食品汚染・残留農薬にもどる

t21704#チョコレート・ココア業界がカカオ豆の残留基準緩和を要望〜その身勝手な言い分を検証する#09-09
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【参考サイト】厚労省:輸入食品の安全を守るためににある違反事例
       薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会:09/07/24の議事次第
          10/01/27の議事次第カカオ豆に係る農薬の残留基準の整備について、当グループの意見書(10/02/25)

 7月10日、日本チョコレート・ココア協会とカカオ豆輸入対策協議会は厚労省の食品安全部基準審査課長宛てに「ポジティブリスト制度におけるカカオ豆の検査部位及び暫定基準変更のお願い」という要望書を出し、カカオ豆に設定されている農薬の暫定残留基準の緩和を求めました。その背景と問題点を探ってみましょう。

★業界の言い分は
 要望書で、カカオ業界は、以下に紹介する要旨のような主張をしています。
・残留農薬ポジティブリスト制度の06年5月29日からの施行に先立ち、輸入国へ使節団を送り、日本のポジティブリスト制度の趣旨や内容説明を行い、注意すべき農薬について申し入れを行った。
・暫定基準の設定に際しては、カカオ豆の検査部位は、オランダやドイツでは、外皮を取り除いた豆とあると厚生省に報告したのに、コーデックス規格と同じの豆全体となった。
・制度施行後、ガーナ、エクアドル産のカカオ豆で基準を超える違反事例が頻発したため、改めて調査団を送って、適切な対応を要請した。
・ガーナは船積み前検査を実施することになったが、エクアドルでは、2,4-D検査は実施されていない。
・熱帯農業では、農産物、牧草、家屋周辺の雑草に低毒性の除草剤2,4-Dが多用されているが、カカオには使用されない。
・カカオの実より取り出された生豆から乾燥にいたる工程でのいわゆる環境由来の汚染が原因だと考えている。
・業界団体に対しては、農家が不適切な農薬使用やコンタミを防止するためのポスターを作成、啓蒙活動をしている。
・ポジティブリスト制度施行後の違反数量は14000トンあまりで、カカオ豆の安定確保が懸念される。

★カカオ豆の輸入と残留基準違反件数
 08年度の年間輸入量は3万9152トンで、その95.6%が検査されています。そのうち違反数量は、9.4%の3504トンでした。上位5にある国別内訳は、表1のようです。また、残留基準違反の事例(08年5月〜09年4月)は、表2に示すように、57件(うち1件は2種の農薬の複合残留)あり、国別では、エクアドルが31件、ガーナが24件でした。農薬別では、2,4-Dが31件と最も多く、ついで、有機リン系のピリミホスメチルが10件、クロルピリホスが7件でした。エクアドル産は2,4-Dの違反が96.8%、ガーナ産は有機リン剤が66.7%を占めていることがわかります。これら傾向は前年から続いています。
  表1 カカオ豆の輸入統計(厚労省:2008年度輸入食品監視統計より)

  生産国    輸入量 検査量 違反数量

  ガーナ    31,726  31,726  2,250
  エクアドル   2,560  2,560  1,179
  ベネズエラ   2,498   2,498    75
  象牙海岸共和国  937     295       0
  インドネシア     637     189       0
  合計     38,358  37,268   3,504 

  表2 農薬別・国別違反件数(08年5月〜09年4月)

  農薬名     残留基準ppm     違反検体数(検出違反値の範囲 ppm) 
          日本   EU*    エクアドル    ガーナ     ベネズエラ  合計
  2,4-D     一律=0.01 0.1    30(0.02-0.14)   1(0.02)               31
  エンドスルファン 0.1     0.1                   4(0.2-0.6)               4
  クロルピリホス  0.05   0.1               6(0.06-0.12)  1(0.08)   7
  シペルメトリン  0.03    0.1     1(0.06)                  1
  ピリミホスメチル 0.05     0.05            10(0.06-0.57)          10
  フェンバレレート一律=0.01 0.05             3(0.02-0.05)            3
  プロフェノホス 一律=0.01 0.1                          1(0.02)   1

  合計                              31             24              2        57
  *は、EUの分析法での検出限界であり、日本の分析法と異なる。
★業界はEU基準を求める〜外皮を除去し、分析精度を落とせと
カカオ業界は、厚労省に対する具体的な要望として、以下の2項を挙げています。
@残留農薬検査におけるカカオ豆の検査部位の変更について
 EU(ヨーロッパ連合)では、130℃25分予備加熱してから外皮を除去しているが、非加熱で外皮を除去する方法を提案する。
A検査部位変更に伴うカカオ豆の基準変更について
 EUが新たに設定した基準値へ変更する。

 カカオ豆は果実の中にある種子で、最外皮とパルプと呼ばれる果肉に包まれています。最外皮を除いて、パルプとカカオ豆に水を加えて発酵させ、その後、豆だけを取り出し、乾燥します。この乾燥カカオ豆を袋詰めしたものが輸入され、チョコレートやココアの原料となるのですが、加工にあたっては、豆についている薄い外皮と胚芽(両者で豆全体の約17%)が除去されます。

 @についていえば、残留農薬は、他所で使用した農薬のドリフトが汚染原因というのですから、それがほんとならば(2,4-Dが乾燥促進剤として使用されてはいないと思いますが)、現地で、天日による豆の乾燥中、農薬が他所からドリフトしてこないよう防止対策をきちんと行えば、カカオ栽培に使われていない農薬が検出されることはないはずです。
 それなのに、現行のカカオ豆の検体処理−そのまま粉砕する−に、薄い外皮を除去する工程を追加して欲しい、また処理装置として風力選別機(50万円)を導入する必要があるとは、驚きあきれる主張です。
 Aついては、EU並みの基準を求めていますが、その数値は、たとえば、表2のように、現行基準より緩い0.1ppmとなっているケースが多く見られます。かりに、この基準に当てはめれば、基準違反は、2,4-Dでは31件が1件に、クロルピリホスでは6件が1件に減ってしまいます(このことがカカオ豆の安定供給につながるらしい)。しかも、0.1ppmという数値は残留性試験で得られた値ではなく、分析法の検出限界にすぎません。日本の分析法では、0.01ppmレベルでも測定できるのですから、むしろ、EUの分析精度をあげる、すなはち、日本の分析方法を国際標準とすればいいわけです。
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作成:2010-02-27