環境汚染にもどる
t24407#水道水の農薬汚染〜活性炭処理でも除去できない農薬も#11-12
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【参考サイト】環境省の中央環境審議会 土壌農薬部会農薬小委員会
07月04日:第26回農薬小委員会の配布資料と議事要旨、議事録
10月11日:第27回農薬小委員会の配布資料と議事要旨、議事録
10月12日 通知(環水大土発第111012001号)
「農薬による水産動植物の被害防止のための実環境中濃度の実態把握について」
日本農薬学会の第29回農薬環境科学研究会シンポ
環境省は10月に、水田除草剤プレチラクロールで水産基準2.9μg/Lを超える水系汚染がみられるとして、適正な水管理の徹底を求めました。今号では日本農薬学会第29回農薬環境科学研究会シンポなどから、水道水汚染に焦点をあててみました。
★水道原水と浄水の農薬汚染
水田地帯である筑後川水系を水道水源としている福岡県南広域水道企業団の井上剛さんほかが10年4月1日から10月13日の期間、水道原水、活性炭処理水および浄水中の農薬78種の分析結果を報告しています。37種の農薬が検出されましたが、表1には、原水の検出率が10%以上の農薬を高い順に示しました。ワースト1は除草剤のペンタゾン100%、原水の最大検出値は殺菌剤フルトラニルの0.74μg/Lでした。比較のため、汎用有機リンのMEP(フェニトロチオン)とDDVPを挙げておきました。
活性炭処理や塩素処理による農薬検出率や濃度の低減化は、農薬の種類により幅があり、除草剤ペンタゾンは活性炭処理後も100%検出され、浄水にも84.6%検出されました。検出された農薬総量の最大は原水で7月5日1.50μg/L(前年は3.3μg/L)、浄水で8月10日0.40μg/L(前年は0.30μg/L)でしたが、総農薬方式による管理の目安(個々の農薬検出値/管理目標値の総和が1以下)を超えることはありませんでした。
表1 筑後川水系の水道原水や浄水汚染などの農薬分析結果(検出値単位:μg/L)
用途欄: 虫=殺虫剤、菌=殺菌剤、草=除草剤
農薬名 原水 活性炭 浄水
(用途) 検出数 検出率 最大 処理水 検出数 検出率 最大
/検体数 % 検出値 検出率 /検体数 % 検出値
べンタゾン(草) 13/13 100 0.33 100 11/13 84.6 0.243
トリシクラゾール(菌) 10/13 76.9 0.47 33.3 5/13 38.5 0.04
イソプロチオラン(菌) 18/33 54.5 0.09 10 0/33 0 0
ブロモブチド(草) 17/33 51.5 0.26 30 11/33 33.3 0.16
ベンスルフロンメチル(草)5/13 38.5 0.13 16.7 0/13 0 0
ダイムロン(草) 5/13 38.5 0.55 0 0/13 0 0
イミダクロプリド(虫) 5/13 38.5 0.09 0 0/13 0 0
ピラゾスルフロンエチル(草)4/13 30.8 0.07 25 0/13 0 0
フルトラニル(菌) 10/33 30.3 0.74 23.3 7/33 21.2 0.15
プレチラクロール(草) 10/33 30.3 0.11 16.7 6/33 18.2 0.03
メフェナセット(草) 9/33 27.3 0.11 3.3 0/33 0 0
カフェンストロール(草) 9/33 27.3 0.09 3.3 1/33 3.03 0.02
ブプロフェジン(虫) 9/33 27.3 0.30 23.3 0/33 0 0
MBC*(菌) 3/13 23.1 0.03 0 0/13 0 0
イマゾスルフロン(草) 3/13 23.1 0.22 8.3 0/13 0 0
ジメタメトリン(草) 6/33 18.2 0.02 3.3 0/33 0 0
フィプロニル(虫) 6/33 18.2 0.04 0 0/33 0 0
IBP(菌) 5/33 15.2 0.04 0 1/33 3.03 0.02
BPMC(虫) 5/33 15.2 0.1 10 3/33 9.09 0.05
MEP(虫) 3/33 9.09 0.02 0 0/33 0 0
DDVP(虫) 1/33 3.03 0.02 0 1/33 3.03 0.02
*MBC:チオファネートメチルやベノミルの代謝物
★ネオニコ系汚染は淀川でも
ネオニコチノイド系農薬の水系汚染および水道原水の汚染については、記事t23907に示した秋田県雄物川や横浜市鶴見川の事例などのほか、大阪市立環境科学研究所の山本敦史さんほかの調査で、淀川水系でも、表2のような5種のネオニコチノイドの汚染が明らかになりました。
表2 ネオニコチノイド系農薬の水系汚染
水質目標 淀川下流 赤川鉄橋*2 鶴見川水系*3
農薬名 推算値*1 採水時期:2010/05/18-09/06 09-10年
検出数 検出率 検出値 検出数 検出率 検出値
μg/L /検体数 % μg/L /検体数 % μg/L
アセタミプリド 189 10/24 41.7 ND-0.003 24/153 17.0 ND-0.21
イミダクロプリド 152 24/24 100 0.0018-0.026 91/153 59.5
ND-0.42
クロチアニジン 259 24/24 100 0.0028-0.10 0/78 0 ND
ジノテフラン 586 23/24 95.8 ND-0.22 5/78 6.4 ND-0.18
チアクロプリド 31.9 - - - 2/153 1.3 ND-0.18
チアメトキサム 48 24/24 100 0.0009-0.077 0/78 0 ND
ニテンピラム 1410 0/24 0 ND 1/78 1.3 ND-0.14
*1:ADIの10%で、一日2Lの水を摂取するとして推算
*2:山本敦史ほか(大阪市立環境科学研究所:第62回全国水道研究発表会 11年5月)
*3:鎌田素之(関東学院大学:第29回農薬環境科学研究会シンポジウム 11年10月)
★浄化処理によっても分解できないネオニコチノイドもある
水道原水は、浄水場で浄化処理され、一般家庭に配水されますが、凝集・沈殿ろ過処理後、通常は殺菌のため塩素処理します。さらに汚染物質濃度が高い場合には、活性炭が投入されます。
鎌田さんらの報告によれば、7種のネオニコチノイド系農薬は凝集・沈殿処理ではほとんど除去されませんでした(試験濃度200μg/L)。次亜塩素酸ナトリウム処理では、ニテンピラムは15分で初期濃度の0.3%になったものの、他の6種は、24時間後でも78.9-84.54%までにしか低下しませんでした。一方、活性炭による吸着処理では、いずれのネオニコチノイド剤も除去性が低く、特にニテンピラム、ジノテフラン、チアメトキサムは通常の投入条件では、除去できないことが分かりました。
鎌田さんは、ネオニコチノイドの中で、最も出荷量の多いジノテフラン(09年156.8トン)について、優先的に監視を強め、適正管理すべきだとしています。
現在、ネオニコチノイド系の水道管理目標値は設定されていませんが、表2の左欄の推算値が提案されると思われます。これらの数値は、有機リンのMEPの3μg/L、DDVPの8μg/Lに比べて緩く、水質が0.1μg/L以上汚染されていても、水道水規制にはなかなかつながりません。
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作成:2012-04-26