農薬の毒性・健康被害にもどる

t23203#食安委でのフルジオキソニルの健康影響評価を検証する〜一匹のイヌの体重抑制の有無が、ADIを10倍かえる#10-12

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【参考サイト】食品安全委員会資料
    ■農薬専門調査会総合第二部会
     ・第22回(08/07/11):議事内容議事録
    ■農薬専門調査会幹事会
     ・第45回(08/11/18):議事内容評価書案議事録
     ・第47回(09/01/21):議事内容評価書案議事録
     ・第52回(09/06/12):議事内容評価書案議事録
      09/04/09-05/08実施のパブリックコメント意見募集における意見と回答
     ■添加物専門調査会
     ・第65回(08/12/15):議事内容評価書案議事録
     ・第67回(09/02/02):議事内容評価書案議事録
     ・第69回(09/03/23):議事内容評価書案議事録
    ■食品安全委員会のフルジオキソニル最終評価書(2009/07)

 新たな果実防腐用の食品添加物として、認可されようとしているフルジオキソニルの健康影響評価を実施し、ADIを設定したのは食品安全委員会です。
08年7月に、同委員会の下部調査会である農薬専門調査会総合第二部会で、農薬抄録等の結果をまとめた評価書案のたたき台をもとに、ADI論議が始まりました。その後、農薬専門調査会幹事会にあがり、さらに、案に修正が加えられました。
 一方、食品添加物としても評価せねばならないため、08年12月には、添加物専門調査会でも評価書案が俎上に載りました。
二つの調査会での論議を経て、食品安全委員会が農薬評価書最終案を策定し、09年4月9日から5月8日までのパブリックコメント意見募集が実施されました。その結果を踏まえ、同年7月に食品安全委員会がそのADIを正式に0.33mg/kg/日と設定しました。
 どのような論議を経て、食品安全委員会がこのような決定をしたのかを検証してみましょう。

★発がん性評価:農薬調査会と添加物調査会で異なる結論がでたが
 08年11月の農薬専門調査会幹事会に提出された毒性評価書案の要旨には、『発がん性試験において、雌ラットで肝腫瘍のわずかな増加が認められたが、発生機序は遺伝毒性メカニズムとは考え難く、評価にあたり閾値を設定することは可能であると考えられた。』となっていました。
 発がん性試験は、ラット2年間試験が1件、マウス18ヶ月試験が2件あり、後者は用量との相関関係が認められないとの理由で、発がん性なしとなりましたが、ラットについては、08年12月の添加物専門調査会では、3000ppm投与群で雌に肝細胞腫瘍等が5例あったことでその評価が問題となりました。
 農薬専門調査会では、「3,000 ppm 投与群の雌で、肝細胞腺腫及び肝細胞癌の発生率がわずかに増加し、腺腫と癌の合計( 7.1% )では有意差がみられた」「腫瘍の発生に寄与したものと考えられた」とされていました。しかし、添加物専門調査会では、雌のみ発がん性が認められるケースは、非常に珍しいケースであること、海外の評価の中に,発がん性についてはネガティブという形の評価がされているものがあり、発がん性をありとするか、なしとするかで意見が分かれ、結論はでませんでした。
 添加物調査会と農薬調査会で結論が異なった場合、どうするのかという点も問題となりましたが、これは、委員がそれぞれの意見を述べるにとどまり、事務局で、厚労省に議論の内容をつたえることで終わりました。
 ドンデン返しは翌09年1月に開催された農薬専門調査会幹事会で起こりました。ラットの試験データで、統計学上の補正をすると、有意差がなくなっていることを、申請会社が「日本の農薬抄録のまとめの表のところだけがそのデータを反映していなかった。」として、修正がなされたのです。
ということで、統計処理の検証がどの程度なされたかわかりませんが、発がん性なしとの結論に変更されました。単なる転記ミスが、専門家の先生方の間に、喧々諤々の論議を惹き起こしたということで、終わっていいのか疑問が残ります。健康影響評価の大事な資料に申請メーカーが発がん性があるかないかを転記ミスするなんて、ちょっと、考えにくいことですが。
結局、09年7月の食品安全委員会評価書では、『発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び生体において問題となる遺伝毒性は認められなかった。』となりました。

★耐性菌が問題となる
人に有害な細菌等が抗真菌剤であるフルジオキソニルの使用により耐性を獲得し、人に、保健衛生上の危害を及ぼすかどうかが問題となったは、09年2月の添加物専門調査会においてです。申請者シンジェンタ社が出した文書には『本剤の使用により耐性菌が生じる可能性は少ない。』となっていましたが、果たして、ほんとうかということで、専門家を呼んで、あらためて検討されることになりました。
 3月の添加物専門調査会では、「今まで農薬では、薬剤耐性菌については何も評価を行っていない。農薬として使われているフルジオキソニルについて、耐性菌の記載をすると、今後、すべての抗菌性の農薬について、同じような検討をしていかなければいけないのかという疑問が生じてくる。」「この記載は、フルジオキソニルだけにするのか、あるいは今後農薬にも広げていくのか、農薬専門調査会の方では、こんなことまで書かないといけないのというような意見が出てくると思うので、その辺を少し心配している」などの意見が出て、「その辺については、また、親委員会の方、あるいは事務局とも相談してやりたい」となりました。
 専門家から@抗真菌剤を農薬に使ったときに、ヒトの抗真菌剤の効果に対して影響を与えるかどうかといった検証と記載は非常に大事である。
Aフルジオキソニルがヒトの細菌の耐性に影響を与えるかということについては、多分相当の確率で影響を与えないと考える。B自然法則に反しない限り自然界での事案に絶対ないとは言えないが、抗真菌薬の作用機序からいっても、現存するヒトに病気を起こす細菌の薬剤耐性には影響はないであろう、との見解が述べられました
。  結局、09年3月の評価書では耐性菌の選択という項が追加され、耐性菌の問題は、保健衛生上の危害を生じるおそれはないものと考えられるとなりました。

★眼刺激性はないとの評価は疑問
 ウサギを用いた眼刺激性試験では、『適用1 時間後でウサギの結膜に軽度の発赤及び浮腫が認められたが、48 時間後には消失し、眼に対して刺激性はないものと考えられた。』と評価されています。
農水省の試験方法は、被験物質の投与後1時間、24時間、48時間及び72時間における眼の一般状態について観察し、記録するとともに、別表の評価基準に基づき、被験物質に対する眼の反応性(刺激性/腐食性)を記録するとなっており、結膜の発赤は正常を含め4段階、結膜浮腫は5段階で評価されます。
 少なくとも、投与後48時間までは異常があったわけですから、刺激性ありとするのが、普通じゃないでしょうか。評価書に参考文献としてあるJMPRの資料には、『ウサギの試験でわずかに刺激性がある』と記載されています。食品安全委員会が、眼刺激性の有無を評価する場合の基準があれば教えほしいと思います。

★素朴な疑問 青く着色する尿
 毒性評価書案の論議に際して、事務局は農薬幹事会で『毒性試験で出てきますが、この剤を経口投与いたしますと、高用量側では、着色尿が観察されるということで、この青色物質が何なのか集めて分析をいたしましたら、フルジオキソニルの二量体であることがわかったということでございます。』と説明しました。
 えっフルジオキサニルを食べると尿が青くなるの! 気持ち悪い〜というのが率直な感想ですが、専門家の先生方は、そんな発想はしません。食添の着色料で舌に色がつく場合と同じで、色があろうがなかろうが、毒性試験で有害かどうかしか問題にしません。  毒性試験をみると、着色尿の出現は以下のようになっています。

 表 動物実験による着色尿の出現状況 −省略−

 この青色物質は、フルジオキソニルの代謝・分解過程で、その二分子が結合して生成した二量体だとされており(化学構造図省略)、尿だけでなく、腎臓や消化器系への着色も見られたものの、病理組織学的検査では、対応する組織に色素沈着を裏付ける所見は認められなかったことから、青色色素沈着は毒性学的に意義のないものと考えられたと結論されました。摂取されたフルオジオキソニルが二量体になって尿から排泄されるだけで、色がついても毒性がなければいいというわけでしょうか。その後、着色尿が話題になることはありませんでした。

いくつもの動物種で、着色尿がみられたのは、比較的高濃度での投与群についてですが、これらは、肉眼による観察結果か顕微鏡によるものか不明ですので、より少ない投与群での着色状況は明確でありませんし、人が摂取した場合、どの程度の量で、着色尿がみられるかも不明なままです。

★どうして、ADIは10倍も緩和されたのか
食品安全委員会がフルジオキソニルのADIを0.33mg/kg/日と設定しましたが、この値は、厚労省が1998年10月に一部の農作物の残留基準を告示した際に、用いたADI0.033mg/kg/日の10倍にあたるものです。また、他の国のADIを比較すると、アメリカが0.03、オーストラリア0.03、カナダ0.037、EU0.37mg/kg/日です。
 これらのADIは、いずれも、イヌ1 年間慢性毒性試験やラット2 年間慢性毒性/発がん性併合試験を評価して設定されています。どうして、このように10倍もの差がでるのか、素人眼でみても不思議です。
 アメリカでは、イヌの1年間の慢性毒性試験の1,000 ppm投与群で雌1匹に体重増加抑制がみられたことを影響ありとし、無毒性量を3.3mg/kg日としましたが、日本では、これを個体差でなく、偶発的なものとみて、無毒性量を33.1mg/kg/日としました。
 JMPRはイヌの試験の体重増加抑制の無毒性量33、ラット試験の無毒性量37各mg/kg/日から、ADIを0.4mg/kg/日としました。
 オーストラリアでは、イヌの試験で体重増加抑制の無影響量を3.1mg/kg/日、ラットの試験で体重増加抑制と着色尿を影響と判定し、無影響量を3.3mg/kg/日、カナダでは、ラット試験で雌の肝病変増大をみて、無影響量3.7mg/kg/日とし、ADIをそれぞれ0.03、0.037 mg/kg/日にしています。

 上述の健康影響評価をみると、科学的に厳密であるべき毒性試験データの評価基準に決まりがなく、申請者の資料も、それを評価する各国の専門家の見解も結構、恣意的で、毒性を緩く見積もろうとの意図がみられます。
ADI設定のもとになった無毒性量は1群雌雄各4匹で行われたイヌの試験結果が採用されています。そのうち雌1匹の体重増加抑制をどう判断するかが、ADI設定の10倍もの違いにつながるわけです。人の健康影響評価は厳密な毒性試験に基づいており、適正に使用すれば、農薬は安全だという行政や業界の主張の根拠は、実は、イヌ一匹の症状をどう評価するにかかっていたといっても過言ではありません。


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作成:2010-12-25