農薬の毒性・健康被害にもどる
t25001#農薬危害防止運動(原則6月1日から8月31日)の通知相変わらず、ギリギリのタイミングで出される#12-06
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2012年度農薬危害防止運動−都道府県における実施広報と実施期間
過去の農薬危害防止運動: 2009年 2010年 2011年
【参考サイト】農水省の農薬コーナー:農薬危害防止運動と実施要綱
農水省・厚労省・環境省は5月18日付に(ホームページに掲載されたのは5月28日)、連名で、「平成24年度農薬危害防止運動の実施について」という通知を発出しました。この運動は県によって違いがありますが、原則として6月1日から8月末日まで実施されております。
当グループは、毎年、この運動に関する要望を提出しています。今年度は3月26日に、厚労省と農水省に提出しました。前年度の農薬による事故、残留基準違反例をあげ、実施主体である県が十分準備できるよう、もっと早く通知を出すよう求めましたが、今年度もギリギリの発出でした。当グループへの回答は5月21日付でした。
★後退した通知ルート
危害防止の通知は、昨年から環境省も水・大気環境局長名で参加しています。3省の連名になったわけですから、より強力な体制になったのかと思いきや、実は反対に後退していることがわかりました。昨年から厚労省はホームページに載せなくなっていました。正式な文書は各県の農林部局に一部届いているだけです。
環境省は県の環境部局にメールで知らせたと言っていますが、たとえば東京都は、農林部局と厚労部局だけで実施するとのことで環境部局はこの運動から閉め出されています。これでは何のために環境省が加わったのかわかりません。
厚労省と環境省にホームページに載せるよう要望したところ、環境省は掲載しましたが、厚労省は6月5日現在載せていません。縦割り行政なのですから、本省からそれぞれ県に下ろすべきです。
また、文科省は都道府県・政令指定都市教育委員会教育庁、県知事、全国公私立大学長、全国公私立高等専門学校長宛に、スポーツ・青少年局長名で「平成24年度農薬危害防止運動の実施について(依頼)」という文書を出しています。文科省のホームページに載せてほしいと要望しましたが、検討するとだけでした。学校での農薬散布は相変わらずです。6月13日、兵庫県西宮市の中学校で、農薬散布後、生徒16人が病院に搬送されるという事故がありました(詳細次号)。
★住宅地周辺での農薬散布について
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4月18日の農水・環境省との交渉の中で、住宅地周辺での農薬散布の規制強化を求め、危害防止運動の中で強調してほしいと要望しました。そのせいかどうか、住宅地での農薬散布の注意が去年より順番をあげてありました。しかし、新しい内容はなく、去年とほとんど同じでした。まず、住宅地周辺での農薬散布に関する部分をみてみましょう。
危害防止運動実施要領の趣旨には「近年、農薬の使用地域周辺の住民等の健康影響に対する配慮が強く求められており、農薬を安全かつ適正に使用することの必要性が高まっている」と書かれ、さらに、「農薬による事故を防止するための指導等」の項目のイには以下のような記述があります。
イ 住宅地等における農薬使用に当たっての必要な措置の徹底
ほ場のみならず、学校、保育所、病院、公園、保健所等の公共施設内の植物、
街路樹及び住宅地に近接する場所において農薬を散布する農薬使用者等に対し、
農薬の飛散が周辺住民や子ども等に健康被害を及ぼすことがないよう、「住宅
地等における農薬の使用について」( 平成19年1月3 1日付け18消安第1 1 6 0 7
号・環水大土発第07 0 1 3 1 0 0 1 号農林水産省消費・安全局長、環境省水・大
気環境局長通知) を周知し、特に次の事項の遵守を徹底すること。
@ 農業生産場面
住宅地等の周辺ほ場において農薬を散布する場合は、農薬の飛散を防止するための
必要な措置を講じるとともに、事前に農薬を散布する日時、使用農薬の種類等を記
した書面、看板等により周辺住民への周知を行うこと。(「等により周辺住民に対
して配慮するよう指導する」を削除。すっきりした)
A 公園等一般場面
学校、保育所、病院、公園、保健所等の公共施設内の植物、街路樹並びに、住宅地
及びその周辺の庭木、花壇、芝地、家庭菜園又は市民農園においては、「公園・街
路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」( 平成2 2年5月3 1日環境省水・大気環境局
土壌環境課農薬環境管理室) を参考に、農薬使用の回数及び量の削減のため植栽
管理等を行うとともに、農薬を使用するに当たっては、農薬の選択及び使用方法を
十分に検討し、事前に農薬を散布する日時、使用農薬の種類等を記した書面、看板
等により周辺住民、施設利用者等への周知を行うこと。(「十分な配慮を行うよう
指導する」を削除)
さらに、農薬使用者等だけでなく、国及び地方自治体の施設管理部局、集合住宅の
管理業者等、施設内や住宅地周辺の植栽管理のために病害虫防除を委託する可能性
がある者に対しても、このことについて周知を徹底すること。」
アンダーライン部分は、今年度新しく加えられた部分です。昨年と比べて、「配慮
するよう指導する」などとあいまいな表現がなくなった分だけ、論旨がすっきりし
ています。
しかし、住宅地通知に関する指導は、言葉のみに終わっています。たとえば、別記
1「農薬による事故の主な原因及びその防止のための注意事項」には、農薬散布後
の人の事故防止対策にある『 公園、校庭等に農薬を散布した後は、少なくとも当
日は散布区域に縄囲いや立札を立てる等により、関係者以外の者の立入りを防
ぐ。』は、もう6年以上も、毎年のように、記述されていますが、実践されている
とは思われません。
★今年の通知の重点は
その他、今年の通知で、目についた事項を以下に挙げます。
@毎年事故が絶えない土壌くん蒸剤のクロルピクリンに関する注意が最初にきていることがあります。私たちは住宅地周辺でのクロルピクリン使用禁止を求めていますが、農水省は毎年、同じような注意を繰り返すだけです。
A無人ヘリコプター散布に関して、
『具体的な危険箇所の確認が事故発生防止には重要であり、散布ほ場及びその周辺の地図を作成し、操作要員と補助員が連携して散布ほ場の下見を行うことにより、危険箇所を明確に地図に示す等、事前確認を強化・徹底すること』が新たに書かれました。
B販売禁止農薬であるケルセン(ジコホール。10年4月1日追加)、ベンゾエピン(エンドスルファン。12年4月1日追加)とそれらを含む農薬は、メーカーが自主回収を行っているため、農協及び販売店に持参するよう指導する、とあります。生ぬるい対応です。
C臭化メチルは不可欠用途として認められてきた土壌消毒が2012年、クリのくん蒸が2013年までとなっているため、代替剤、代替技術の円滑な導入・普及を指導するとなっています。しかし、代替剤であるヨウ化メチルについては、すでに、アメリカでは、発がん性や生殖及び神経毒性があるとして、環境保護団体や農業労働者たちが使用反対を訴え、3月に販売禁止となっています。同剤メーカーである日本のアリスタライフサイエンスはアメリカへの輸出をやめていますが、国内及び他国での販売は継続しています。
Dミツバチ被害に関しては、昨年までは「その原因は特定されていないものの、農薬も原因の一つであると考えられていること」とあったのが、今年度は「農薬の使用が原因と疑われる蜜蜂の斃死が散見されることから」と、農薬原因説に傾いているようです。ただし、その対策は農家と養蜂家の緊密な連携しかありません。
★マンネリ化を打破すべき
危害防止運動は、国、都道府県、保健所設置市、特別区が実施主体になるとされています。都道府県等は、地域の特性を生かした運動方針、重点事項等を掲げた実施要領を作成することになっています。そのために、国はできるだけ早く通知を出す必要があるわけですが、前述したように、前年とほとんど変わらない内容なら、それほど問題にならないでしょう。
もっと、その年の重点項目を絞って、全国的に展開し、少なくともその課題は来年は省けるくらいの内容にしてほしいものです。
★私たちの要望には応えない
本年度、私たちが行った農薬危害防止運動についての要望に対する回答の一部を以下に挙げます。
1、農薬危害統計について
人の農薬中毒や死亡事件・事故についての情報収集は、農水省、厚労省、警察庁などが別個に実施されている。また、消費者庁の事故情報データバンクシステムには、3月20日現在、 除草剤17件、農薬50件、殺虫剤(含む家庭用殺虫剤)45件の投稿がある。
このような省庁・部局・地方自治体の壁を取り除いて、事故情報伝達を一元・共有化し、国民に公開するようなシステムを作り、具体的内容を公表して、事故・危被害の発生防止に努めてほしい。との要望に対して、
回答は、『農林水産省が厚生労働省の協力を得て実施している、農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況の調査は、農薬の誤使用等による事故・被害の発生状況やその原因等を公表して農薬使用者や農薬使用者の指導に当たる方々に広く知っていただき、類似の事故・被害の発生の再発防止に活用していただくことを目的としたものです。
したがって、他省庁が実施しているものとは、調査内容や公表内容の重点が異なり、例えば、可能な限り事故・被害の発生時の状況を把握するとともに、公表に当たっては、推定される原因を踏まえた再発防止策を併せて示すこととしています。仮に、このような相違を考慮せず、単に農薬を原因とする事件・事故等であることをもって危害統計のようなものとして一元化を図るとすれば、農薬使用者や農薬使用者の指導に当たる方々にとっての利便性が損なわれ、農薬の誤使用等による事故・被害の発生の防止に活用するという本調査の趣旨が失われると考えます。』
わたしたちが、誰でもアクセス可能な統合的システムつくりを求めていることについては、何の回答もありません。ちなみに、厚労省の人口動態統計にみられる農薬中毒死者数を下表に挙げましたが、前年より減少しましたが、原因農薬名はわかりません。
表 2010年の厚労省人口動態統計より農薬による死者数
農薬の種類 男 女 合計 前年増減
有機燐及びカルバメート殺虫剤 105 57 162 -52
ハロゲン系殺虫剤 - 2 2 + 1
その他の殺虫剤 18 11 29 - 1
除草剤及び殺菌剤 91 86 177 -14
殺鼠剤 - - - - 2
剤不明 4 4 8 + 4
詳細不明 78 39 117 +19
合計 296 199 495 -45
2、事故や危被害状況の報告内容について
私たちは、農薬中毒事故や危被害の発生年月日/発生場所/発生状況/原因農薬/被害状況/対策などの詳細報告を求めていますが、回答は『発生場所及び発生年月日については、調査の円滑な実施のため、公表しないことを前提に都道府県に情報提供の協力を求めていること、また、その情報が再発防止対策に直結するものでないことから、公表しておりません。また、原因農薬については、事故の原因となった農薬が特定され、かつ、再発防止を図る上で、当該農薬に特化した取組が必要な場合には、農薬名を公表します。しかしながら、それ以外のものについては、当該農薬の悪用による犯罪等の防止の観点から、原則として公表しておりません。』でした。
事故原因となった農薬名などの詳細を知らせることこそが、再発防止につながります。
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作成:2012-06-26