内容は、食品安全委員会の健康影響評価の際に開示される農薬抄録と評価書にある概要程度です。委員会での評価がされていない段階では、企業の財産であるからとの理由で、概要すら公開を拒否されます。
 たとえば、07年2月に、イチゴなどに残留基準超えがみられた土壌処理剤ホスチアゼートについて、メーカーの石原産業に開示を求めたところ、『試験結果の詳細は、弊社知的財産に属する情報ですので公開しておりません』との答えでした(記事t18803参照)。
 データを公開したからといって、他者がそのデータを使用して新たな剤の登録申請をすることなんてありませんし、万一そんなことをすれば、すぐに見抜かれます。
データの開示は、民間開放の必須条件といえます。

購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2008-08-25