農薬の毒性・健康被害にもどる
t22702#農薬によるミツバチ被害〜都道府県アンケート調査と畜産草地研調査結果より(その3)ミツバチ保護は脱農薬から#10-07
【関連記事】その1、その2、農水省、農薬工業会への質問と回答
【脱農薬ミニノート】2号:ミツバチは農薬が嫌い
【参考サイト】農水省;花粉交配用ミツバチの不足問題について
畜産草地研究所報告:4月13日プレスリリースと調査研究報告書
農薬登録申請の頁:通知12農産第8147号、同別表2、同別添、通知3986号本文
日本養蜂はちみつ協会
【検証3:ミツバチ毒性の強い農薬の情報はどの程度認識されているか】
都道府県へのアンケート調査で、以下の質問をしました。
設問:農薬工業会は、ミツバチに対する毒性の強い農薬のラベルやパンフレットに注意喚起マーク(ミツバチ禁止マーク)をつけ、 『ミツバチに対して毒性が強いのでミツバチ及び巣箱に絶対にかからぬよう散布前に養蜂業者と安全対策を十分協議する』としています。
貴都道府県は、防除基準に記載されているミツバチ注意の農薬とその適用作物について、農業団体、農薬使用者、養蜂業者等に関連資料を配布していますか。』
回答をみると、防除基準に一般的な注意として示したり、営農指導者などに向けて資料を配布している県はいくつかありますが、ミツバチ被害防止にしぼった農薬リストを個別農家や養蜂業者に資料として配布しているところはほとんどありません。
ちなみに、回答で示された資料を含め、具体的に注意すべき農薬製剤名を挙げているのは青森、岩手、富山、静岡、長野、兵庫、広島、山口、愛媛、長崎、熊本県くらいです。
その農薬リストは、ミツバチ被害防止といっても、斑点米カメムシ対策のネオニコチノイド系(以下、ネオニコ系という)や花粉交配用(主にイチゴのハウス栽培など)を対象として、生産者=農薬使用者に注意を呼びかけるものにすぎません。施設栽培などの花粉交配用のミツバチをレンタルしている養蜂業者の助けになるかも知れませんが、ハチミツ採取のため、各地で放飼している養蜂業者に、ミツバチに有害な農薬名が周知されるかどうかは疑問です。
日本養蜂はちみつ協会は、農薬対策事業に、ダントツ(クロチアニジン)の名を挙げ、その使用者に他の農薬に変更するよう求めていますが、その他のネオニコ系をはじめとする製剤の毒性についての認知度はどの程度なのでしょう。
以下に、兵庫県と長崎県の事例をあげておきます。
【兵庫県】指導者向けに配布される指導指針には、殺虫剤一覧表にあるネオニコ系
のアドマイヤー(イミダクロプリド)、ダントツ、バリアード(チアクロプリド)、
モスピラン(アセタミプリド)など6製剤にマークをつけ、『これらはミツバチ
への影響が強いので使用に当たっては十分に注意する。』とあります。
使用するなということでなく、十分に注意するとあるだけでは、具体的にどう
すればよいかわかりません。
【長崎県】ミツバチに影響のある農薬がリストアップされ、殺菌剤42、殺虫剤64が
一覧表で影響日数がわかるようになっています。その殆どは、愛媛県、埼玉県、
静岡県のデータ引用で、同県の注意は殺虫剤4だけです。
長崎県はミツバチ被害が多く、09年は全養蜂群の3分の2が被害を受けています。
特に、ネオニコ系では、04年には前年に熊本県で起こったミカンへのダントツ
散布によるミツバチ被害を踏まえ、ミツバチに悪影響を及ぼさないよう指導強
化するとしていました(記事t17005参照)。
09年5月、佐世保市で、松枯れ対策の有機リン剤スミパインMCの空中散布で、
ミツバチ2群に被害がでています。それにもかかわらず、本年の県防除基準に
は、みかんや水稲のダントツをはじめとして、ミツバチ毒性の強いネオニコ系
や有機リン剤のオンパレードです。いったいどんな指導をしているのか疑われ
る状況です。
★ミツバチ毒性のある製剤は1382、全登録農薬の30%
登録農薬には、活性成分が約500、製剤が4500あります。農水省によれば、ラベルにミツバチに関する注意事項が記載されるのは、ハチ1頭あたり半数致死量が11μg未満のもので、75の活性成分、1,382製剤(登録農薬30%)が該当するということです。また、製剤容器についているミツバチ注意喚起マークのある農薬数について、『農薬工業会が自主的に実施されているものであり、当方が整理すべきものではありません。』という返事でした。
一方、農薬工業会に尋ねたところ、
@どのような使用上の注意事項をつけるかといった基準はない。
A「ミツバチを放飼している地域では使用しない」といった使用上の注意事項がついている場合には、ミツバチ禁止マークをラベルへ表示する。
B禁止マークをつけている登録製剤の総数とその原体成分名及びその半数致死量については、『基本的には個別企業の対応であり、登録管理、データ管理を行なっていないため、質問に回答する内容を記載することが出来ない』ということでした。
結局、登録製剤のミツバチ毒性については、農水省も農薬工業会もまとまった資料をもっていないということになります。
いいかえれば、個々の製剤について、登録者の責任で、ラベル表示されている使用上の注意を農薬使用者が守れば、ミツバチに対しても安全だと、いうことなのでしょう。
しかし、ミツバチ注意表示があったとしても、養蜂場所からどれくらい離れておればいいか、どのくらいの期間放飼しなければいいかはわかりません。しかも、ラベル表示は、あくまで農薬使用者が知ることで、養蜂業者はどんな農薬がミツバチに有害か知ることはできません。少なくとも、農水省や農薬工業会は、農薬メーカーまかせにせず、ミツバチの有害性についてのデータを資料としてまとめておき、養蜂業者にも、その資料を配布しておくことが、農薬使用者と養蜂業者の情報共有・連携のための基本です。
★空中散布の場合の退避は可能か
農薬の空中散布では、短期間に、高濃度の薬剤が広範囲に撒かれるため、ミツバチが被害を受けないよう、地上散布以上に注意せねばなりません。
そこで、都道府県アンケートでは『空中散布に際して,蜂を退避移動した業者数と群数を教えてください。いずれも,無人ヘリコプター,有人ヘリコプター,水田用,林業用,その他に分けてお願いします。』との質問をしました。
しかし、回答では、空中散布に際しては、養蜂業者への散布情報提供を指導しているものの、退避移動した業者数や蜂群数を把握しているところは、少数でした。
長野県の場合、有人ヘリ空中散布では、事前に広報周知し、無人ヘリコプター空中散布では、ミツバチ活動開始時間帯を避け、早朝散布などの指導をしていますが、実際の退避数は把握していませんでした。
空中散布による被害事例−茨城県(09年にダントツ空中散布)、愛媛県東温市(08年7月、水田無人ヘリコプター散布1件11群)、長崎県佐世保市(前述)−があるのは、退避が十分でなかったことの証拠です。
都道府県で、退避群数を把握していたのは、東京都:09年1件(ゴルフ場)、兵庫県:08年960/09年580群(松枯れ対策でチアクロプリド散布)、岡山県:796群、香川県:08年110群/09年130群、佐賀県:07-09年25群(松枯れ対策)、宮崎県:09年180群でした。
空中散布が始まって間もない1960年代から、すでに危害防止の指導がなされていますが、多くの巣箱をかかえる養蜂業者が適切に退避できるかどうか、疑問です。
松枯れ対策で、散布面積が一番多い兵庫県では、昨年につづき、今年も、ネオニコ系でメーカーが環境にやさしいとしているエコワンフロアブル3が空中散布されましたが、ミツバチは大丈夫だったのでしょうか。
【検証4;現行のミツバチ影響試験で毒性評価ができるか】
ミツバチが、農薬使用によって、被害をうけることは、以前からあり、70年代には、ミツバチ被害防止のため、農薬の使用時期や方法を少なくとも散布2週間前に県担当部署に通報することなどの行政指導が行われていました。ミツバチに対する影響が大きい農薬として、砒酸鉛、ディルドリン、MPP、ダイアジノン、EPN、マラソン、ジメトエート、DDVP、BRP、NACほかが挙げられてもいました。
76年の3月には「農薬空中散布によるミツバチ被害の防止について」の通達も発出されています。
★登録に必要なミツバチ影響試験
農薬登録に際しては、ミツバチ影響試験成績の提出が求められています。試験方法は以下のようです。
(1)急性毒性試験(急性経口毒性試験又は接触毒性試験)を実施する。なお、科学的に妥当であれば、他の試験方法により実施しても差し支えない。
(2)急性毒性試験の結果強い毒性が認められる場合には、ほ場での影響試験を実施する。
急性経口毒性試験及び接触毒性試験は、原則として原体を被験物質とする。
ほ場での試験については、製剤を被験物質とする。
より詳しい実施方法が示されおり、たとえば、供試虫はセイヨウミツバチの若い働きバチ。経口毒性の場合は、原体をしょ糖液に溶解又は分散し4時間給餌。原則4、24、48時間の死亡・異常率記録。接触毒性の場合は、原体を有機溶媒又は水に溶解し、麻酔した供試虫の胸部背面に施用。ほ場試験の場合は、ミツバチが利用する代表的な作物の開花期に当該農薬の申請最高薬量(濃度)を単回施用し、一定の期間ミツバチに対する影響(死亡・行動異常等)を調査する、などとなっています。
しかし、急性経口毒性、急性接触毒性、ほ場での影響等の試験成績のそれぞれについて、提出されている農薬成分と製剤の数と名称を尋ねても、農水省も農薬工業会もデータは整理していないので、答えられないとのことでした。
★免除されるミツバチ影響試験
すべての農薬で上述のミツバチ毒性試験が実施されているわけではありません。
以下の場合は提出が免除されることになっています。
ア.誘引剤等当該農薬の成分物質が封入された状態で使用される場合
イ.忌避剤、殺そ剤、ナメクジ駆除剤等配置して使用される場合
ウ.倉庫くん蒸剤等施設内でのみ使用される場合
エ.土壌に施用される農薬(殺虫剤及び土壌くん蒸剤は除く。)、田面水に
施用される場合(投入れ、滴下、水口処理)、育苗箱に施用される場合、
種子等に粉衣又は浸漬して使用される農薬又は、適用農作物に塗布若しくは、
適用農作物の樹幹に注入して使用される農薬
オ.剤型が粒剤。(殺虫剤又は空中散布若しくは無人ヘリコプターによる
散布の場合は除く。)の場合
ヨーロッパでは、ネオニコ系農薬等で粉衣したトウモロコシやヒマワリの種子が使用禁止になっています。日本で水稲育苗箱や田面水施用される粒剤について、浸透性や残効性のある場合、ミツバチが直接被曝しなくとも、汚染された花粉、蜜、水などから摂取する恐れがあり、このような場合、農薬の試験を免除することは問題だとして、農水省に質すと、『農薬登録の際に必要となる試験成績の原則を示したものです。このため、ネオニコチノイド系農薬も含め殺虫剤については、粒剤や土壌に施用される農薬であっても、ミツバチへの影響試験成績の提出を求めています。他方、花粉、花蜜、水などを介したミツバチの農薬暴露については十分に解明されていない部分が多く、国際的にもその影響に関する試験方法は未だ確立されておりません。したがって、現段階では、すべての農薬について一律に、ミツバチへの影響試験成績の提出を要求することは適当ではないと考えています。』とのことでした。
ミツバチについて急性毒性だけでなく、その行動や繁殖、幼虫への影響など、より詳細な毒性評価が必要といえます。
★おわりに−ミツバチ被害防止は脱農薬で
ヒトが生存のため、農作物の生産性をあげ、食の欲望を満たすことを目的とし、農薬使用を前提に、ミツバチを人為的に飼育し、ハチミツを採取したり、花粉交配に利用する現代農業システムの危うさを、ミツバチは警告してくれているように思えます。
被害原因のひとつが農薬であることは間違いありません。昆虫であるミツバチは神経毒性のある殺虫剤を被曝すれば、影響を受けることは当たり前です。農薬による無差別で有害無益な殺虫行為はミツバチだけでなく、天敵や他の昆虫、生態系、ひいては、同じ生き物であるヒトの神経系に影響を与えているという認識に立てば、まず、農薬使用を減らすべきだと思うのですが、残念ながらそういう動きはでてきません。
農薬はたしかに有害だが、適正に使えば問題ないという考えのもとに、ミツバチ被害防止の対策が講じられています。
どのような農薬がミツバチに被害を与えているか、その被害を減らすにはどうすればよいかを調査・研究することは、必要ですが、それすら、きちんと科学的に行われていない現状に加え、対策は何十年も前と変わらず、農薬使用者と養蜂業者の情報共有と連携強化とそれに伴う養蜂箱の退避をいうだけ。これでは、根本解決にはならないことはいうまでもありません。ミツバチ被害防止のためには、有害な農薬使用を減らすことが第一です。
ミツバチ被害があれば、まず、農薬を疑い、養蜂個所の半径5km以内で1,2ヶ月以内にどのような農薬が、どのような方法で、どの程度使用されたかを調べること、神経毒性のある有機リン剤やネオニコ系殺虫剤の使用を地域を限って、一時禁止し、その影響を調査すること、を求めます。
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作成:2010-12-25