ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる
t24705#食べるな!ホウレンソウ 〜イミダクロプリド粒剤使用のアンケート調査でみえてくること=環境保全型農業のいいかげんさ#12-03
【参考サイト】クミアイ化学工業:クミアイアドマイヤー1粒剤
バイエルクロップサイエンス:アドマイヤー1粒剤
ネオニコチノイド系の殺虫剤イミダクロプリド粒剤のホウレンソウの定植前土壌混和で、残留値が増加することが避けられないことが明らかになったため、残留基準をそれまでの6倍の15ppmに緩和してつじつま合わせが行われました。私たちは、このような粒剤の製造・販売・使用をやめることを求めてきましたが、昨年末、登録事項の変更が認められてしまいました(記事t23806、記事t24501参照)。
今号では、メーカーのクミアイ化学工業、バイエルクロップサイエンス、使用者団体の代表である全農・全中、指導する立場にある都道府県の担当部署への、当該農薬を使用しないことなどを求めた要望・質問にたいする回答を紹介します。さらに、現在、検討されているイミダクロプリドの飼料基準の問題点もとりあげます。
★国が登録した農薬は適切に使用するだけでいいのか
イミダクロプリドの残留基準改定と製剤の事項変更登録に関する都道府県への質問と要望
3月15日現在、回答は42都道府県で、宮城/山梨/新潟/大阪/香川の5府県からの返事はありません。
回答が来た県でも、個々の設問には答えなかったり、複数の質問に同じ回答を記入して、まともな返事をしない不誠実な県が岐阜/奈良/和歌山/島根/福岡/長崎/宮崎/鹿児島の8県でした。まず、イミダクロプリド粒剤について3つの問いに対する答をみてみましょう。
(1-1)農薬残留量がふえるような当該農薬の使用をどう思うか
返事の来た42都道府県すべてが、国が決めた残留基準と農薬登録であるからということで、当該製剤のホウレンソウへの使用については、是認しています。県は、適正な指導をすれば問題ないとの立場です。
そもそも、ほとんどの県は、慣行栽培よりも農薬使用回数を減らして栽培した特別栽培農産物を認証し、農薬使用を減らす栽培者には、エコファーマー制度で、特典をあたえています。登録農薬が、現在でも安全ならば、なにも、残留農薬の摂取を減らしたり、環境負荷をへらす農業を推進する必要はないと思うのですが、この矛盾に各県はどう答えるのでしょうか。まさか、特別栽培と表示すれば、高く売れるからいいということで、まやかしの環境保全型農業を行っているのではないでしょうね。私たちは、今後、真に環境にやさしい農業の推進を要求していかねばなりません。
(1-2)当該農薬のホウレンソウの登録について、試験データを開示しないメーカーをどう思うか
29都県から回答がありました。メーカーからの回答がのぞましいとしたのは茨城のみで、富山は県が販売、使用を制限することは困難だとしました。残り27都県は、国の専権事項で、適正に指導すれば問題ない、メーカーのことにコメントできないなどでした。
次の設問と関連しますが、すくなくとも、当該製剤の特性や毒性、残留性試験データを知っておかねば、防除基準を作成したり、使用者への指導もできないと思います。
(1-3)県の防除基準に載せているか
この回答は31都道県ありました。沖縄には防除基準そのものを作成していないとのことでした。載せる必要がない/現在は載せていないが16県(青森、山形、岩手、埼玉、群馬、栃木、長野、石川、兵庫、広島、山口、鳥取、徳島、高知、佐賀、熊本)でした。使用できることとするが滋賀の1県、審議中が静岡の1県で、残りの12都道県は、一般的な防除基準の話に答えをすりかえていました。
★有機リンの無人ヘリ散布なしは10県
神経毒性のある農薬の使用については、2つの問い合わせをしました。
(2-1)有機リン系やイミダクロプリドなどのネオニコチノイド系の農薬不使用について
回答があった35都道府県のすべてが、国の責任で登録されている農薬は適正に使用すればよいとし、有機リンやネオニコチノイドをやめるといったところはありません。なかには、健康被害との因果関係が明らかになった段階で検討を行うべき(長野)、IPMを進めている(福島、三重)、毒性の強い農薬は避ける(神奈川、兵庫)、必要最小限におさえる(千葉、群馬)などとのコメントがついているところもあります。また、ミツバチに留意するとしている都県もあります(群馬、埼玉、東京、岡山、広島、山口)。
(2-2)有機リン系農薬の無人ヘリコプター散布の自粛要請について
しているのは、群馬県と長野県の2県ですが、県での実態について、回答のあったのは、29都県です。無人ヘリ散布を行っていないが3県(神奈川、東京、沖縄)。 自粛要請をしていないが、実際に有機リンの使用をしていないか、防除指針に掲載していないが10県(千葉、栃木、石川、福井、兵庫、鳥取、岡山、山口、熊本、佐賀)。国の使用基準や県の無人ヘリ安全利用指針や指導要領などを守るよう指導するが、13県(青森、山形、秋田、茨城、静岡、愛知、富山、三重、滋賀、広島、愛媛、高知、徳島)でした。
このほか、大分は、他の薬剤への移行がすすんでおり、様子をみて、今後、検討する。埼玉は、他県使用状況をみて、薬剤選択について検討する、 とのことでした。
★全農の回答〜環境保全型農業が泣く
【参考サイト】全農、全中
農薬使用者を代表すると思われる農協団体の総元締めである全国農業協同組合連合会(全農)と同中央会(全中)にも、県と同じく、イミダクロプリド粒剤のホウレンソウへの適用と神経毒性のある有機リンとネオニコチノイド製剤の使用について尋ねてみました(質問と要望)。
全農は、環境保全型農業の推進を掲げています。また、全中は、私たちと同様、TPP参加に反対し、パンフレット『いっしょに考えませんか TPPと日本の農業・くらし』には、TPPに参加した場合、食の安心・安全が脅かされるとして、農薬残留基準緩和を挙げていますので、いい返事が得られるものと期待していたのですが、見事裏切られました。全農の回答は次のようなものでした。
『農薬は、所轄官庁及び専門家による厳密な評価・検査の後、人畜および環境
へ有害な影響を及ぼさない範囲で登録認可されております。この登録のしくみ
によって、人畜・環境への安全性が確保されると認識しております。貴団体か
らのご質問は、農薬登録のしくみや安全性に関わる事項であり、本会として回
答を申し上げる立場にはございません。従いまして、本会としての回答は控え
させていただきます』。
全中からも同じ趣旨の回答です。
このような理由で農薬を使用するとは、あいた口が塞がりません。消費者が食品から取り込む農薬摂取量を減らすことは、全農の提唱する環境保全型農業では、配慮されてはいないということのようです。
★メーカー2社は勝手な言い分
【参考サイト】
当該イミダクロプリド製剤「アドマイヤー1粒剤」の登録事項の変更の申請者であるクミアイ化学工業とバイエルクロップサイエンスには、同剤の残留性試験の詳細やなぜ、ホウレンソウでの残留値が高くなるのか。適用害虫であるアブラムシへの致死量はどの程度かなど、技術的な内容を含む質問を加えた要望をおこないました(クミアイ化学工業への要望とバイエルクロップサイエンスへの要望)。
クミアイ化学からは、『作物残留の詳細な試験成績は弊社では保有しておらず、バイエルクロップサイエンス株式会社からの同意書(データを利用する許可)を発行してもらうことにより、農薬登録を取得しております。従いまして、今回のお問い合わせに関しましては、バイエルクロップサイエンス株式会社へお問合せ下さるようお願いいたします。』とのことでした。
また、何度か回答を催促していたバイエルクロップサイエンスからは、2月10日付けで回答が来ましたが、
『貴会より昨年6月3日付けで質問を頂きましたが、登録審査中案件に関する回答は企業として控えておりますため、これまで回答を差し控えていたことをご理解いただけますと幸いです。
貴会より多数の質問をいただきましたが、弊社のコンプライアンス・ポリシーにより未公開の研究開発活動を開示することはしておりません。そのため、各質問にはお答えできませんが、弊社が考えました貴会のご懸念に対して、以下に回答させていただきます。』
として、イミダクロプリドの改正された残留基準は改正前に比べて数字上の増加は認められるが、それによってヒトの健康に影響・問題が生じることは無い/残留値を高くしなければ、薬効上、農家が困るなど、という企業の論理が縷々述べられていました。このような内容ならば、なにも8ヶ月以上の間をおかなくとも、すぐに出せた回答です。
★イミダの飼料基準答申〜稲わら指導基準は10ppmのまま
【参考サイト】農業資材審議会飼料分科会:
第30回配布資料等(2/28) にある議事概要と答申書
日本食品化学研究振興財団HP:
イミダクロプリドの残留基準(畜産物にあっては、イミダクロプリト及び6−クロロピリジル基を
有する代謝物=6CNAなどをイミダクロプリド含量に換算したものの和をいう)。
農水省;イミダクロプリドの飼料基準改正でパブリックコメント意見募集
飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令」の一部改正案についての意見・情報の募集
概要と参考、反農薬東京グループの提出意見
農業資材審議会飼料分科会で、イミダクロプリドの、飼料での残留基準が論議され、2月28日に答申書が出されました。えん麦/大麦/小麦/マイロ/ライ麦は従来通りの0.05ppmのままですが、とうもろこしは0.1→0.05ppm、牧草は6→0.5ppmと低い値となっています。
飼料の場合は「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」により、人が食べる畜産品の残留基準(イミダクロプリドの場合、乳0.1ppm、牛・豚の筋肉0.3ppm、乳0.1ppm、鶏の筋肉・脂肪・卵0.02ppmほか設定)がクリアできることが求められます。すなはち、飼料基準は給餌された家畜が人の残留基準を超えないためのものです。しかし、食品のようにポジティブリスト制度はとられておらず、61農薬8飼料について基準が設定されており、基準のない農薬と飼料の組み合わせではいくら残留していても規制はありません。
しかし、餌となる、稲わらなどについては、飼料基準はなく、畜産局長名で「飼料の有害物質の指導基準の制定について」で指導通達が発出されています。
イミダクロプリドの指導基準は、稲わら10ppm、稲発酵租飼料3ppmとなっています。農薬評価書にあるイナワラの残留試験データでは、最大残留値は3.39ppmでしたから、10ppmよりは低いですが)、稲わら飼料を多食する家畜には、注意を要します。
飼料の残留基準は、今後、パブリックコメントを経て、決定されることになります。
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作成:2012-07-26