残留農薬・食品汚染にもどる
t22305#厚労省 カカオ豆の残留基準で緩和の動き〜検査部位は外皮除去、11農薬で基準値アップ#10-03
【参考サイト】日本チョコレート・ココア協会の厚労省への要望書
厚労省、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会での基準整備案
当グループの意見書と回答(2月25日)、要望と回答(3月15日)
カカオ豆の残留基準について、日本チョコレート・ココア協会などの業界団体が、EU並みの緩和(検査部位を豆全体から外皮を除いた可食部にする。10以上の農薬の分析精度を下げて、EU並みの数値を基準にする)を求めていることは、記事t21704で述べましたが、本年1月27日の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会で、厚労省が業界案をそのまま受け入れた改定案を検討していることが、同省の2月24日の報道発表で明らかになりました。
早速、私たちは、厚労省医薬食品局食品安全部基準審査課と前記部会に、質問を含む要望を意見書という形で送りました。その内容と厚労省からの回答を次に示します。
★疑問に答えられない厚労省
カカオ豆の基準違反が多い輸入相手国はガーナとエクアドルで、前者ではピリミホスメチルやクロルピリホスなどの殺虫剤、後者では除草剤2,4-Dです。生産国での農薬使用状況を尋ねましたが、あずかり知らぬというのが回答です。残留基準や一律基準をを超えた原因も不明なまま、現在の検査法や基準を変えて基準違反となる事例を少なくしようという行政姿勢には納得できません。
【意見1】農薬の使用状況について
カカオ豆の農薬残留基準の整備を行う前に、貴省は輸出国の農薬使用状況を調査すべき
と思います。輸出国での農薬使用について、以下のことを教えてください。
1)カカオ豆の輸出国での農薬使用について、日本のような安全使用基準が存在し、
それを遵守する体制がとられていますか。ガーナ、エクアドル、ベネズエラ、
象牙海岸共和国、インドネシアの状況を教えてください。
2)上記5カ国では、カカオ豆の栽培から発酵、乾燥の過程で、他場所からの適用
外農薬や殺虫剤、除草剤等の飛散防止の対策がきちんとなされていますか。
特に、カカオ業界の下記のHPをみると、カカオ豆の発酵時(バナナの葉で覆う、
木箱使用など)や乾燥時(天日干し)の工程での飛散が懸念されます。
3)上記5カ国で、カカオ豆の乾燥促進剤として、2,4-Dほかの除草剤は使用されて
いませんか。
4)上記5カ国で、カカオ豆にポストハーベスト用殺虫剤や防黴剤は使用されていま
せんか。
【回答】わが国が輸入しているカカオ豆について、それぞれの生産国での使用農薬の種類、
農薬の適正使用基準の適用状況または環境中からの汚染状況については、詳細は承知し
ておりません。
★検査部位変更には科学的根拠なし
カカオ豆の検査部位を豆全体から、約15%にあたる外皮・胚を除いた可食部にするとの提案がされているため、それぞれの部位にどの程度の農薬が残留しているのか尋ねたのですが、何のデータもないとの返事です。
除去する外皮・胚にどれだけの農薬が残留しているのか、不明なままで、単に食べないからということで、分析の対象から除いていいものでしょうか。
仮に、外皮・胚と可食部に同じ比率で農薬が残留しておれば、両者を分けて分析する必要はありません。しかし、ドリフトなどが原因で、外皮の方の農薬残留比率が高い場合は、可食部しか分析しないというのであれば、外皮にいくら農薬が検出されてもいいということになります。後述するように、カカオ豆から可食部を分離する前には、豆全体の加熱や破砕が行われますから、検査部位ごとのきちんとした科学的なデータを示し、外皮を除いたカカオ豆可食部のみの分析と残留基準が妥当かどうかを検討すべきです。
【意見2】カカオ豆の分析と残留基準について
1)カカオ豆の外皮を除いたものを分析に供する方針をお示しですが、カカオ豆の残留
農薬成分ごとに外皮及び胚に残留する農薬の比率はどの程度か教えてください。
【回答】詳細を把握しておりません。
2)外皮を含むカカオ豆の残留農薬と外皮を除去した場合の残留農薬では、どの程度、
異なるかデータをお示しください。
【回答】詳細を把握しておりません。
3)分析に際して、提案通りだと、外皮除去のための装置が必要ですが、国の予算で手
配する場合、必要な台数と予算をお示しください。
【回答】 規格基準が改正された際には、必要に応じてそれに対応した措置を講じること
としております。
【コメント】チョコ・カカオ業界の提案による方法は、非加熱法を採用し、破砕と風選を
組み合わせたもので、カカオ豆の産地により、風選条件が異なるという複雑なものです。
一方、EUの処理方法とは 130℃で予熱後、外皮を除去する方法です。
実際に分析をする検疫所や地方自治体の分析機関はどちらを選ぶのでしょう。
分析の手順を考えれば、従来通りの豆全体の方が効率的なのはいうまでもありません。
4)カカオ業界の調査では、カカオに使用されない農薬の汚染が豆にみられるとしていま
す。とすれば、残留農薬は他からのドリフト等によるもので、適切な農薬使用が実施さ
れれば、いままでの残留分析方法と基準で大きな問題は生じないと思いますが、貴省は
どのようにお考えですか。
【回答】環境由来の汚染については、基準の如何にかかわらずその汚染原因を明確にし、
汚染の防止、低減を図るべきと考えています。
5)カカオ豆で外皮を除去して分析に供するとした場合、他の豆類やナッツ類の分析にも
同様な措置がとられる恐れはありませんか。
【回答】 他の豆類やナッツ類については、現行の規格基準において、アーモンド、ぎん
なん、くり、くるみ、ペカン及びその他のナッツ類の検査部位は、「外果皮を除去した
もの」とされており、可食部について検査を行うこととされています。
【コメント】厚労省があげた5種はいずれも、外皮=殻をむいて中身を食べるもので、カ
カオ豆のように外皮ごと破砕して、中身をとりだすものではありません。
カカオ豆から可食部を分離する工業的方法は、@又はAのようで、いずれも、豆全体を
焙煎したり、予熱した後、粉砕します。
@豆→焙煎→粉砕・篩・風選で外皮・胚除去→ニブ(可食部)→磨り潰し→カカオマス
A豆→予熱→粉砕・篩・風選で外皮・胚除去→ニブ→焙煎→磨り潰し→カカオマス
粉砕工程では、外皮等と可食部は混合状態にあります。その後外皮等が除去されますが、
最終的に可食部に、外皮等が残ります(コーデックス基準では外皮・胚混入率は脂肪分
のない固形ベースで5%以下である)。
豆全体を処理する工程で外皮・胚に残留した農薬が可食部に移行する恐れもあります。
安全性を考えれば、外皮を含むカカオ豆の農薬分析を行い、残留基準も外皮を含む豆に
する方が、消費者が摂取する農薬量を少なくすることができるのではないでしょうか。
★残留基準はEUに倣えとは
現行のカカオ豆の残留基準は128農薬について設定されていますが、このうち、0.01ppmまでの分析が困難だとして、高い基準に設定されたのが70農薬あります。本来なら、精度の高い分析方法を決め、すべて、一律基準0.01ppmとすべきものです。
EU並みの基準にしようとする厚労省の改定案では、下のように、今より甘い基準になる農薬が11、逆に厳しくなる農薬が5、同じ基準のままの農薬が10あります。
しかも、26農薬についてのEU基準のほとんどは、分析の検出限界に相当する数値です
基準が緩和される農薬:γ-BHC、DDT、カルボスルファン、クロルピリホス、
クロルピリホスメチル、シペルメトリン、チアクロプリド、メソミルと
チオジカルブ、ブロモホスエチル、ペルメトリン、モノクロトホス
基準が強化される農薬:カルボフラン、ダイアジノン、フィプロニル、プロパルギット、
ブロモホス
日本とEUで基準が変わらない農薬:イミダクロプリド、エンドリン、カルバリル、
クロルフェンビンホス、ジメトエート、テルブホス、ビフェントリン、
ピリミカーブ、ピリミホスメチル、ホルモチオン
【意見3】私たちは、カカオ豆の検査部位は外皮を含む現状のままで問題ないと考えます。
また、残留検査に際しては、検出限界値を0.01ppm以下である分析方法を採用するとい
う当初の貴省の方針に沿ってすすめてもらいたいと思います。
現在の分析方法で、検出限界が0.01ppmをクリアできないケースもありますが、その
一部には、分析検体の数量を増やすことで対処できるものもあるでしょう。
分析技術の進歩で、精度をあげることも可能です。
もし、外国の分析精度の方が悪ければ、日本の優れた技術を外国でも使ってもらい、
逆に外国の方の精度が良ければ、日本にその技術を取り入れて、分析精度が高く、検
出限界の低い方法を採用すべきと考えます。
私たちが口にする農薬絶対量がより少なくなる方向で、カカオ豆の残留基準を整備し
てください。
【回答】ご意見として承りました。
本件については、今後、薬事・食品衛生審議会での審議を行っていく予定としておりま
す。
【意見4】以上の私たちのこの意見書を別添参考資料とともに、委員各位に配布の上、
ご検討くださるようお願いします。
【コメント】この項には回答がありませんでした。業界の要望と同じように部会の各委員
に配布されたのでしょうか。
★基準は日本とEUの低い値を採用すべき
分析方法を変えると、分析に時間がかかる上、装置にも新たな予算が必要です。
何のデータも示さない以上、外皮を含むいままで前処理で、十分だと思います。残留基準は、外皮を含んだいままで通りのカカオ豆のものとし、基準はEUと日本で低い値をとることが望まれます。
カカオ豆の残留農薬の根本的な解決は、意見2の4項にある 生産国での適切な農薬使用です。厚労省も、この点の認識はあるようですが、考えているだけでは、なんらの改善にもなりません。生産国における農薬使用方法が環境汚染を助長するならば、それを防止するのが、輸入国の務めです。日本では、適用外の農薬がドリフト汚染しないように、農薬使用者には指導がなされています。カカオ豆の輸出国に対しても、きちんと防止策を求めるのが本筋です。日本が率先して、欧米をはじめとするカカオ豆輸入国のすべてに呼びかけて、汚染防止対策等の実施を生産国に指導すべきです。そのことは、生産国における農薬環境汚染を減らし、住民の健康にも有益です。
2012年8月20日の厚労省通知:「カカオ豆(外皮を含まない。)」の残留農薬等の分析に係る検体の調製について
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作成:2010-06-27、更新:2012-08-30