農薬の毒性・健康被害にもどる

t24203#発がん性農薬57に残留基準設定〜動物実験で癌が出来ても非遺伝毒性なら閾値ありでいいのか#11-10
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      電子版資料集No.9:食品中の残留農薬とポジティブリスト制度
【参考サイト】食品安全委員会:Top Page農薬評価書一覧
       厚労省:食品安全に関するパブリックコメント一覧
       日本食品化学研究振興財団にある食品中の農薬残留基準DB

 2006年5月のポジティブリスト制度実施に伴い、多くの農薬について、食品残留基準が設定されましたが、その根拠となるADI(一日摂取許容量)の未確定なものについては、食品安全委員会による毒性評価が続いています。ADIが決まると、厚労省は、作物残留試験や摂取量のデータを勘案して、食品の残留基準を設定します。
基準の見直し案は、ほぼ1-2ヶ月に、1回10農薬以下のペースで実施されており、その都度、パブリックコメント意見の募集が行われています。
 当グループは、今年になって23農薬について意見を述べましたが、9-10月に実施された7農薬の残留基準案パブコメのうち、動物実験で発がん性が認められたものが5件あり、その多さが気になりましたので、どんな農薬に発がん性があると評価されているかを調べてみました。
 その結果、次頁の表1に示した57の農薬がリストアップされました。内訳は、現在、日本で登録のある農薬37、既に登録失効した農薬5、日本で登録のない農薬15です。いずれの農薬も非遺伝毒性機構による発がん物質であり、閾値(それ以下なら、影響を与えないとされる量)が設定できるとの仮定の基に、ADIが設定され、残留基準の設定へとつながっています。

★遺伝毒性機構と非遺伝毒性機構がある
 正常な細胞が異常増殖を起こし、生命現象を阻害するのが癌ですが、その発生機構は複雑です。通常の分類では、遺伝情報の根源である遺伝子DNAに突然変異をおこす遺伝毒性機構とそうでない非遺伝毒性機構の二分されています。
発がんは、遺伝子が傷けられる過程(イニシエーション)、それが細胞の異常増殖につながる過程(プロモーション)を経て、発症します。
 遺伝毒性機構の発がん原因には、放射線や紫外線、X線などの電磁波、ニトロソアミンやベンツピレンなどの化学物質、腫瘍ウイルスなどの生物があり、イニシエーション作用とプロモーション作用が共存するとされています。
一方、非遺伝毒性機構は、遺伝子DNAを傷つけないで、細胞のがん化につながります。その過程は、十分解明されているとはいえませんが、一般的には、プロモーション作用を有するものが該当すると考えられています。
農薬では発がん性試験のほか、遺伝毒性を調べるため、大腸菌、ラットやマウスの細胞、ヒトのリンパ球などを用いた変異原性試験が実施され、これらの試験が陰性なら、発がん性が認められても、非遺伝毒性機構とされるのが通例です。

表1 非遺伝毒性メカニズムとされた発がん性農薬リスト(食品安全委員会農薬評価書ほかから作成)
                           実験動物略称: Rはラット、Mはマウス  ADI単位:mg/kg体重/日
@登録農薬成分
農薬名         登録情報  用途    主な商品名      発がん試験結果              ADI

アセフェート       1973/10/30  殺虫剤   オルトラン     R:鼻腔腫瘍、M:肝腫瘍          0.0024*
アミスルブロム      2008/04/30  殺菌剤   ライメイ      R:肝細胞腫瘍、RとM:前胃腫瘍       0.1  
アラクロール       1970/03/07  除草剤   ラッソー      R:腺胃、鼻腔及び甲状腺腫瘍      0.005→0.01
エチプロール       2005/01/22  殺虫剤   キラップ      R:甲状腺腫瘍、M:肝腫瘍             0.005
エトフェンプロックス   1987/04/13  殺虫剤   トレボン     R:甲状腺ろ胞細胞腺腫               0.031*
オキサジクロメホン    2000/08/15  除草剤   フルハウス     RとM:肝細胞腺腫、肝細胞癌         0.0091*
オリサストロビン    2006/08/16  殺菌剤   嵐         RとM:十二指腸腫瘍、R:甲状腺腫瘍   0.052*
クロメプロップ         1988/03/24  除草剤   複合剤マサカリA M:肝臓血管内皮腫                   0.0062*
シエノピラフェン       2008/11/27  殺虫剤   スターマイト    R:子宮腺がん                       0.05*
ジクロシメット         2000/04/28  殺菌剤   デラウス         M:肝細胞腺腫                       0.005*
ジチアノン             1962/04/25  殺菌剤   デラン           R:腎腫瘍                           0.01*
シフルフェナミド       2002/12/24  殺菌剤   パンチョ         R:甲状腺ろ胞細胞腺腫、M:肝細胞腺腫 0.041*
テプラロキシジム       2000/04/28  除草剤   ホーネスト       R:肝細胞腺腫、肝細胞ガン           0.05*
ピメトロジン           1998/12/22  殺虫剤   ガンダム         RとM:肝腫瘍                   0.0043→0.013
ピリブチカルブ        1989/11/16  除草剤   一振田助       R:精巣間細胞腫、M:肝細胞腺腫・癌   0.0088*
ピリフルキナゾン       2010/10/20  殺虫剤   コルト       RとM:精巣間細胞腫                 0.005
ピリミノバックメチル  1996/10/29  除草剤   ヒエクリーン     R:白血病、肝細胞腺腫、子宮腺がん 0.009→0.02
                               M:肝細胞腺腫
フェノキサニル      2000/12/21  殺菌剤   アチーブ         M:肝細胞腺腫                      0.007*
フェリムゾン       1991/02/20  殺菌剤   タケヒット      R:鼻腔扁平上皮癌                   0.019*
フェントラザミド     2000/12/21  除草剤   イノーバ         R:膀胱や尿道に移行性上皮細胞癌    0.0052
フェンブコナゾール     2001/04/26  殺菌剤   インダー         R:甲状腺、M:肝臓に腫瘍             0.03*
ブタクロール           1973/05/15 除草剤    マーシェット     R:胃、甲状腺及び鼻部腫瘍          0.01*
フルアクリピリム     2001/12/20  殺虫剤    タイタロン       RとM:肝細胞腺腫及び肝細胞癌、     0.059*
                               R:皮膚組織球肉腫、M:十二指腸腺腫及び腺癌
フルアジナム           1990/04/10  殺菌剤    フロンサイド    R:甲状腺腫瘍、M:肝細胞腫瘍         0.01
フルオピコリド         2008/01/24  殺菌剤    リライアブル     M:肝細胞腺腫                       0.079*
フルジオキソニル       1996/10/29  殺菌剤   ウイスペクト    R:肝腫瘍(09年7月発がん性なし)   0.033→0.33
                       2011/09/01  食品添加物
フルポキサム           2009/05/27  除草剤    コンクルード     R:甲状腺濾胞腺腫及び濾胞過形成   0.0080*
フロニカミド           2006/10/06  殺虫剤    ウララ           M:肺腺腫、肺がん                   0.073*
ベンチアバリカルブイソプロピル
             2007/04/26  殺菌剤    マモロット      RとM:肝、R:子宮、M:甲状腺腫瘍     0.069
ペンディメタリン       1981/12/05   除草剤   ゴーゴーサン   R:甲状腺腫瘍                     0.043→0.12
ペントキサゾン         1997/12/22   除草剤    ベクサー        R:膀胱移行上皮乳頭腫               0.23 
ボスカリド             2005/01/22   殺菌剤    カンタスドライ  R:甲状腺ろ胞細胞腺腫              0.044 
メソトリオン           2010/05/19   除草剤    カリスト        R:甲状腺ろ胞腺腫                   0.003 
メタアルデヒド         1956/02/27   殺虫剤    ナメカット      R:肝細胞腺腫                       0.022*
メトミノストロビン     1998/08/31   殺菌剤    オリブライト    R:肝細胞腺腫及び白血病             0.016*
メトラクロール         1982/09/01   除草剤    デュアール      R:肝細胞腺腫                       0.097
(S−メトラクロールは2010/10/13登録)
ヨウ化メチル          1965/01/29登録74/01/29失効、2004/11/02再登録
                   殺虫剤   検疫専用ヨウ化メチル RとM:甲状腺ろ胞細胞腺腫   0.005

A登録失効農薬成分
農薬名      登録・失効情報         用途    主な商品名    発がん試験結果                 ADI

ATA      1962/07/23(失75/03/31)   除草剤   ウィダゾール   R:甲状腺ろ胞細胞腺腫        0.0012
エトプロホス   1993/12/27(失02/12/27)   殺虫剤   モーキャップ  R:副腎/甲状腺の腫瘍/子宮の腫瘍  0.00025
ノルフルラゾン 1982/11/26(失89/06/25)   除草剤   ゾリアル      M:肝細胞腺腫及び癌          0.015  
フォルペット   1969/07/28(失85/02/19)   殺菌剤   フォルペット   M:胃乳頭腫、十二指腸腺癌        0.1 
ヘキサジノン   1987/04/08(失99/04/08)   除草剤    ベルパー     M:肝腫瘍性病変                  0.049
B日本で登録のない農薬成分
農薬名                 用途             発がん試験結果                      ADI

アシフルオルフェン        除草剤             M:肝腫瘍及び前胃乳頭腫                0.01*
イソキサフルトール        除草剤         RとM:肝細胞腫瘍、R:甲状腺ろ胞腺種        0.005*  
エタルフルラリン         除草剤         R:乳腺線維腺腫                  0.039
オキシフルオルフェン     除草剤         M:肝細胞腺腫や癌                 0.024* 
クラニリド               植物成長調整剤    R:肝細胞腺腫及び肝細胞癌              0.0063
クロフェンセット          植物成長調整剤     R:甲状腺C細胞腺腫、M:組織球肉腫          0.05
トリブホス                植物成長調整剤    M:小腸腺癌及び肝血管肉腫、肺胞/細気管支腫瘍    0.002*
トリフルスルフロンメチル  除草剤         R:精巣間細胞過形成及び腺腫            0.024*
トリルフルアニド         殺菌剤             R:甲状腺ろ胞細胞腫瘍                0.036*
ピラスルホトール         除草剤             R:角膜に扁平上皮乳頭腫及び扁平上皮癌             0.01*
                                  M:膀胱に移行上皮乳頭腫及び移行上皮細胞癌、前立腺部尿道に移行上皮細胞癌
プリミスルフロンメチル    除草剤         M:肝細胞腫瘍                                    0.1
フルシラゾール      殺菌剤       R:膀胱移行上皮乳頭腫及び癌、精巣間細胞腫、    0.002→0.0014
                                             M:肝細胞腺腫及び癌
ベノキサコール            薬害軽減剤       RとM:前胃に扁平上皮乳頭腫及び扁平上皮癌     0.004*
ベンフルラリン            除草剤         R:甲状腺ろ胞細胞腺腫及び癌、肝細胞腺腫      0.005*
ラクトフェン         除草剤            RとM:肝腫瘍                   0.0079

 注:ADIの項の → は再評価の結果、左数値から右数値に変更があったことを示す。
 *は、ADI算出の根拠となった無毒性量が発がん性試験からえれたものであることを示す。
★発がん原因は出来るだけ減らすべきだ
 食品安全委員会は、二つの発がん機構の違いを表2のようにまとめています。遺伝毒性のある方が、非遺伝毒性のものより発がん性が強いように思えます。
遺伝毒性機構の発がんでは、閾値がないとされ、出来る限り、被曝や摂取を減らすことが必要とされ、食品に検出されない ことが目標となります。しかし、閾値のある非遺伝毒性機構では、動物実験で発がん性が認められても、人と動物間の種差が異なるとされた上、基準以下なら大丈夫ということになります。  でも、なんらかの原因、たとえば、放射線の影響で、DNAが傷ついた場合に、非遺伝毒性機構の発がん物質が存在すると、傷ついた遺伝子の修復機構が阻害されたり、プロモーション作用で癌が進行するかもしれませんし、健康な人に対する閾値が他の疾病や特異な遺伝子を有する人にとって、安全だといいきれるのかという疑問も残ります。また、農薬製造者や使用者などが食品以外から取込む量の規制も必要です。従って、非遺伝毒性機構による発がん物質の摂取も出来るだけ減らすことが鉄則だと考えるべきです。
 
    表2 動物実験などにおける遺伝毒性および
       非遺伝毒性発がん物質の主な違い
  (食安委:季刊誌「食品安全」 13巻p-8(2007)より)

   発がん機構      遺伝毒性 非遺伝毒性

   変異原性               あり        なし
   DNAへの傷害・変異      直接起こす 起こさない
   発がん関連指標の閾値   なし        あり
   投与期間               短い        長い
   投与量                 低い        高い
   発がん強度             強い        弱い
   発がん関連病変の可逆性 なし        あり
   発がん標的臓器         多い        少ない
   ヒトに対する危険度     高い        低い

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作成:2011-10-31