ダイオキシンにもどる

t23705#震災廃材の焼却で塩化水素源となるのは塩ビ製品だ〜間違った知識を広げる朝日新聞へ抗議 植村振作#11-05
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 東日本大震災で、大量のがれきが発生し、その処理が困難を極めていますが、朝日新聞は、4月30日の「津波がれき難敵」と題する記事を載せ、海水の塩分から塩化水素が発生するなど間違った知識を広げています。
以下は、元大阪大学助教授の植村振作さんが朝日新聞にだした抗議文です(小見出しは編集部で付けました)。
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  貴紙福岡版(2011.4.30 10版2頁)の記事「津波がれき難敵」(署名記者名:疋田
  多揚、森本未紀、池田敦彦)を読みました。
  この記事は、津波がれき処理法の一つとして考えられる焼却に伴い、家屋廃木材や
  布団、畳などに含まれる塩分(塩化ナトリウム)が燃焼によって有害な塩化水素を発
  生する虞があることを読者に知らせ、警告する目的で書かれたものと理解します。
  記事には、環境省などによると、と断り書きをして、廃材中に含まれる塩分の加熱
  によって発生した塩素とゴミの中の水素とが結びつき塩化水素が出来る旨書かれて
  いますが、これは基本的な点で誤っています。食塩の燃焼によって塩化水素が発生
  するというのは間違いです。津波がれきの焼却によって発生すると恐れられている
  塩化水素は、主にがれきに含まれている塩化ビニル(塩ビ)製床材、壁紙、電線、
  上下水道配管等の塩ビが熱分解して出来る塩化水素です。
  環境省の説明は、過去に塩ビ工業・環境協会が繰り広げたダイオキシン原因食塩説
  の源になった実験等をよりどころにしていると考えられます。

 ★塩ビ工業会の責任逃れの食塩説
  嘗て、ゴミ焼却場からのダイオキシン排出が社会的問題になったとき、日常生活で
  広く使用されている合成樹脂(プラスチック)なかでも塩ビがその発生源として指
  摘され、塩ビ製品の不買運動などが起こりました。それに対抗する形で、塩ビ工業
  界が、パラフィン他の可燃物と食塩を混ぜて加熱した結果ダイオキシンが発生した
  という塩ビ工業・環境協会の実験を基にダイオキシン原因食塩説を唱えたのです。
  この実験は、湿気があれば食塩と接しているだけで食塩から塩化水素を発生させる
  活性白土*という物質に付着させた(混ぜた)食塩と新聞紙やポリエチレンを混合し
  て燃やしたところ、塩化水素、ダイオキシンが発生したというものです。
  
     *活性白土:天然の酸性白土を酸で加熱処理して製造し、イオン交換作用−食塩の
      ナトリウムイオンを取り込み、白土にある水素イオンと交換―の強い粘土の一種。

 ★巧妙なトリックに騙された行政
  活性白土を混ぜた食塩を用いたことが一般には伝えられて(知らされて)居らず、
  食塩と可燃物とを混ぜて燃やせば塩化水素やダイオキシンが発生するということだ
  けが伝えられ、それを真に受けた(受けている)のが厚生労働省や環境省です。
  予め密かに活性白土を食塩に混ぜておいて、いかにも食塩と他の可燃物との混焼で
  塩化水素やダイオキシンが発生するかのように見せかけ、処理困難な塩ビ廃棄物の
  生産者として社会的責任を問われることから逃れるために仕掛けたトリックです。
  このトリックを見抜けずに、未だに食塩と可燃物を混ぜて燃やせば塩化水素が発生
  すると信じ込まされているのが厚生労働省や環境省です。
  活性白土に付着させない食塩だけと可燃物を混ぜたものとを加熱しても塩化水素が
  発生しないことは、別紙(下の解説参照)に示した通りです。

 ★がれき中の塩ビ製品の分別処理を
  津波をかぶった可燃物の「塩害」が課題ではありません。津波がれき処理に当たり
  可燃物として扱われるがれきの中の塩素含有の合成樹脂、中でも上下水道配管、屋
  内配線被覆材、床・壁装材等に多く使われている塩ビを分別して、適切に処理する
  ことががれき燃焼による有害物質「塩化水素」発生を抑制するための第1の課題で
  す。「解決策は見えていない」のではありません。
  貴紙の記事「津波がれき難敵」は、このままでは被災地のがれき処理担当者だけで
  なくがれき処理業界や多くの読者を惑わすものです。
  4月30日記事「津波がれき難敵」を紙面において訂正されることを申し入れます。
 解説:食塩や活性白土の単独又は混合物の加熱による塩化水素の発生実験結果(抄)
            (植村:日本環境学会第28回研究発表会予稿集;2002年6月)
【実験方法】試料1g(塩ビは0.1g)を石英製加熱装置にいれ、空気流下、300℃で30分加
  熱し、発生する塩化水素を苛性ソーダ吸収液でトラップし、発生塩化水素量の指標とし
  て吸収液中の塩素イオン濃度を測定し、塩素回収率を求めた。
【実験結果】図に示したように、塩素イオン即ち塩化水素が、最も多く生成するのは、塩
  ビを単独加熱した場合、ついで、食塩+活性白土+水分であり、食塩単独又は食塩+乾燥
  活性白土では塩化水素の生成は認められなかった。
【考察】食塩からの塩化水素は、イオン交換作用のある活性白土と水の存在下での化学反
  応により生成する。一方、塩ビは、加熱しただけで、塩化水素を生成する。このことは、
  低温での野焼きによって発生する塩化水素の由来の多くは、塩ビであり、塩ビ製品を震
  災ガレキから分別除去することが肝要であることを意味する。

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作成:2011-07-26