環境汚染にもどる

t23101#有機塩素系ベンゾエピンが登録失効し、POPs条約対象物質に追加勧告へ〜アグロカネショウは回収通知文書の開示を拒む#10-11
 有機塩素系殺虫剤ベンゾエピン(別名エンドスルファン、商品名マリックスやチオダン。毒劇法で毒物指定、農薬取締法で水質汚濁性農薬指定)について、アメリカでの環境保護団体の運動の結果、メーカーのバイエル社が10年末までに、製造中止を決めたことを報告しました(記事t21904)。その後、私たちは、農薬取締法で販売禁止農薬指定するよう求めていました(記事t22206)。  この農薬は1960年12月3日に登録、野菜や果実に適用され、各地で魚毒事件の原因となっていました。最近では、アグロカネショウ鰍ェ、マリックス粒剤とマリックスベイトを製造販売していましたが、同社は、9月29日、製剤登録を失効させ、日本からもベンゾエピンが消え去ることになりました。
 そこで、この間の事情と今後の回収問題について、農水省とアグロカネショウに質問と要望を行いました。その要旨と回答を以下に示します。なお、回答中、アグロはアグロカネショウの、農水省は農薬対策室からのものです。

★生産状況等について
 (1)農薬要覧によれば、H19年度の原体輸入は27.0トンである。H20、H21年度の
   輸入数量はどの程度か。。
 [アグロ回答] 原体はバイエル社が本国より輸入しているので、弊社では輸入量
  は把握しておりませんが、平成20年度以降、原体・製剤ともバイエルより購入
  しておりません。
 
 (2)H20年度には原体輸出が11トンある。H21年度の輸出数量はどの程度か。
 [アグロ回答]バイエル社より原体を供給される立場で、過去に原体・製剤ともに
  輸出しておりません。 

 (3)H20年度の国内出荷量は 粉剤32.2トン、乳剤29.8kl、粒剤2種190トンだが、
   H21年度の出荷数量はそれぞれどの程度か。
 [アグロ回答] 平成21年度以降、いずれの製剤も出荷しておりません。
★ベンゾエピン製剤の登録失効とその周知について
 (1)ベンゾエピンの毒性や残留性の問題が、登録失効理由のひとつと考えるか。
 [農水省回答] ベンゾエピンを有効成分とする農薬については、平成22年9月
  までに、全ての製品の登録の有効期間が満了しましたが、これらについては、
  再登録が申請されなかったため、その登録が失効しました。
  なお、申請が行われなかった理由は、原体メーカーによる原体の供給中止です。
 [コメント]理由では、そもそも、原体製造が中止されたのが、ベンゾエピンの
  毒性や残留性であることについては、全くふれられていません。10月に登録
  の廃止を決定したオーストラリア農薬・動物医薬品局は、同剤の残留性が大
  で、生分解性が低いため、長期の使用が環境に悪影響を与えることは無視で
  きないとしていますし、後述のPOPs条約の検討委員会の評価でも、規制対象
  物質にすべきとの結論がでています。

 (2) 販売者や使用者への登録失効についての通知は、いつ、どのようにしたか。
  文書があれば、示されたい。
 [農水省回答]ベンゾエピンが登録失効したことは、農林水産消費安全技術セン
  ターHPの登録失効有効成分一覧に掲載しております。
 [アグロ回答]平成20年5月に同剤販売店や関係機関に対し、「マリックス剤販売
  終了のご案内」、翌21年4月に「マリックス剤の販売終了に伴う登録状況につ
  いて」、本年10月に「マリックス剤有効期限切れ製品回収のお願い」を配布し
  ております。
  これらは弊社の製品を有効且つ安全に使用して頂くための自主的な活動であり
  ますので、内容については、貴グループへの開示を控えさせていただきます。
 [コメント]アグロカネショウが、10月25日に出した
   「マリックス剤有効期限切れ製品回収のお願い」の通知は販売店に対するもので、
  そこから、農薬使用者にどのように周知されるかわかりません。
  後述のケルセンの場合は、メーカーのダウ・ケミカル日本が、ホームベージで、
  回収の社告を出しましたが、アグロカネショウのホームページには回収情報は
  なく、あるのは適用範囲拡大情報が殆どです。
  どうして、このような回収通知文書を開示しないのか不思議で、メーカーの
  社会的責任の欠如を伺わせます。
★ベンゾエピン原体、製剤の在庫について
 (1)登録失効時点で、出荷されていない製剤、原体の在庫はどの程度か。
 [アグロ回答] 原体の購入及び製品製造を平成20農薬年度までに終了し、最終出荷も
  平成20農薬年度内に終了しております。よって、在庫も全て同年度内になくなって
  おります。

 (2)在庫品の処理について
 [アグロ回答] 現時点で在庫はありませんが、返品された製品については無償で
 引取り、産業廃棄物として、当方で安全に処分致します。

 (3)製剤や原体を海外への輸出について
 [アグロ回答] 弊社ではベンゾエピン原体及びその製品を海外に輸出する計画はあり
  ません。
★販売された製品の使用と回収について
 (1)農薬販売者や使用者に対し、当該製剤の使用をやめるよう指導したか。
 [農水省回答]アグロカネショウ株式会社に確認したところ、最終製造製品の有効期限
  は平成22年10月です。農林水産省では、これまでも農薬使用者に対し有効期限が切
  れた農薬は使用しないよう農薬使用者に対して指導してきたところですが、今後も
  引き続き、都道府県を通じて指導を行って参ります。

 (2)農水省は、ベンゾエピン含有農薬を回収するよう販売者や使用者に指導したか。
  また、回収された製剤の保管・処理はどのようになっているか。
 [農水省回答]アグロカネショウ株式会社が、依頼に応じて製品の返品を受け付け、
  最終製造製品の有効期限が切れる本年11月からは、自主回収を行っていることから、
  農林水産省は、特に指導は行っておりません。
  なお、同社は、回収した製品の処理について産業廃棄物処理業者に委託し、適切に
  行うとしています。
  農林水産省では、これまでも農薬使用者に対して有効期限が切れた農薬は使用しな
  いよう指導してきたところですが、今後も引き続き、都道府県を通じて指導を行っ
  て参ります。
 [アグロ回答] 農水省からは製品回収について指示は頂いておりません。

 (4)すでに出荷され、現在、農薬販売者や使用者が保持しているベンゾエピン含有
  製剤はどの程度の数量があると推定されるか。
 [アグロ回答] 前述のように、弊社ではベンゾエピン剤の販売終了に伴い、有効
  期限内の使用について関係先に十分理解を頂く説明を行ってまいりました。 
  また、社内の調査では、卸売業者等における流通在庫も確認されておりません。 
  使用者におかれましても、購入頂いた製品の有効期限内に全てが使用されたもの
  と推定しておりますが万全を期すため自主回収を行っております。

 (5)ベンゾエピン含有農薬を販売禁止農薬に指定されたい。
 [農水省回答] 来年4月の第5回ストックホルム条約締約国会議において、ベンゾエ
 ピン(エンドスルファン)を条約の対象物質に指定することが決定された場合、
 農林水産省はベンゾエピンの販売禁止農薬の指定に向けた必要な手続を講じます。
 このことについて、都道府県や農業者団体に対し周知を図るとともに、アグロ
 カネショウ株式会社が製品の自主回収を行っていることを情報提供しました。
 さらに、本年の都道府県担当者を参集する会議において、周知及び情報提供を行う
 こととしております。
★POPs条約の専門家検討会では、対象物質指定
 農水省がいうストックホルム条約(略称POPs条約。有害かつ残留性があり、地球環境を汚染する有機物質の製造や使用等の規制を図る国際条約)の専門家による検討委員会が、10月11日から、スイスのジュネーブで開催され、その毒性、環境への悪影響を認めて、条約の規制対象物質として、来年4月にパリで開催予定のPOPs条約締約国会議で、勧告することが決まりました(環境省報道発表10月19日)。

 農水省は、私たちの要望後、10月29日「ベンゾエピンのストックホルム条約残留性有機汚染物質検討委員会第6回会合における審議状況及び今後の予定について」という事務連絡を地方農政局に発出しています。

★ケルセンの轍を踏むな
 04年3月の登録失効とともに、メーカーのダウ・ケミカル日本らが自主回収に踏切ったケルセンは、05年4月には、化審法の「第一種特定化学物質」に指定され、09年には、POPs条約の規制対象物質となりましたが、農薬取締法による販売禁止農薬に指定されたのは、10年4月1日からです。同月神奈川県の生産者が使用していたことが判明し(記事t22805参照)、農水省は、8月4日付けで同課長通知「販売が禁止されている農薬の使用禁止の周知及び適正処理の徹底について」を発出しました。  なお、ケルセンのメーカーによる回収・返品受付量は以下のようになっています。
        ケルセン乳剤   ケルセン水和剤 
         件数   数量     件数   数量
         (L)             (kg)
      平成16年 −  44362.1      34345.0
   平成17年 22   267.2   16    84.5
   平成18年 13   127.4   10    69.0
   平成19年 12    32.0      3        6.0
   平成20年   6      38.5      2        1.0
   平成21年   5       5.2      1        7.0
   平成22年1~8 月    5.0      1        0.5
   合計             44837.4            34513.0
 このケルセンの轍を踏まないよう、ベンゾエピンについては、ぜひ、POPs条約の勧告を見越しで法規制と回収を先行させてもらいたいと思います。

化審法で、エンドスルファンを第一種特定化学物質に追加のパブコメ意見募集(2014/01/17−2/15)

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作成:2010-11-25、更新:2014-01-22