行政・業界の動きにもどる
t21005#農薬試験作物のゆくえ〜厳重な保管と処分を求める#09-02
 昨年秋、農薬やカビ毒アフラトキシンで汚染されたMA米や国産事故米の食用転用が問題となりましたが、この件に関連して、新潟県では、工業用の試験米が食用原料に加工された可能性が指摘されました。また、西東京市にある東大の農場では、販売禁止農薬である水銀剤を用いた米が食用に販売されていたことが明らかになっています。
 206号のQ&AIでは、試験農作物の販売についての問題点を解説しましたが、今号では、東大農場事件のその後と大阪府の試験米盗難事件をとりあげたいと思います。

★東大農場事件その後
【関連記事】記事t20606
【参考サイト】東京大学:多摩農場をめぐる問題について東大試験農場

 昨年10月、東京大学の多摩農場(西東京市)への農水省の立ち入り検査で、農薬取締法違反が明らかになり、同農場に厳重指導がなされました(その後の調査で、文京区農学部でも水銀剤使用が判明)。水銀剤以外にも販売禁止農薬であるγ-BHC、DDT.エンドリン、アルドリン、パラチオン、CNP、PCP、ダイホルタン、水酸化トリシクロヘキシルスズなど10成分を含む23製剤を保持していることが判明しました(11月25日時点で、廃棄処分のため、すべて、農場から搬出済み)。
 東大は、農産物や水質・土壌の環境調査結果で、水銀等の残留状況はいずれも基準以内であったとし、11月30日開催された住民説明会で、安全宣言をして、終止符を打ちましたが、周辺住民や農家の間では、水銀等の土壌汚染や風評被害の懸念が拭えていません。
 また、文部科学省は、全国の大学や高専への毒劇物の管理・使用状況調査を実施していますが、その結果はまだ、報告されていません。
 09/08/18:農薬の使用状況等に関する調査の結果について調査結果

★大阪府では試験米の盗難が
 08年12月24日、大阪府は、「未登録農薬試験米等の盗難について」の報道発表を行いました。11月25日〜12月16日の間に、大阪府環境農林水産総合研究所食とみどり技術センターにおいて栽培し、堆肥用としてビニルハウス内に保管してあった未登録農薬試験米600kgを含む900kgが盗難にあったとのことで、『試験米は水稲除草剤の薬害・薬効試験に供したもので、残留農薬は未確認』とありました。
 盗難米が、食用として転売される恐れもあり、残留している農薬が何かもわからないため、同研究所に問い合わせをしました。その結果を以下にまとめます(その後、大阪府警羽曳野署が、同センターの職員を窃盗の容疑者として逮捕したとのことです)。
   *** 府環境農林水産総合研究所への質問と回答 ***
1、薬害・薬効試験に使用された除草剤は、いままで、国内で登録された農薬成分を含有
 していますか。それとも、日本で登録されたことのない新規な活性成分ですか。
 また、当該農薬成分の米についての残留基準は設定(暫定も含む)されていますか。
【回答】今回の試験薬剤には16成分が含まれ、そのうち12成分は国内の農薬登録があり、
2成分は登録申請中、2成分は未登録です。
 登録された農薬成分については玄米の残留基準が設定されており、うち4成分は暫定で
す。(試験された除草剤16成分のリストは略)

2、収穫した試験米を堆肥用に保管していたということですが、海外から輸入される牧草
 飼料に残留していた除草剤クロピラリドが牛糞等から製造した堆肥に移行し、マメ科の
 作物等に薬害を引き起こすことが知られています。試験米を堆肥原料とした場合、栽培
 された作物に影響はありませんか。
 また、当該農薬については、試験米での残留量は未確認とのことですが、残留分析がな
 されていないものを、他の用途に転用することについては、どうお考えですか。
【回答】今回の試験にはクロピラリドを使用していません。今後、試験米を堆肥原料等の
別の用途に転用することについては慎重に検討したいと考えます。

3、盗難にあった試験米が食用に転売される恐れがあります。万一食用に販売された場合、
 人の健康への影響はありませんか。
 試験に供せられた農薬の毒性試験結果、残留基準、ADI数値がありましたら、(もし、
 不明ならば、その旨を)教えてください。
 米の残留基準がなければ、食品衛生法では、一律基準0.01ppmが適用されます。いまま
 での実験結果から、この数値を超える残留の可能性があるとお考えですか。
【回答】未登録成分を含んでいるため科学的根拠を示すことはできませんが、最終散布日
が6月中旬で、試験米の総量と試験規模(処理量、面積)の関係から、人への影響はない
ものと考えます。
 試験薬剤に含まれる成分名と毒性、残留基準、ADI数値は添付表−略−のとおりです。
 不明部分については調査中です。

4、いままで、貴施設で収穫された試験米は、どの程度の数量で、どのように転用又は販
 売又は処理されていましたか。01年以後、年別のデータを教えてください。
【回答】これまでの試験米は収穫後すべて埋土処分していました。年別の処分量は把握し
ていません。

5、今後、試験米の盗難防止対策をどのようにするか、また、試験米の処理等をどうする
 か、お考えをお示しください。
【回答】盗難防止対策については従来から行ってきたところですが、さらに対策を徹底し
ます。
 試験米は、今回初めて堆肥化による有効活用を考えたもので、他用途への転用の適否も
含めて、今後処理等について慎重に検討します。
★農薬試験作物を厳重管理し、食用への転用防止を
 04年11月10日に農水省消費・安全局は「試験研究の目的で農薬を製造等する場合の留意事項について」(16消安第6316号)という通知を発出、試験農作物については、「4、試験研究終了後は、使用した農薬、農作物等については、適切に保管又は処分等すること。」としました。
 農薬登録に際しては、薬効・薬害・残留性試験データ作成のための試験が義務付けられています。08年4月から、それまでの公的機関だけでなく、認定を受けた民間機関での試験実施も認められ、現在行われている登録制度の見直し作業では、残留試験数を2例から6例に増やすことが検討されています。
 MA汚染米の事例のように、農薬試験で栽培・収穫された農作物が、何のチェックもなく、食用や肥餌料として出回らないよう、厳重な保管と廃棄処分を求める必要があります。

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作成:2009-05-26