食品汚染・残留農薬にもどる
t23001#2010年1月〜9月の国産農作物の農薬取締法及び残留基準違反事例〜千葉県ではヤマトイモで5,6年前から使用方法違反#10-10
記事t22103に次いで、10年1月から9月に判明した国産農作物の残留農薬違反事例は表のように9例ありました。以下に、2つの事例についての詳しい経緯を示します。
表 国産農作物の残留基準違反事例(10年1月〜10月)
公表月日 発表機関 作物名 産地等 農薬名と検出値 (基準) ppm 原因
03/05 郡山市保健所 ニラ JA郡山市 シメトリン0.02(0.01) 不明
05/14 柳井環境保健所 チンゲンサイJA南すおう トリシクラゾール0.15(0.02) 不明
05/26 奈良県 青ネギ 奈良大果 EPN1.3/0.29(0.1) 散布器洗浄不足等
06/12 茨城県 ピーマン JAしおさい ホスチアゼート0.33(0.1) 不明
07/16 大阪府 サツマイモ 鹿児島県 フルバリネート 0.03(0.01) 不明
08/20 名古屋市 ゴボウ 茨城県茨城町 フルトラニル0.05(0.01) 不明
08/27 新潟県 ジャガイモ JA新はこだて ディルドリン 0.006(不検出) 土壌残留
09/17 東京都 グリーンリーフレタス JA松本ハイランド TPN22(1) 使用時期違反
09/20 北海道 カボチャ JAようてい ヘプタクロル0.07(0.03) 土壌残留
★茨城のピーマン事例
【参考サイト】茨城県報道発表(6/12)
ホスチアゼート0.33ppmという残留基準違反が判明したのは、福島県での収去検査の結果です。JAしおさい波崎青販部会では、土壌処理剤であるネマトリンエース粒剤(ホスチアゼート1.5%)がピーマンの施設栽培に使用されていました。同部会は309名の生産者で構成され、そのうち、ホスチアゼート剤を使用していたのは18名で、いずれも使用履歴は記載されており、不適切な使用は確認されなかったとのことで、汚染原因は不明です。
その後の農協の残留分析調査では、18検体いずれも検出限界0.01ppm以下であったということです。
ホスチアゼート剤について、私たちは、03年12月の山口県におけるダイコン(記事t14905a参照)や07年2月の栃木県におけるイチゴでの残留問題(記事t18803参照)をとりあげました。
ピーマンの場合、粒剤を定植前に全面土壌混和することになっており、茨城県は『事案の原因は断定できておりませんが、散布ムラによる土壌残留、隣接ハウスからの飛散や散布作業後衣類等からの混入などの可能性が考えられます。』としていますが、なぜこのような残留基準違反がおこったのかという疑問は残ったままです。
JAしおさいでは、ピーマンに関してホスチアゼート剤の使用を禁止したほか、共同選果場での随時抜き取り検査を実施することとしています。
★長野県JA松本ハイランド〜TPN殺菌剤の使用時期違反で22ppm残留
長野県のグリーンリーフレタスの事例は、東京都の収去検査でTPNが22ppmの高濃度で、検出されたことがわかり、販売禁止措置がとられました。
県と当該農協に問合せた結果をまとめると以下のようです。
【経緯】
・9月10日:牛r川青果(東京都)での、都健康安全研究センター多摩支所の食品衛生監視員の買上げ検査により、残留農薬分析が実施された。
・9月17日:残留基準違反が判明、JA朝日営農センターに連絡が入る。
出荷箱に記載されていた生産者欄から違反生産者を確認、聞き取り調査、朝日支所野 松本保健福祉事務所、松本農業改良普菜専門委員会三役会にて事故発生報告・支所管内生産者への徹底など。
松本保健福祉事務所、松本農業改良普及センター、長野県病害虫防除所、松本地方事務所農政課、来所。当該圃場確認、事故についての回収、告知方法、今後の出荷対応について協議。プレスリリース実施。
−以下省略−
【原因:農薬取締法違反】
JA松本ハイランド朝日野菜専門の部会員ではTPN剤を使用していたのは60名ですが、当該農協の調査によると、今回リーフレタスで残留基準違反をした生産者は1名だけだったそうです。
また、農薬使用履歴を記載していなかったり、ただしく記載していなかった生産者は、今回の違反者以外にいなかったと答えています。
リーフレタスの適用表によると、殺菌剤ダコニール1000(水和剤でTPN40%)は、1000倍希釈で、収穫21日前までとなっていますが、当該生産者は、収穫6日前の8月29日に使用していました。使用時期遵守は、安全使用の基本で、違反すると農薬取締法で罰則を科せられますが、調査によれば、当該生産者は、栽培履歴への農薬散布の記帳を漏らしたり、散布日を失念しグリーンリーフレタスを収穫してしまったそうで、誤散布が今回だけだったとの認識で、農協としての損害賠償を求めないとのことです。また、県は、生産者処分についは、「農薬指導取締実施要領」にもとづき、適正な判断をするとしています。
なお、9月17日に採取した同一圃場でのサニーレタス、グリーンリーフレタスのTPN分析では、それぞれ、0.04、0.02ppmで残留基準違反はなかったそうです。
JA長野県グループでは、農産物の出荷にあたっては、農薬使用履歴の記帳・提出を義務化しており、提出をしない場合は出荷ができない体制が取られているのですが、今回の違反が出荷先の検査で発覚したことは、その体制が万全でなかったことを物語っています。やはり、農薬に頼りすぎる農業のあり方にメスをいれるほかありません。
報道によれば、このほか、農薬を使用した犯罪として、5月17日、山陽小野田市のスーパーの商品に、農薬入り商品を置いたとの電話があったそうですが、不審物は見つからなかったそうです。また、5月28日、長野県飯田署は、知人に農薬入りコーヒー飲ませた男性が殺人未遂容疑で男を逮捕。被害者と加害者はどちらも、コーヒーを飲んだそうですが、いずれも嘔吐だけで、軽症だったということです。
★農薬取締法違反が相次いで判明
一方、残留基準超えはなかったものの、農薬取締法違反の農薬使用があり、出荷先が自主回収した事例もあります。
7月16日に、高知県のJA高知はたが、出荷したシシトウに適用外のビフェントリンが検出されたことが、自主検査でわかり、1生産者の圃場に近くの家庭菜園で使用された農薬のドリフトが原因とされました。
9月10日に、種子メーカーサカタのタネと販売会社ケーヨーが、「ガーデンレタスミックス」と「ベビーサラダミックス」の苗に適用外の「ベンフラカルブ粒剤」が使用されていたことを公表し、自主回収が行われました。
★農協ぐるみ?千葉県JAいんばのヤマトイモの使用基準違反
9月11日に千葉県のJAいんばが、記者会見で、明らかにした農薬取締法違反の内容は、長野県の事例に比べ、まさに農協ぐるみといえる大規模で、確信犯的な農薬の使用基準違反でした。
佐倉市では、ヤマトイモの栽培がさかんですが、その種芋の殺菌剤としてティービック水和剤(チウラム40%とペンシクロン20%の混合剤)が使用されます。農薬登録された適用方法は、50倍希釈液に植え付け前の種芋を約2秒間浸漬することになっています。ところが、JAいんばに尋ねたところ、作業簡素化のため、同剤の粉末を消石灰に混ぜて、ヤマトイモの種芋に粉衣処理していたという答えが返ってきました。
しかも、当該製剤を使用していた35名の生産者のうち、適用方法を守っていたのがわずか5名、残りの30名は、「農薬使用遵守省令」違反を知りながら、違法な使用をしていました(29名は前記粉衣処理、1名は200倍希釈液に5分浸漬)。
この違法使用は5〜6年前から実施されていたというのです。農薬使用基準違反に罰則を科せることになったのは、改定農薬取締法が実施された03年3月10日以降ですから、処罰覚悟での使用が、長年続いていたわけです。
そのほか、私たちの質問で、わかったことは以下のようです。
・農協として、違法使用を把握したのは本年9月8日。
・最初に粉衣処理をはじめたのは誰か、また、どのような経緯で
それが拡大していったかは不明。
・農協には、県が認定した農薬管理指導士は7名いるが、その中
には不適切な農薬使用をした人はいない。
・農薬使用履歴は、全生産者から提出して、内容をチェックして
いるが、記載もれはない。ただし、使用方法の記載欄は設けていない。
・09年、10年の残留分析結果、農薬は検出限界以下。
・09年産のヤマトイモの出荷は東京都、千葉県、神奈川県、
静岡県に合計604トンで、9月24日現在、回収量は836kg(全出荷量の
0.14%弱)。回収ヤマトイモは産業廃棄物業者に処理を依頼した。
・生産したヤマトイモは、学校給食用にも提供した。
JAいんばは、残留基準違反でないのに、今回の自主回収した理由について、社会的責任とコンプライアンスの観点からとしており、再発防止のため、
@生産履歴記帳の確認・検証の強化
A全生産者の残留農薬検査の実施
B全生産者の種イモ消毒確認書の提出
C生産者によるヤマトイモの農業生産工程管理システムの導入
D農薬の適正使用講習会・栽培講習会の強化、 などをあげています。
一方、適正な農薬使用を監督指導する立場にある千葉県にも質問しましたが、農林水産部安全農業推進課からの農薬取締法違反の経緯についての回答(9月30日付)は、『JAいんばのヤマトイモの不適切な農薬使用については、現在県で農薬取締法に基づく立入検査を実施していますが、検査内容に係ることについてはお答えすることはできません。』とのことでした。この答えは、警察捜査がはいった、千葉県のゴルフ場習志野カントリークラブでの無人ヘリコプター農薬散布によるゴルファー健康被害や北海道せたな町での無人ヘリコプター死亡事故の場合と同様、農薬取締法違反による告発を視野に調査をしているため、何もいえないのだと解して、いいのでしょうか。
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作成:2010-10-25