ダイオキシンにもどる

t21103#三西化学跡地のダイオキシン汚染で、土壌対策10年計画〜三井化学と荒木町住民の覚書締結#09-03
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 九州新幹線工事を契機に、福岡県久留米市にあるJR荒木駅構内で、ダイオキシンやBHCなどの土壌汚染が明らかになったのは、07年9月初めのことです。汚染源は、工事現場の隣接地で、ダイオキシンを含有する除草剤PCPやCNPなどを製造していた三西化学の工場跡地であることは明確で、その後の福岡県や親会社である三井化学による環境調査では、敷地内土壌に最高12万pgTEQ/gのダイオキシン(環境基準:1000pgTEQ/g)が検出されたほか、PCP、BHC、CNP、DDTなどの存在が判明しました。
 三井化学は、昨年9月28日に、汚染土壌の処理計画を公表しましたが、その後、福岡県や久留米市が間にはいり、三井化学、三西化学と地元住民との間で話し合いが行われ、2月23日に、三者間で土壌汚染対策計画骨子についての覚書が締結されました。

★汚染のはじまりは1961年、ダイオキシンTEQの判明は1999年
 三西化学がPCP製剤工場を操業開始した1961年から、井戸水や大気の農薬汚染により、周辺住民の健康被害が起こり、工場側との交渉が何度も行われました。しかし、この農薬公害は止むことなく、1973年には、住民二家族が、操業停止と損害賠償を求め、三西化学と親会社の三井東圧(現三井化学)を提訴しました。
 三西化学は1983年7月に自主操業停止したものの、健康被害と農薬PCPやCNP及びダイオキシン(当時の分析では、最も有害な2,3,7,8-四塩化ダイオキシン=TCDDは検出されず、TEQ−17種の塩化ダイオキシンと塩化ジベンゾフラン類の同族体・異性体含有量をTCDDに換算した値−の測定値は不明であった)との因果関係は認められず、99年2月最高裁で、原告敗訴となりました。
 99年初めには、横浜国立大学の益永教授らの研究で、PCPやCNPのTEQ値が報告されていましたが、この判決を待つかのように、99年7月、農水省と三井化学がつぎつぎと過去に製造されたPCPやCNP製剤のTEQ値を公表、それまで、有害なダイオキシンは含有していないとしていた農薬に、実は、有害なダイオキシン類が含有されていたことを認めました。PCPは90年6月26日に登録失効していましたが、農水省は02年4月に製造メーカーに回収を指導しました。
 CNPは、新潟大学山本教授らの疫学調査で胆のうがんの発生と相関関係ありとされたため、94年3月、自主製造中止・回収が行われ、96年9月29日登録失効しました。

★覚書の締結とその内容
 荒木町の住民で構成する「荒木校区ダイオキシン等対策委員会」と三井化学及び三西化学との間に締結された対策骨子内容は、昨年9月の会社提案を若干修正したもので、その概要は以下のようです。対策費用約80億円は三井化学が負担し、2万5000トン以上とされる土壌の処理計画を、3月中に住民に提示し、09年度から工事を開始するとのことです。
【参考サイト】三井化学のニュースリリース:09年2月23日

★三井化学への質問と回答
 対策骨子案について、当グループは三井化学へ、いくつかの質問をしましたが、その一部を下記にまとめました。
【質問:なぜ、10年間もかかるのか】
【回答】現在想定している汚染土壌の焼却処分業者の処理能力を踏まえて、10年間とい
う期間を算定しています。しかしながら、できるだけ、期間を短縮できるよう、他の処理
業者を探す等鋭意努力していきたいと考えています。なお、別紙2にも記載しております
が、敷地全体を囲い込む遮水壁は約2年以内に設置完了し、汚染が拡散しないように努め
る計画ですので、念のため申し添えます。

【質問:土壌掘削による汚染拡大の防止は?】
【回答】掘削箇所を板囲いし、定期的に散水することで、汚染物質の大気中への拡散を防
止します。また、掘削した土壌は速やかにフレコンバックに詰めて、密封のうえ、適切に
保管します。さらに、工事中は定期的に大気・地下水への環境調査を実施することで、周
辺への悪影響が無いことを確認しながら進めてまいります。

【質問:掘削した土壌を焼却するとのことですが、焼却施設の名称と所在を教えてくださ
い。
【回答】現時点では、委託業者は決定しておりませんが、適切且つ信頼できる処理業者を
選定し、委託する予定です。
 1961年に端を発するダイオキシンの亡霊が三西化学跡地にあらわれたのは2007年、さらに対策完了が2019年というこの遅々とした動きは、1968年に起こったPCB・ダイオキシンカネミ油症事件の健康被害認定と被害補償がいまだ解決していない日本の現状と軌を一にするものです。
 上記骨子では、ダイオキシン濃度については3000pgTEQ/gで線引きをして、これを超える土壌は掘削除去、これ以下の土壌と表層50cmの土壌は敷地内に埋めて、覆土、アスファルト舗装を実施するということですから、和歌山県橋本市の土壌汚染指定地域での処理を踏襲したものでしょう。今後、1000pgTEQ/gという環境基準を超えることがないとはいいきれない状況が、長期にわたりつづくため、環境監視を永続せねばならないことを意味します。10年計画中に、ダイオキシン汚染の新たな浄化方法、たとえばバイオメディエーションなど研究がなされて然るべきではないでしょうか。

★まだつづくダイオキシン汚染
 ダイオキシン汚染は荒木町の問題だけではありません。
 全国各地の産業廃棄物焼却場、一般ゴミ焼却施設やゴミ処分場でのダイオキシン汚染は、絶えることがありません。
 記事t18802で報告したダイオキシン類土壌汚染対策地域の指定場所のひとつ、三重県朝日町の水田は、追加調査の結果、近くの東芝三重工場が過去に使用したPCBに起因することが判明、08年3月には、表土約700トンが除去され、汚染土の入れ替えが完了しました。
 東京都北区の豊島5丁目団地の広範なダイオキシン汚染は、無害化されることなく、覆土により目隠しされましたが、昨年11月には、新たに、東京都足立区にある大日精化工業鞄結梵サ造事業所内の地下水から環境基準を超えるダイオキシン(25pgTEQ/L)が検出されたことが明らかになりました(東京都による敷地外4個所の地下水調査−08年12月26日発表−では、ダイオキシン濃度は0.065-0.075pgTEQ/Lで基準以下)。同社は1962〜69年に、工場で顔料を製造の際、溶剤として使用したトリクロロベンゼンに起因するものと考えられる、としており、地下水の拡散防止のため、揚水処理を行うとのことです。
 さらに、今年の1月29日には、京都府立大が、公共下水道に排水している学内の汚水の水質自主検査の結果、08年12月及び09年1月の2回にわたり、京都市条例に定められた下水道排除基準値(0.010ng-TEQ/L以下)を超えるダイオキシン類が検出されていたことを公表しました。排水中のダイオキシン濃度は33及び44pgTEQ/Lであり、学内排水マスに蓄積されていた滞留水で74000pgTEQ/L、汚泥で57000pgTEQ/gの濃度でした。07年4月から08年1月まで、及び08年12月に、生命環境科学研究科で、ダイオキシン類を合成し、キノコによる分解能実験を行っていたのが汚染の原因でした。
 また、06年度の神奈川県のダイオキシン水質調査で藤沢市や寒川町を流れる目久尻 (めくじり) 川に流入する水路で、夏季に、環境基準を超える4.6pgTEQ/L検出されました。流域には汚染源がなく、八塩化ダイオキシンが多いというパターンから、過去に水田除草剤として使用されたPCP由来のダイオキシンが汚染源ではないかとされています。水田土壌や底質・汚泥に残留しているダイオキシンが、除々に放出されている証でしょう。
 神奈川県は『水田土壌中に残留するダイオキシン類の濃度は、流入水周辺の2地点で210pgTEQ/g 及び180pgTEQ/g(02年度県環境科学センター調査)であり、いずれも土壌環境基準を達成していました。』と安全宣言をしていますが、水系に流出したダイオキシンは魚介類に濃縮され、私たちの口に入ってくることは間違いありません。
【参考サイト】三重県朝日町:07/03/2007/07/2507/10/0307/12/0608/04/16
       大日精化:東京製造事業所の地下水調査経過報告        東京都:報道発表(08/11/26)報道発表(08/12/26)
       京都府立大:公共下水道へのダイオキシン類の排水について
       神奈川県:平成18年度ダイオキシン類環境調査の結果について平成19年度ダイオキシン類環境調査結果について

  電子版「脱農薬てんとう資料集」第8号<ダイオキシン含有農薬とPOPs系農薬>(2007年9月20日刊行)
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作成:2009-08-29