行政・業界の動きにもどる

t21402#農水省・厚労省から「農薬危害防止運動の実施について」の通知発出〜ポスターには首を傾げるイラストも#09-06
【関連記事】記事t20203記事t20504記事t20604H21年要望と質問
【参考サイト】農水省:
          H21年度農薬危害防止運動の実施について
          実施要綱ポスター「農薬中毒の症状と治療法」
 5月26日、農水省消費・安全局長と厚労省医薬食品局長は「農薬危害防止運動の実施について」の通知と実施要綱を発出し、原則6月1日から3ヶ月間の運動実施を都道府県、保健所設置市及び特別区の長や関係部署に求めました。また、同時に発表されたポスターでは、昨年と同じ4項目が掲げられて、いつでもチェック!として@周辺への配慮、A使用基準や注意の確認、B鍵をかけて保管、Cマスク・手袋・防除衣の着用が注意喚起されましたが、@の図柄は-家の前に完全防具で身をかためた散布者がいる。畑にはいろいろな作物と果樹、川にかかる橋の上に犬を散歩さす人、それに垂れ下がった吹流し-一体どういう風に散布しろというのか、訴えるものがありません。
 今年度の実施要綱は、昨年と比べ、記載事項に大きな変更はありませんが、以下のような違いがみられました。

★新たに追加された3つの事項
 今年になって、受粉に必要なミツバチ不足が問題になっており、その一原因がネオニコチノイド系農薬(以下「ネオニコ」)ではないかとされていることを念頭においてか、前文と実施要綱4の「環境への危害防止対策」の項にミツバチ被害防止がとりあげられているほか、別記の「農薬による事故防止のための注意事項」に『(10)ミツバチに被害を及ぼさないよう、農薬を散布するときは養ほう家と緊密な連携を行い、事前に農薬使用の情報提供を行う等対策を講ずる』が新たに追加されました。
 農薬による事故統計で、ミツバチ被害を年1〜4件としている農水省のことですから、ネオニコ系殺虫剤を止めるのではなく、使用時期や場所を養蜂業者に知らせるということが主となります。
 農薬登録申請に際して、ミツバチへの影響試験は、急性経口毒性試験、急性接触毒性試験又はほ場での影響試験などが義務づけられているだけ。しかも、これらは急性毒性の指標でしかありません。ミツバチの病気に対する免疫系、帰趨本能などの神経系、生殖系への影響、薬剤に対する忌避特性などは事前に調べられていませんし、ミツバチに害を与えるダニなど寄生虫の天敵への影響も不明なまま、農薬が使用されつづけていることが問題です。  昨年、東大農場で販売禁止の水銀系農薬使用が発覚したため(記事t20606参照)、前文と実施要綱2の「農薬の適正使用等についての指導等」の項に『農薬(有機水銀剤、パラチオン剤等)が自宅の倉庫等で発見された場合は、使用したり他人に譲渡したりせず、関係法令を遵守し適切に処理するよう指導する』が追加されました。
 また、水田育苗箱で使用された農薬の後作物への移行防止をめざし、『育苗箱等に農薬を使用する際は、使用農薬が周囲にこぼれ落ちないよう慎重に防除を実施する』という一文がはいりましたが、育苗処理された農薬が水稲に吸収されたり、付着して、水田に持ち込まれることは放任されています。
 さらに、実施要綱の3「農薬の適正販売についての指導等」では、『メソミル(従来劇物だったもの。ただし、メソミル45 % 以下を含有する製剤を除く)が毒物に、メタアルデヒド(従来毒劇物ではなかったもの。ただし、メタアルデヒド10 % 以下を含有する製剤を除く)が劇物に指定されたため、これらを含有する農薬の販売に当たっては十分注意するよう指導する』が新たに付け加わるとともに、別記の注意事項に『(18)毒劇物たる農薬については、毒劇及び劇物取締法上の登録を受けることなく当該毒劇物を販売又は授与してはならない』が新設され、別記3の「毒劇物たる農薬の適正販売強化対策」で、毒劇物の適正販売と管理、知識不足、安易な譲渡、用途外使用などについての指導を強化する文面が追加修正されました。しかし、毒餌に混入される事例の多い、農薬登録ランネート45水和剤のメソミル含有率は45%なので、劇物のまま、いままでと変わりはありません(記事t21207参照)。

★具体的指導内容について
 総じて、昨年、文頭に○○通知の周知徹底とし、あまり指示内容を示さずに書かれていたのが、具体的内容を増やし、終わりに(○○通知参照)としている個所が目につきました。
 実施要綱の2「農薬の適正使用等についての指導等」では、
(6)住宅地等における農薬使用に『農薬の飛散が、周辺住民、子供等に健康被害を及ぼすことがないよう』『農薬使用の回数及び量の削減のため植栽管理等を行うとともに』
(7)土壌くん蒸剤の使用に『防護マスク等の着用や施用直後のビニール等での被覆を確実に行う等の安全確保を徹底するよう指導する』
(8)航空防除における農薬使用に『毒性の強い農薬等は極力使用しないこととし、散布日や使用する農薬の種類等について周辺住民等への事前通知を実施』と無人ヘリコプター使用者に『散布日や使用する農薬の種類等について周辺住民等への事前通知を実施し、農薬散布の際は、散布区域内及びその周辺における危害防止に万全を期すとともに、操作要員及び作業者の安全に十分留意するよう指導する』
などが加えられていましたが、農薬使用者が、実際にこの指導を守ってくれるかどうかは、極めて疑問です。

★もっと危害事例を〜まだ、事故がつづいている
 私たちは、3月27日、農水省と厚労省へ今年度の運動についての要望書を送りました(本誌211号参照)。その中で具体的な危害事例も挙げるよう求めましたが、この要求は受け入れられませんでした。都道府県や保健所設置市へ、両省への要望文書を示したところ、地方自治体の中には、私たちが挙げた具体的事例が参考になりましたとの、返事が来たところもあります。添付資料としてでもよいから、農水省はもっと具体的事例を示してもらいたいものです。
 その後、危害防止運動通知の発出までの約2ヶ月間に以下のような事件事故が報道されています。
 4月・佐賀県唐津市の玉島川水系で、トルフェンピラドによるアユ大量死(記事t21305参照)
    ・山梨県笛吹市内の河川に、果樹園等で使用された石灰硫黄合剤が流出、水白濁
   ・神奈川県相模原市で土壌処理剤テロン92が蒸散して、住宅地に異臭
   ・山形県河北町で、農薬散布車スピードスプレーヤーの下敷きで農業者死亡
   ・東京大学農場(西東京市)で、水銀剤新たにみつかる
   ・農薬メーカー宇都宮化成工業の宇都宮工場敷地内でBHCやダイオキシンなどの汚染発覚(記事t21409参照)
   ・富山県入善高校で、保管中のクロルピクリン剤容器破損
 5月・宮崎市で、トルクロホスメチル残留し、ほうれんそうに異臭、消費者被害?
   ・神奈川県農政事務所旧平塚庁舎跡地でBHC検出(記事t21409参照)
 このうち、神奈川県相模原市の異臭事件は、4月9日の夜おこったもので、農地近隣の4戸の住民から眼にしみるとの通報が消防署に入りました。住宅地から幅4、5mの道路を隔てた畑地で、この日の午後、テロン92というD−Dが主成分の土壌処理剤が使用され、蒸散したのが原因でした。D−Dはクロルピクリンよりも急性毒性が低く、刺激性もすくないということで、土壌処理後の被覆処理は求められていない殺虫剤です。当該使用者は、30アールに60Lをラベル通り使用したとのことでしたが、周辺住民には散布の事前通知はしていませんでした。
 神奈川県の農薬安全使用指導指針には、クロルピクリン剤について
『劇物であり、常温でガス化しやすく、そのガスは人体の粘膜を強く刺激するとともに植物に対しても薬害を及ぼすので、次のことに留意すること。
 ア 住宅密集地では絶対に使用しないこと。
 イ 人家及び畜舎から十分(100m以上)離れていることを確認すること。ただし、育苗用土の消毒で全面をポリエチレンフィルムで被覆する場合、マルチ畦内処理を行う場合、または、水封後にポリエチレンフィルムで被覆する場合を除くこと。
 ウ 処理後は必ずポリエチレンフィルムで被覆すること。 
 エ 一斉広域処理は避け、1回10a以下とすること。』
などの指示があります。
 私たちは神奈川県に対し、テロン92についても、クロルピクリンと同じような指導をするよう求めましたが、県からは 
『今回発生した健康被害の原因と考えられる「一斉広域処理」や「土壌が乾燥していてガス化が促進されたこと」については、神奈川県農薬安全使用指導指針の1 基本的留意事項について(3)「農薬容器及び包装に表示されている事項を遵守すること」、2 本県における安全使用に関する留意事項の(6)「農薬散布が広範囲にわたる場合は、周辺住民に対しての十分な配慮を行うこと」に定めていますので、当該事項の遵守について今後一層の周知・指導の徹底を図ってまいります。』
との答えが返ってきました。

★厚労省の07年人口動態統計〜農薬死亡者は547人
 07年の厚労省の人口動態統計を下表に示しました。農薬による死亡者は547人(前年から88人減で、自殺が大半)です。農薬の種類別では、殺菌剤・除草剤が233人(大部分は除草剤で、前年から44人減-うち女性が43)で約42.6%を占めており、ついで、有機リン・カーバメート系殺虫剤が177人(前年から17減)で約32.4%です。性別では男性が58.7%で、昨年に比べ、女性の減少が64人と目立ちました。
 農薬による死亡数の減少がこのまま続くといいのですが、死なないまでも、微量被曝による慢性的な中毒や、脳・神経系への影響がどのように表れているか等の実態が不明なことは気がかりです。
 
 表 07年厚労省人口動態統計による農薬種類別死亡者数
    (06年度は記事t20303参照)

 農薬の種類                2007年死亡者数  前年から
               男  女  小計   の増減

 殺虫剤
 有機リン/カーバメート系    120   57   177    -17
 有機塩素系                   2   3     5     +5
 その他                  14  16   30     +5
 除草剤・殺菌剤             132  101   233    -44
 殺鼠剤                       -    1     1     -2
 その他の剤                   4    4     8     -7
 不明                        49   44    93    -28

 合 計                       321  226   547   -88
                              -24  -64        
★地方自治体の重点施策にも眼を向けよう
 私たちは、ほかにも、高濃度で散布する無人ヘリコプター対策、家庭や集合住宅・団地での農薬使用者への指導、農薬工場跡地の調査などを危害防止運動に織り込むよう求めましたが、残念ながら、実現しませんでした。
 2003年まではこの通知は文科省からも出されていましたが、最近では農水省と厚労省だけです。そのためか、学校まできちんと伝わっていないようです。たとえば東京都の農林水産部では「この通知は教育長に伝えた。後は教育長の責任」としています。また、通知の周知はHPのトップではなく、農林水産部のHPに載せるだけで、しかも、通知全文は載せず、講習会のお知らせが主でした。
 農水省は農薬危害防止月間を6月1日から3ヶ月としていますが、東京都、千葉県などは1ヶ月だけです。理由を聞くと「長い時間をかけてだらだらやるよりも短い時間できちっとやる方がいい」とのことで、驚きました。
 農水省・厚労省の実施要綱を具体的な運動に結びつけるのは、国の機関だけでなく、都道府県をはじめとする地方自治体です。通知には、『地域に密着した農薬の適正使用等についての指導を行う』『地域の特性を活かした運動方針、重点事項等を掲げた実施要領を作成』『地域住民の意見を採り入れ、運動の活発化を図るよう努める』といった文言がみられます。毎年のことで、マンネリになっている可能性があります。皆さんの地域でも県にこの通知をどこへどのように周知したか、期間はどれくらいか、重点施策は何かなど聞いて、事務局までお知らせいただければ幸いです。
     都道府県における運動実施状況
購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:2009-06-28