農薬の毒性・健康被害にもどる
t22401#有機リン剤アセフェート(オルトランなど)のADI10分の1に〜代謝物メタアミドホスも残留で、農水省が「かんきつ」適用除外の事前指導#10-04
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【参考サイト】メタミドホス:農薬評価書
アセフェート:パブリックコメント募集と農薬評価書案
3月27日夜、3年前日本での中毒被害が発覚した中国産冷凍ギョーザ事件の容疑者(製造元の天洋食品の元臨時従業員)が、中国警察当局に逮捕されたとの報道が流れました。事件の詳細は、まだ分りませんが、中毒の原因は、メタミドホスという有機リン系殺虫剤でした。
日本では、この事件を契機に、食品安全委員会が、メタミドホスの健康影響評価を見直し、08年3月のパブリックコメント募集を経て、ADI(一日摂取許容量)は当初の0.004mg/kg体重/日から0.0006mg/kg体重/日となりました。
メタミドホスの農薬登録は日本にはないものの、汎用農薬である殺虫剤アセフェート(オルトラン)の代謝物のひとつとして、国産農作物に残留がみられるため、その残留基準の早急な見直しが求められますが、いまだ、ADIの再評価結果は反映されないままになっています。
一方、アセフェートについては、08年8月から食品安全委員会農薬専門調査会総合評価第一部会で毒性評価が始まりましたが、動物実験結果で、赤血球の減少と鼻腔腫瘍の増大などをどう評価するかで、論議がつづき、4回目の09年11月25日の第36回部会で、ようやく、ADIを0.0024mg/kg体重/日とするとの決定がなされました。
★09年12月に異例の農水省指導通知が
農水省は、12月3日に、消費・安全局課長補佐から、地方農政局安全管理課等宛てに「アセフェートの適用作物から「かんきつ」が削除されることについて」という指導通知を発出しました。その要旨は、次のようです。
・農薬専門調査会で、アセフェートのADIは0.0024mg/kg体重/日、暴露評価
対象成分はアセフェート及代謝物メタミドホスとする部会案が決定され、こ
の結果を基に申請者が適用作物について見直しを行ったところ、ADI占有
率の観点から「かんきつ」の登録を削除せざるを得ないことがわかった。
・ADIが正式に決定された後、厚労省の薬事・食品衛生審議会において残留
基準値設定の審議が行われる。審議が最も早く進んだ場合、平成22年の夏頃
に基準値が告示され、猶予期間を経た平成23年春頃までには、アセフェート
の「かんきつ」への適用がなくなる可能性がある。この時期は「かんきつ」
中晩柑類が市場に出回る時期であり、アセフェートの「かんきつ」への残留
基準値がなくなった場合、一律基準の適用を受け、基準値超過を招くおそれ
がある。
・本剤は、「かんきつ」中晩柑類に対し5 月から9 月まで使用されることか
ら、基準値告示時に生産者に対して周知を行ったのでは、生産現場に情報が
十分に行き渡らず、混乱を生じる恐れがあり、関係者より、「かんきつ」生
産現場に対し、先行して周知が行われる。
・今後、アセフェートに登録のあるその他作物についても見直しが行われ、同
様に関係者より連絡が行われる。
アセフェートのADIは国際組織であるJMPRが2005年に設定した0.03mg/kg体重/日が援用されていましたが、農薬専門調査会の再評価によりその10分の1以下の0.0024mg/kg体重/日とされたのです。
本来なら、この評価値について食品安全委員会がパブリックコメントを求め、さらに薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会→薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会→薬事・食品衛生審議会での審議を経て、厚労省が残留基準案を公表し、これについてもパブリックコメントを求めた上、告示されることになるのですが、その手順を踏む前に、あらかじめ、ある農作物の登録事項の変更−この場合、「かんきつ」の適用除外−を予告し、生産者への指導を促すことは、異例中の異例です。
すでに、全農・北興化学は「かんきつ」適用削除と返品についてのお知らせを出しています。
★ラットの慢性毒性/発がん性毒性試験から無毒性量を決定
3月16日に開催された食品安全委員会第61回農薬専門調査会幹事会の開示資料に、アセフェートの農薬評価書たたき台があります。これをみると、ADI評価の基になった最小無毒性量は、ラットの慢性毒性/発がん性毒性試験結果によるもので、『50 ppm 以上投与群の雌雄で赤血球及び脳コリンエスラーゼ活性阻害(20% 以上)が認められたので、無毒性量は雌雄とも5 ppm(雄:0.24 mg/kg 体重/日、 雌:0.31 mg/kg 体重/日)であると考えられた。』となっています。この0.24を安全係数100で除して、0.0024の数値を得たわけです。ほかにも以下のような記述があります。
『発がん性試験において、ラットの雌雄で鼻腔の腫瘍発生が認められ、検体投与の影響による可能性が否定できなかった。また、マウス雌で肝腫瘍の発生増加が認められた。これらの腫瘍は、遺伝毒性試験の結果より、いずれも発生機序は遺伝毒性メカニズムによるものとは考えがたく、本剤の評価にあたり閾値を設定することは可能であると考えられた。』
『代謝物U(メタミドホス)は植物中の主要代謝物であり、親化合物より急性経口毒性が強かった。従って、食品中の暴露評価対象物質をアセフェート及び代謝物U(メタミドホス)と設定した。』
『ヒト志願者による試験が多数実施されているが、動物試験の最小毒性量で認められた毒性所見は、コリンエステラーゼ活性阻害以外にも認められているため、ADI の設定には動物試験の結果を用いることが妥当と判断された。』
★41種のアセフェート製剤が販売されている
アセフェートは、オルトランという商品名で知られており、現在登録のある製剤は、単剤28(うち粒剤10、水和剤と水溶剤各6、カプセル剤3)、複合剤13(うちエアゾル7、水和剤4)で、多くの野菜や果樹に適用があるだけでなく、桜のアメリカシロヒトリやモンクロシャチホコなどには樹幹注入用のカプセル剤が、花卉・庭木や家庭園芸用には、エアゾル型複合剤が登録されています。
出荷量の推移は図−省略−のようで、有機リン系殺虫剤の中ではMEP(フェニトロチオン=スミチオン)についで多い成分です。
★アセフェートとメタミドホスの残留基準の早急な見直しと残留調査強化を
メーカーが実施した農作物の残留性試験の事例のいくつかを表1に示しました。
農薬使用後の日数が経つにつれ、農薬の分解や作物の生長・肥大により、残留濃度は親化合物のアセフェートも代謝物のメタミドホスも減少し、また、作物中に残留しているメタミドホスはアセフェートに比べて少ない例が多いですが、作物や剤型(特に粒剤=表中G)によっては、経日変化が少なかったり、メタミドホスが増える事例もみられます。これは、アセフェートの浸透性のためかも知れません。
農薬評価書たたき台に『アセフェート及び代謝物U(メタミドホス)を分析対象化合物として作物残留試験が実施された。可食部において、アセフェート及び代謝物Uの最高値は、いずれも最終散布14 日後に収穫したほうれんそう(茎葉)の12.4 及び1.78 mg/kg であった。』と記載された事例は表中に*印をつけました。
アセフェートとメタミドホスの現在の残留基準には、作物残留性試験の最大残留値の2倍以上に設定されたものもあります。表2には、いずれかが5ppm以上のものを示します。 最近問題になっている浸透性の高いネオニコチノイド系殺虫剤に匹敵する基準がみられます。アセフェート剤の登録事項の変更で、「かんきつ」を除外すると予告されていますが、みかん類の残留基準は5ppmで、国民平均摂取量の1日あたり約44gから算出されるアセフェート摂取量は0.22mgとなり、食品の種類別ではいちばん大きくなるからだと思われます。
私たちは、農薬ポジティブリスト制度の施行前の04年8月のパブコメで、アセフェートとメタミドホスをひとまとめにし、残留基準は、それぞれの数値の低い方を採用するよう求めてきましたが、受け入れられませんでした。この方針を取り入れた残留基準をできるだけ早く決めるべきです。
それにしても、アセフェートの「かんきつ」への適用除外の登録事項変更も、まだ実施されていない段階で、今回のような指導には、法的根拠はありません。
食品安全委員会はアセフェートのADIについてパブコメ募集(締切5月21日)をはじめましたが、@農薬登録の変更、A残留基準の変更、B残留農薬検査の強化などの対策をとるのが筋というものです。
表1 アセフェートの作物残留性試験結果 −省略−
表2 アセフェートとメタミドホスの残留基準 −省略−
【参考サイト】日本食品化学研究振興財団HPにある残留基準:アセフェートとメタミドホス
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作成:2010-04-28