環境汚染にもどる

t22403#農水省の有機リン系農薬の散布試験から〜農林水産航空協会に委託した結論は"予算の無駄使い"?#10-04
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【参考サイト】農水省:有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業・事業推進検討委員会
           農林水産航空協会H21年度の検討委員会
            第三回委員会での報告書案H21年度の最終報告書
       環境省:農薬飛散リスク評価手法等確立調査検討会
           農薬吸入毒性評価手法確立調査部会

 農水省が、07年度に設置した「有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業・事業推進検討委員会」は3年目を迎えました。事務局は、初年度財団法人残留農薬研究所におかれましたが、08年度、09年度は、社団法人農林航空水産協会に移り、モデル試験(実験室における有機リン剤の揮発速度調査)、中規模試験(パイプハウス内の気中濃度調査)、大規模試験(実際の農地を用いた飛散量、気中濃度調査)が実施されてきました。ここでは、09年度の報告書案の結果を紹介します(08年度の報告については記事t21502参照)。

★大規模試験
 2.6haの大豆畑で、スミチオン乳剤(MEP=フェニトロチオン50%)を用い、前年と同様な成分投下量50mg/m2になるように設定した地上散布と無人ヘリコプター散布が実施されました(散布時間は、地上2.5時間、無人ヘリコプターは30分)。09年の地上散布は前年度の動力噴霧器から可変ブームをもつ乗用管理機にかえられましたが、無人ヘリコプターの機種や散布条件は同じでした。
【落下量】MEPの飛散について、30分ごとにろ紙をかえて、散布中から散布後150分まで調査されました。07、08年では、散布区域内における落下量は、計画投下量よりも少なく、高さ7mに設置した測定器を避けるように散布が実施されたことが問題となりました。
 表1に示したように、散布区域内における最大落下量は、07年、08年は計画投下量50mg/m2よりもはるかに少なく、09年は地上防除区では「少ない」、無人ヘリ防除区では「かなり多い」でした。
 散布区域外の最大落下量は、無人ヘリ防除区の方が地上防除区に比べ明らかに多く、散布区域からの距離が遠のくに従って、飛散量が減少しているものの、風速や風向によって、飛散量が変化することは必定です。最大量飛散しても、危険性のないよう緩衝帯幅を決めることになるでしょうか。報告書案では、無人ヘリコプター散布について、『縁取り散布などを行うことで散布区域外への流出軽減を図ることができると考える。』としているだけですが、これは、すでに指導されている内容です。
 表1 MEP落下量調査結果のまとめ(実測された最大値。単位:mg/m2。計画投下量50mg/m3)

  @散布区域内  07年 08年 09年             07年 08年 09年
    地上防除区 0.02   0.47  3.8    無人ヘリ防除区  6.43  0.89  140

  A散布区域外(風下側) 5m地点        20m地点       50m地点 
                    07年  08年  09年   07年  08年  09年    07年   08年   09年
  地上防除区      0.03  0.06  0.03   <0.01  0.04  0.01   <0.01  0.01   <0.01
  無人ヘリ防除区  0.57  0.54 24      0.03  0.17  1.1     0.02   0.13   0.23
【気中濃度】MEPの気中濃度調査は、散布中から散布4日後まで行われました。空気の採取時間は散布後3時間までは、30分間、その後は60分間ポンプ吸引が実施されました。  08年は、14日後でも域内の最大MEP濃度が地上散布で0.02、無人ヘリコプター散布で0.03μg/m3でしたが、09年は散布4日後までしか測定されておらず、この時の最大濃度は、無人ヘリコプターの散布で区域内1.1、区域外0.08μg/m3でした。

 散布区域内外の最大検出値を表2に示しました。区域内では、09年は地上散布も無人ヘリコプター散布も3.9μg/m3で、前者では散布中でしたが、後者では、散布2時間後に検出されました。
     表2 MEPの気中濃度の調査 (単位μg/m3)
  @散布区域内での予測値と最大実測値
          調査年度 圃場面積  風速  気中濃度
              ha  m/秒  予測値      実測値
  (地上防除区)                07年度 09年度
       07年度   0.5   0.9   0.28   0.39   1.77
       08年度   3.0   2.2   0.12   0.17  14.5
       09年度   2.6   0.9   0.29   0.41   3.9
  (無人ヘリ防除区)
       07年度   4.5   0.9   0.30   0.41   3.00
       08年度   3.0   0.9   0.29   0.29   5.27
       09年度   2.5   0.3   0.88   1.22   3.9

  A散布区域外     20m地点        50m地点 
                07年  08年  09年     07年   08年  09年
  地上防除区     0.41   2.16  2.4     0.05    2.66   1.7
  無人ヘリ防除区 0.83   1.26  1.6     0.44    0.81   0.17
 報告書案では、『今回の気中濃度調査では、地上防除区及び無人ヘリ防除区の散布区域外でフェニトロチオン=MEPが検出されたが、瞬間値(調査時間帯の気中濃度)においても、環境省が定めた気中濃度評価値(5日間平均気中濃度)10 μg/m3 よりすべて低かった。』と締めくくられています。
 また、『3ヶ年の調査から気中濃度は、無人ヘリ防除区に比べて地上防除区で若干高い結果がみられたものの総じて大差はなかった。両防除区における気中濃度は、07年、08年度及び09年の調査のデータから、調査圃場の面積(フェニトロチオンの総投下量)が影響していると考えられる。』と考察されている点は注目されます。私たちは、松枯れ空中散布についての自治体や森林管理署へのアンケート調査で、1度に散布する面積を質問していますが、これは、面積が大となる と、地域での総農薬散布量が増え、気流によって、気中濃度が局所的に高くなりやすいことを懸念しているからです。今回の調査で、このことが確認されたということです。
 さらに、表2-@に、散布区域内の気中最高濃度での、予測値と実測値の比較を示しましたが、報告書案では、『計算値は実測濃度に比べて大幅に低い値であった。このことはASPLM式が農薬の揮発のみを考慮しているのに対して、大規模調査では散布中は噴霧による大気への流出、散布後は揮発による流出を気中濃度として捕らえていることによるものと考えられる。』とされています。
 この計算値はMEPの揮発速度、気象条件・散布面積などをパラメーターとした渡辺の理論式(ASPLM式)を用いて気中濃度を予測したもので、実測値は計算値よりも高く、農薬の揮発のみを考慮していてはだめで、農薬ミストの大気への流出も気中濃度の予測に取り入れねばならないことを示唆しています。

(表2-@及び青字の個所は報告書案をもとに書きましたが、最終報告では、この項は大幅に修正され、『計算値は実測濃度に比べて大幅に高い』と逆の結果になっているので、削除します。記事t22904参照)。

★中規模試験〜芝試験からポット栽培の大豆へ
 散布後の農薬の大気中への流出状況を調べるため、農薬散布後に、作物をビニール張りのパイプハウス内に移し、気中濃度の変化を測定する試験です。08年度は、芝への散布が行われましたが、09年度は、大規模試験に合わせて、ポット栽培した大豆が用いられました。
 使用された農薬は前年とは異なり乳剤だけで、マイクロカプセル剤はありませんでした。スミチオン乳剤(MEP50%)とダイアジノン乳剤(ダイアジノン40%)の2製剤で、地上散布を想定した低濃度多量散布と無人ヘリコプター散布を想定した高濃度少量散布の2種の希釈倍率(前者が1000倍、後者が8倍)で実施されました。散布量は、MEPで50mg/m2、ダイアジノンで40mg/m2でしたが、散布時のろ紙測定による落下量は、低濃度多量散布のMEPで12、ダイアジノンで7.7mg/m2、高濃度少量散布のMEPで32、ダイアジノンで14mg/m2とすべて計画量以下でした。
 それぞれの農薬試験ごとに鉢植え大豆は324個用意され、散布終了後、順次、約30m離れた、気中濃度測定用のパイプハウスに持ち込まれ、MEPとダイジノン散布ポットが交互に配置され、散布60時間後まで、気中濃度の変化が測定されました。
【気中濃度調査】一例として、ダイアジノンの低濃度大量散布の場合の、散布区域 (ポットを置いた配置した個所で、測定高は0.2mと1.5m) の気中濃度推移を図−省略−に示しました。実験の目標である流出率の算出は実施されておらず、以下のような傾向が報告書案に記載されているだけです。
・低濃度多量散布及び高濃度少量散布においては、区域内及び風下での気中濃度は高さ1.5m地点より高さ0.2m地点の気中濃度が高かった。
・低濃度多量散布及び高濃度少量散布においては、散布当日のダイアジノンの気中濃度がフェニトロチオンの気中濃度より高い傾向が見られた。
・フェニトロチオン及びダイアジノンは、低濃度多量散布において散布後の気中濃度が高濃度少量散布より高く、その後の気中濃度は高濃度少量散布が低濃度多量散布より高い傾向であった。
 この程度の知見を得るのに3年もかかるとは、税金の無駄使いです。

★使用が続く有機リン剤〜ピラクロホスは10年3月24日登録失効したが −省略−
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 表3 有機リン系農薬の原体数量(生産量+輸入量−輸出量)の推移

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作成:2010-09-24