環境汚染にもどる

t22501#農薬によるミツバチ被害〜都道府県アンケート調査と畜産草地研調査結果より (その1)被害ミツバチから、農薬クロチアニジンなど検出#10-05

【関連記事】その2その3
【脱農薬ミニノート】2号:ミツバチは農薬が嫌い
【参考サイト】農水省・厚労省の通知:2010年度農薬危害防止運動の実施について
       日本養蜂はちみつ協会

  岩手県で、05年、06年と続いたミツバチ大量死が、ネオニコチノイド系殺虫剤(以下「ネオニコ」)のクロチアニジン(商品名ダントツ)の使用に起因することについては、本誌で何度もとりあげてきました。(記事t17005記事t17105e記事t18106d記事t18206)。
その後、同県での養蜂業者と農薬使用者間の損害賠償係争は、盛岡簡易裁判所の和解案『生産(水稲)農家等が行う害虫駆除を目的とした農薬散布による養蜂に対する危害を防止するため、岩手県の指導の下に、関連農業 協同組合や生産(水稲)農家の協力も得て、相互の信頼に基づいて必要な対応策を講ずるよう努力するものとする。』で一応の決着をみていましたが(記事t19005)。ネオニコによるミツバチ被害は、山形県や北海道、長野県でも聞かれましたが、その実態は不明なままになっていました。

★ミツバチ大量死から農産物検査法廃止を求める
 私たちは、ミツバチ被害の原因の一つが、水田でカメムシ防除に使用されたネオニコ系農薬であることを知り、2006年からカメムシ防除の検討を始めました。その結果、農家がカメムシ防除をせざるを得ない理由として、農産物検査法による米の等級格差の問題が浮かび上がってきました。カメムシによる吸汁痕が斑点米となり、それが1000粒に2-3粒になると二等米として格付けされ、玄米60キロ当たり一等米に比較して1000円近く安くなるため、カメムシ防除がなされるということがわかりました。そのため、現在は、根本原因である農産物検査法の廃止を求めて、米生産者や消費者とともに運動しています。(記事t22405など。米の検査規格の見直しを求める会。)
 一方、農水省は花粉交配用のミツバチ不足問題が顕著となった09年、イチゴ、メロン等果菜類などの園芸作物の生産低下を懸念し、「花粉交配用ミツバチの需給調整システム」の構想を掲げ、ミツバチの供給に躍起となりはじめました。同年6月には、「ミツバチの不足問題に関する有識者会議」を立ち上げ、『我が国養蜂群の健全性の現状調査と健康状態に影響する要因の解析』という研究課題で、農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所の調査が始まりました(以下畜産草地研調査という)。
 このような中、私たちは、ミツバチ被害の実態等を知るため、本年3月、都道府県にアンケート調査を実施し、45都道府県からの回答を得ました。回答がなかったのは、宮城県、茨城県の2県でした。以下に畜産草地研調査のうち農薬に関する報告とアンケート回答の主な内容をまとめました。

【参考サイト】農水省;花粉交配用ミツバチの不足問題について

★ミツバチ被害の裏には縦割り行政が
 農水省生産局畜産部畜産振興課の調べによれば、日本国内の養蜂業者数は07年4868、08年5018、09年5027、養蜂群数は07年18.1万群、08年17.3万群、09年17.1万群でした。実は、ミツバチの飼育業者は、「養ほう振興法」の対象とされています。この法律の目的は『みつばちの群の配置を適正にする等の措置を講じて、はちみつ及びみつろうの増産を図り、あわせて農作物等の花粉受精の効率化に資する』となっており、業者は、都道府県に、氏名又は名称及び住所/ほう群数/飼育の場所及びその期間等を届けねばならず、さらに、他の都道府県に転飼する時には、許可が必要となっています(業でなく、趣味でミツバチを飼う人は法律の対象外であり、転飼については都道府県の養ほう振興法施行細則や条例で、届出が不要になる場合もある)。
 ミツバチ飼育に関しては、ハチミツ等を生産するという観点から、家畜と同じ畜産部署が、一方、農作物の花粉交配昆虫という観点から、生産流通に係わる部署が担当しています。ミツバチ大量死が発生した場合、その原因が病気やダニならば、畜産部署が対応しますが、農薬が原因と疑われる場合は、農薬担当部署のおでましとなります。ミツバチ被害の裏には、農水省やその出先機関、都道府県の農政部の縦割り行政が見え隠れしています。

★アンケートにみるミツバチ被害
 ミツバチの大量死やその個体数の減少などの被害の有無について、アンケートでは、07-09年に限って問いました。その結果、事故例が示されたのは、次の8県でした。
 【岩手】斃死または遺失(巣箱の概ね2割以上)の発生状況は、 07年7戸、08年3戸、
   09年12戸でした。
 【山形】08年、50%以上死亡群27(地域の3.6%)。農薬はビームゾルとダントツ
   フロアブル(事例は農薬が原因と断定されていない)。これは、降雨等により
   無人ヘリコプター防除時間帯を変更したが、事前に防除実施団体から養蜂協会
   への連絡が、会員全員に行き届かなったため。
 【長野】08年及び09年に大量死が発生。09年の大量死1件93群(全滅でない)では、
   ジノテフラン0.0045μg/頭検出されたが半数致死量以下。
 【岐阜】09 年大量死が1件、病気等の可能性も否定しきれず、原因が農薬とは断定
   できなかった。
 【三重】09年6件(ダニ、病気、天候不良、原因不明を含む)
 【和歌山】 08年度調査において、一部地域でミツバチの死亡が確認された。
 【愛媛】08年7月、東温市での水田用無人ヘリコプター散布(ブラシンバリダゾル+
   MRジョーカー)1件 11群
 【長崎】09年5月19日、佐世保市、2戸7群。松くい虫空中散布スミパインMC被害判明
   は5月26日
 このほか、青森県は、被害はあるが、原因不明と答えています。また、北海道では07年、08年とミツバチ大量死が報告されていますが、回答には、被害報告なしとなっており、農薬が原因とは判断されていないようです。
 不思議なのは、最初に問題となった岩手県が「ミツバチの斃死または遺失の原因を特定する調査は実施していない。」と答えていることです。また、無人ヘリコプターによる被害が山形と愛媛で2件みられたほか、松枯れ空中散布で長崎県佐世保市に被害がでていたことも注目されます。
 農水省農薬対策室が公表しているミツバチ被害は、このところ、年間1-4件です。  昆虫であるミツバチには百害あって一利なしの農薬が、慣行農法では不可欠なものとなっており、花粉交配昆虫として、ミツバチを利用しない多くの農業生産者に対して、農作物や果樹などの蜜源近くにハチ箱を置かねばならない養蜂業者は弱い立場にあることが、原因農薬の追及がやりにくい状況をつくりだしていることは、じゅうぶん予想できるのですが、それにしても、この数は少なすぎるのではないかとの疑問を、私たちは持っていました。
 私たちのアンケート調査の結果から、多くの府県は、ミツバチ被害の相談窓口を畜産部署(含む家畜保健衛生所)や生産流通部署においており、農薬が原因であると確定するためにサンプルを分析するケースは少ない、すなはち、ミツバチ被害を農薬の面から積極的に調べようとする姿勢がみられないことが、わかりました。

★畜産草地研調査では09年の農薬被害22件〜ネオニコ系殺虫剤も検出
【参考サイト】農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所:4月13日プレスリリース調査研究報告書

 一方、畜産部署のフィルターを通さず、養蜂家からの直接回答を得た畜産草地研調査では、表1のように、09年の農薬被害件数(表中()の数値)は22件を超えています。月別の件数内訳をみると7-8月が12件、3-5月と6-7月が4件でした。夏が多いのは農薬使用が増えるからでしょうか。
 同研調査では、養蜂家から送付されたハチ試料について、ネオニコチノイド系のクロチアニジンとジノテフランの分析を行っています。巣門で大量死したハチ26検体(表中*印)、農薬散布により群が弱体化したハチ16検体(表中#印)についての分析結果を表2にしました。
大量死グループでは92.3%の24検体から農薬が検出され、うち16検体はクロチアニジンのLD50=0.0079μg/匹(今回の測定値)を超えていました。弱体化グループでは68.8%の11検体に農薬が検出されました。ジノテフランは両グループ合わせて13検体から検出されましたが(2種の農薬が検出された試料もある)、いずれもLD50=0.074μg /匹以下でした。
試料39、40、41は検体を採取した蜂場から半径5km以内で、クロチアニジン系粉剤を水稲に散布した記録のあるケースでした。また、試料3と42は農薬の検出はなく、アメリカ腐蛆病菌DNAが検出されたとのことです。
 公表されたデータだけでは、農薬の散布状況やハチが死亡したのは散布後何日だったかなどの情報がないため、クロチアニジンやジノテフランを直接被曝した経皮的な致死か、散布で農薬汚染した蜜や花粉、水を摂取したことによる経口的致死かを判別することはできませんでした。
 
 表1 2009 年度ミツバチ異常報告(養蜂家からの報告にもとづき集計)
                 (出典:畜産草地研究所報告 2010年)

県名  件数(農薬)    県名 件数(農薬)       県名  件数(農薬)

北海道  4 ( 3)         群馬   4              高知       1
青森   1 ( 1)         東京    6              福岡       1
岩手   2 ( 2)         千葉   5              大分       1
秋田   5 ( 2)*1       長野    8 ( 2)*2       佐賀       5
山形   4 ( 3)         静岡    1 ( 1)*3       長崎      11 ( 4)*4
宮城   1              愛知    3 ( 1)         宮崎       1
福島   2                三重    4              熊本       1
新潟   2                滋賀   1             -----------------
茨城   5 ( 2)           山口    11 ( 1)*3      計         90 (22)

 *1 農薬被害のうち1件はマツクイムシ防除、 *2 農薬被害のうち1件はリンゴ防除
 *3  農薬被害の1件はミカン防除、   *4 農薬被害のうち2件はミカン防除

表2 ハチ試料に検出されたネオニコ系農薬(出典:畜産草地研究所報告 2010年)−省略−
★経口毒性を調べなかった畜産草地研のモデル試験
 ミツバチの大量死の中には、クロチアニジンが原因であるケースの存在が明らかになりましたが、その致死作用や行動に対する影響がはっきりしません。  畜産草地研は、クロチアニジンを対象として@行動への影響、A蜂群に直接噴霧した場合の群の消長、B余命実験、C帰巣性試験、Dフィールドにおける農薬被曝試験を行いました。結果は以下のようでした。
 @では、LD50以下の塗布後の行動では、異常行動が見られなかった。
 A致死濃度(400ppb)、40、4ppbを巣に直接噴霧した場合、40ppbでは、散布3日後からの
  巣箱の重量は農薬無噴霧群と変わらなかった。
 BLD50の1/2又は1/4を塗布して、生存率、余命に影響がなかった。
 CLD50の1/2を塗布した場合、500m地点からの塗布24時間後の帰巣率はクロチアニジン
  群37.5%で、対照群46.3%であったが、試験ごとにデータのバラツキが大きくその差
  は統計的には有意ではなかった。
 @〜Cの試験は、すべて、接触毒での評価になっています。クロチアジンは浸透性と長効性が特徴であることを考えれば、農薬の直接被曝だけでなく、当然、もっと長い期間にわたる経口毒性も問題にする必要があると思います。さらにDの水田でのフィールド試験では、クロチアンニジン散布後2日間、水田の中央部、周縁部、500m離れた場所に巣箱を置いただけで、撤収させ、その後1ヶ月間、巣の重量・消長の目視観察で異常はなかったとしているのは、なにを目的とした試験なのかと疑問を生ぜさせます。
 メーカーが登録の際に提出した原体を使用した急性毒性試験では
    経口LD50(48hr)=0.00379μg/匹
    接触LD50(48hr)=0.04426μg/匹
で、経口の方が10倍以上強いことが明らかになっています。また、イチゴやトマトのハウスで2000倍希釈の水和剤を散布した場合には、散布15日後に巣箱を導入してもミツバチへの影響を大で、の訪花行動はなかったと記載されています。このことを踏まえたモデル試験の設計が必要だったのではないでしょうか。
 調査報告の考察に『農薬そのものの長期的な影響を示唆するデータは得られなかった。また花粉や花蜜を介した影響など、農薬の間接的な影響については検討できなかった。』、また、今後の課題として『今回の試験では成虫または群全体への農薬の影響について調べたが、花粉や花蜜を介した幼虫への農薬の影響についても調べる必要がある。』としています。
 今後は、接触毒性より低い量で作用する経口毒性の影響を調べるべきと思います。
                    −次号につづく−

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作成:2010-05-27