農薬の毒性・健康被害にもどる

t21104#「化学物質過敏症は心因性」に抗議〜シックハウス症候群と化学物質過敏症を切り離していては、問題の解決を誤る#09-03      
厚労省の回答
【関連記事】記事t00502
【参考サイト】厚生労働科学研究成果データベースで、石川哲、岸玲子を検索。
       公害等調整委員会のHPにある広報誌「ちょうせい」第52号(08年2月)より
       化学物質過敏症に関する情報収集、解析調査報告書について報告全文

 厚労省健康局生活衛生課は、1月9日付け事務連絡「シックハウス対策に関するパンフレットの送付について」を都道府県・政令市特別区衛生主管部(局)宛てに発信しました。
  ********** 事務連絡 平成21年1月9日 **********

    都道府県
  各 政令市  衛生主管部(局)関係各位
    特別区
                            厚生労働省健康局生活衛生課
 
         シックハウス対策に関するパンフレットの送付について

  今般 平成18年厚生労働科学研究費補助金「シックハウス症候群の実態解明及び具体的対
  応策に関する研究」(主任研究者 岸玲子北海道大学教授)において、最新の研究に基づ
  く知見を盛り込んだシックハウス症候群に対する相談と対策マニュアル」が作成されま
  した。本資料は、シックハウスの相談等に対応される方々の参考資料とLて活用されるこ
  とを目的として作成され.有益なものと考えられますので,関係各位に送付いたします。
  今後のシックハウス対策の推進こ御活用いただけますようお願いします。
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 この事務連絡では、厚生労働科学研究費補助金「シックハウス症候群の実態解明及び具体的対応方策に関する研究」(主任研究者:岸玲子北海道大学教授)の知見をもとに、岸研究班が、昨年3月に作成した「シックハウス症候群に対する相談と対策マニュアル」(以下マニュアル)を、『有益なものと考えられますので、関係各位に送付いたします。今後のシックハウス対策の推進に御活用いただけますようお願いします。』と記して配布しました。
 マニュアルでは、シックハウス症候群を、基本的には、室内環境汚染が原因で、建物内の人が目、鼻、皮膚、のど・呼吸器、精神・神経面(頭痛、易疲労、めまい、嘔気・嘔吐)に非特異的症状を生じる病態といい、また、アレルギーや感染症、中毒など原因が特定できて、医学的診断がつくものをシックハウス関連病と定義し、化学物質過敏症(以下化学物質過敏症)とは切り離して考えるという右図のような仮説が示されました。

★シックハウス症候群と化学物質過敏症の同根部分を無視できない
 シックハウス症候群の原因として、マニュアルでは化学的要因(ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物のパラジクロロベンゼンやトルエン、スチレンなど、殺虫剤のクロルピリホス、ダイアジノン、フェノブカルブ、ピレスロイド類、S−421、可塑剤のフタル酸エステル類、難燃剤のリン酸トリエステル類ほか)、生物学的要因(細菌、カビ、ダニアレルゲン、ペットアレルゲンほか)、物理的要因(温度、湿度)、その他(粉じん、タバコの煙など)が挙げられています。
 一方、化学物質過敏症は、アメリカでの臨床環境医の1999年合意では、「慢性的疾患である/再現性を持って現れる症状を有する/微量な物質の曝露に反応する/関連性のない多種類の化学物質に反応する/原因物質の除去で改善または治癒する/症状が多臓器にわたる」と定義されていますが、正式な疾病には分類されず、「本態性多種化学物質過敏状態」あるいは「本態性環境非寛容症」と呼ばれることもあります。症状は、粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭炎)、皮膚炎、気管支炎、喘息、循環器症状(動悸、不整脈)、消化器症状(胃腸症状)、自律神経障害(異常発汗)、精神症状(不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害(痙攣)、頭痛、発熱、疲労感などで、発症原因も、シックハウス症候群と共通するものが多々あります。
発症原因がすべて判明しておらず、用量と有訴率の関連も不明確なままなのは、シックハウス症候群も化学物質過敏症も同じです。化学物質過敏症の症状を引き起こす化学物質の濃度は、シックハウス症候群よりも低いと考えられている程度で、多種の化学物質に反応するといいながら、複合毒性の評価もなされていません。シックハウス症候群や有機リン中毒のようなシックハウス症候群関連病が引き金となって、化学物質過敏症を発症、あるいは香料*のような微量な化学物質でアレルギーが悪化する人もいます。このため、先の岸研究班の図式のように、シックハウス症候群と化学物質過敏症を区別することには、問題があります。他の厚生労働科学研究班においては、「シックハウス症候群と診断された症例には化学物質過敏症が含まれる」として研究が進められています。

*香料については、渡部さんのHpにある香料参照

★一方的すぎる岸研究班の化学物質過敏症心因説
私たちが、化学物質過敏症を紹介したのは、1992年のてんとう虫情報5号誌上でした。その後、化学物質過敏症発症の引き金となる有機リン剤を、まず、とりあげ、健康被害の多かったシロアリ防除剤で、住宅金融公庫や建設省、ハウスメーカー、厚労省へのアクションをとりました。その結果、建築住宅研究会や室内汚染化学物質検討会の設置につながり、住宅建材でのホルムアルデヒドやクロルピリホスの使用規制、13の化学物質の室内空気濃度指針値の設定がなされたのは、承知のとおりです。特に初期には発症者もまだ少なく、症状を訴えても不定愁訴や精神的なものとされ周りに理解されない辛さを体験してきた患者さんがたくさんいます。
 化学物質過敏症については、その定義、診断基準も統一されず、発症機構についても、化学物質の生体内反応によるものか、心理的要因によっておこる身体症状なのか、あるいはその両方かが、論議されてきましたが、少なくとも、「環境中の種々の低濃度化学物質に反応し、非アレルギー性の過敏状態の発現により、精神・身体症状を示す患者が存在する可能性は否定できないと考えられる」(平成16年厚労省公表「室内空気質健康影響研究会報告書」)という認識の下で、化学物質被曝と病態等との関連についての多くの研究が行われており、欧米諸国では、今後も化学物質過敏症研究の必要性が訴えられているのが現状です。
 しかし、シックハウス症候群と化学物質過敏症は別との仮説に立った岸研究班のマニュアルでは、化学物質過敏症を不定愁訴や心因性であるとの説を随所で強調するだけでなく、Q&A『シックハウス症候群と化学物質過敏症の違いについて』で、化学物質過敏症は『検査では所見が見られず、原因物質との因果関係は明白にされていないことから、心因的要因や環境ストレスなどの関与が大きいと推察される』と、いままでの医学的研究の知見を無視した記述になっています。化学物質過敏症患者さんが社会的理解を求めて、苦しい体にむちうって、活動してきたことに、棹さすようなマニュアルの記述は、許せないとの声があがりました。

★厚労省への公開質問状で、化学物質過敏症関連記述の削除を求める
 3月9日、この厚労省のマニュアル送付ついて、以下に示す公開質問状が厚労省大臣宛てに送られました。取りまとめ団体は化学物質問題市民研究会(代表 藤原寿和)、化学物質過敏症支援センター(理事長 横田克己)、市民がつくる政策調査会(代表理事 石毛えい子)で、当グループをはじめ、化学物質過敏症の認知を求めて運動してきた患者団体やその支援グループを含む45団体が賛同しています。詳細は、こちら

【参考サイト】化学物質問題市民研究会にある公開質問状厚労省の回答
岡崎トミ子議員による質問と政府答弁(3月17日参議院環境委員会)

t21204#公開質問状に回答〜化学物質過敏症の項の撤回なし#09-04
記事t21104

 「シックハウス症候群に対する相談と対策マニュアル」を配布したことに対する厚労省への公開質問状に、3月23日付けで回答が来ました。
   @対策マニュアルは国の見解ではない
   Aシックハウス対策には有用である
   B化学物質過敏症の項を削除するつもりはない
   C化学物質過敏症が心因性の疾患であることを示したものではない
との厚労省の考えが示されています。
 回答後、厚労省は、保健所関係者への留意事項として、以下の事務連絡を発出しました。これで、相談マニュアルの問題点が解決されたわけではなく、化学物質過敏症の疾病としての認知には、一層の努力が必要です。
           *** 公開質問状への回答要旨 ***

【質問T-1】対策マニュアルの作成及び配布について
【回答】研究班の知見であり、厚労省の正式見解でない。個別事例に応じて、慎重に対応
    するよう、保健所職員に周知した。
【質問T-2】研究班のメンバーの選定について
【回答】選定は適切に行われている。研究班の構成は、それぞれの主任研究者の研究テー
    マに即した適切な研究者を選定している。

【質問U】化学物質過敏症に関連する部分の内容について
及び
【質問V-3及び4】化学物質過敏症の項の削除と同症に対する積極的な取り組みについて
【回答】現在、基礎的な研究が進められている段階で、その進展を見守りながら、必要に
    応じて適切に対応していく。

  ********** 事務連絡 平成21年3月23日 **********
                           
    都道府県
  各 政令市   衛生主管部(局)関係各位
    特別区                 厚生労働省健康局生活衛生課

      シックハウス対策に関するパンフレットの送付に係る留意事項について

   平成21年1月9日付けで、平成19年度厚生労働科学研究費補助金「シックハウス症候群
  の実態解明及び具体的対応方策こ関する研究」(主任研究者 岸玲子北海道大学教授)の
  成果物である「シックハウス症候群に対する相談と対策マニュアル」を御参考としてお送
  りさせていただきましたが、本件に関し、下記の2点に御留意いただきますようお願いします。

   @本冊子は、上記研究に基づく成果物であり、厚生労働省の公式見解ではないが、保健所
    等におけるシックハウス対策に対して有用と考え、配布をさせていただいたこと。

   A本冊子はシックハウス対策を目的に作成されたものであり、冊子中の化学物質過敏症に
    関する記述については、本来の目的と直接関係するものではないこと。当該項目(第6章、
    第8章中Q4及びA4)については、研究班が過去の文献を整理したもので、そのような症状
    を訴えられる方への対応について示したものではないため、個別の事例に応じて慎重に対
    応すること。また、当該項目は、化学物質過敏症が心因性の疾患であることを示したもの
    ではないこと。

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作成:2009-06-28