行政・業界の動きにもどる
t21801#農薬登録制度見直し方針まとまる〜適切な農薬使用に向けた指導の強化を謳うが#09-10
農水省は、6月4日から1ヶ月間「我が国における農薬登録制度上の課題と対応方針(案)」に対する意見募集を実施しましたが(記事t21401参照)、その結果がまとまり、対応方針が9月11日公示されました。
『食の安全確保の観点のみでなく、当然その前提となる農薬そのものの安全性確保等についてもその観点に加え、幅広く検討を行うこととした。』としながら、方針案は食品に重点をおき、農薬による危害防止の視点がみられませんでした。そのため、当グループが提出した2万字におよぶ意見のうち、現状分析にその40%を割きましたが、これは、あっさりと『多くの意見をいただきましたが、データの取りまとめを目的としたものではありませんので、その点ご理解ください。』として無視されました。
提出された意見に対する農水省の見解で、同省は『農業生産上規制を緩和すべきとするご意見と、安全確保の観点から規制を強化すべきとするご意見の双方が寄せられました。農林水産省では、いただいたご意見を考慮に入れ、国際的な動向も踏まえつつ、農薬登録制度に関する懇談会等での議論を経て、今後とも適切な登録制度の運用と、安全で適切な農薬使用に向けた指導の強化に取り組んで参ります。』としており、提示された方針に基づき、今後、具体策が肉付けされることになります。
そもそも、農薬は環境に直接ばらまく毒物であるとの認識の下に使われる化学物質であるため、農水省も、適正に使用すれば安全であるとしているのですが、適正使用を遵守するにはどうすればよいかを明確にし、減農薬の手法や毒性の少ない農薬の研究・開発の推進とセットにして、農業・農薬のあり方を考えていく必要があります。
【参考サイト】農水省:農薬登録制度に関する懇談会等の情報について
我が国における農薬登録制度上の課題と対応方針とパブコメ意見と農水省の見解
農水省の主な見解
【意見】農薬に頼らなければ作れないような農作物のあり方こそが問題である。薬剤耐性獲得の期間が早まっているのに対応して、次々と新しい農薬を作って防除するというあり方こそを見直す時期に来ている。
【農水省見解】農薬は、必要最小限の使用に留めるのが原則であり、かつ、化学合成農薬を使用する場合にも、薬剤抵抗性の発現を抑えるため、同じ薬剤を連続して使用しないなどの指導を行っています。
また、消費者の食の安全に対する関心の高まりや環境に配慮した農業の推進が求められる中、化学合成農薬だけではなく、@微生物や天敵昆虫を利用した生物農薬、A輪作体系や病害虫の発生を抑制する作物の導入などの耕種的防除技術、B害虫を誘引して付着させる着色粘着板などの物理的防除技術など、さまざまな防除方法が開発・利用されるようになりました。これらの防除方法を適切に組み合わせることによって、化学合成農薬の使用を抑えることが可能となり、薬剤抵抗性病害虫の発生を抑えることにもつながると考えます。
【意見】現行農薬取締法のような用途別の縦割り規制ではなく、農薬と同じ成分が使用されている衛生害虫用殺虫剤、不快害虫用殺虫剤、動物用薬、非農作物用除草剤、シロアリ防除剤、衣料防虫剤などを総合的に管理する新たな視点の法律が必要である。(4件)
【農水省見解】農薬の場合には、化学物質としての安全の観点に加え、農業生産に使用するという観点からの有用性や食料供給とのバランス等との関連といった多様な視点から農薬としての使用についての規制を行う必要があります。具体的にどのような対応を行うかの検討に当たっては、このような観点も考慮する必要があると考えます。
【意見】農薬被害者、有機農業団体、環境保護団体などから意見を聞く会を開催し、議論を深める。
【農水省見解】必要性に応じ、検討して参りたいと考えております。
【意見】吸入毒性試験、発達神経毒性試験、免疫毒性試験を入れるべきである。
【農水省見解】一部導入されている試験もありますし、それ以外の試験についても今後導入を検討して参ります。
【意見】農薬登録が厳しく実施されても、「農薬使用安全基準省令」を遵守しなければ、安全は保証されない。同省令の努力規定をすべて罰則を伴う義務規定とすべきである。また、適用作物が食用か非食用かに拘わらず、安全使用基準違反及び適用外使用は、明確に農薬取締法違反とすべきである。
【農水省見解】農薬取締法における罰則は、そもそも法律を遵守させることを目的として置いているものです。罰則を伴うか否かに関わらず、むしろ、引き続き農薬の適正使用に関する指導を強化していくことが重要と考えます。
【意見】農薬取締法の改正により、防除業は法律上の位置づけがなくなり、農薬使用者として位置付けられたところであるが、「今後講ずべき課題」として「防除業者に対しても、適切な指導を更に強化することが必要である」との記載がある。このことは、防除業者の届出制度を再び法律に明記することを想定しているのか。(4件)Br
防除業者には一定の資格(公的な資格)を有する者の配置か、国への届出とするように検討願いたい。農業者については、農薬についての研修の受講を義務づけ、農薬使用資格・免許制度を設けることも検討すべきである。(3件)
【農水省見解】現時点では、資格制度を設けることは現実的ではないと考える。なお、防除業者も含み、「業として使用する」場合に、今後更にどのような規制(あるいは措置)が必要かについて、報告書では今後の検討課題と位置づけた。
【意見】「農薬は安全です」という説明は科学的に間違っている。 農薬も微量なら健康影響はないということを「安全」と表現することは、農業者の誤った使用を助長する可能性も考えられる。農業者には農薬の危険性を十分に注意喚起するとともに、業界などに対して「農薬は安全」と誤認するような説明は改めるよう指導を要望する。(3件)
【農水省見解】今回の中間取りまとめでも、「農薬は安全です」というやみくもな表現の不適切さを指摘している。農薬は適正に使用してこそ安全面、効果面ともに確保できるものであり、今後も適正使用の取組を一層強化していきたい。
【意見】「農薬使用安全基準省令」の強化により、同省令条文に基づく、「住宅地通知」の遵守を義務付けるべきである。(3件)
【農水省見解】住宅地通知については、省令第5号(農薬を使用する者が遵守すべき規準を定める省令)第一条(二)(農薬使用者の責務)の一手段として、内容を具体化したもの。
【意見】住宅地周辺では、有機リン系農薬やクロルピクリンについては厳しい使用規制を求めるべきである。 また、散布地と住宅地の間に緩衝地帯の設置も必要である。(3件)
【農水省見解】農地だった場所に住宅地が造成されてきたという開発の経緯や、我が国の狭あいな農地事情を考慮すると、緩衝地帯を設置することは難しいことから、「住宅地通知」においては、風速や風向に注意し、周辺に影響を及ぼさないよう留意することを明記している。
【意見】「予防原則」に基づいた規制がとられるべきである。
【農水省見解】、「予防原則」の考え方は、EU指令の中で用いられた。EU指令においては、科学的な不確実さが残る場合に、域内での健康保護のために暫定的に採用する措置であり、取られた措置は、合理的な期間内に、更なる科学的データにより包括的なリスク評価を行った上で見直すものとされている。
【意見】同じ作用機構を有する農薬類を一つのグループとしての毒性評価することや、複数の農薬を摂取した場合の複合毒性の評価も、検討する必要がある。
【農水省見解】ご指摘のグループ評価は、米国や英国で既に行われており、複数の農薬を摂取した場合、その影響は相加的であり、相乗的ではないことが報告されている。従って、個々の農薬についての毒性評価の結果に基づき、使用基準等を定めることが重要であると考えている。
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作成:2009-10-26