農薬の毒性・健康被害にもどる
t20502#住友化学がスミパインMC技術資料で毒性記述を誤魔化す〜眼への刺激性あるのに、ないと#08-09
【関連記事】記事t20201、記事t20503
出雲市での松枯れ対策のスミパインMC剤(スミチオン23.5%入りのマイクロカプセル剤)の空中散布で、1000人を超える健康被害がでましたが、8月18日に開催された第5回の健康被害調査委員会で、植村振作委員が、農薬メーカーの住友化学が提出した同剤の技術資料に誤りがあることを指摘しました。9月1日の第6回委員会で、同社はこの事実を認め、謝罪しました。
★眼刺激性「あり」が、いつの間にか「なし」に
住友化学の「スミパイン乳剤及びスミパインMCに関する技術レポート」(01年7月)には、『ウサギを用いた試験結果では、眼や皮膚に対する刺激性はない。(日本農薬学会誌13 401-405 1988)』と書かれてています。
引用された学会誌には 『1時間後にごく軽度の結膜の充血を認めたが24時間後には回復していた。角膜や虹彩には変化がなかった。点眼30秒後に洗眼した3匹の群では何ら刺激反応は認められなかった。』となっています。
ところが、同社が1981年に実施したスミチオン原体の毒性試験資料は、??頁のようです。なお、この文書は行政文書の開示請求によって入手したもので、検体の純度の項が黒塗りになっていることに注目してください。
結論は、『MEPはウサギの眼に対して、ごく軽度の刺激性ありと判定されたが、明らかな洗浄効果が認められた。』とあります。
眼の刺激性試験では、片眼に0.1mL投入されます。投入後、30秒で洗眼した場合に、刺激反応はないというのは、被曝した時、すぐに洗浄すればよいということを示したもので、刺激性がないということにはつながりません。
また、学会誌には、24時間後回復したとの記述がありますが、元データは、48時間後までには結膜充血が消滅したとなっており、ここでも、誤魔化しがみられます。
技術レポートの記述は、安全性を強調するための虚偽の宣伝としか言いようがありません。虚偽の宣伝等を禁止するための条文が農薬取締法第十条の二にあります。しかし『製造者、輸入者(輸入の媒介を行う者を含む。)又は販売者は、その製造し、加工し、輸入(輸入の媒介を含む。)し、若しくは販売する農薬の有効成分の含有量若しくはその効果に関して虚偽の宣伝をし、又は第二条第一項若しくは第十五条の二第一項の登録を受けていない農薬について当該登録を受けていると誤認させるような宣伝をしてはならない。』となっており、安全性を強調する虚偽宣伝には適用されません。
私たちは、グリホサート系除草剤の宣伝に『食塩や酢よりも、安全性が高い』などとしていることを問題視し、善処するよう景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法の略称で、不当表示などから消費者の利益を守ることを目的とする法律)を管轄する公正取引委員会に申しいれをしたことがありますが、結局、農水省へまる投げされてしまいました。 また、農薬工業会へ、農薬の薬効や安全性についての科学的でない広告を規制するFAO(国連食糧農業機関)の「農薬の流通と使用に関する国際行動規範」を遵守するよう求めてもいますが(記事t16203参照)、業界最大手の住友化学がこのような様では、他が案じられます。
★住友化学は6月にもラベル誤表示
住友化学は、今年の6月19日にも、農水省から農薬製品ラベルの誤表示について報告命令を受けています。同社から、稲用除草剤として登録を受けた農薬である「住化バサグラン粒剤(ナトリウム塩)」(ベンタゾン含有)の一部のラベルに登録申請中の飼料用移植水稲を誤って表示し、販売した(平成19年5月〜平成20年5月までの製造分で、出荷量は約593t)との報告があったからです。
一年間の長期にわたり、誤まった表示のママ、販売を続けたことは、社内のチェック機能が働いていないことの証でしょう。
03年7月から9月にかけて、151件の農薬製剤のラベル表示違反が摘発されました(記事t14504、記事t14605参照)。これらのケースは、明確な農薬取締法第七条(製造者及び輸入者の農薬の表示)違反で罰則の対象になりますが、農水省は告発せず、行政指導にとどめています。このとき、三共アグロについで、住友化学はワースト2で17件の違反ありましたが、その教訓が生かされませんでした。
★大塚化学販売の展着剤では成分違反
8月15日、農水省は、大原パラヂウム株式会社が登録申請、製造している展着剤「パンガードKS-20」について、登録申請した成分と異なる成分の製剤を販売したとして、報告命令をだしました。同省によると、農薬登録時の届出と異なる方法で製造を行っているという情報が寄せられたことを受け、大原パラヂウム社の工場に対し、農薬取締法第十三条第一項の規定に基づく立入検査を行ったとのことです。
その結果、パンガードKS-20(展着剤)の3 ロットについて、有効成分(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル)の含有量を分析、その含有量が届出の含有量よりも低いことが判明した(届出の20%に対し、9.05%(w/w))。また製造過程で混入の可能性がないオレイン酸及びモルホリンがそれぞれ1.40%、1.24%検出されました。
私たちは、03年度から06年度の農薬検査所による農薬製造場への立入検査で、『登録と異なる製造処方で製造されていた。』と報告されていることについて、検査結果を明らかにすることを求めましたが、農水省は『今後の取締の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあることから、農薬検査所報告に記載のある内容以上のことについてお答えすることはできません。』との回答をよこしていました(記事t19702参照)。今回のケースは、登録農薬の成分違反が判明した数少ない事例です。
この製剤は、大塚化学株式会社が販売していますが、農薬学会の前会長梅津憲治さんが取締役を務める企業が、こんなルーズなことをしていたとは驚きです。農薬擬似資材については、その成分の分析をして、学会報告をしている大学教授もいますが、登録農薬については、成分調査をするような研究者もいないので、業界関係者の内部告発に待つしかないのでしょうか。
【参考サイト】
農水省:農薬取締法に基づく届出と異なる方法で大原パラヂウム化学株式会社が製造した展着剤に係る
報告徴収について(8月15日)
大原パラヂウム化学株式会社及び大塚化学株式会社が製造した展着剤の農薬登録失効に係る
公告について(9月22日)
大原パラヂウム化学と大塚化学
***** 平成20年年9月22日官報第4918号 5頁より *****
〇農林水産省告示第千四百九号
農薬取締法(昭和二十三年法律第八十二号)第六条の五の規定により、次の農薬の登
録は失効したので、同法第六条の七の規定により公告する。
平成二十年九月二十二日 農林水産大臣臨時代理 国務大臣 町村孝
登録番号、農薬の種類、農薬の名称並びに製造者又は輸入者の氏名及び住所
平成20年8月28日付けをもって登録失効したもの
登録番号 17214
農薬の種類 ポリオキシエチレン脂肪酸エステル
農薬の名称 パンガードKS-20
製造者又は輸入者の氏名及び住所
京都府京都市上京区竹屋町通千本東入上ル主税町1092
大原パラヂウム化学株式会社取締役社長大原八十八
登録番号 21963
農薬の種類 ポリオキシエチレン脂肪酸エステル
農薬の名称 ホールドガード
製造者又は輸入者の氏名及び住所
大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚化学株式会社代表取締役社長森明平
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作成:2009-03-01