農薬の毒性・健康被害にもどる
電子版「脱農薬てんとう資料集」No.6
<農薬危害防止運動について>(2007年7月20日刊行)
t20203#農薬危害防止運動通知、今年は6月から3ヶ月〜事故防止につながるきめ細かい通知内容を#08-06
農水省と厚労省は、5月26日、通知「農薬危害防止運動について」を発出しました。私たちは、4月1日に、いくつかの要望を出していましたが、今年の通知は、例年と大きな違いがあったのは実施期間を例年の6月の一ヶ月だったのを、6〜8月の三ヶ月にしたことぐらいで、大きな変更はみられませんでした。
★要望提出後も農薬事件・事故が続発
私たちは、4月1日に通知にいれるよう、いくつかの要望を出していましたが、新聞報道によると、その後も農薬事件・事故が続発しています。
4/04 山梨県甲州市、石灰硫黄合剤メーカー鰍ィぎはら塩山農薬工業所で、
タンク掃除の作業者2名が硫化水素中毒で死亡(記事t20007)
4/06 兵庫県加東市、茶飲料にグリホサート混入。体調不良(記事t20007)
4/09 福岡市箱崎埠頭で、輸送コンテナでカーバム漏洩、清掃作業者3人被曝(記事t20206)
4/23 沖縄県豊見城市の三角池で魚60匹、クロツラヘラサギ一羽死亡
ボラと水質からパラチオン検出(記事t20208)
4/23 兵庫県姫路市、茶飲料にグリホサート混入
4/25 東京都で、コーヒー飲料にプロポキスル混入
5/06 埼玉県川越市で、ドバト6羽死亡、パラチオン入り餌(記事t20208)
5/07 島根県合同庁舎でクロルピクリン・D-D剤漏洩、職員・来庁者に眼の痛み(記事t20208)
5/11 青森県弘前市 水田でカルガモ13羽死亡 胃からEPN検出(記事t20208)
5/14 静岡市のクミアイ化学の農薬廃棄物埋設個所でアルドリン、シマジン
砒素、ベンチオカーブ検出
5/20 沖縄県読谷村の産業廃棄物最終処分場で、採取水からクロルデン検出
5/21 熊本市熊本赤十字病院でクロルピクリン自殺者から二次被害(本誌201号天草だより98)
そして、極めつけは、通知発出当日に起こった島根県出雲市での松枯れ空中散布によるスミパインMC剤(フェニトロチオン23.5%含有)に起因すると思われる眼の異常などの健康被害でした(記事t20201)。
★今年の通知はどうかわったか
【参考資料】07年度の通知、08年度の通知と農薬危害防止運動実施要綱
今年の通知は昨年の通知より見出しをつけるなど読みやすくなっており、言葉のはしばしに農薬による健康被害を指摘しています。たとえば、「さらに近年、農薬の使用地域周辺の住民等へ健康影響に対する配慮が強く求められており、あらゆる面で農薬の安全かつ適正な使用の必要性が高まっている。」との文章が付け加えられました。「適正な使用」を「できる限りの農薬削減」としてほしかったですが。
「農薬及びその取扱いに対する正しい知識の普及啓発」の項目に「適切な保管管理の徹底」と「農薬の適正処理」がつけ加えられましたが、中身はありません。
昨年、私たちが指摘した「農薬使用者等」は「農薬使用者及び農薬使用を委託する者 」と委託者が復活しました。
「農薬使用に当たっての留意事項」に「農薬の使用前後には、防除器具を点検し、十分に洗浄されているか確認すること。」が付け加えられましたが、これは千葉県柏市のコカブの残留基準超え事例への対応と思われます。
また、同じ科に属する作物であっても、使用できる農薬や使用方法が異なる場合があるので、適用作物を誤認して農薬を使用することがないよう注意することも書かれており、これは非食用作物にもぜひ、適用していただきたいものです。たとえばツバキのチャドクガにスミチオンを使ってはいけないというようなことです。
★住宅地等の農薬使用
住宅地等における農薬使用に関しては、農業生産場面と公園等一般場面の二つに分けて同じような注意が書かれています。
公園等一般場面の文言は「学校、病院等の公共施設内、街路樹、住宅地及びその周辺の庭木、花壇、芝地、家庭菜園、市民農園における農薬使用者等に対し、「住宅地等における農薬使用について」の周知を徹底し、農薬の選択、使用方法の検討、事前通知の実施等、周辺住民や施設利用者等への十分な配慮を行うよう指導する。」となっています。マンションや団地の樹木や隣家の庭木への農薬散布に関して、通知を守るよう、行政は十分すぎるほど指導していただきたいものですが、現実には、「民間だから」ということで、十分な指導がなされていません。
「航空防除における農薬使用」の項目では、「公園、森林等における農林水産航空事業の実施主体及び無人ヘリコプターを用いる農薬使用者等に対し、関係法令及び実施基準等を遵守し、事前通知の実施等により、周辺住民や施設利用者等への十分な配慮を行うよう指導する。」が加えられましたが、これら基準を遵守したとしても、健康被害が発生している現状をどう考えているのでしょうか。
今年の4月に農水省に要望した中で、家庭菜園などでの農薬事故対策、農薬と同じ成分を含む非農作物用除草剤の規制、農薬工場跡地や産業廃棄物処理場での農薬の環境汚染などについて、環境省と対策を立ててほしいという要望については、何の言及もありませんでした。
★厚労省の06年人口動態統計〜農薬死亡者は635人
06年の厚労省の人口動態統計を下表に示しました。農薬による死亡者は635人(前年から2人減で、自殺が大半)です。農薬の種類別では、殺菌剤・除草剤が277人(大部分は除草剤で、前年から16減)で約44%を占めており、ついで、有機リン・カーバメート系殺虫剤が194人(前年から5増)で約31%です。昨年に比べ、目につくのは、男性が46人減った分、女性が44人増加したことです。
農薬による自殺が減らない理由は、身の回りでの農薬管理が万全でないことに一因があるのではないかと考えられます。毎年、通知では、『毒物又は劇物に該当する農薬のみならず、全ての農薬について、安全な場所に施錠して保管する等農薬の保管管理には十分注意する。』と書かれていますが、実態はどうなのでしょうか。
表 06年厚労省人口動態統計による農薬種類別死亡者数
農薬の種類 2006年死亡者数 前年から
男 女 小計 の増減
殺虫剤
有機リン/カーバメート系 125 72 194 + 5
有機塩素系 - - - - 1
その他 15 10 25 - 8
除草剤・殺菌剤 133 144 277 -16
殺鼠剤 - 3 3 + 1
その他の剤 8 7 15 +12
不明 64 57 121 + 5
合 計 345 290 635 - 2
★熊本県のこんな体質は農薬事故防止につながらない
熊本県は、クロルピクリン自殺による二次被害を契機に、5月28日、揮発性の高いくん蒸剤系農薬類19種73製品のリストを掲載した通知を県内の医療機関や保健所、医師会に配布しました。この新聞報道をみて、私たちは、県に通知を送ってくれるよう求めました。ところが、担当部署から来たのは、以下の通知本文だけで、農薬リストは公表できないとの返事でした。
1、クロルピクリンと同様に、有害ガスを発生させる危険性の高い農薬で、現在登録されているもの(燻蒸剤等)は、別添リストのとおりです。
2、有害物質にばく露したと思われる患者の対応に際しては、次の点に御留意ください。
@救急隊等から可能な限り詳細に聴取を行い、ばく露したと想定される物質名等を確認すること。A〜C−略−。D吐しゃ物は消石灰などで吸着、分解を行い、処理後は、ポリ袋やドラム缶などに密封すること。3、−略−
私たちは、さまざまな事件・事故の原因となった農薬名をできるかぎり公表することが、危険な農薬を認識し、再発防止に役立つと考えています。しかし、熊本県は農薬事故防止よりも、事故がおきてからの医療関係者の二次被害防止に力点を置いているようです。
被害者を助けようとかけつけた第三者が二次被害にあうことは念頭になく、しかも自分の県だけでの問題としてしかとらえていません。こんな姿勢では、とても農薬被害の防止にはつながりません。
★実施期間の延長の効果はどうか
昨年までの危害防止運動の月間は原則6月からの1ヶ月でしたが、府県によっては、2から4ヶ月間運動をするところもありました(たとえば、青森県、岩手県、宮城県、福島県、栃木県、神奈川研究所、静岡県、富山県、京都府、大阪府、和歌山県、山口県など)。
山口県などは、5月1日〜6月30日と10月1日〜11月30日の前後期に分けて実施していました。このような実態をみて、農水省も原則3ヶ月との運動期間の延長に踏み切ったようです。期間の延長は良いことです。農薬による健康被害や環境被害、残留基準超えなどが起こらないようきちんと通知事項を守ってほしいものです。
【08年度農薬危害防止運動−都道府県における実施広報と実施期間】
・青森県 運動について、チラシと実施要綱 5/1-8/31
・山形県 アグリネットより 運動実施中 6/23-8/22
・秋田県 運動について 実施要領 6/1-8/31
・栃木県 実施中、チラシと県実施要領 6/1-8/31
・埼玉県 運動実中 5月-8月
・神奈川県 実施中 取組方針 6/1-8/31
・静岡県 農薬危害防止運動 6/1-8/31
・三重県 実施します 6/1-8/31
・京都府 実施について 6月-9月
・和歌山県 実施について 6/16-7/15
・山口県 平成20年度農薬危害防止運動月間について チラシ表と裏 5/1-6/30、10/1-11/30
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作成:2008-06-28