農薬の毒性・健康被害にもどる

t22904#有機リン剤の環境調査評価とアセフェートの毒性評価とについて#10-09
1 農水省の有機リン剤の環境調査報告
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【参考サイト】農水省:有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業・事業推進検討委員会
       農林水産航空協会H21年度の検討委員会
       第三回委員会での報告書案H21年度の最終報告書
   「有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業」についての
    2010/09/01の質問・要望と2011/01/26の農水省回答の一部

 農水省は、有機リン剤の散布後の大気中の挙動を知るため、06年度から「有機リン系農薬の評価及び試験方法の開発調査事業」を実施しています。1年目は、残留農薬研究所によりインターネット等を利用した情報収集が行われましたが、2年目からの実験を伴う事業は農林水産航空協会によって実施され、毎年、3回開催される事業推進検討会で協会の報告案について議論がなされて来ました。10年3月には、いままでの調査結果を総合的にまとめた報告が作成されました(以下、最終報告という)。本誌224号では、09年度の第3回検討会における報告書案(以下報告書案という)の内容を紹介しましたが、以下に述べるように、記事の内容を訂正せねばならなくなりました。

★お粗末な農林水産航空協会
 通常、報告書案から最終報告が作成される場合は、専門家の検討結果などを踏まえて、明らかな誤植や文書表現の手直しで、変更される個所がでてきますが、今回の場合は、結論がまるで、反対という前代未聞の修正がなされました。  すなはち、散布区域内の気中濃度の理論式による計算値と実測値の比較において、 報告書案では『計算値は実測濃度に比べて大幅に低い値であった。』として、その理由の考察が行われました。しかし、最終報告では、この部分は『計算値は実測濃度に比べて大幅に高い値(最大で100倍程度)であり、地上防除区では年次変動の傾向も反映していなかった。』とまるで逆の文面になっています。計算値と実測値を比較した表や関連部分の説明文ももちろん、全面的に書き直されています。このため、本誌224号の9頁の表の予測値と、10頁のこの内容にかかわる記述は削除してください。ただし、いずれにおいても、最終的には、適用された理論式では実測濃度を予測するのは無理だということになります。
 そもそも、この事業を請け負った農林水産航空協会は、農薬分析を他社に丸投げにしているだけでなく、散布実験で、大気採取装置に農薬がかからないようにした実績があります。その上、実験だけでなく、満足に理論式の計算もできないことが判明したわけで、農林水産航空協会は、このような調査事業に携わる資格がありません。

2 アセフェートのADI変更
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【参考サイト】食品安全委員会:アセフェートパブリックコメント意見募集当グループの意見
       食品安全委員会の最終評価書とパブコメ意見への見解

 本誌224と225号で、長年使用されてきた有機リン剤アセフェート(オルトランなど)のADIをいままでの0.03mg/kg体重/日から10分の1以下のの0.0024mg/kg体重/日へ評価変更する動きと、その問題点を紹介しました。5月には、ADIについて、食品安全委員会が、パブリックコメント募集を行い、当グループも意見を提出しました(本誌226号)。
 この結果が、8月の食品安全委員会で公表されました。提出された意見は1件で、出したのは当グループだけだったようです。 おもな意見と同委員会の回答要旨を以下に示します。

(1)なぜ、アメリカやカナダより2倍緩いADIか
[回答]米国及びカナダでは、アセチルコリンエステラーゼ(以下ChE)活性が対照群に比して統計学的に有意に阻害された場合を毒性としているのに対し、本調査会では国際機関であるJMPR における評価と同様に同活性が対照群と比して統計学的に有意に阻害され、かつ20%以上減少した場合を毒性の判断基準とし、総合的に評価することが妥当であると結論した。

(2)30年以上前の1981年のラット2 年間慢性毒性/発がん性併合試験結果から得られた数値を最小無毒性量としたのは遅きに失するとの意見には
[回答]アリスタライフサイエンス社や丸紅株式会社ほかの資料を総合的に評価した結果、1981年の試験が、無毒性量として妥当であると判断した。
[コメント]それなら、1993 年9 月14 日の残留基準告示の前に、今回と同じADI評価ができたはずです。

(3)ChE活性阻害から得た無毒性量をADIを設定の根拠とした有機リン系農薬は、総合的に毒性評価すべきとの意見には、
[回答]食品安全委員会農薬専門調査会は、実生活において、農薬を複合的に摂取していることは確かであるが、個々の農薬の摂取量はADI以下であり、それらを複合的に摂取したとしても、ヒトの健康に害を及ぼす可能性は低いと考える。
[コメント]私たちは、アセフェート以外に、いままでに食品安全委員会がChE活性阻害を毒性指標としてADIを設定した有機リン系農薬(アジンホスメチル、イプロベンホス、カズサホス、クロルピリホス、フェンチオン、ブタミホス、メタミドホス、EPN)を挙げて、意見を述べたのですが、食品安全委員会の回答は、一般的な毒性についての見解を示すのみ、しかも、科学的なデータを挙げることなく、複合毒性の可能性は低いとか、国際機関の主張を根拠にして、懸念する必要はないというのでは、全く説得力がありません。

(4)アメリカで、有機リン剤の尿中代謝物ジアルキルリン酸塩と注意欠陥多動障害= ADHDの関係を示す研究報告が発表されていることについては、
[回答]本年度、有機リン系など神経系に作用する農薬について、情報収集調査を予定しており、最新の情報収集に努める。
[コメント]アメリカではEPA(環境保護庁)も関心を示していますが、食品安全委員会では、「ヒトの発達障害と農薬に関する情報収集調査」を 2010年度中に実施することになりました。三菱化学テクノリサーチが請負い、「農薬と注意欠陥・多動性障害を含めた発達障害に着目し、有機リン系を中心にカーバメート系、ネオニコチノイド系、ピレスロイド系といった神経系に作用する農薬について、最新の疫学調査について情報収集し整理するとともに、これまで動物実験系では観察できないような神経系への影響を確認することを目的とした適切な動物実験系の有無、さらに神経系に作用する農薬についての諸外国におけるリスク評価及びリスク管理のあり方についても収集し整理する。」ことになっています(調査内容詳細)。

(5)残留基準をそのままにして、すでに農水省は、みかんへの適用をやめるよう指導していますが、他の野菜類等の残留基準や水道法の水質管理目標設定項目の評価値の変更を求めた意見については、
[回答]残留基準値に関する御意見につきましては、厚生労働省に情報提供させていただきます。
2010/07/22、食品安全委員会から厚労省へADIを0.024mg/kg体重/日する旨通知された。
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作成:2011-02-25