農薬の毒性・健康被害にもどる
t20504#農薬危害防止運動中にもかかわらず事故多発#08-09
 農水省と厚労省が毎年実施している農薬危害防止運動について、今年から期間を1ヶ月から3ヶ月とするとの指導がなされていました(一部府県では、以前から実施されていた。記事t20203参照)。
 しかし、6月以降に新聞報道された犯罪を含む危害事例をまとめると表のように15件ありました。内訳は、工場事故(含む農薬原料製造)5件、農薬がらみの犯罪4件、無人ヘリコプター事故3件と例年になく多いようです。
表1 農薬関連の危害事例(08年6月〜8月)

08/06/06 徳島県徳島市   リサイクル会社で、クロルピクリン廃容器をプレス中に、
              残存薬剤のガス発生、30人被害(記事t20208参照)
08/06/14 三重県四日市市  石原産業で、アタブロン乳剤タンクに穴、漏洩
08/06/28 東京都       焼き鳥のたれにグリホサート混入
08/06   兵庫県福崎町    松枯れ空中散布で、住民の健康被害6人
08/07/01 長野県安曇野市   カラス8羽が、EPN入り毒餌で死亡
08/07/15 静岡県掛川市    菊川水系で魚大量死。農薬成分検出
08/07/15 北海道旭川市    中学校で、アリ駆除で農薬散布。生徒30人被害(記事t20404参照)
08/07/18 愛媛県坂出市    日本ファインケムで、ナトリウム化合物発火
08/07/28 滋賀県高島市     空中散布中の無人ヘリコプター松に衝突・墜落(記事t20402参照)
08/07/30 山形県三川町、   空中散布中の無人ヘリコプター小学校プールに墜落(同上)
08/08/08  福島県会津若松市 昭和電工東長原工場で、ホスゲン漏出。13人被害。
08/08/15 大分県九重町    石灰硫黄合剤や硫黄系製剤メーカー細井化学鰍フ倉庫から
              出火し、 消防隊員8人眼・のどに痛み
08/08/16 熊本県錦町     鳴き声うるさいと毒餌で犬を殺害。犯人逮捕
08/08/18 奈良県桜井市    有機リン系農薬をボトル飲料に混入、2人被害。犯人逮捕
08/08/23  山形県三川町     空散の無人ヘリコプター制御不能で、行方不明に(記事t20501参照)
★長野県でのカラスの毒死
【参考サイト】長野県報道発表(2008/07/11)

 7月1日から3日かけて、長野県安曇野市の民家の敷地や農地で、カラスの死骸がみつかり、合計8羽におよびました。そのうち2羽の胃内容物を検査したところ、420mg/kg、1,450mg/kg の有機リン剤で毒物指定のあるEPN が検出されました。何者かによって、毒餌が与えられと思われます。
長野県は
(1) 農薬の販売、使用に当たっては、農薬取締法に基づき、より一層適切な保管管理、使用が必要であることから、地方事務所等を通じて農薬販売者及び農業者等に指導、啓発をします。
(2) 毒物劇物に該当する農薬については、毒物及び劇物取締法に基づき保健所を通じて、毒物劇物販売業者等に適切な取扱いについて指導、啓発をします。
との対策をあげましたが、同類の事件が絶えないことをみてもをこのような通知のみでは防止することができないことは、明らかです。犯人を見つけ、農家等の農薬保管庫を総点検することが必要です。

★農水省調査で、07年度の中毒件数19
 農水省は、毎年、農薬危害件数を公表していますが、07年度の件数は表2のようで、人の死亡例はなく、中毒件数は19件、被害者は35人でした。農作物被害と魚介類被害は各8件ありました。19の中毒事例の詳細は表3に示しました。成分別では、除草剤グリホサートが4件、有機リン剤3件ありました。原因別では、散布中の被曝と誤飲が各6件のほか他の散布者による受動被曝もありました。
表2 07年度の農薬危害件数(農水省公表)

区分     07年  前年件数増減   被害対象 07年度 前年件数増減
                                        
死亡 散布中   0 ( 0)    -1            農作物      8    +2
     誤用     0 ( 0)    -5            家畜        0     0
     小計     0 ( 0)     -6            蚕          0        0
中毒 散布中  10 (26)      +2            蜜蜂        2       -2
     誤用     9 ( 9)    -2            魚類        8       -3
     小計    19 (35)       0             小計     18       -3
計           19 (35)      -6            自動車   1    +1
                                        建築物   0     0
                                        その他   0    -4
                                         小計   1    -3


 表3 2007年度の農薬事故原因 (農水省資料より)

中毒程度 原因農薬名       中毒発生時の状況                              原因

中軽症   クロルピクリン   園芸業者がクロルピクリンを使用した際、
                          ビニールをかぶせずに放置した。                管理不良
中軽症   有機リン         他人の使用。化学物質過敏症                  アレルギー
中軽症   グリホサート     他人の使用                                      不明
軽症     クロルピクリン   使用者が被覆を怠った。散布ほ場と住宅は隣接。  管理不良
軽症     イソキサチオン   噴霧状の薬剤が、逆風で流されて吸入した。      不注意
軽症     シペルメトリン   風向きの加減で顔にかかった。                  不注意
軽症     4-CPA            100倍液を誤飲                                 不明
中軽症   テブフェンピラド 農作業休憩中、ペットボトルに入った農薬を
                          誤飲した                                      保管不良
軽症     フィプロニル・   散布時は専用マスクをし、長袖の服を着て
          プロベナゾール  標準的な暴露防御をしていた                    防備
軽症     グリホサート     除草剤の散布を始めたが、マスクなどの防護策は
                          していなかった                                防備
中軽症   不明             回収作業中、誤って吸引した                    その他
中軽症   グリホサート系   20ml誤飲した                                  不明
中軽症   MCPP液剤         25〜30g、コーラと間違えて服用した             不注意
中軽症   メソミル         畑にて農薬を吸い込んだ                        不明
重症     アラクロール     お茶と過って飲用                              保管不良
重症     グリホサート     誤って飲用                                    不明
中軽症   不明             農薬をさわった手をなめていた                  保管不良
中症     マラソン         誤用した                                      不明
軽症     ペルメトリン     散布中に吸い込んだ                            不注意
★害虫駆除用殺虫剤による被害
 農薬と同じ成分が使用されている衛生害虫等の殺虫剤による犯罪や事故が起っています。  飲料製品への殺虫剤混入事件としては、4月25日東京で発生したプロポキシル入りコーヒー、06月21日に神戸市でのテトラメトリン入りジュースの事例がありますが、いずれも犯人は不明です。
 長崎県五島市では、衛生害虫駆除用に、町内会で配布された殺虫剤を女性が誤飲し、入院するという事故が起こりました。08年7月24日、岐宿地区衛生組織連合会からSV乳剤L「ES」(フェニトロチオン:5%、ジクロルボス:2%含有。18L入り缶)3缶が、町内会に配布され、町内会は、これをペット容器に小分けして家庭に配布しました。29日に、74歳の女性が誤まって飲み、あわてて吐き出したものの、吐き気、下痢などの症状を呈し、入院することになりました。幸い症状は軽く翌30日に退院したとのことです。
 事故の連絡を受けた五島市岐宿支所は、緊急告知放送、及び町内会回覧などで注意喚起を行い、五島保健所にも直ちに届出を行ったそうです。
 06年4月、秋田県由利本荘市での衛生害虫駆除用の殺虫剤配布で、やはり、小分けが問題になり、同市は、翌年から配布を止めました。厚労省は、同年5月23日に事務連絡「殺虫剤の配布について」をだし、小分け配布をやめるよう指導しています(記事t17806参照)。  しかし、このような注意は徹底されなかったわけで、私たちの問合せに対し、五島市は、『今回の誤飲事故は、殺虫剤を小分けして配布しないよう指導を徹底していなかったことが、主な原因であり、この件につきましては、長崎県より、市は「厳重注意」の指導を受けています。また、県におきましては、この事故を受けまして、県内全自治体宛に注意喚起の通知を行っています。今後、市、岐宿地区衛生組織連合会双方で、防除作業のあり方全般について、徹底的な見直しを行い、このような事故が再発しないよう万全の注意を払ってまいります。』と答えています。
 同市では、町内会ごとに、地域行事の一環として、殺虫剤の集団散布などによる害虫駆除を行っていたということですが、はやくIPMの導入をはかり、いいかげん薬剤散布一辺倒の過去からさよならしてもらいたいものです。

★05年〜07年の農薬・殺虫剤労災事故
 厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課は、毎年、化学物質による労働災害発生事例の一部を一覧表にして公表しています。
 05年から07年に報告された中毒等事故の中から、塩素系殺菌剤や洗浄剤を除く、農薬・殺虫剤・殺菌剤が原因の事例を表4に挙げます。労災が調査対象になっていますので、害虫駆除業者やシロアリ防除業者など事例がいくつか見られます。なお、塩素ガス事故は、05年4件(被害38名)、06年12件(被害64名)、06年10件(内2件は次亜塩素酸ナトリウムそのものの被曝。被害15名)が主な事例として報告されています。
表4 化学物質による労災事故の事例(厚労省公表資料より)

発生         被害
年月  原因物質     人数    発生状況  

05/02 ペルメトリン  薬傷1  2名でシロアリ防除作業中、仲間が噴霧した薬剤を被曝
05/04 過酸化水素   中毒1  宿泊施設の室内で洗浄作業中、吸入。
05/05 酸化エチレン  中毒1  手術器具の滅菌器に残留していたガスを吸入
06/01 過酸化水素    薬傷3  医療用具の滅菌作業で、残留して滅菌袋に付着していた
                 過酸化水素水により薬傷
06/03 クロルピクリン 中毒1  ビニールトンネルを撤去する作業にとりかかった時、
               別の作業者らが使用していた土壌くん蒸剤を吸入
06/05 パラコート   中毒1  事業所周辺での、保護具なしでの除草剤散布作業で被曝
06/06 フッ化スルフリル死亡1 博物館での害虫駆除作業後の換気作業で、吸入(本誌180コ号)
06/07 フェニトロチオン薬傷1 害虫駆除作業において、大腿部にまで殺虫剤が浸透
               洗身せずに自宅に帰宅したところ、薬傷
06/07 クロルピクリン 中毒7  災害復旧作業中、埋没していたクロピク缶が破損、被曝
06/08 酸化エチレン  中毒2  手術準備室でボンベ交換作業中に、操作ミスでガス漏れ
06/12 農薬      中毒1  殺虫剤、除草剤の包装作業で、防塵設備フード位置が
               不適切で、1ヶ月間、原体を顔面付近で被曝、吸入
07/06 殺虫剤         中毒1   害虫駆除(薬剤散布)を行った住宅において、薬剤散布 
                             から約2時間が経過し、入室したところ、殺虫剤が十分排
                             出されておらず、殺虫剤を吸入したため、中毒となった
07/08 ホスゲン       中毒2  プラントのポンプの液抜きプラグを取り外したところ、
               ホスゲンを含む内容物が流出し、作業者等が吸入、中毒
07/11 害虫駆除剤   中毒1  施設内において、害虫駆除剤を噴霧していたところ、
                             薬剤の眼への接触及び吸入により、薬傷(急性結膜炎)

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作成:2009-03-01