農薬の毒性・健康被害にもどる
t21802#農薬被曝事故は業務上過失傷害か、警察が被害届を受理(その2)且O商が請負、千葉スカイテックが無人ヘリ散布を行った#09-10
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【電子版資料集】第4号<無人ヘリコプター農薬散布∞現状と問題点>
【参考サイト】スミパイン乳剤、サンケイ化学にあるスミパイン乳剤のMSDS
千葉県印西市の習志野カントリークラブ(以下習志野CC)での無人ヘリコプター空中散布によるゴルファー健康被害(前号詳述)について、なぜ、このような事故が起こったかを調べて来ましたが、その後明らかになった事実をまとめました。
★防除業者「三商」が植栽管理を請負
習志野CCは、全国34都道府県で122のゴルフコースの運営事業を展開している潟Aコーディア・ゴルフの傘下の施設です。この親会社にはコース管理部門があり、運営するゴルフ場に対して、植栽管理についての指導や助言をしています。
一方、習志野CCには、主に芝管理をするグリーンキーパーとして自前の従業員もいますが、一部の植栽管理は且O商(本社東京)に委託されていました。
三商のホームページをみると、『ゴルフ場・公園・工場・街路樹・住宅地周辺・公共緑地・空き地・スポーツ施設(野球場・サッカー場・競技場など)の緑地管理をしております。』とあります。同社には、緑の安全推進協会が認定した緑の安全管理士が8人おり、IPMシステムによる緑地管理も謳っていますが、ゴルフ場での事業として、松くい虫防除:樹幹注入・地上散布・無人ヘリ散布の実施を宣伝するとともに、ゴルフ場請負防除散布の協力会社の募集もしていました。結局、習志野CCでの、無人ヘリコプター空中散布は、三商の従業員ではなく、下請け会社の千葉スカイテックが実施したことがわかりました。
★空中散布実施は千葉スカイテック
千葉スカイテック株式会社は、1988年に地元の滑筺コ農薬の全額出資で設立された会社で、ヤマハの無人ヘリコプターの販売・普及や散布事業を行っています。
そもそも、無人ヘリコプターメーカーの最大手で、70%を超えるシェアを有するヤマハ発動機は、農林水産航空協会を構成する会員となり、ヤマハスカイテック(株) とその特約店を通じて自社の無人ヘリコプターを売り込み、また、スカイテックアカデミーでオペレーターを養成し、認定資格を与えた上、防除事業も手がけるという経営戦略を描いているようです。
6月25日に、習志野CCで、千葉スカイテックがスミパイン乳剤を散布した無人ヘリコプターは、ヤマハ製のRMAX TypeU2機、RMAX1機で、いずれも約24Lの農薬の積載が可能です。このヘリの全重量は、散布装置や燃料、農薬を含め100kg弱で、飛行継続時間は60分となっています。
散布された農薬スミパイン乳剤(登録番号17141号)は、18倍希釈で散布量は27L/ha、予定散布面積は20haで総散布量540Lとなります。
無人ヘリコプターの機体操作は、高所作業車を使用せず、見晴らしの良いフェアウエイから行い、松の梢端が確認できる範囲のみを散布したとのことです。散布時間は4時30分〜7時30分ごろで、被害の報告を受けた時点で作業を終了したそうですが、中止は何時何分だったかは不明です。
それぞれの機体ごとにオペレーターと合図マンが1名づつ配置され、散布地域近辺に人がいないかを確認した/風速は毎秒0〜0.5mであった/防護メガネ以外の防護具を着用していたとのことですが、現実には散布時間帯に近隣ホールにプレイヤーがいたわけですし、被害者たちは、クラブハウスへ戻る途中に無人ヘリコプター2機を目視してもいました。
また、「住宅地通知」にある事前周知は行われておらず、プレイヤーへも散布が行われていることは知らされていなかったことが確認されました。
以上は、千葉農政事務所らの調査でわかったことですが、農薬の希釈や積載場所、飛散低減ノズルの使用、散布業者の帳簿記載状況などを尋ねたところ、情報は入手していないとの答えが返ってきました。こんな有様では、農薬事故の原因を明らかにし、実効性のある再発防止対策にはつながるかどうか、心配です。
さらに、当日の無人ヘリコプターの詳しい散布状況については、習志野CCや防除業者の三商、千葉スカイテックに尋ねても、警察の捜査中ということで、教えてもらえませんでした。私たちの質問に答えることが、自分たちの業務上過失傷害の罪の軽重に影響すると考えての回答拒否だとすれば、それは、むしろ、逆で、回答しない=不実な会社だとのマイナスイメージを与えることにつながるのに、このような態度は不可解です。
私たちは『このたびのような事故の再発を防止するため、その原因はどこにあるかを明らかしたいと思い、お尋ねしたわけです。貴社が、今回の事例で、何らかの社会的責任を感じておられましたら、再発防止のため早急な対策を実施すべきだと思います。改めて、回答くださるようお願いします。』として、質問への回答を求めました。
★使用農薬の届けは二重行政
ところで、ゴルフ場での農薬使用については、農薬取締法第十二条(農薬の使用の規制)第一項 の規定に基づく、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(以下使用基準省令という)があり、その第五条 (ゴルフ場における農薬の使用)で、農薬使用者(ゴルフ場事業者も)に、年間使用計画の提出が義務づけられています。これに反すると罰則が科せられるため、農薬使用者(防除業者とゴルフ場事業者をさす)は、所在する都道府県の農政事務所(地方農政局があるところは直接、局)へ、使用計画を出すことになります。
その年度に使用する予定の農薬について、商品名(剤型を含む)、成分名、種類(殺虫剤、殺菌剤、除草剤、その他)、使用方法(散布等)、使用対象区分(芝グリーン、芝ティー、芝フェアウエー、芝ラフ、樹木、花、その他)を記入するだけで、散布時期や散布量は記載する必要がありません。届出を受けた地方事務所は、提出した農薬が登録されており、適用が正しいかを書面で、確認するのが業務で、計画どおり使われているかなどを調べるために、ゴルフ場に立入調査することはありません。
習志野CCについては千葉スカイテックが4月28日に提出した農薬使用計画書の写しは入手できませんでしたが、農水省によるとスミパイン乳剤等の農薬の種類、使用方法、使用する対象等の記載があったとのことです。
一方、都道府県は、農薬取締法とは別に、独自に、ゴルフ場での農薬の安全使用についての指導要綱や要領を策定しています(なかには市が策定しているところもある)。これらの多くは、農薬表示事項の遵守、農薬使用状況の記録と使用実績の報告や水質の管理、講習会への参加などをゴルフ場事業者に求めています。また、報告内容では、農水省よりも詳しい記載(農薬使用量や散布面積)が求められる場合ありますが、報告しなくても、罰則条項はありません。
ゴルフ場事業者は、国に対して地方農政事務所へ、年間使用計画を提出し、県には、農薬使用実績を提出する(使用計画の提出が求められるところもある)という二重行政になっているのです。
★千葉県の指導要綱
千葉県の場合は、「ゴルフ場における農薬の安全及び適正に関する指導要綱」があり、前号で示した第五条(被害の防止)の条文のほかに以下のような条項があります。
第六条(農薬管理指導責任者)事業者は、農薬の安全かつ適正な使用及び農薬の適正保管管理のために、農薬管理指導責任者を置き、―中略―知事に報告するものとする。
第八条(農薬安全使用研修会等への参加)事業者は、農薬管理指導責任者等の関係者を、知事が行う農薬安全使用研修会等に参加させるものとする。
第九条(農薬使用状況等の記帳)事業者は、農薬使用状況等について別記第二号様式により記帳し、三年間保存しておくものとする。
第十条(農薬使用状況等の報告)に、『事業者は、毎年度、農薬使用状況等について別記第三号様式により、ゴルフ場の所在地を管轄する市町村長及び農林振興センター所長を経由し、知事に報告するものとする。
習志野CCがこれら条文をすべて守っていたら、今回のような事故は起こらなかったでしょう。
ホームページで調べた限りでいえば、宮城県のゴルフ場関連の頁が、いちばん充実していました。要綱と要領のほかに、「ゴルフ場内の森林における航空防除の取扱いについて」と「ゴルフ場内の森林における無人ヘリコプターによる防除の取扱いについて」の文書があり、事故が発生した場合の届出様式も決まっています。他の県もぜひ、これを見習ってほしいものです。
★全国2520のゴルフ場が計画書を出している
農薬取締法に基づき、農薬使用計画を提出しているゴルフ場の数とゴルフ場での農薬使用量を表に示しました。
ゴルフ場数は農水省の資料による08年度のもので、全国合計数は2520で、都道府県別では、兵庫県の207を筆頭に、北海道169、千葉158、栃木141、茨城125となっています。
ゴルフ場で使用される農薬成分についての統計で、公表されているものとしては、PRTR法によるものしかありません。表に示したのは、07年度の届出外排出量の推計値です。
この統計は、ゴルフ場で使用されるすべての農薬を対象としたものではなく、同法の指定物質にある化学物質のみが対象となっています(指定外の農薬を入れれば、もっと数量が増えると思われる)。年間合計256.6トンの内訳は、活性成分が34種238.9トン(全体の93%)で、残りが溶剤・界面活性剤など7種の補助成分です。成分では、殺菌剤のTPN55.1トン、同ポリカーバメート38.5トン、同チウラム27.3トン、除草剤ジクロベニル16.8トン、同2,4-D13.2トン、同グルホシネート13トン、殺虫剤MEP9.3トン、殺菌剤オキシン銅9.1トンの順になっています。
使用量と関連する排出量の1ゴルフ場当りの平均値は表に示したように102kgです。都道府県別で、ゴルフ場数21と少ない東京都の総排出量が60.4トンと第一位にありますが、これでは、ゴルフ場当り2878kgとなり、他に比べて大きすぎます。恐らく、排出量データの算出は、県別の販売数量の届けをもとにしたものなので、流通の盛んな東京都での数量は、使用実態と合わないと思われます。また、この表で、ゴルフ場当りの排出量が200kgを超える富山、石川、福井、埼玉県のゴルフ場は総じて、農薬使用が多いと推定されます。
正確な使用量を知るには、都道府県が受けている使用実績報告をまとめればいいのですが。
表 都道府県別ゴルフ場農薬使用計画提出状況*1とPRTR法届出外排出量推計値*2
*1:08年度の農水省資料より
都道 使用計画 PRTR排出 kg/ 都道 使用計画 PRTR排出 kg/
府県名 提出数 推計量kg ゴルフ場 府県名 提出数 推計量kg ゴルフ場
北海道 169 14330 85 京都府 29 1168 40
青森県 16 1650 103 大阪府 45 3114 69
岩手県 27 2353 87 兵庫県 207 8416 41
宮城県 38 4416 116 奈良県 40 2146 54
秋田県 17 989 58 和歌山県 25 1713 69
山形県 17 2263 133 鳥取県 11 1151 105
福島県 60 4806 80 島根県 13 256 20
茨城県 125 10571 85 岡山県 60 2574 43
栃木県 141 12689 90 広島県 61 3883 64
群馬県 83 10645 128 山口県 48 1575 33
埼玉県 83 17472 211 徳島県 16 1048 66
千葉県 158 12489 79 香川県 24 962 40
東京都 21 60443 2878 愛媛県 26 1148 44
神奈川県 49 3607 74 高知県 12 1392 116
新潟県 47 2432 52 福岡県 73 3668 50
山梨県 41 2566 63 佐賀県 19 968 51
静岡県 93 4520 49 長崎県 25 970 39
富山県 16 9823 614 熊本県 45 2048 46
石川県 22 11080 503 大分県 28 849 30
福井県 12 3791 316 宮崎県 30 1927 64
長野県 72 3057 43 鹿児島県 52 2235 43
岐阜県 95 1229 13 沖縄県 32 3199 100
愛知県 61 6626 109
三重県 90 4451 49 合計 2520 256643 102
滋賀県 46 1935 42
*2:H19年度のPRTR法届出外排出量推計結果(農薬)
【都道府県のゴルフ場使用農薬関連の指導要綱など】
北海道 青森県 岩手県 宮城県 東京都
神奈川県 長野県 石川県 福井県 滋賀県 山口県
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作成:2010-03-28